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普通人の映画体験―虚心な出会い

私という普通の生活人は、ある一本の映画 とたまたま巡り合い、一回性の出会いを生きる。暗がりの中、ひととき何事かをその一本の映画作品と共有する。何事かを胸の内に響かせ、ひとときを終えて、明るい街に出、現実の暮らしに帰っていく…。

2018年7月17日(火)TOHOシネマズ渋谷(東京都渋谷区道玄坂2-6-17、JR渋谷駅より徒歩5分)で、18:40~鑑賞。

「万引き家族」(朝日新聞)

作品データ :
製作年 2018年
製作国 日本
配給 ギャガ
上映時間 120分


「万引き家族」

『そして父になる』『三度目の殺人』の是枝裕和監督が第71回カンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールに輝いた衝撃と感動の社会派ドラマ。都会の片隅で万引きなどの犯罪で食いつなぐ一家が、貧しいながらも幸せな日々を送る姿と、そんな彼らを取り巻く厳しい現実を、血のつながりを超えた“家族”の<絆>~断ち難い一体感~とともに描き出す。キャストには是枝組常連のリリー・フランキー、樹木希林をはじめ、『百円の恋』などの安藤サクラ、『勝手にふるえてろ』などの松岡茉優、オーディションで選出された子役の城桧吏、佐々木みゆらが名を連ねる。

ストーリー :
東京の下町。高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな古びた平屋の一軒家。そこに日雇い労働者の柴田治(リリー・フランキー)とクリーニング店で働く治の妻・信代(安藤サクラ)、夫妻の息子・祥太(城桧吏)、JK見学店で働く信代の妹・亜紀(松岡茉優)、そして家の持ち主で治の母・初枝(樹木希林)の5人が“家族”として同居していた。一家の生計は、治と信代の稼ぎでは立ちゆかず、初枝の年金に支えられており、それで足りない分が“万引き”で賄われていた。しかし、初枝は表向きが独居老人ということで、同居人の存在自体が秘密だった。社会という海の、底を這うように暮らす5人“家族”だが、いつも笑顔が絶えなかった。
ある冬の日、治と祥太は街角のスーパーで万引きを終えた帰り道すがら、団地の1階の廊下で寒さに震えている幼い女の子(佐々木みゆ)を見つける。母親に部屋から閉め出されたらしいのを以前にも見かけていた治は、彼女を家に連れて帰る。信代は「もう少し金の匂いのするもん拾ってきなよ」とボヤきながらも、温かいうどんを出してやり、名前を聞く。「ゆり」と答える女の子の胸の火傷に気づいた初枝がシャツをめくると、お腹にもたくさんの傷や痣があった。深夜、治と信代がゆりを負んぶして団地へ返しに行くが、ゆりの両親が罵り合う声が外まで聞こえる。信代には、「産みたくて産んだわけじゃない」とわめく母親の元に、ゆりを残して帰ることはできなかった。
信代はゆりを娘として育てることにする。「誘拐ではないか」と心配する治に対して、「脅迫も身代金の要求もしていないから、これは誘拐ではなく保護だ」と主張する信代。ゆりは柴田家の6人目の“家族”となった。
生計を立てるため、“家族”ぐるみで軽犯罪を重ねていくうちに、一層強く結ばれていく一家6人。だが、それは社会では許されない<絆>~人と人との結びつき~だった。やがて、ある日、二度と元の家族には戻れなくなる事件が起きる…。

▼予告編



▼ Cannes 2018 - Conférence de Presse :



▼ La Palme d'Or est attribuée à "Une affaire de Famille" de Kore-Eda Hirokazu - Cannes 2018 :



▼是枝裕和監督(1962~)が凱旋会見(2018年5月23日) :



▼是枝監督が日本外国特派員協会で記者会見(2018年6月6日) :



[※追記(2019/05/10):2019年5月8日(水)、本作を目黒シネマで、14:55~再見]
2018年7月17日(火)アップリンク渋谷(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1・2F、JR渋谷駅より徒歩8分)で、15:40~鑑賞。

「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」⑴

作品データ :
原題 THE FLORIDA PROJECT
製作年 2017年
製作国 アメリカ
配給 クロックワークス
上映時間 112分


「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」⑵「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」⑶

全編iPhoneで撮影した『タンジェリン』で注目を浴びたショーン・ベイカー監督がフロリダの安モーテルを舞台に、社会の底辺で生きる母娘の厳しくも愛おしい日々を優しく見つめた感動ドラマ。やんちゃな6歳の少女ムーニーが、過酷な現実の中でも周囲の大人たちに守られて伸び伸びと暮らしていく姿を、次第に浮かび上がるアメリカ社会の矛盾とともにカラフルな映像美で描き出す。主人公ムーニー役にはフロリダ出身の子役ブルックリン・キンバリー・プリンス、母親ブレア役にはベイカー監督自らがInstagramで発掘した新人ブリア・ヴィネイトを抜擢。親子を見守るモーテルの管理人ボビー役を名優ウィレム・デフォーが好演し、第90回アカデミー助演男優賞にノミネートされた。

ストーリー:
6歳のムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)は、いつも元気いっぱいの、おませないたずらっ子。大好きなママのヘイリー(ブリア・ヴィネイト)と、フロリダのディズニー・ワールドのすぐ外側にある安モーテル“マジック・キャッスル”で暮らしている。ある日、隣のモーテルに同年代の女の子・ジャンシー(ヴァレリア・コット)が越してきたと聞き、仲良しの男の子・スクーティ(クリストファー・リヴェラ)たちと早速モーテルへ。彼女のおばあちゃんの車に向かって“ツバ吐きゲーム”を開始し、大目玉をくらう。全速力で逃げ帰ったムーニーとスクーティだったが、クレームを受けたヘイリーの指示で、結局車の掃除をすることに。
ムーニーたちはジャンシーを仲間に加え、安モーテルや土産物店が立ち並ぶハイウェイ脇のエリアを探索。マジック・キャッスルに戻ると入室禁止の部屋に忍び込み、モーテル中の電気をストップさせる。モーテルの管理人ボビー(ウィレム・デフォー)は、ムーニーたちを叱るが、子どもたちは悪びれる様子もない。彼はヘイリー、ムーニー母娘の境遇に同情的ではあったが、ヘイリーの粗暴な振る舞いを苦々しく思うとともに、ムーニーたちの悪戯にも手を焼かされていた。
ムーニーは失業したヘイリーを助けるため、ダイナーで働くスクーティの母アシュリー(メラ・マーダー)からワッフルをもらったり、教会のフードドライブで食料をもらったりしていた。次の仕事が見つからないヘイリーは、リゾートホテルの前でニセの香水を売り始める。ある日、ムーニー、スクーティ、ジャンシーは、古い空き家だらけのエリアへ冒険に出かける。荒れた家で暖炉を見つけたムーニーは、ライターを持っていたスクーティに火を点けてほしいと頼む―。3人は親には内緒の約束をして別れる。モーテルに帰ると、ヘイリーは火事に大はしゃぎで、ムーニーを連れて外に出て記念撮影。だが、スクーティの様子がおかしいことに気づいたアシュリーは、真相を知ってムーニーと遊ぶことを禁ずる。スクーティ親子の態度が変わったことに気づいたヘイリーは、アシュリーを問い詰めるが、理由は分からない。
モーテルに居住は許されないというルールのため、毎月1日だけは他の場所に滞在するムーニーとヘイリー。今月も、荷物をまとめ、いつものように向かいのモーテルへ。だが、10ドルの値上げを言い渡され、受付でトラブルになってしあう。ボビーが助けに来てくれるも、結局ヘイリーたちは宿泊を拒否される。行き場のない二人を受け入れてくれたのは、ジャンシーのおばあちゃんだった。思いがけず、友だちの部屋にお泊まりすることになり、ムーニーのテンションは最高潮に。
一方、香水売りの仕事も取り締まられ、追い詰められたヘイリーは、愛するムーニーとの暮らしを続けるために、ある“決意”をする…。

▼予告編



▼NG集 & メイキング特別映像(→予告編) :



▼ブルックリン・キンバリー・プリンス(Brooklynn Kimberly Prince、2010~) インタビュー映像(→予告編) :



▼ブリア・ヴィネイト(Bria Vinaite、1993~) インタビュー映像(→予告編) :



▼ウィレム・デフォー(Willem Dafoe、1955~) インタビュー映像(→予告編) :

2018年7月17日(火)アップリンク渋谷(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1・2F、JR渋谷駅より徒歩8分)で、13:25~鑑賞。

「ファントム・スレッド」

作品データ :
原題 PHANTOM THREAD
製作年 2017年
製作国 アメリカ
配給 ビターズ・エンド/パルコ
上映時間 130分


『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール・トーマス・アンダーソン監督(Paul Thomas Anderson、1970~)とダニエル・デイ=ルイスが2度目のタッグを組んだドラマ。1950年代のロンドンを舞台に、有名デザイナーと若きウェイトレスとの愛の軌跡がエレガントにして繊細かつスリリングに描かれる。『マイ・レフトフット』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『リンカーン』で3度のアカデミー主演男優賞を受賞している名優デイ=ルイスが主人公レイノルズ・ウッドコックを演じ、今作をもって俳優業から引退することを表明している。ヒロインのアルマ・エルソンを演じるのは、ヨーロッパ映画を中心に活躍するルクセンブルク出身のヴィッキー・クリープス。第90回アカデミー賞で作品賞ほか6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した。

ストーリー :
1950年代のロンドン。レイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)は、妥協のない職人仕事で英国の高級婦人ファッション界の中心に君臨する天才的仕立て屋。そして、完璧主義で神経質な彼が服のことに集中できるよう、雑事を一手に取り仕切るのが姉のシリル(レスリー・マンヴィル)。ある日、レイノルズは若いウェイトレス、アルマ(ヴィッキー・クリープス)との運命的な出会いを果たす。彼はアルマをミューズとして迎え入れ、魅惑的な美の世界に誘い込む。アルマの“完璧な身体”を愛し、彼女をモデルに昼夜問わず取り憑かれたようにドレスを創作し続けた。しかし、アルマはレイノルズの単なるミューズという立場に甘んじる女ではなかった。情熱的なアルマの出現により、厳格で規律的だったレイノルズの日常生活のリズムが次第に狂わされていく。やがて二人は、後戻りできない禁断の愛の扉を開き、誰もが想像し得ない境地へとたどり着くことになる…。

▼予告編



▼ Costume :



▼ Behind the Scenes Photographs :



▼ダニエル・デイ=ルイス(Daniel Day-Lewis、1957~)、ヴィッキー・クリープス(Vicky Krieps、1983~)、インタビュー映像 :

2018年7月13日(金)吉祥寺プラザ(東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-19、JR吉祥寺駅北口サンロード突き当たり左)で、15:10~鑑賞。

