増山江威子『エッちゃん』(1971年)  宇野誠一郎研究② | 昭和レトロサウンド考房

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増山江威子『エッちゃん』(1971年) 宇野誠一郎研究②
作詞:山元護久 作曲:宇野誠一郎

石ノ森章太郎原作のテレビアニメ『さるとびエッちゃん』のオープニングテーマ曲。
作詞家山元護久氏とは、アニメ『一休さん』の主題歌2曲でもコンビを組んでいる。
落ち着いた3拍子で増山江威子さんが優しく丁寧に歌う。心に染みる名曲。

わたしは「せつなさ」や「哀愁」が表現された長調(メジャー)の音楽が好きである。

ここに「せつなさ」、「哀愁」という単語を使ったのは、他に言い表す言葉がないからである。
音楽の響きから受ける心象を言葉で表すのは難しい。言い表したいのは「楽しい」でも「悲しい」でもないファジーな概念だ。
もしかしたら「郷愁」や「旅愁」という熟語で使われる「愁える(うれえる)」という言葉のニュアンスは比較的近いかもしれない。
しかし、つまるところは音楽を聴いていただくしかない。

長音階上に作られる長3和音 Ⅰ、Ⅳ、Ⅴ(スリーコードという)だけで構成すると、明るく陽気な響きだが、たいへんそっけない。そこでⅡ、Ⅲ、Ⅵ の短3和音を混ぜることにより幾分バリエーションがつくが、上記のような心象を表現するにはまだ不十分である。

以前、井上陽水『カナディアンアコーデオン』の投稿でも書いたが、6thコード、7thコード、メージャー7thコードを使用すると表現の選択肢が増え、響きもぐっと豊かになる。
たとえば、長調のエリック・サティ『ジムノペディ』などはメージャー7thが売り物のような曲で、とてもお洒落な響きだ。
メージャー7thの響きは『幸せをはこぶメルモ』(作曲:宇野誠一郎)でも強調されているワザだが、『エッちゃん』の本質はそれだけではない。

長調(メジャー)を「せつなく」する鍵は、これまで何度も書いてきた同主調のⅣであろうと思う。
これこそが夢の最も深いところへ誘う必殺技 だと私は確信している。

先日とりあげた『ははうえさま』
♪ゆうべ杉のこずえに明るく光る星ひとつ~♪  の箇所も細部で違いがあるものの、コード進行の本質は同じである。やはり同主調のⅣが芯なのである。

宇野誠一郎先生は、以上のようなワザを駆使して長調(メジャー)に自由自在に情感を色づけする達人だと思う。


youtube動画 増山江威子『エッちゃん』