南沙織 早春の港(1973年)
作詞:有馬三恵子 作曲・編曲:筒美京平
筒美京平作品を語る上で南沙織さんは外せない。
沖縄生まれの南沙織さん。1971年に「17才」でデビュー。翌年、沖縄は日本へ返還された。
沖縄に新鮮なイメージを抱き、特別な関心を持って迎え入れるムードが日本全体に高まっていた時期。 そこへ美形&美声、そしてどことなくエキゾチックな雰囲気があいまって即人気急騰。
小学2年生の私が初めてテレビを通して見るアイドル歌手らしいアイドル歌手だった。
沖縄娘に「海」というキーワードは、当然セールスポイントとなったであろう。実際、海をイメージする歌が多いし、やはり海の歌が似合う。
「早春の港」は6作目のシングル。
「海辺の青さ」や「港」といった情景に若い男女の恋愛を重ねる有馬三恵子さんの歌詞が冴える。
発売からちょうど40年経ったがこの曲の素晴らしさは変わらない。
ではイントロの解析から。
2小節で出来ているリズミカルな短旋律(riff)が2回反復される。筒美先生が早い時代から音楽の部品化傾向にあったことは、よく指摘されている。これをモータウン的という人もいるが、私はバートバカラックの影響が大きいと思う。
Ⅰ → Ⅳ → Ⅰ → Ⅳ の和声進行はサザエさんエンディングを思わせ、たいへんのどかである。
鑑賞者はイントロを聴くだけでさほど深刻ではない歌と知り、ほっとする。準備OKである。
歌い出しの、♪ ふるさと持たないあの人に~♪ の
コード進行 B → D#m7 → G#m → Em
の最後のEmは同主調のⅣに当たり、これぞ筒美先生の必殺技。「楽しい」でも「悲しい」でもない微妙なせつなさを付加する借用和音である。
エイメン・コーナー「ハーフ・アズ・ ナイス」に似てるとの指摘があるが、1小節ほどメロディーが似てるだけでその後の展開もアレンジもぜんぜん違うので、まったく別曲。
随所に入るスティールギターの役割も大きい。柔らかく気持ちの良い音が胸に広がり、リゾート気分に引き込まれる。ハワイアンが流行した昭和では、お約束的な「海」の演出方法だったのだろう。
最も素晴らしいと思えるのは、2番が終わった後の間奏の前半4小節。
ベースが二分音符のF#を8回も繰り返す。
低音が一定の高さを持続しながら、上にのるコードが変化するペダルポイントというテクニックで、聴く人が土台(低音)の不変性を認知するとスケールの壮大さを連想するという心理的効果がある。
私はこの間奏を聴くたびに、連絡船から見る視界が一気に広がり、水平線をくまなく見渡せる光景をイメージするのだが、皆さんはいかがであろうか?
それにしてもこの歌詞。主人公の女性のなんと献身的なことか・・・その点も含めて昭和が恋しい。
youtube動画 南沙織 「早春の港」 (1973年)