「ジュラシック・ワールド/炎の王国」

作品データ :
原題 JURASSIC WORLD:FALLEN KINGDOM
製作年 2018年
製作国 アメリカ
配給 東宝東和
上映時間 128分


『ジュラシック・パーク』シリーズ[『ジュラシック・パーク』(1993年)→『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)→『ジュラシック・パークIII』(2001年)]14年ぶりの新作として2015年に公開され、記録的な大ヒットとなった『ジュラシック・ワールド』の続編(第5作)。恐竜テーマパーク「ジュラシック・ワールド」で起きた大惨事から3年後を舞台に、大噴火の危機が迫る中でオーウェンとクレアが繰り広げる恐竜救出作戦の行方と、恐るべき陰謀に巻き込まれた彼らの運命を、臨場感あふれる迫力のアクション満載に描く。恐竜と心を通わせるオーウェンを演じるクリス・プラット、クレア役のブライス・ダラス・ハワードらメインキャストが続投。監督は前作のコリン・トレボロウに代わり、『永遠のこどもたち』『インポッシブル』などで注目されたスペイン出身のフアン・アントニオ・バヨナが新たに務める。

ストーリー :
前作『ジュラシック・ワールド』で崩壊へと追い込まれた、コスタリカ沖のイスラ・ヌブラル島の恐竜テーマパーク。無人地帯となったそこには、恐竜たちがたくましく生き残っていた。だが、島では火山活動が頻繁に起こり、火山大噴火の予兆が観測されていた。危機的状況が迫る中、人々は恐竜たちを見殺しにするのか、危険を冒してでも彼らを救うべきか、究極の選択を迫られる。
「ジュラシック・ワールド」の元管理責任者クレア・ディアリング(ブライス・ダラス・ハワード)は、恐竜を救出するため、元恐竜監視員のオーウェン・グレイディ(クリス・プラット)に協力を要請し、救出隊を組織して島へ向かう。既に溶岩の雨が降り注ぐ不安定な島に到着したオーウェンが何より気にしていたのは、彼がパークで手塩にかけて育てたヴェロキラプトルのブルー。
荒廃したジェラシット・ワールドで生き残っていた恐竜たちに出会いながら、ついにブルーと再会を果たすオーウェン…。だが、実はこの恐竜救出作戦の背後には、彼らの知らない恐るべき陰謀が隠されていた。
当初、クレアはロックウッド財団の設立者ベンジャミン・ロックウッド(ジェームズ・クロムウェル)から恐竜救出作戦へのサポート支援を取り付けた。同財団の実質的運営者イーライ・ミルズ(レイフ・スポール)は、クレアにブルーをはじめとする11種類の恐竜を救うよう依頼し、そのための車両輸送・医療・兵器・傭兵などを手配してくれる。しかし、彼はベンジャミンを欺き、クレアやオーウェンを騙す、したたかな悪(わる)だった。彼の真の目的は、恐竜の保護などではなく、島から運び出した恐竜を兵器やペットとして高値で売りさばくこと。特にブルーの救助に拘(こだわ)ったのも、ブルーのDNAを採取して新たなハイブリット種を造りだすためだった。
島でまんまと捕獲された恐竜たちは、アメリカ本土の北カリフォルニア州にあるベンジャミンの屋敷「ロックウッド・エステート」の地下の施設に運ばれた。そこでオーウェンとクレアは、ミルズがオークションを開いて世界中の兵器のバイヤーたちに恐竜を売りさばこうとしている光景を目にする。また、インドラプトルと呼ばれる新しい遺伝子組み換えの恐竜が作られていることを如実に知らされる。“救出”という名目の裏で、恐竜たちが犠牲になっていると知った二人は、ミルズの卑劣な陰謀に奮然と立ち向かう…。

▼予告編



▼クリス・プラット(Chris Pratt、1979~)が撮影チームに突撃インタビュー :



▼クリス・プラット&ブライス・ダラス・ハワード(Bryce Dallas Howard、1981~) インタビュー :



▼ cf. The Secret Of Jurassic Park - The Jurassic World:Fallen Kingdom :
(Chris Pratt, Bryce Dallas Howard and Jeff Goldblum join BBC Radio 1's film critic Ali Plumb to discover why dinosaurs still rule the earth, 25 years after the release of the original Jurassic Park movie.)



▼ cf. 『ジュラシック・パーク』(原題:Jurassic Park) Trailer :
<1993年に公開されたシリーズ第1作。マイケル・クライトン(Michael Crichton、1942~2008)のSF小説“Jurassic Park”(1990)がスティーヴン・スピルバーグ監督(Steven Spielberg、1946~)により映画化され、米国をはじめ世界各国で大ヒット。全世界興行収入9億1469万ドルという数字は当時世界1位の興行収入であった[後にジェームズ・キャメロン監督作『タイタニック』(原題:Titanic、1997年)が更新]。スピルバーグ映画史上最大のヒット作である。―私はこれまでにスピルバーグの監督作を数多く鑑賞してきた。ここで今もまざまざと私の脳裏に思い浮かぶ作品をあえて6点に絞り、その印象度の強さに照らして価値的に順位づけると、第1に『シンドラーのリスト』(1993年)、第2に『E.T.』(1982年)、第3に『プライベート・ライアン』(1998年)、第4に『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989年)、第5に『ジョーズ』(1975年)、そして第6位に『ジュラシック・パーク』である。>



■私感 :
私は『ジュラシック・パーク』シリーズについて、第1作『ジュラシック・パーク』(日本公開:1993年7月17日)→第2作『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(日本公開:1997年7月12日)→第3作『ジュラシック・パークIII』(日本公開:2001年8月4日)→第4作『ジュラシック・ワールド』(日本公開:2015年8月5日)を、それぞれ日本での公開直後に鑑賞した。
1作目(最新のバイオ・テクノロジーによって現代に甦った恐竜たちを小さな島で放し飼いにしているテーマ・パークが、完全制御の不備により陥るパニックを描くSFドラマ)は、全体として見応えのある面白い映画だった。登場人物が恐竜と最初に出会うシーンをはじめ、新鮮な気持ちで固唾をのんで見入れるシーンが数多かった。しかし、シリーズものの宿命か、次作→次々作はしだいに面白みが薄まり、単なるパニック映画に堕していく。「旧3部作」後の『ジュラシック・ワールド』は、物語の展開が第1作と似た作品に仕上がっていて新鮮味には乏しかった。しかし、主役(恐竜監視員・管理人のオーウェン)に扮したクリス・プラットの存在感あるカッコいい演技が私の目を十分楽しませてくれた。
本作『ジュラシック・ワールド/炎の王国』は、いわば「ジュラシック・パーク」と「ジュラシック・ワールド」をつなぐ映画。「ジュラシック・ワールド2」であるとともに、「ジュラシック・パーク5」でもある。
本作でも、私は前作『ジュラシック・ワールド』同様、物語の内容性はともかく、オーウェン役で主演を務めたクリス・プラットの魅力に惹かれた。恐竜とは対等な生物として敬意を持って接し、火山噴火の脅威からブルーをはじめとする恐竜たちを救助する彼の熱演ぶりは、私の目を強く惹きつけてやまない。(ちなみに、前作から続演の、オーウェンと協力して危機に当たるクレア役を演じたブライス・ダラス・ハワードは、私好みのタイプの女優ではありませんでした!)

それはともかく、私は本作を〈吹替(ふきかえ)〉版で視聴した。〈字幕〉版と〈吹替〉版が並行しているにもかかわらず、自己の時間の都合上、〈吹替〉版の鑑賞を余儀なくされたのは、私個人の映画鑑賞史上初めてのことだった(cf.NIKKEI STYLE-吹き替え映画なぜ増加?「超日本語吹替版」も登場 )。
結論的に言えば、私にとって日本語〈吹替〉版は、【アニメ映画はともかく、少なくとも「実写」映画の場合は】本来的に“無用の長物”である。
本作を鑑賞中、私は何度も日本人声優陣による妙に甲高い上っ調子の声を耳にするたびに、自らの精神状態が掻き乱され、何か得体の知れぬ不快感に襲われる始末。そこでは、明らかにオリジナル・キャストが発する言語(英語)の個性やリズムが失われ(原・役者の口の動きが声優の話し言葉と一致しない!)、映画全体の雰囲気が壊されていた。オリジナルな言語の上から日本語をかぶせてくる、いわゆる吹替版で、オリジナルな映画自体の醍醐味を味わうなんて、どだい無理な話なのだ。
もちろん日本語〈字幕〉版にしても、翻訳上の文字数に制限があり、キャラクターのセリフの内容を伝えきれない問題を内包していることは言うまでもない。とはいえ、字幕版にはオリジナル言語(原語)まで含めた俳優の全身的な演技力を享受できる絶対的なメリットがある―。

翻って考えるに、私個人にとって望ましいのは、〈吹替〉版よりも〈字幕〉版であり、その字幕版については日本語〈字幕〉版よりも英語〈字幕〉版~英語の字幕付きの映画~であった。私は少年時代このかた洋画・邦画を問わず無数の映画を観続けてきた人間(映画狂)として、また一定の海外生活を通して「国際共通語」たる英語の必要性を身に染みて理解し続けた人間として、心の底から思う。少なくともオリジナルな言語が英語である映画については、英語〈字幕〉版を鑑賞することこそ、生きた英語を習得するための絶好の機会である、と。

そもそも、この日本国にはまっとうな「英語」教育が存立しうる余地がない。明治以降今日まで、「国家」による学校教育(⇒教化)が励行(⇒強制)されつづけた日本社会では元来、国際的視野に立つ“大物”は育つはずもなく、当の「英語」教育にいたっては 「英語が世界一ヘタクソ」と心ある欧米人から形容されるほどの、自ら英語を発信できない“小物”日本人をやたら大量生産しつづけたのが落ちである。だとすれば、現代日本社会に住まう真面(まとも)で真率な日本人なら、もはや「学校」英語などに安直にかかずらうべきではないだろう。この際、硬直した学校英語とは思い切ってオサラバして、街中の映画館に足繁く通い、多くのEnglish moviesをとことん楽しみ、生々しく迫る「映画」英語の真髄を骨身に徹して体得すべきだろう―。
そして願うことなら、an English movie with Japanese subtitles(「日本語字幕付きの英語の映画」)よりも、「音声」英語と「文字」英語の一体化を図るべく、an English movie with English subtitles(「英語字幕付きの英語の映画」)を堪能したいものだ。なるほど日本の今日的状況下で、この点は劇場版には期待しうべくもないが、DVD版ならクローズド・キャプション(closed captioning,CC)による英語字幕の表示が可能である。

