高次脳機能障害者の就労
【戦略転向・バナナかよ!】
その頃、小川さんは『こんな夜更けにバナナかよ』(前田哲監督による映画・原作は筋ジストロフィで四肢麻痺の当事者とそれを24時間体制で支援するボランティアの交流を描いたノンフィクション/著・渡辺一史)を視聴して、大きな感銘を受けたと言います。
「(モデルの故鹿野靖明氏について)色々調べていくと、どうも我儘な人でした。でも、とにかく堂々と生きているのが羨ましかった。
だれだってやりたいことはある、自由にやっている。俺は頼まないとやりたいことが出来ないから堂々と頼む。みんなと同じだ。
重度の障害の人にどう接するか俺は支援者に教えている。生きることは迷惑をかけあうこと。そんなふうに、彼には相手を言い負かして自分の要求を通してしまう、力強さがあった」
感動して三回見たというこの作品で小川さんは、職場で合理的配慮をお願いするときの自身の態度を変えてみようと思いったと言います。
「一般企業は合理的配慮の努力義務があるのでちゃんと最善を尽くしてやってください。配慮してくれたら私も頑張ります。障害の経験もないのに自分の物差しで言わないでください。私の意見を尊重してください。障害を分からないのに私にものを言うのは失礼ではないですか」
それは、30年以上障害を自分の中に抱え込み、ひたすら耐えてきた小川さんの、血のにじむ叫びでした。
障害に対して無理解で差別的な人間に対して、「その障害がどんなものか説明してみろ」というと、とたんに何も言い返せなくなることが、往々にしてあります。差別者の最大の弱みは、「無知であること」です。
小川さんの叫びに対しても、やはり「いつも上から目線で話を聞いてやっている」といった態度だった人々が、ガラリと変わって真剣に話しを聞いてくれるようになったと、小川さんはそう感じました。
「その後も、支店が統合されて高圧的な上司がやってきた時に全く私の話を聞かない感じでマウントしてきたので、ここで言い負けたら酷いことになると思い、戦いました。
結果、本社の人事部長が高次脳機能障害を知るために地元の支援センターに来て話を聞いてくれたり、毎月産業医と面接を設けて、そのあと面談もしてくれました。支援センターでの社会貢献活動や、当事者としての講演会も『業務として認める』として、僕のことを考えて大きな支店への移動も決めてくれました」
冒頭に書いた週4日の在宅勤務と1日出勤という業務体系は、こうして小川さんが文字通り「勝ち取った」ものです。
気が遠くなるような経緯です。小川さん個人としての強さもありますし、運もあったでしょう。当事者人生30年以上、小川さんの生き方も現在も、他の当事者が再現できるものではとうていありませんが、すべては小川さんが立ち止まらなかったこと、動き続けたことで引き寄せた結果です。足掻くしかない。当事者として何よりも強いメッセージを含む、小川さんのヒアリングでした。
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講演会のお知らせ
3月27日(日)13時〜
当事者無料です。
申込み頂ければ、いつでも視聴可能です。









