倍賞千恵子 『学生時代』 | 昭和レトロサウンド考房

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倍賞千恵子 『学生時代』
作詞・作曲:平岡清二  編曲:小川寛興

1964年公開のペギー葉山『学生時代』のカバーである。オリジナルも素晴らしいが、より優しく可憐な声の倍賞さんバージョンを聴いていただきたい。

戦後の社会主義思想の台頭に根ざす労働歌、革命歌、そしてその影響を受けたであろうと思われる当時の学生演劇を調べているうちに、この曲に行き当たった。

ただ、この曲自体はそういうイデオロギー闘争とはまったく無縁な作品である。
歌詞に「チャペル」、「賛美歌」というキーワードが並ぶように、ミッションスクールでの情景を歌ったきわめて清楚で純朴な歌で、爽やかなノスタルジー感が胸に残る傑作である。
東京の青山学院がモデルらしく、ペギーさんも作曲者の平岡清二さんも青山学院出身とのこと。
青山学院卒業生は大いにこの名曲を誇ってよいと、地方大学出身の私は思う。

ここでは、イデオロギーを志向するしないにかかわらず、当時多くの日本人の耳にロシア民謡が浸透していたことに触れたい。
一説によるとロシア民謡はシベリア抑留者引上げの際に持ち込まれたともいう。マイナー基調の物悲しいメロディーが日本人の美意識に刺激するところがあったのだろう、神秘の国ソビエトに対する好奇心もあいまって、またたく間に普及し、多くの人に親しまれた。東京には歌声喫茶なるものも登場し、ロシア民謡が盛んに歌われたそうである。
60年代以降ロックの影響を受けはじめるまでは、日本人の音楽体験には、少なからずロシア民謡の堆積があったと思う。

『学生時代』にも、偶然の産物ではあるがロシア音楽の潜在的影響を受けていると推測される箇所が散見できる。

サビの ♪秋の日の図書館のノートとインクのにおい~♪ は、

ソビエト連邦軍歌『赤軍に勝る者なし』とコード進行が同一でメロディー構成が近似している。  また、♪枯葉の散る~♪ のメロディーは、『モスクワ郊外の夕べ』を思わせる。

かように要所でロシア民謡成分が見られるとはいえ、  「(秋の)ひ→の」がラ#→ミ、 「(としょか)ん→の」シ→ファ#  と 日本語歌詞の要請から語句の終止音程を工夫している点など、十分にオリジナリティーを発揮しており、独立した価値のある素晴らしい日本歌曲であることは間違いない。



youtube動画 倍賞千恵子 『学生時代』