ぼくは、5つの心得のなかでも「待ち人の心得」が一番読み応えありました。
知り合ったのも偶然であって、彼女のことをあまり知らないことに後から気づいた土屋氏。
日向キラリが彼のもとから失踪し七年がたっても、彼は彼女が帰ってくるのを待ち続けているのです。
土屋氏が使者を通じて本人に会えたところからだんだんと、こころが激しく動かされました。
ぼくは、そのいじらしい気持ちを想い涙腺が弛みっぱなしでした。
218P
ひどく月並みな言い方なのだろうけど、と前置きして、私は答えた。
「会って、本当によかった。これで、後悔しなくて済む」
「そうですか」と答えた少年は、無愛想だが、私を見て、最後に微かに笑った。
「それは、よかったです」
「本当に、どうもありがとう」
しつこいとは思ったがもう一度礼を言う。少年がゆるやかに首を振った。
死んだ者と生きている者を繋ぐことができる使者(ツナグ)について思うこと。
生きている者が一度だけ死んでいる者と会う事ができます。
死んでいる者は自分から会う人を選べないけれども、死んでいる者に会いたいと願う生きている者を一度だけ選ぶ事ができます。
もし本当に使者がいるなら、生きているうちに誰に会うことを願うだろうか。
もし本当に使者がいるなら、 死んだのちに誰と会いたいだろうか。
ぼくだったら、ほんとうに誰に会いたいのだろうかと。
この使者の存在は、実際にはあり得ないことだろう。
しかし、自分のこれまでの人生と重ね合わせながら、生きること、人とのかかわりなどについて、なにか考えることに大きな意味があると思うのです。
悔いのない人生を歩んでいきたい。
そのためにはどうしていけばよいのか。
やりたいことやしたいことの中にその答えのヒントがあると気づいているのです。
<目次>
アイドルの心得 5
長男の心得 59
親友の心得 107
待ち人の心得 165
使者の心得 223
◎1980年生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞しデビュー。ほかの著書に「凍りのくじら」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」など。
◎303P
甘えるな、という声の半分は、自分に向けたようなものだった。
「会ってください。お願いします」
それが、生者のためのものでしかなくとも、残された者には他人の死を背負う義務もまたある。失われた人間のために生かすことになっても、日常は流れるのだから仕方ない。
残されて生きる者は、どうしようもないほどにわがままで、またそうなるしかない。それがたとえ、悲しくても、図太くても。








