今観ても新鮮な中村錦之助(萬屋錦之助)主演、昭和34年公開の東映映画「風雲児 織田信長」。

シニア世代は勿論、若い人にも、おうち時間にお薦めです

 

この4月に東映チャンネル(CS218)で放送されました。

DVDもレンタルされています。

当時、映画館でリアルタイムに観た「風雲児 織田信長」。

山岡荘八の小説を原作に、戦国時代の武将、若き日の織田信長の桶狭間の戦いまでを、野性味あふれる中村錦之助の気迫の演技と、清楚で演技力も確かな香川京子、秀逸な結束信二の脚本で、テンポよく魅せます。

 

 

 

監督の“河野寿一(こうの としかず)”は、昭和29年“東映娯楽版”の基礎を作り、時代劇の黄金期を支えた監督の一人。

「真田十勇士・3部作(1954年)」「里見八犬傳・5部作(1954年)」「少年猿飛佐助・3部作(1958年)」「独眼竜政宗(1959年)」「右門捕物帖 蛇の目傘の女(1963年)」「第三の忍者(1964年)」など43本の映画を手がけています。

 

「尾張の大うつけ」と言われている織田信長(中村錦之助)は、萬松寺で行われた父・信秀の葬儀に荒縄を腰に巻いた姿で現れ、抹香を位牌に投げつけた。

「上総介信長が手向けじゃ・・・喝・・」

 

世間からは狂人とののしられた信長だが、妻の濃姫(香川京子)は信長の頬を伝う涙を見逃さなかった。

葬礼で信長が抹香を父の位牌に投げつけるダイナミックなシーン、濃姫の微かな微笑み、河野寿一監督の演出が秀逸です。

 

「まむし」と呼ばれる濃姫の実父・斎藤道三(進藤英太郎) は、信長の尾張国を狙い、信長との会見を申入れてきた。

家老・平手政秀(月形龍之介)は会見を進言するが、信長はこれを拒否。

平手政秀:「殿がまむしと会って手を握ったとみれば、今川(義元)も、うかつには出てまいりません。殿はよもや、まむしの道三に会うのが恐ろしいのでは、ございますまいな。」

 

信長:「ハハハ、会うほどの男と思った時に会ってやるわ。爺よ、平手政秀はこの信長の名代じゃ。

世間は皆そう思っておるわ。な、頼んだぞ。」

 

家老・平手政秀は、信長に遺書を残して自害して果てた。

信長:「爺、信長のお守、疲れたであろうな。

爺、何故死んだ。なぜ生きていて俺を叱らなかった。

爺はこの信長に、もう一人で歩けというのかぁ!  爺のばかぁ! 爺のばかぁ!」

 

織田信長を演ずる錦之助の熱演も然ることながら、

信長を死をもって諭す平手政秀役、月形龍之介のいぶし銀の演技は独壇場です。

 

最愛の家臣だった平手政秀を失ったことから、信長は道三との面会を受諾する。

<信長からの文を見る道三と家臣の与左衛門(有馬宏冶)>

与左衛門:「信長よりの書状、どう言ってまいりましたな?」

道三:「ハハ・・濃の婿殿は頼みとする家老の平手政秀に死なれて、頭がどうかして来たらしい・・。

この儂に会いに、正徳寺に のこのこ出てくるそうじゃ。」

 

道三:「今川に討たれて死ぬよりは、嫁の父親に討たれる方が・・・ハハハ、人聞きは悪いがの・・・濃をまた、この城へ呼び戻せるわい」

 

父・道三は「まむし」だから注意するようにと信長に忠告する濃姫。

濃姫:「殿はやはり、噂通りのうつけものでございました。

殿はまむしの怖さをご存知ありません。」

 

信長:「大事な娘を、うつけものと云われるこの信長の嫁にした男じゃ。判っておる。」

濃姫:「それを知っていて、なぜ、父のもとへ行かれまする。」

信長:「お濃、信長の出陣をなぜ止めるのじゃ。所詮、尾張の行く道は、信長に行く道は決まっておるのじゃ。」

 

信長は正徳寺で道三と会見する。

道三は罠を用意して待っていたが、信長は道三を圧倒し、道三は手の掌を返すように歓待するのであった。

 

 

濃姫:「殿・・・。」

 

信長:「どうした。その白装束は何の真似じゃ。そなたの親爺殿は元気だったぞ。

お濃、泣いておるのか。親父殿はそなたの言った通り、初めはわしを斬る気と見た。

だが、さすがに美濃のまむしよ。途中で雲行きが変わりおったわ。」

 

濃姫:「殿・・・濃の殿は、やはり、濃が父親を忘れさせるほどの夫でございます。」

 

白装束で信長の帰りを待つ香川京子の濃姫も言うことなし。まむしの道三役、進藤英太郎も素晴らしい。

濃姫役の香川京子は「悪い奴ほどよく眠る」「天国と地獄」「赤ひげ」など、黒澤明監督作品の常連でした。

 

突然、今川義元(柳永二郎)が四万もの大軍を率いて尾張領に攻め込んできた。

今川義元役の柳永二郎(中央)>

それに対して信長軍はわずか五千だが、信長は野武士の蜂須賀小六 (戸上城太郎)に協力を申込んでいた。

蜂須賀小六役の戸上城太郎(中央)>

蜂須賀小六役の戸上城太郎は殺陣が上手い俳優さんでした。

日活で主演作品もありますが、東映では主に時代劇の悪役として活躍しました。

「梟の城(東映・1963年)」の時に、工藤栄一監督が取りいれたワイヤーアクション(空を飛ぶシーン)の撮影に苦労したエピソードを“たけさんのブログ(忍者映画制作の撮影風景)”で知りました。

 

今川軍はすでに桶狭間まで迫ってきていた。

 

信長:「目指すは義元ただ一人じゃ、今生の限り戦え!」

 

クライマックスは、ダイナミックな桶狭間の戦い!

東映時代劇黄金時代の傑作「風雲児 織田信長」。

大好きな作品です。

昭和34年10月公開、カラー、東映スコープ、95分。

「風雲児織田信長」の河野寿一(監督)と結束信二(脚本)のコンビは長く、昭和40年代、映画産業が斜陽になると、テレビ映画に進出し、数々の名作テレビ時代劇を残しています。

 

<河野寿一(監督)と結束信二(脚本)のテレビ映画作品>

・「忍びの者(昭和39年)」(品川隆二・主演)

<石川五右衛門(品川隆二)>

主人公の石川五右衛門をテレビ初主演の品川隆二が演じた他、

東千代之介、里見浩太郎、山城新伍、高田浩吉といった東映のスターが出演した「東映京都プロダクション」第1回作品。

 

<五右衛門の親友・樫藏(牧田正嗣)と、くノ一・たも(鈴村由美)>

 

・「新選組血風録(昭和40年)」(栗塚旭主演)

上記「忍びの者」で明智光秀を好演した栗塚旭が、新選組血風録の土方歳三役に抜擢され、当たり役となる。

 

<医師の娘・お悠(鈴村由美)と沖田総司(島田順司)> 

島田順司は「新選組血風録」の他、「俺は用心棒」「燃えよ剣」でも沖田総司を演じた。

沖田役では一番の俳優と思います。

 

・「俺は用心棒(昭和42年)」(栗塚旭主演)

用心棒シリーズ唯一のカラー作品。

(昭和42年度芸術祭参加作品・第19話「眞葛ヶ原にて待つ」)

<野良犬(栗塚旭)、品田万平(左右田一平)、沖田総司(島田順司)>