高次脳機能障害者の就労
取材後記
小川さんのヒアリングを終えて、思わず考え込んでしまったのは、我々当事者は周囲や職場に対して「どの温度で」障害を自己開示するのがいいのだろうか、ということでした。
本文中にも書いた通り、差別者の最大の弱点は「障害を知ろうとしない、実際に知らない」という無知の部分ですから、「この障害がどんなものか言ってみろ!」「知りもせずに差別するのか」という問い詰めに、自分より弱いものをいじることしかできない愚劣な差別者は言葉を失います。正直僕はお話を伺って勧善懲悪の爽快感すら感じました。
小川さんの言葉は30年自身と戦い続けたのちの魂の叫び、生存権の主張であって、その言葉が何か不適切だとかは、絶対に言えません。
けれど、これまで当事者ケースを見る中で「不適切な自己開示」によって、周囲から適切な配慮を引き出せないケースもあったのは事実です。
「障害者なんだから配慮しろ」的な高圧的態度で周囲と断裂を招いてしまうというあまり望ましくないケースも少なくありませんし、逆に高い自己理解を元に作った高度な「わたしのトリセツ(取扱説明書)」が高度過ぎて職場の人には理解できなかったケース等々。
結局のところ当事者の自己開示は、相手に理解できるように不自由を伝えなければ意味がないわけですが、果たしてどの温度がふさわしいのか……。
訴える必要は絶対にあります。小川さんが勝ち取ったのは自身への配慮だけでなく、今後小川さんがお勤めのK住宅評価センターに高次脳機能障害をもつスタッフが現れた際に期待できる配慮でもあります。
考え込んだ結果に思ったのは、この自己開示の戦いや戦略を当事者自身が担う限り、さらなる無理解や差別などのリスクをコントロールできない、ということでした。「伝わる自己開示」を支援職主導で当事者の中に育てていくことも大切。けれど理想なのは、当事者だけでなく「チーム戦」で挑むこと。
現状この企画は当事者の就労上でのお困りごとヒアリングがメインですが、そうして得た知見をフィードバックする先は当事者や支援職だけではなく、企業人事部や産業医等。当事者が叫びをあげる際にその背後をガッチリ守って援護射撃できるチームをどれだけ作れるかが、大きな課題に感じたのでした。
「そこまでしなければ合理的配慮を受けられないのか」というため息つきの感想ではありますが……。
文責・鈴木大介
脳に何かがあったとき 2021.10月号