私は自らを戒めている。まかり間違っても、いわゆる“超日本語吹替版”~「字幕版・吹替版の微妙なズレを極力なくし、演じている俳優の口の動きにあわせた、より自然で違和感のない日本語の話し言葉を採用」([映画.com ニュース]ディカプリオ主演作に「超日本語吹き替え版」 戸田奈津子氏が初監修)~はもとより、総じて日本語〈吹替〉版(dubbed film)自体に浸り込んではならない、と。
私たち日本人はありありと認識すべきである。a film with voice-over(吹替版)をいたずらに良しとし、それに全面的に依存し続ける状態は、いつまでたっても国際音痴の迷妄を脱却できず、「日本的田舎っぺ」~世界の田舎者(問題児)~にとどまり続ける状態と、ほぼ同義であることを―。
2018年7月3日(火)「ココロヲ・動かす・映画館○」(東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-15、JR吉祥寺駅北口徒歩約5分)で、20:40~鑑賞。

「ハッピーエンド」

作品データ :
原題 HAPPY END
製作年 2017年
製作国 フランス/ドイツ/オーストリア
配給 ロングライド
上映時間 107分


『白いリボン』『愛、アムール』のミヒャエル・ハネケ監督が、フランス北部の町を舞台に、崩壊寸前のブルジョワ家族が織りなす愛憎模様を綴った人間ドラマ。3世代が暮らす豪邸を舞台に、心を閉ざした13歳の孫娘と死に取り憑かれた祖父との出会いをきっかけに、家族それぞれが抱える秘密や闇が次第にあぶり出されていくさまを、シニカルな筆致で描き出す。『愛、アムール』(2012年)で親子を演じたジャン=ルイ・トランティニャンとイザベル・ユペールが、今作でも家長のジョルジュと娘のアンヌをそれぞれ演じ、親子役で再共演。『少女ファニーと運命の旅』(2016年)で主人公の妹を演じたファンティーヌ・アルドゥアンが、重要な役割を担う13歳のエヴに抜擢された。

ストーリー :
難民が多く暮らすフランス北部の街カレー。瀟洒な邸宅で3世代同居するブルジョワジーのロラン家では、建築業を営んでいた家長のジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)が高齢のため、すでに引退。家業を継いだ娘のアンヌ(イザベル・ユペール)は、取引先銀行の顧問弁護士を恋人に、ビジネスで辣腕を振るっている。専務職を任されたアンヌの息子ピエール(フランツ・ロゴフスキ)は、ビジネスに徹しきれない。使用人や移民労働者の扱いに関しても、祖父や母の世代への反撥があるものの、子供じみた反抗しかできないナイーヴな青年だ。また、アンヌの弟トマ(マチュー・カソヴィッツ)は家業を継がず、医師として働き、再婚した若い妻アナイス(ローラ・ファーリンデン)との間に幼い息子ポールがいる。さらに、幼い娘のいるモロッコ人のラシッド(Hassam Ghancy)と妻ジャミラ(Nabiha Akkari)が、住み込みで一家に仕えている。
一家は同じテーブルを囲み、食事をしても、それぞれの思いには無関心。SNSやメールに個々の秘密や鬱憤を打ち込むばかり。ましてや使用人や移民のことなど眼中にない。そんな中、トマの前妻が急死し、彼女と暮らしていた13歳の娘エヴ(ファンティーヌ・アルドゥアン)がロラン家にやって来る。老いた祖父ジョルジュは、疎遠になっていた孫娘エヴと再会する。意に添わぬ場面ではボケたふりをして周囲を煙に巻くジョルジュだったが、死の影を纏うエヴのことは実はすべてお見通しだった。一方、幼い頃に父に捨てられたことから愛に飢え、死とSNSの闇に取り憑かれたエヴもまた、醒めた目で世界を見つめていた。秘密を抱えた二人の緊張感漲(みなぎ)る対峙。ジョルジュの衝撃の告白は、エヴの閉ざされた扉をこじ開けることに…。

▼予告編



◆ミヒャエル・ハネケ監督(Michael Haneke、1942~)に話を聞く ― “『ハッピーエンド』は日本の事件からインスピレーション受けたと明かす”([映画.com ニュース]2018年3月2日 ) :

――あなたの映画には家族を主題にしたものが多いですが、その理由を教えてください。
「家族とは社会の核であり、家族を語ることは同時にその集約である社会を描くことだからです。それにまた、家族の物語は観客にとっても共感しやすい。誰もが知っていることですし、繋がりを感じられるでしょう」

――フランスの英国海峡に面した街、カレーのブルジョワ家族の物語で、その背景には難民問題が描かれています。
「映画のテーマは難民問題そのものではなく、それに直面した人々のあり方です。この家族の、いま世界で起きていることに対する無関心。彼らは自分たちの小さな問題にばかり捕われていて、社会の現実が見えていない。それを表現したかったのです。でも現代に生きる彼らを描くなら、いまヨーロッパで大きな問題となっている難民のことを取り上げるのは自然だと思いました。ただしカレーにとくにこだわりがあったわけではありません。ヨーロッパの難民のいる街ならどこでも舞台になり得たでしょう。映画作家としては、現代社会を描く限りいま起きていることを反映するのは自然であり、また義務でもあると思うのです」

――昨年、雑誌のインタビューで、少女が実母に薬物を飲ませるという薬殺未遂事件に影響を受けたとおっしゃっていました。これは2005年に日本で起きた16歳の少女の母親薬殺未遂事件のことでしょうか?
「日本での少女の薬殺未遂事件をニュースで読んで、この映画のきっかけになっていることは事実です。この事件は私にとって大きなインスピレーションを与えてくれました。SNSでどうゆう事が起こり得るか、すごくいい例だったと思います。現代のSNSは、昔の教会が持っていた役割を果たしていると思うのです。カトリックの教会では懺悔がありますよね、この少女がなぜSNSにポストしていたのかと思うと、匿名で投稿していても、どこかで発見されるかもという思いがあると思うんです。私が思うには、注目を集めたいという気持ちが一つあって、もう一つは罰を受けたい、という欲求、そいうものがモチーフにあると思うんです。それは昔教会で人が懺悔するという思いと同じです」

――本作のなかではまた、SNSが重要な役割を果たしています。ソーシャルネットワークは人間関係に大きな影響を及ぼしていると思われますか。
「そうですね。たとえばカフェに行って周りの家族やカップルを観察してご覧なさい。彼らは大抵、みんながそれぞれスマートフォンを見ていて、たいして会話もしていないでしょう(笑)。ソーシャルネットワークの発展は、ここ十数年でわたしたちのあり方を大きく変えたと思います。このわたしにしても、スマートフォンなしではもう生きていけない。それは便利で素晴らしい一方、大いなる危険がある。人とのダイレクトなコンタクトを失い、完璧に自閉症的になる。そういう自閉症的な社会を描くことに興味があったのです。もうひとつ言えることは、いまやどこにいてもみんなインターネットで何でも世の中のことを知ることができる。情報の洪水です。でもそれらは表面的なものだけで、実際に体験したことではない。それはリアリティとはまったく関係がない。結局我々は何も知らない、見ていないのと同じです。でもそれが現代に生きる我々の運命でもあると思います」

――映画で観客を挑発することは重要ですか。また映画が人々に、あるいは社会に与える影響力を信じていらっしゃいますか。
「観客を挑発すること自体が狙いというわけではありません。考えさせることが大事なのです。映画が衝撃的であれば、あるいはシリアスであればあるほど、人々の心は動揺させられ、それについて深く考えるようになるかもしれない。わたしは一本の映画が世界を変えるとは思っていません。それはいささかナイーブな考えでしょう。でもたくさんの映画が作られることによって、それらの物語に触れることで、わたしたちの人間性が少しでもより良いものになればいいと願っています」
2018年7月3日(火)吉祥寺プラザ(東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-19、JR吉祥寺駅北口サンロード突き当たり左)で、18:40~鑑賞。

「犬ヶ島」

作品データ :
原題 ISLE OF DOGS
製作年 2018年
製作国 アメリカ
配給 20世紀フォックス映画
上映時間 101分


世界的にヒットした『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソン監督が近未来の日本を舞台に、『ファンタスティック Mr.FOX』に続いてストップモーション・アニメ技法で描く異色のファンタジー・アドベンチャー。囚われた愛犬を捜すため、犬たちが隔離された島“犬ヶ島”に単身乗り込んだ少年が、犬たちの力を借りながら愛犬捜しに奔走するとともに、背後にうごめく巨大な陰謀に立ち向かう大冒険を映す。犬たちの声には、リーブ・シュレイバー、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、ジェフ・ゴールドブラム、ブライアン・クランストン、スカーレット・ヨハンソン、ティルダ・スウィントン、ボブ・バラバンらエンターテイメントの第一線で活躍する俳優たちが名を連ねる。一方、人間のキャラクターたちのボイスキャストには、主人公の少年アタリに抜擢されたコーユー・ランキン(Koyu Rankin、2007~)ほか、グレタ・ガーウィグ、フランシス・マクド-マンド、ヨーコ・オノ、渡辺謙、高山明、伊藤晃、村上虹郎、夏木マリ、野村訓市、RADWIMPSのボーカル・野田洋次郎ら、多彩な顔ぶれが揃う。第68回ベルリン国際映画祭のオープニング作品として上映され、コンペティション部門で監督賞(銀熊賞)を受賞。

「犬ヶ島」⑵

ストーリー :
今から20年後の日本。犬インフル“ドッグ病”が蔓延するメガ崎市では、小林市長(野村訓市)が人間への感染を防ぐために、野良犬も飼い犬もすべて“ゴミ島”と法で定められた“犬ヶ島”に追放すると宣言する。やがて犬ヶ島に隔離された犬たちは、自分たちだけで生き延びることを余儀なくされ、怒りと悲しみと空腹を抱えて辛い日々を送っていた。ある日、12歳の少年がたった1人で小型飛行機を操縦し、犬ヶ島にかろうじて降り立つ。彼は3年前に両親を事故で亡くし、孤児から遠縁の市長の養子になった小林アタリ(コーユー・ランキン)。孤独な彼の悲しみを癒してくれた親友の愛犬スポッツ(リーブ・シュレイバー)を救出にやって来たのだ。島で出会った勇敢で心優しい個性豊かな5匹の犬たち~レックス(エドワード・ノートン)、キング(ボブ・バラバン)、デューク(ジェフ・ゴールドブラム)、ボス(ビル・マーレイ)、チーフ(ブライアン・クランストン)~を新たな相棒とし、いざスポッツの探索を始めたアタリは、メガ崎の未来を左右する大人たちの陰謀へと近づいていく…。

▼予告編



▼冒頭映像 :



▼特別キャストインタビュー :
[チーフ(ブライアン・クランストン)→ボス(ビル・マーレイ)→レックス(エドワード・ノートン)→スポッツ(リーブ・シュレイバー)→ジュピター(F・マーリー・エイブラハム)→デューク(ジェフ・ゴールドブラム)→ナツメグ(スカーレット・ヨハンソン)→キング(ボブ・バラバン)→オラクル(ティルダ・スウィントン)]


