男女の別はありますが、主人公の行動から将来の自分が行く道が透かして見えてきます。
ぼくが彼女の立場だったらどうするのか、どう行動するのかなと考えながら読んでいきました。
1P
無防備に眠りこけている夫の寝顔を見た時、私はつぶやいていた。
「今度生まれたら、この人とは結婚しない」
「終わった人」「すぐ死ぬんだから」そして「今度生まれたら」の三部作。
今度生まれたら?
ぼくならどうするだろうか。
都内の一軒家で成績が良い息子2人を育て上げて義母の介護も経験して、いまは夫の和幸と二人暮らしの70歳の女性、佐川夏江が主人公。
はたからは何も不自由や不満がない老後に見えます。
しかし、彼女自身の人生を振り返ってみると、良かれと思って行った短大進学、安定を求めた就職先と結婚など、その時その時の選択や判断が正しかったのかどうか、よかったのかどうか、別の道を選ぶやり方もあったのではないかと悔やみつつ悩むのです。
何かをやりはじめるのには年齢は関係ないとは言われますが、やり直しがきかないような70歳の齢となって、夏江は、若い頃得意であった園芸技術を活かして、人に役立つことをやり始めるのです。
過去の生きざまを振り返るのは、誰にでもよくあることです。
あれをやっておけばよかったなどど後悔をするでしょうが、頭の中だけではなく、少なくとも調べ物をしたり、読書をしたり、見に行ったり探したりして、今できることを何かしらして動いてみたらその時の結果が出てくるでしょう。
思い立った今の年が一番若い。
やれることが限られていますが、気づいたできるだけ若いうちにして、やらない後悔をするよりやってみた後悔のほうがモヤモヤしないのではないでしょうか。
ほかの誰かからこんな相談があったら、自分で気づいたとしても、とりあえずやってみれば!と肩を押すようなお節介なアドバイスをしたいものです。
118P
「人間は死ぬ日まで、何が起きるかわからないんです。そりゃ、悪いことも起こりうる。でも、それを考えて絶望していることこそ、人生の無駄です。とにかく楽しんで生きるためには、自分から動く。何かを始める、年齢は関係ない。耳にタコでもこれなんです」
その通りだ。だが、何の参考にもならない綺麗ごとだ。
「佐川さんにも皆さんにも、そして私にも、加齢と共に、楽しいことや変化やドキドキすることは、やって来なくなります。少なくなります。これは確かです。ならばこちらから行けばいい。それだけのことなんです」
会場の女たちは、さらに深くうなずいた。こういう言葉が、高齢者を勇気づけるのだろう。高梨は私を温かい目で見た。
279P あとがき より
「今度生まれたら」
と口をつく。むろん、
「また同じ人生がいい」
と笑顔で言い切る人も少なくはない。
「人間は幾つになってもやり直せる」「人間には年齢は関係ない」と言う人はいる。それは理想的なことだが、私はやり直すには年齢制限があると思っている。以前はそうは思っていなかった。だが、私自身が「お年を召した方」になってみると、口当たりがよく「人間には年齢は関係ない」とは言い難い。
ただし、たとえ(70)を過ぎても、人生の一部を、また生活の一部分を、やり直すことはできる。
だが、若い頃に夢見た人生を(70)以上からやり直すのは難しい。むろん、あくまでも私個人の考えである。
281P タイガーウッズのマスターズでの優勝から
「昔のウッズが、そのまま帰ってきたわけではない」
と書く。ウッズには、以前にはなかった冷静さと攻め方の知識が備わっていたという。
コラムは次のように結ばれている。
「人は甦ることができる。ただしかつての姿を追うのではなく、何者かに変身しなくてはならない。これがウッズから受け取る、あらゆる分野に通じる教訓かもしれない」
1948年秋田市生まれの東京育ち。武蔵野美術大学卒業後、13年半のOL生活を経て、1988年脚本家としてデビュー。テレビドラマの脚本に「ひらり」(1993年第1回橋田壽賀子賞)、「てやんでぇッ!」(1995年文化庁芸術作品賞)、「私の青空」(2000年放送文化基金賞)、「塀の中の中学校」(2011年第51回モンテカルロテレビ祭テレビフィルム部門最優秀作品賞およびモナコ赤十字賞)など多数。1995年には日本作詩大賞(唄:小林旭/腕に虹だけ)を受賞するなど幅広く活躍し、著書多数。武蔵野美術大学客員教授、ノースアジア大学客員教授、東北大学相撲部総監督、元横綱審議委員、元東日本大震災復興構想会議委員。2003年、大相撲研究のため東北大学大学院入学、2006年修了。その後も研究を続けている。