▼メイキング映像 ― 制作現場に潜入 :



▼特別メイキング映像 ― 驚愕のパペット制作過程 :



▼ TRAILER→アニメーターの仕事 (2018.8.1先行デジタル配信/8.22ブルーレイ&DVDリリース) :



▼特別映像 ― ウェス・アンダーソン監督(Wesley Anderson、1969~)の美術へのこだわり! :



▼ウェス・アンダーソン監督 来日記念舞台挨拶 (2018年5月22日、東京・TOHOシネマズ六本木で開催) :



◆ウェス・アンダーソン監督 インタビュー(FASHION PRESS-2018/05/24) :

――映画『犬ヶ島』はどのようなアイデアからスタートしたのでしょうか。日本を舞台に選んだ理由は? 
“ゴミ山の島”に捨てられた犬たちとそこへ飼い犬を探しに行く主人公の男の子というクレイジーなストーリーを最初に思いつきました。ともに脚本を手掛けたジェイソン・シュワルツマンとローマン・コッポラと物語を作っていったのですが、僕たちは長いこと日本映画のファンだったので、いつか日本で映画を作りたいという夢を常々話していたんです。
この2つのアイデアが合体して誕生したのが、日本を舞台にした犬たちの映画『犬ヶ島』です。

――アイデアをどのように広げて作品を制作していきましたか。
僕たちが思いついたのは、ストップモーションアニメーションで‟小さな日本“を再現するということ。この考えが頭の中でしっくりときて、次々と作品のストーリーが頭の中に浮かび始めました。

――劇中では食事のシーンなど日本文化を緻密に再現したシーンがありましたが、何か強い気持ちがあったのですか?
純粋に撮りたい!という気持ちがこの場面を生み出しました。もっとも寿司を準備するシーンや日本の食卓を描いたシーンに深い意味は全くないのですが…。手間のかかるストップモーションアニメーションで、日本の食文化を細やかに再現しようなんて人は世界中で僕だけですよね(笑)

――実際に日本食のシーンをストップモーションアニメーションで制作してみた感想は?
複雑で大変な作業でした。例えば、包丁さばきひとつや料理人の動きひとつとってみても現実と離れてしまうと、深みがなくなってしまってチープな印象を与えてしまうからです。
制作は、フランス人、デンマーク人、スペイン人など世界中から集まった様々なバックグラウンドを持つアニメイターが携わっていました。その中で、日本食の正しい作法を知っている人を探すのは非常に困難で。たった1つのシーンを制作するのに、正しい知識を持ったアメリカにいるアニメイターを見つけ出し、ようやく完成させることができたんです。

――『犬ヶ島』のインスピレーションとなった作品はありますか?
黒澤明監督と宮崎駿監督の作品です。クレイジーな話ですが、制作を始める際‟もし『犬ヶ島』が黒澤作品だったらどうなるんだろう“と考えることからスタートしました。(笑)
特に意識して思い浮かべたのは『悪い奴ほどよく眠る』『野良犬』『天国と地獄』といった、街を舞台にした3つの作品。‟もし『犬ヶ島』が1960年代に作られた映画で、設定は2005年やその先の近未来のことを描いた作品だったらどうなるだろう“ってイマジネーションを膨らませていきました。
でも結局のところ、僕たちの作りあげた映画は、全然黒澤ムービーではないですよ。確かに黒澤監督に影響されているけれど、何かが違う。
また、宮崎駿作品からも絶大な影響を受けています。そもそも僕が彼の事を知ったのは、90年代に日本を訪れた時、三鷹の森ジブリ美術館で宮崎駿作品を全て購入したことがきっかけでした。
アニメーション映画『ファンタスティックMr.FOX』を制作していた最中に宮崎作品を鑑賞して。当時も少し彼の作品から影響を受けていましたが、今回の『犬ヶ島』は、宮崎駿作品を何回も鑑賞して熟知した上で制作しているので、当時よりも遥かに影響を受けたストーリーであることがお分かりになるはずです。
他にも『新世紀エヴァンゲリオン』を手掛けた庵野秀明や、『復讐するは我にあり』の今村昌平といった日本人クリエイターからも、僕は大きな感銘を受けています。
僕の場合、作品によってもインスピレーション源は様々。ジャック=イヴ・クストーという実在の人物をモデルにした『ライフ・アクアティック』という作品もあれば、12歳が恋に落ちていく姿を描きたいという感情的な部分から誕生した『ムーンライズ・キングダム』という作品もあります。

――『犬ヶ島』のキャラクターたちは、どのように作られましたか?
『犬ヶ島』の場合は、まずストーリーを最初に思いつき、その後、キャラクターのアイデアが浮かんできました。僕のイマジネーションによって誕生したキャラクター達なので、僕自身もそのキャラクターをどのように生み出したのかうまく説明することができません。
けれど、劇中に登場する様々な個性を持った犬たちについて言えば、そのキャラクターを担当した俳優たちが深く関係していると思います。なぜなら脚本はすごくシンプルなものだったので、俳優たちの個性がそれぞれのキャラクターに反映されているように感じるからです。
実際の俳優を基にして作られたキャラクターもいます。主人公のアタリは、彼を担当したコーユー・ランキンをモデルの一部にしていますよ。

――監督の身近な人をキャラクターに投影することはありますか?
実写映画は、身近な人物を取り入れることが多いですね。例えば、『グランド・ブダペスト・ホテル』の主人公ムッシュ・グスタヴ・Hのモデルとなったのは、僕のイギリス人の友人ロビン・ハルストン。最初その事実を誰にも打ち明けてはいなかったのですが(笑)、その後ロビンはその事実に気付き、気に入ってくれました。
作品の脚本を手掛けている時には、ロビンがそのセリフを読んで、‟僕だったらこうは言わない“と意見を言いながらね。それでも僕は、いかにも彼らしいセリフを自分で考えながら脚本を書きましたが。(笑)

――『犬ヶ島』のキャストの中には、iPhoneで声のレコーディングを行った人もいらっしゃるそうですね。
はい、何人かはiPhoneで行っています。もちろん一般的なレコーディングも行いましたが、ある時もっと他の方法はないかと。iPhoneは、パーフェクトすぎないナチュラルなサウンドを演出したいときに凄く良いですからね。そして何人かのキャストはこの方法でレコーディングをしたというわけです。

――日本人キャストやチームと共演した感想を教えてください。
何かミスをした時に軌道修正してくれる多くの日本人のコラボレーターに出会えたことは非常にラッキーでした。そして、自分の世界観を理解してくれる仲間と仕事をできたことも幸運だったと感じています。例えば、劇中に出てくる日本語の広告物やパッケージといったグラフィックは、僕は全く意味を理解が出来ない。分かるのは、そのビジュアルだけなんですよね。
チームメンバーは僕に本来のデザインや意味を教えてくれて、僕はそれを理解したうえで、敢えて他とは違うものを作るというプロセスを選びました。日本の方が見ると、あれ?と思うかもしれないのですが、この映画はファンタジーであって、僕は新しいものを作りたかったのです。
翻訳についても、僕の世界観にぴったりなセリフや言葉を選んでくれた野村訓市にも感謝しています。彼は、僕の事も映画の事も昔から知っていますから信頼の置ける人物のひとりです。

――監督にとっての映画制作とは?
最終的に僕にとっての映画制作とは、ストーリーテリングであるということ。僕が作りたい映画というのは、映画を観た人を、どこか興味をそそらせる非現実的な世界へと連れ出してあげるもの。例えそれが恐ろしい場所であったとしてもね。そして同時に誰かの人生に何か価値のあるものを届けてあげるものです。
価値というのは、その映画の登場人物の人生、もしくはその脚本や制作方法から見出すかもしれない。そして時には、役者がランプを灯すだけのすごくシンプルなシーンでも、その人の記憶の中に残り続けることがあるかもしれない。その映画がどんなジャンルであれ、映画の中で感じた経験が、人の人生の一部となって残ることを僕は信じています。

――制作意欲を突き動かす原動力は?
何かのプロジェクトに取り掛かっている時に、‟幸せだ“と感じる気持ちですね。何年も前のことですが、ひとつの映画を撮り終えて、次のスケジュールも空いていたので、夏の長期休暇を取りました。あれは間違いなく人生で最悪の休みでしたね。何故なら旅行先で自分が何をしたらいいのか全く分からなかったからです。まるで自分がそこに存在しないような感覚でした。
もし休暇に出かけるとしても、僕はエディターやコンピューターチームを連れて行って、いつでも仕事ができるようにしたい。制作に取り組むことが、僕の人生の中で喜びであるからです。もちろん、自分の家族と休暇を過ごすことも好きですが、自分の仕事ができるという環境もそれくらい僕にとって大切なことなんです。
2018年7月3日(火)「ココロヲ・動かす・映画館○」(東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-15、JR吉祥寺駅北口徒歩約5分)で、16:40~鑑賞。

「人狼ゲーム インフェルノ」

作品データ :
製作年 2018年
製作国 日本
配給 AMGエンタテインメント スターキャット
上映時間 95分


注目の若手女優を主演に起用し、プレイヤーが互いの正体を探りあう「人狼ゲーム」を題材に描いたシリーズの第7作。主演は「non-no」専属モデルとしても活躍する武田玲奈(1997~)が務め、同じく武田主演でシリーズ初の連続テレビドラマとして放送された『人狼ゲーム ロストエデン』に続く完結編となる。クラスメート同士で殺し合う「人狼ゲーム」に強制的に参加させられたヒロインたちの残酷な試練がサスペンスフルに描かれる。 共演に小倉優香(1998~)、上野優華(1998~)、松本享恭(1994~)、時人(1993~)、平松賢人(1994~)、都丸紗也華(1996~)、貴志晃平(1998~)、吉原雅斗(1994~)、海田朱音(1999~)、水野勝(1990~)。監督はシリーズ4作目から続けてメガホンを取る綾部真弥。

ストーリー :
私立鶴ヶ岡高校2年3組の野々山紘美(武田玲奈)は、クラスメイト9名と共に見知らぬ場所に監禁され、いきなり命を賭けた“人狼ゲーム”に強制参加させられてしまう。それは、予め定められた役職“人狼”と“村人”に分かれて互いに騙し合い、投票で生死を争い、生き残った者には賞金が授与される、あまりにも非情な死のゲームだった。眼前のモニターに映し出される“人狼ゲームの始まりです”のメッセージ。これを拒否しようとする10人の目の前に“死んでつぐなえ”という壁に書かれた文字が現われる。彼らに復讐しようとしている誰かが、このゲームを仕組んでいるのは明白だった。囚われた者に拒否権なし。命を懸けた極限の心理戦が開幕し、1人、また1人と犠牲になっていく中、最後に生き残るのは誰なのか?そしてその先にあるものは…?

▼予告編



▼インタビュー&メイキング :



■私感 :
低予算感溢れる“B級スリラー映画”もたまに観ると面白いんじゃないかと思い立ち、本作を鑑賞したのだが、それにしても!?

・これは、学校劇レベルの作品にすぎない。
私はかつて学芸会の学校劇~小学生の頃に「猿蟹合戦」「桃太郎」「花咲か爺さん」など、中学生の頃に「山椒大夫」「宮本武蔵」「ベニスの商人」など~で、さまざまな役をがむしゃらに演(や)ったことがある。
その往時の甚だ拙(つたな)い演技経験に照らして直言すれば、本作のキャスト陣はことごとく、素人に毛の生えたような凡庸な「役者」である。とりわけ20代の男優陣の演技ぶりにいたっては、揃いも揃って実にガキっぽく、臭いこと臭いこと…。

・私は本作を鑑賞後、「ココロヲ・動かす・映画館○」の受付係3人と立ち話をした。
私が同館に初めて入ったのは、2018年1月25日(cf.本ブログ〈January 26, 2018〉)。そして今回2018年7月3日、11回目の入館となった。この間、同館の受付係5、6名とは、いつか顔見知りになり、時折~他の客がいなくて手隙(てすき)の折~気軽に映画にまつわる話を何らか交わしてきた。
7月3日当日の受付係3人は、全員20代半ばの、若さの魅力が溌溂とした、好感の持てる男女~男1人(A)と女2人(B、C)~。中でも女性Bは、目鼻立ちが整った人目をひく美人、である。

Aは私を見て、口を切った。「『人狼ゲーム インフェルノ』、どうでした?」
実は、彼はなかなかの“映画通”で、私とは『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(本ブログ〈May 23, 2018〉)など、主として同館の上映作を話題にして自由な映画批評を開陳し合う仲だ。
私「しょせん、B級映画だからね」
A「つまらない映画が結構あることを知るのも、映画通にとっては大事ですからね…」
私「そうそう、全くその通り。それにしても、最近の日本映画はあんな程度のものが多いんだろうか…」
A「そりゃ、今は溝口健二、小津安二郎、黒澤明、成瀬巳喜男…の時代じゃないですから。僕は彼らの作品をDVDで観るにつけ、昔は素晴らしい日本映画が多かったとつくづく思いますよ」
BはAと私の話に聞き耳を立てながら、おもむろに口を開いた。「私は『人狼ゲーム』シリーズを一切、まだ観てないんです。もともと原作~川上亮のホラー小説『人狼ゲーム』~にも大して関心が湧かなかったし…」
Cが、Bの言葉を遮るようにして、話を切り出す。「このシリーズもので、私は今度の『インフェルノ』はまだ観てないけれど、これまで2作ばかり観たかしら。はっきり言って、レベルの低い安物映画だった。…ただ、シリーズを通して若手女優の登竜門らしく、今までに例えば桜庭ななみ(さくらば・ななみ、1992~)や土屋太鳳(つちや・たお、1995~)が主演に起用されたことで、以後ブレイクしたらしいの」
私「フーン、登竜門ね…。私は映画版シリーズの過去作6本も、TVドラマ版も観てないんで、その点はよく分からんが。土屋太鳳と言えば、『となりの怪物くん』(本ブログ〈May 06, 2018〉)で菅田将暉と一緒に出演してた女優さんだね…。マア、私の見るところ、土屋太鳳よりも、また『インフェルノ』に主演の武田玲奈よりも、少なくとも容姿面に限るかぎり、あなたたち~BとC~の方がよほど魅力的だ!お世辞抜きに、ほんとに、そう思うね…」
Aは口元にほのかな笑みを浮かべながら、私の言葉にうむうむと頷(うなず)いた。そして、BとCは私の言葉を神妙に聞き入るとともに、満更でもない気分にとらえられたのか、しばし満面に清々しい微笑を浮かべ続けるのだった―。
2018年6月29日(金)新宿ピカデリー(東京都新宿区新宿3-15-15、JR新宿駅東口より徒歩5分)で、18:35~鑑賞。

HAN SOLO ⑴

作品データ :
原題 SOLO:A STAR WARS STORY
製作年 2018年
製作国 アメリカ
配給 ディズニー
上映時間 135分


HAN SOLO ⑵

『スター・ウォーズ』シリーズのスピンオフ作品「アンソロジー・シリーズ」の、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(本ブログ〈January 01, 2017〉)に続く第2作で、時系列では『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』の10年前となる(cf.本ブログ〈January 18, 2016〉)。ハリソン・フォードが演じたシリーズ屈指の人気キャラクター、銀河一のパイロットにして愛すべきアウトロー、ハン・ソロの若き日に焦点を当て、伝説のヒーロー誕生までの知られざる物語~相棒チューバッカや愛機ミレニアム・ファルコン号との運命的な出会いなど~を描き出す。若き日のハン・ソロに扮したのは、『ヘイル、シーザー!』で注目された新鋭オールデン・エアエンライク。共演にウディ・ハレルソン、エミリア・クラーク、ドナルド・グローバー。監督は『ダ・ヴィンチ・コード』のヒットメーカー、ロン・ハワード。

ストーリー :
銀河帝国の暗黒支配が激しさを増す時代。宇宙船の造船で知られる陰気な工業惑星コレリアに、“自由”を求める若者がいた。彼の名前は、ハン(HAN)(オールデン・エアエンライク)。不遇な生い立ちにより貧しい暮らしを送り、犯罪にも手を染めてきたアウトローだ。
彼は恋人キーラ(エミリア・クラーク)と共に日々、犯罪者たちから追われていた。約束の期限にまで借りを貸せなかった彼は、やがて身柄を拘束され、大勢の前に突き出されてしまう。
何とか言い訳をして逃れようとしたハンだったが、処刑される恐れがあると見るや、すかさずキーラを連れてその場から逃亡する。二人は追っ手から逃れるために惑星コレリアから脱出しようと、宇宙船のエアポートに駆け込む。しかし、そこでは帝国軍の兵士が厳しく出国を取り締まっていた。チケットのないハンとキーラは、帝国軍の係員に賄賂を渡し、ゲートを通らせてもらうように交渉する。しぶしぶ賄賂を受け取った係員だったが、ハンがゲートをくぐろうとしたところで後ろにいたキーラだけが追っ手に捕まってしまう。
ハンはいつか必ずキーラを救い出すために故郷(惑星コレリア)に戻ってくることを誓うが、二人はそれを機に離れ離れになってしまう。

何とかゲートをくぐることに成功したハンだったが、彼には行く当てなどなかった。ハンが不法にゲートをくぐったことからエアポートは大騒ぎになっていた。周りを見ると、乗客たちが次々と厳しいチェックを受けている。身の危険を感じたハンは、逃げ込むように帝国軍の軍人を募集していたリクルーターの元へと向かった。
ハンは銀河一のパイロットになりたいと志願し、入隊を許可される。そのとき彼に付いた苗字はソロだった。身寄りのない孤独(SOLO)な彼にはぴったりな苗字だ。
3年後、ハン・ソロは帝国軍の一員として惑星ミンバンの戦場にいた。彼は帝国軍のパイロット養成アカデミーを「不服従(insubordination)」が原因で追放され、戦地に一歩兵として立っていた。そんな中、戦場で命知らずの軍人トバイアス・ベケット(ウディ・ハレルソン)とその仲間たちと出会う。ベケット一味は実は戦場荒らし兼盗賊であり、ベケットにはどこかカリスマ的な雰囲気が漂っていた。
ハン・ソロはベケットとパートナーのヴァル(タンディ・ニュートン)がある計画を企んでいることを知る。彼は自分のその計画に参加したいと志願するが、ベケットとヴァルに信用されず、それどころか帝国兵に売られて、地下の、ビーストの檻の中へと投げ込まれてしまう。

鎖で繋がれたハン・ソロを待っていたのは、毛むくじゃらのビースト、ウーキー族の戦士チューバッカ(ヨーナス・スオタモ)だった。
チューバッカは人間を嫌い、ハン・ソロに向かって突進した。しばらく格闘した二人だったが、ハン・ソロがウーキー族の言葉を話すと、チューバッカが妙な親近感を抱くようになる。自分に心許したところを見たハン・ソロは、チューバッカに耳打ちし、「一緒にここから逃げよう」と提案し、看守の隙(すき)をついて檻から脱出する。
鎖で繋がれた二人は、檻から出ても同じ方向に行くしかなかった。チューバッカは逃げようとしたが、ハン・ソロはベケットに付いていくのが最善だと言い張った。ベケットたちを乗せた飛行船は惑星ミンバンから飛び立とうとしていた。しかし、檻から脱出したタフなハン・ソロを見て、ベケットは彼を仲間に入れることを決める。こうしてハン・ソロとチューバッカは、賞金稼ぎのためにベケットが企むミッションに参加することになった。

トバイアス・ベケットは帝国軍が列車輸送する宇宙船燃料・コアクシウム(coaxium)を奪うことを企んでいた。雪山の中を通る列車を待ち伏せして襲いかかったベケット一味だったが、エンフィス・ネスト(エリン・ケリーマン)率いる「クラウド・ライダーズ(the Cloud Riders)」と呼ばれるギャングに奇襲攻撃を受けてしまう。戦いの末、ヴァルが自爆して線路を破壊したが、惜しくもコアクシウムを奪うことはできなかった。
ヴァルを失ったベケットは、コアクシウムを奪おうとしたのは犯罪シンジケート「クリムゾン・ドーン(the Crimson Dawn)」のリーダー、ドライデン・ヴォス(ポール・ベタニー)の命令であることを明かす。ヴォスの命令は絶対で逆らえば命はない。それを聞いたハン・ソロは、ベケットに他の場所からコアクシウムを盗めばいいと代替案を出す。とりあえず事情を話すためにハン・ソロ、チューバッカ、ベケットの3人は、ヴォスのもとに向かう。

ドライデン・ヴォスは「ファースト・ライト」と呼ばれる菱形のスター・ヨット(飛行船)を基地にしていた。ファースト・ライトで、ハン・ソロは偶然にも生き別れたキーラと再会する。キーラはどこか余所余所しく、しかしハン・ソロに会えて嬉しそうでもある。キーラはヴォスの副官として、ギャングの幹部となっていた―。
ハン・ソロがヴォスに惑星ケセルに行けば大量のコアクシウムが手に入ると告げると、ヴォスは「死にたくなかったら、今度こそコアクシウムを手に入れてこい」と命じ、ベケット、ハン・ソロ、チューバッカと共に、キーラをお目付け役として同行させる。

惑星ケセルに行き、コアクシウムを運ぶためには、ハイスピードの宇宙船と優秀な運び屋が必要だった。そこでキーラは、パイロットでギャンブラーのランド・カルリジアン(ドナルド・グローバー)をハン・ソロたちに紹介した。
ハン・ソロはランドがギャンブラーであることを知ると即刻、テーブルに座り勝負を挑む。運も味方にした彼は、最初こそ連続で勝ち続けたものの最後のゲームでランドに破れ、全財産を失ってしまう。ギャンブルに勝ったランドは、ハン・ソロたちのミッションに自分も参加する代わりに賞金の一部をもらう条件を叩き付けた。
ランドはミッションを遂行するための宇宙船も持っていた。その宇宙船とはほかでもない、銀河最速といわれるミレニアム・ファルコン号である。さっそくランドと女性型ドロイドのL3-37(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)をパイロットとするファルコン号に乗り込んだメンバーは、惑星ケセルへと旅立った。

ベケットたちは惑星ケセルに到着すると、ハン・ソロとチューバッカを捕虜に見立てて、コアクシウム鉱山の門番たちを騙すことにした。上手く内部まで潜入することに成功したハン・ソロとチューバッカは、即座に兵隊を制圧。鉱山で重労働に従事させられるドロイドを見たL3-37は、仲間たちを一斉に逃がそうとし、大騒動が始まる。混乱の中、ハン・ソロはコアクシウムを探し当て脱出を試みる。しかし脱出中、ランドが怪我を負い、L3-37は完全に破壊されてしまう。ファルコン号を操縦する者がいなくなった今、それを扱えるのはハン・ソロだけだった。ハン・ソロはチューバッカを副操縦士とし、次々と迫り来る危険の中、狂気めいた操縦で間一髪のところで命拾いする。

惑星ケッセルで入手したコアクシウムだったが、今度はそれを惑星サヴァリーンで精製する必要があった。ようやく辿り着いたサヴァリーンにファルコン号が降り立ったとき、そこに出現したのは宿敵のエンフィス・ネスト一味-クラウド・ライダーズだった。
エンフィス・ネストは一歩、また一歩とハン・ソロたちのもとへと近づいていった。そして、目の前に来ると自ら仮面を取る。正体は何とa teenage girlだった!彼女はハン・ソロたちに協力を呼びかけた。銀河系には帝国によって侵略され苦しんでいる者が大勢いる。彼らに差し迫った必要事は、同盟軍を結成することだった。クラウド・ライダーズは帝国及びその傘下のシンジケートに反逆するために“コアクシウム”を強奪していた。ハン・ソロはエンフィスに感化され、帝国に加担している「クリムゾーン・ドーン」の首領であるヴォスにコアクシウムを渡さないことを決意する。

ハン・ソロ、チューバッカ、キーラの3人は、コアクシウムを持って「ファースト・ライト」のヴォスのもとを訪れた。ベケットはその前に我が道を行くことを告げて、3人と袂(たもと)を分かっていた。
ハン・ソロにはヴォスを出し抜くべく取って置きの「作戦」があった。彼自らコアクシウムをヴォスに渡すと、ヴォスはそれを直ちに偽物だと決めつける。そこにベケットが現われ、ヴォスに「作戦」を漏らした旨~ハン・ソロへの「裏切り」~を白状する。
ヴォスはクラウド・ライダーズがコアクシウムを持っていると考え、兵隊を送っていた。ところが、クラウド・ライダーズのところにコアクシウムはなかった。ハン・ソロが持っていたコアクシウムこそ、実は本物にほかならなかった。ベケットが裏切ることも予想済みの「作戦」だった。ベケットはチューバッカを捕虜にして、本物のコアクシウムを独り占めにしようと逃亡を図る。
ファースト・ライトに残されたハン・ソロとキーラは、ヴォスと決闘になった。キーラはソードを奪ってハン・ソロを攻撃しようと見せかけ、油断したヴォスを切りつける。ヴォスが倒れ、やっと二人のもとに平和が訪れた。キーラはチューバッカを救い出してくるようにハン・ソロを外に行かせた。
ハン・ソロがいなくなったのを見ると、キーラはホログラムで何やら黒幕的な隠然たる存在と話し始めた。それは、マントを被った、まさかのダース・モールだった―。
一方、ハン・ソロはベケットとレーザー銃を片手に向かい合っていた。ベケットが卑怯な手を使うことを知っていたハン・ソロは、彼の心臓めがけて容赦なく発砲した。ベケットはその場に倒れ、命を落とした。そのときちょうどハン・ソロとチューバッカの頭上をキーラを乗せたファースト・ライトが飛び去っていった―。

▼予告編



▼本編映像 :



▼特別映像 :



▼メイキング映像 :

2018年6月28日(木)目黒シネマ(東京都品川区上大崎2-24-15 目黒西口ビルB1、JR山手線目黒駅西口から徒歩3分)で、15:20~鑑賞。『シェイプ・オブ・ウォーター』17:30~と2本立て上映。

※『シェイプ・オブ・ウォーター』は再々見。2018年3月6日、立川シネマシティで初見(本ブログ〈March 18, 2018〉)。同年4月17日、吉祥寺オデヲンで再見(本ブログ〈April 23,2018〉)。

本作は同年2月11日、吉祥寺オデヲンで初見(本ブログ〈February 18, 2018〉)。

Three Billboards Outside Ebbing, Missouri
「スリー・ビルボード」
≪THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI is a darkly comic drama from Academy Award nominee Martin McDonagh (In Bruges). After months have passed without a culprit in her daughter's murder case, Mildred Hayes (Academy Award winner Frances McDormand) makes a bold move, painting three signs leading into her town with a controversial message directed at William Willoughby (Academy Award nominee Woody Harrelson), the town's revered chief of police. When his second-in-command Officer Dixon (Academy Award winner Sam Rockwell), an immature mother's boy with a penchant for violence, gets involved, the battle between Mildred and Ebbing's law enforcement is only exacerbated.≫(IMDb ‐ “Three Billboards Outside Ebbing, Missouri(2017)” Storyline)

THREE BILLBOARDS
※町外れの道路に立ち並ぶ3枚組の巨大広告板に、ある日突然現われたメッセージ(シンプルな文字だけの広告) :
“RAPED WHILE DYING”|“AND STILL NO ARRESTS?”|“HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY? ”
 

▼『スリー・ビルボード』Opening Scene :
【ミルドレッド・ヘイズによる“3枚の巨大広告看板(スリー・ビルボード)”の設置→パトロール中のジェイソン・ディクソン巡査による「スリー・ビルボード」の発見→ディクソン巡査から「スリー・ビルボード」の報告を受けるビル・ウィロビー署長】

≪Mildred Hayes (Frances McDormand) drives down Drinkwater Road near her town as she passes by three vacant billboards. She goes to an advertising agency to speak to Red Welby (Caleb Landry Jones) about putting up three billboards for a year. Red determines Mildred is the mother of Angela Hayes (Kathryn Newton), who was raped and murdered seven months earlier.
Officer Jason Dixon (Sam Rockwell) is driving down Drinkwater Road when he sees two young men putting up the first billboard that reads "How come, Chief Willoughby?" He talks to a guy named Jerome (Darrell Britt-Gibson), who isn't fond of Dixon due to his reputation of harassing African-American citizens. Dixon passes the second billboard that says "And still no arrests?" He goes to read the last billboard (technically first to read), which says "Raped while dying". Dixon calls Chief Bill Willoughby (Woody Harrelson) as he's having dinner with his wife Anne (Abbie Cornish) and daughters Polly (Riyah May Atwood) and Jane (Selah Atwood) to inform him about the billboards.≫(IMDb ‐ “Three Billboards Outside Ebbing, Missouri(2017)” Plot Synopsis)

◆マーティン・マクドノー監督(Martin McDonagh、1970~) インタビュー(MOVIE Collection:「アメリカの今」を描いたイギリス人監督-2018/02/02) :
──マクドノー監督はダーク・コメディに定評がありますが、『スリー・ビルボード』は今までで最もダークな作品でしょうか。
監督:最も悲しい映画です。戯曲では同じくらいに悲しい作品がありますがそれとは違いがあります。主人公は女性ですし、娘に起きた事件はあまりに過酷です。そんな悲劇として物語は始まり、見る人は、これは笑いごとではないなと察知します。一方で、ところどころにユーモアがある悲劇にいつもなってしまいます。私の好みなのです。
撮影中は誰もが映画のテーマに忠実でなくてはなりませんでした。笑いを撮ることが目的ではありません。悲劇がテーマです。特にフランシスの役柄に関しては、彼女の戦いを讃えることがテーマです。撮影自体は殺伐としたものでも、気が滅入るようなものでもありませんでした。その正反対です。最高に楽しい撮影でした。しかし、能天気なお笑いだけにならないようにといつも心がけていました。

──あなたは、役者を道具のようには扱わない監督ですが、どのように撮影を進めているのですか?
監督:私はその役者が好きで起用していますので、次々に入れ替わる大道具のように役者を扱うことはありえません。最高の役者に出てもらっていますから、いつも意見を出し合います。自分の考えを、私の場合は主に脚本に込めて役者に知ってもらい、あとは彼らの考えにまかせます。良い役者の邪魔にならないようにする、良い脚本を書く。それが監督の仕事の要点だと思います。

──元々は舞台の戯曲を書かれていましたね。映画監督としてのほうが、やりたいことがやれるのでしょうか?
監督:はい、今回は特にそうでした。過去3作で一番楽しい撮影でした。なんといっても出資者の方々が自由に撮らせてくれたからです。ひとことの注文もありませんでした。こんなことは今までに一度もありませんでした。ですから、映画の重いテーマに反し、本当に楽に仕事ができました。撮影監督も前作と同じでしたし、メインの助監督も同じでした。この駆け出し3人組もスムーズに行った理由です。役者の方も、8人は(過去の監督作)『ヒットマンズ・レクイエム』、『セブン・サイコパス』または私の舞台に出演した方々です。このささやかなマクドナー組を大事にしながら今後も映画を撮っていきたいと思います。

──映画のタイトルに使われているミズーリ州エビングは架空の町で、あなたの戯曲の多くはアイルランドの地名から名前をとっていますね。
監督:どの作品でも、舞台は絶対に特長のある町にしようとしています。『スリー・ビルボード』ではぴったりくる小さな町を何年も探しました。看板がかかっている道路もイメージに合うまで探し続けました。撮影の2年も前からニューメキシコやコロラドの道路地図に目を光らせていました。「税金で有利なところにしぼりましょう。」ということになり、その結果、ミシシッピ、オハイオ、ノースカロライナを探しました。
ノースカロライナにすごく良い小さな町を見つけました。完璧でした。いくつかのポイントがありました。脚本には2分の長回しシーンが良く出てきますので、それがかなう点がその町に決めた大きな理由でした。端から端まで歩けるくらいのメインストリートがあり、町役場への階段があり、向いには警察がある、そんな場所が欲しかったのです。視覚的な特徴があり、美しくて、訪ねて行きたくなるような所です。

──フランシスが演じる主人公、ミルドレッドの家も見つけたそうですね。しかも看板が立つ道が見える場所に。
監督:最初はグリーンバックで合成しなくてはいけないかもと心配していました。道路が見つかり、今度はその道路を見下ろせる家を一軒ずつ訪ねて回りました。そしてついに見つけました。低所得層の家で、同時に見晴らしの良い場所でなくてはなりませんでした。そんな町があったのがノースカロライナのブラックマウンテンです。道路の行き止まりには大きな石切場もありました。スタッフは、見栄えが悪い、気味が悪いといやがりましたが私はすばらしいと思いました。とても印象的で、他にはない雰囲気を放っていました。寂しい道のそばの丘というだけでは出ない雰囲気です。

■私感 :
本作には芸達者な俳優たちがキャスティングされている。
ここでは私個人の映画鑑賞歴に関わって、特にフランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェルの3人の俳優に注目する。
丸レッドレイプ事件の被害者の母親ミルドレッド・ヘイズ(Mildred Hayes)を演じた、シカゴ出身のアメリカ人女優フランシス・マクドーマンド(Frances McDormand、1957~)。
彼女は2018年までに各国映画賞やテレビ関連の賞などを含めるとノミネートだけでも160以上、受賞した賞は何と80を超える!アカデミー賞では、『ファーゴ』(1996年)と本作(2017年)で2回主演女優賞を受賞し、『ミシシッピー・バーニング』(1988年)、『あの頃ペニー・レインと』(2000年)、『スタンドアップ』(2005年)で3回助演女優賞にノミネートされている。
私はこの演技派女優の出演作品を、これまで何作ほど鑑賞しただろうか。どうやら1990年代以降、彼女の出演作をいろいろ観てきたように思う。
ざっと見たところ、『ダークマン』(1990年)→『夢の降る街』(1991年)→『真実の行方』(1996年)→『ファーゴ』→『あの頃ペニー・レインと』→『容疑者』(2002年)→『恋愛適齢期』(2003年)→『イーオン・フラックス』(2005年)→『スタンドアップ』→『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』(2011年)→『ムーンライズ・キングダム』(2012年)→『プロミスト・ランド』(2012年)の12作。
しかし、これらの作品を観たとはいえ、そこではなぜか彼女の存在を否応なしに印象づける作品との出会いはほとんど無かった。例えば、『イーオン・フラックス』と『スタンドアップ』は私の好きな作品だが、今なお両作についてシャーリーズ・セロンの主演ぶりをはっきり記憶していても、マクドーマンドの助演ぶりは時とともに忘れゆき、今は全く記憶にないといった有り様だ。
問題は彼女の面貌が私好みではないことに起因するのか、これまで結果として彼女の俳優としての役柄はもとより、彼女の存在自体が私の記憶の外に追いやられたことは間違いない。
ただし、唯一の例外がある。コーエン兄弟が監督・脚本・製作を手がけ、兄弟[ジョエル・コーエン(Joel Coen、1954~)とイーサン・コーエン(Ethan Coen、1957~)]の名を世に知らしめた代表作『ファーゴ』(原題:Fargo)だ。アメリカ中西部の田舎町(ノースダコタ州の都市ファーゴとその周辺)を舞台に、偽装誘拐事件の顛末を奇妙な人間模様で描く異色の~おかしくも恐ろしくて悲しい~クライム・サスペンス。ここでマクドーマンドが演じた、妊娠中ながら凶悪犯を追う警察署長マージ・ガンダーソン。それは確かに勇ましい、私にとって印象深いキャラクターだった。【ちなみに、コーエン兄弟監督作と言えば、私はいの一番に『ノーカントリー』(2007年)~第80回アカデミー賞で8部門にノミネートされ、作品賞・監督賞・助演男優賞・脚色賞の計4冠を受賞~を思い起こす!cf. 本ブログ〈July 26, 2017〉】

マクドーマンドは~私好みのタイプの女優か否かはともかく~、揺るぎない優れた演技力の持ち主である。
本作では、ジャンプスーツとバンダナという“戦闘服”に身を包み、全方位に尽きることのない怒りのエネルギーを放射し続けるミルドレッドを決然と演じ切る。爽快なほどのブラックユーモアをちりばめ口撃する一方で、愛娘を守れなかった悲しみと後悔を表現するなど、感情の芯を掴んだ演技で観る者の心を捉える。言葉を発せずとも表情だけで伝える演技、否、佇まいが物語る演技が素晴らしい!

▼ cf. 『ファーゴ』予告編 / ENDING :



丸ブルー地元警察のビル・ウィロビー署長(Chief Bill Willoughby)に扮したのは、米国テキサス州ミッドランド生まれの俳優ウディ・ハレルソン(Woody Harrelson、1961~)。
彼はアカデミー賞には、3回~『ラリー・フリント』(1996年)で主演男優賞、『メッセンジャー』(2009年)と本作(2017年)で助演男優賞~のノミネート歴を誇る。
ハレルソンの出演作で私が初めて接した作品は、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(原題:Natural Born Killers、1994年)だった。
同作は若い殺人狂カップル、ミッキー&マロリーの逃避行を描いたラブ・バイオレンス映画。欧米各国で年齢制限公開や上映禁止となったことも話題を呼んだ。暴力そのものの描写は極めてあっさりとしており、殺人や暴力を娯楽として消費していく現代アメリカ社会及びメディアに対する痛烈な諷刺に主題が置かれている。35mmから粒子の粗い16mmフィルム、さらにVTR映像へ。カラーからモノクロへ、またはその逆。スクリーンプロセスやアニメーション合成、実際のニュース映像、映画やテレビ作品の断片の唐突な挿入など、夥しいイメージショットで目まぐるしく変転する凝った映像と編集が特徴的。監督は『プラトーン』『7月4日に生まれて』『JFK』のオリバー・ストーン(Oliver Stone、1946~)。
この狂気に満ちた衝撃の問題作で、ハレルソンは主役のバイオレンス男ミッキーを熱演し、映画界に一躍頭角を現わす。同作以後、彼はアウトローや社会から追放された人を~危険な男だけでなく間抜けな男も~演じることが多くなり、存在感が強い、どこかサイコパス的な雰囲気を醸す、個性的な演技に一層磨きをかけていく―。
私は『ナチュラル・ボーン・キラーズ』をきっかけにして、ハレルソンの出演作を相当数観てきた。記憶をたどって、ざっと数えても、以下の28作に上る。
『マネー・トレイン』(1995年)→『心の指紋』(1996年)→『キングピン/ストライクへの道』(1996年)→『ラリー・フリント』(1996年)→『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』(1997年)→『シン・レッド・ライン』(1998年)→『マイ スウィート ガイズ』(1999年)→『N.Y.式ハッピー・セラピー 』(2003年)→『ダイヤモンド・イン・パラダイス』(2004年)→『スタンドアップ』(2005年)→『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(2006年)→『ノーカントリー』(2007年)→『俺たちダンクシューター』(2008年)→『7つの贈り物』(2008年)→『メッセンジャー』(2009年)→『ゾンビランド』(2009年)→『2012』(2009年)→『ステイ・フレンズ』(2011年)→『ハンガー・ゲーム』(2012年)→『セブン・サイコパス』(2012年)→『グランド・イリュージョン』(2013年)→『ファーナス/訣別の朝』(2013年)→『ハンガー・ゲーム2』(2013年)→『ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス』(2014年)→『ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション』(2015年)→『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』(2016年)→『スウィート17モンスター』(2016年)→『猿の惑星:聖戦記』(2017年)。
この20年余り、私にとって数々の映画シーンで目に映るハレルソンは、好き嫌いはともかく、妙に何かと気にかかる存在でありつづけた。そして今や、私はありありと認識するにいたった。彼は、爆笑コメディからシリアスなドラマまで、どんな役柄でも彼独特の色で染めることができる実力派俳優として、私好みの何とも魅力的な、押しも押されもせぬ大きい存在である、と。

本作で、エビング警察署長のウィロビー役を演じたハレルソンは、光彩陸離の輝きに満ちている。
ウィロビー署長はレイプ事件の捜査がなかなか進まないため、ミルドレッドによる広告看板で名指しで批判されてしまう。町の住民や仕事仲間に尊敬されている人物だが、実は末期の膵臓癌を患って余命いくばくもなく、人生の終止符の打ち方に悩んでいる…。この物寂しい陰鬱な状況下にあるウィロビーというキャラクターに、ハレルソンは生き生きとした生気を吹き込み、ユーモアや誠実や良心的なところをもたらすことで、品位のある凛とした、私の目を奪う“ウィロビー⇒ハレルソン”像を創り上げた。

▼ cf. 『ナチュラル・ボーン・キラーズ』Official Trailer / Diner Scene / Drugstore Scene / Ending :





▼『スリー・ビルボード』Suicide Scene :
【ウィロビー⇒ハレルソンは、末期癌で深刻度を深めるなか、突然吐血して救急搬送され入院する。死期の近いことを覚悟した彼は、退院後に家族(美しく聡明な妻と可愛い2人の娘)とピクニックに出かけ、心置きなく幸せな1日を楽しんだその夜、自裁して果てた。何という衝撃的なシーン!妻と子供が眠りに就くのを確認して後、彼は馬小屋へ行き、覆面をかぶった頭に拳銃をあて自殺したのだった。】


四角グリーン ウィロビー署長の部下、ジェイソン・ディクソン巡査(Officer Jason Dixon)を演じたのは、米国カリフォルニア州デイリーシティ生まれの俳優サム・ロックウェル(Sam Rockwell、1968~)。彼は愚直で孤独なトラブルメーカーのディクソン巡査役で強いインパクトを放っている。

ディクソン巡査はレイシストでキレやすく暴力的。自身と同じレイシストの母との二人暮らしで、マザコン。ウィロビー署長を英雄視し、常日頃彼に認められたいと思っている。署長が自殺したあと、ディクソンは怒り狂って広告会社の若いオーナー、レッドを殴打した上に窓から放り出し、事務員の女性にも顔面パンチを放つ―。実はディクソンの場合、根本的に問題なのは、自らのセクシャリティーがゲイであるという秘密を抱えて、周囲に理解されず苦悩していること。ゲイであることが許されない保守的な土地に育った彼は、自分のセクシャリティーを受け入れられず、弱き者たちに当たり散らしていた。また、ウィロビーに対して報われない愛を抱いていた。そんな彼がもがき苦しみつつ、劇的に“変わる”ことができたのは、ウィロビー署長がディクソンに遺した手紙(遺書)をきっかけとする。そこには、「もしゲイだと言われたら、同性愛差別で逮捕しろ」とディクソンを根源から理解してくれたウィロビーによる、「最も大切なのは、憎しみではなく、愛だ。苛立たず、恨みを抱かず、本物の愛ある立派な警官に成長してほしい」旨の珠玉の言葉が書き残されていた。

ロックウェルという個性派俳優は、入魂の演技で、このエビング警察署の問題児であるディクソンという難役を目一杯こなしている。そこでは、悪名高い暴力警官ながら、どこか飄々として悪人になりきれない人間臭い“ディクソン⇒ロックウェル”が生き生きと躍動している。

キラキラ 「映画芸術科学アカデミー(AMPAS)」は2018年1月23日(現地時間)、「第90回アカデミー賞」の各部門のノミネート一覧を発表。助演男優賞(Academy Award for Best Supporting Actor)部門では、次の5人がノミネートされた。
○ウィレム・デフォー(Willem Dafoe、1955~)(『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(原題:The Florida Project、ショーン・ベイカー監督) - ボビー・ヒックス役):
アメリカ・ウィスコンシン州出身の俳優。ニューヨークを拠点とする前衛演劇集団のメンバーとして活躍。映画の最初の劇場公開作となったのは、1981年の『ラブレス』。1986年の『プラトーン』で注目され、1988年の『最後の誘惑』『ミシシッピー・バーニング』などの社会派から、『スピード2』(1997年)の悪役や『スパイダーマン』シリーズなどのハリウッド大作でも個性を発揮する性格俳優に。アカデミー賞では、『プラトーン』、『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(2000年)に続く助演男優賞で今回3度目のノミネート。

○ウディ・ハレルソン(『スリー・ビルボード』 - ビル・ウィロビー署長役):
アメリカ・テキサス州出身の俳優。舞台で俳優としてのキャリアをスタート。1985年から人気テレビシリーズ『チアーズ(原題)/Cheers』にレギュラー出演。1986年の『ワイルドキャッツ』で映画デビューを果たし、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994年)の主演で知名度を得た。エキセントリックな役からコミカルな役まで幅広くこなし、『ラリー・フリント』(1996年)でアカデミー賞主演男優賞にノミネート。『メッセンジャー』(2009年)での助演男優賞候補に続いて、今回2度目の同賞候補。

○リチャード・ジェンキンス(Richard Jenkins、1947~)(『シェイプ・オブ・ウォーター』 - ジャイルズ役):
アメリカ・イリノイ州出身の俳優。トリニティ・レパートリー・カンパニーで俳優、芸術監督としてキャリアを積む。1974年にテレビドラマ初出演、1985年の『シルバラード』で映画デビュー。以後、『ハンナとその姉妹』(1986年)、『アメリカの災難』(1996年)など多くの映画やテレビドラマに出演し、名バイプレーヤーとして演技力には定評がある。賞とは縁遠い時期が続いたが、『扉をたたく人』(2007年)で初のアカデミー賞主演男優賞にノミネート。今回は初の助演男優賞候補。

○クリストファー・プラマー(Christopher Plummer、1929~)(『ゲティ家の身代金』(原題:All the Money in the World、リドリー・スコット監督) - ジャン・ポール・ゲティ役):
カナダ・オンタリオ州出身の俳優。1950年代から舞台で活躍し、世界各地でシェイクスピアなど多くの舞台に出演。トニー賞ではミュージカルと演劇で2度の受賞歴を持つ演技派として知られる。映画は、名作『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年)のトラップ大佐役で一躍有名になり、以後は数多くの作品に出演。アカデミー賞では、『終着駅 トルストイ最後の旅』(2009年)で助演男優賞にノミネートされ、『人生はビギナーズ』(2010年)で、演技部門としては史上最高齢の82歳で助演男優賞を受賞。今回ケヴィン・スペイシーの代役として急遽再撮影した『ゲティ家の身代金』にて助演男優賞に88歳でノミネートされ、演技部門での最年長ノミネート記録を更新した。

○サム・ロックウェル(『スリー・ビルボード』 - ジェイソン・ディクソン巡査役):
アメリカ・カリフォルニア州出身の俳優。1989年に低予算ホラー『マニアック1990』で映画デビュー。以後、『グリーンマイル』(1999年)や『チャーリーズ・エンジェル』(2000年)などで一癖ある個性を発揮して印象を残す。ジョージ・クルーニーの監督デビュー作『コンフェッション』(2002年)ではベルリン国際映画祭の銀熊賞(男優賞)を受賞。『スリー・ビルボード』の監督マーティン・マクドナー作品では、戯曲や『セブン・サイコパス』(2012年)に出演する常連で、今回はアカデミー賞初ノミネート。

キラキラ Academy Award nomineeである当の5人。
私にとってクリストファー・プラマー(cf.本ブログ〈November 29, 2016〉)、ウィレム・デフォー(cf.本ブログ〈January 10, 2018〉)、リチャード・ジェンキンス(cf.本ブログ〈April 23, 2018〉)、ウディ・ハレルソンの4人は、(本ブログでも何らかの形で言及したように)これまで数々の出演作を享受して久しい馴染みの名優であり続けたが、サム・ロックウェルだけは(『スリー・ビルボード』鑑賞時以前まで)全くといっていいくらい不案内な俳優だった。

私が今までに観たロックウェルの出演作品は、何作を数えるだろうか。改めて心もとない記憶をたどると、次の10作が何とか私の頭に思い浮かぶ。
『バスキア』(1996年)→『セレブリティ』(1998年)→『真夏の夜の夢』(1999年)→『チャーリーズ・エンジェル』(2000年)→『ザ・プロフェッショナル』(2001年)→『銀河ヒッチハイク・ガイド』(2005年)→『ジェシー・ジェームズの暗殺』(2007年)→『フロスト×ニクソン』(2008年)→『アイアンマン2』(2010年)→『カウボーイ & エイリアン』(2011年)…。

実は、この10作を観たとはいえ、どの作品の場合でも、私はサム・ロックウェルという俳優に大して関心も湧かず、時の過ぎゆくままにその存在・名前を記憶の底深く沈めていったように思う。もっとも、時に何か偶然が重なり、そう言えば、あの映画に悪役orスキャンダラスな役?の脇役として出演していた俳優、ロックウェルなんとかいう男だったか、といった程度の思いが私の頭の隅をすっと掠めることはあったが…。
私の関心対象はもっぱらロックウェル以外の俳優であり、当時の記憶を思い起こせば、
『バスキア』ではベニチオ・デル・トロ(Benicio del Toro、1967~)、デニス・ホッパー(Dennis Hopper、1936~2010)に、
『セレブリティ』ではケネス・ブラナー(Kenneth Branagh、1960~)、シャーリーズ・セロン(Charlize Theron、1975~)、レオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio、1974~)、ウィノナ・ライダー(Winona Ryder、1971~)に、
『真夏の夜の夢』ではミシェル・ファイファー(Michelle Pfeiffer、1958~)、ケヴィン・クライン(Kevin Kline、1947~)に、
『チャーリーズ・エンジェル』ではキャメロン・ディアス(Cameron Diaz、1972~)、ドリュー・バリモア(Drew Barrymore、1975~)、ルーシー・リュー(Lucy Liu、1968~)に、
『ザ・プロフェッショナル』ではジーン・ハックマン(Gene Hackman、1930~)に、
『銀河ヒッチハイク・ガイド』ではモス・デフ(Mos Def、1973~)、ビル・ナイ(Bill Nighy、1949~)、ジョン・マルコヴィッチ(John Malkovich、1953~)に、
『ジェシー・ジェームズの暗殺』ではブラッド・ピット(Brad Pitt、1963~)、ケイシー・アフレック(Casey Affleck、1975~)に、
『フロスト×ニクソン』ではフランク・ランジェラ(Frank Langella、1938~)、マイケル・シーン(Michael Sheen、1969~)に、
『アイアンマン2』ではロバート・ダウニー・Jr.(Robert Downey Jr.、1965~)、ミッキー・ローク(Mickey Rourke、1952~)、サミュエル・L・ジャクソン(Samuel L. Jackson、1948~)、スカーレット・ヨハンソン(Scarlett Johansson、1984~)に、
『カウボーイ & エイリアン』ではダニエル・クレイグ(Daniel Craig、1968~)、ハリソン・フォード(Harrison Ford、1942~)に、
それぞれロックウェルよりもはるかに格別の興味・関心を抱いたものだった。

ひらめき電球 第90回アカデミー賞助演男優賞nominee5人の発表当日(2018年1月23日)、私は何げなしに予想した。
今回受賞の栄に浴するのは、クリストファー・プラマー(88歳)、リチャード・ジェンキンス(70歳)、ウィレム・デフォー(62歳)、ウディ・ハレルソン(56歳)のベテラン俳優4人の中の一人だろう。この4人はなべて、長いキャリアを積んで円熟し、人生の波風を経た渋い格好よさがある。その四者間の優劣をにわかにつけ難いにしても、彼ら4人は少なくともアカデミー賞に今回初ノミネートの「若い」~何となくチャラくてキレキレ感が強い~サム・ロックウェル(49歳)よりは断然優勢である…。

サーチ やがて2月11日、私は『スリー・ビルボード』(日本公開:2018年2月1日)を鑑賞(初見)。
ウディ・ハレルソンは相変わらず良かった!彼を観るのは、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(日本公開:2017年10月13日 本ブログ〈October 28, 2017〉)以来約3か月半ぶりだが、いつもながらのリアルな存在感に魅せられた!苦境に立たされながらもミルドレッド、ディクソンそれぞれを案じるウィロビー警察署長の懐の深さを抑制のきいた演技で表現して、観る者の五体を痺れさせずにいないハレルソンではあった―。
そして予想外に、サム・ロックウェルが冴えた巧妙な演技を見せていた。『カウボーイ & エイリアン』(日本公開:2011年10月22日)以来約6年3か月ぶりに出会ったロックウェルだったが、彼の登場する映画シーンの数々がはっきりと彼が卓越した演技力の持ち主であることを証(あか)していた。絵に描いたような愚か者ディクソンの思いがけない変貌を演じて、観る者の心を揺さぶらずにいないロックウェルではあった―。
『スリー・ビルボード』でアカデミー賞助演男優賞の異例のWノミネートとなったハレルソンとロックウェル。最終的に受賞を競うのは、この2人なのだろうか…。ハレルソン対ロックウェルの場合、実際上AMPAS会員がどちらに軍配を上げるかは予断を許さないものの、私個人としてはロックウェルに対する評価が以前より上がったにしろ、やはり彼より数段好感の持てるタイプの俳優ハレルソンを陰ながら応援したいところではある…。

クラッカー 第90回アカデミー賞授賞式が2018年3月4日(現地時間)、米国カリフォルニア州ロサンゼルス市ハリウッドのドルビー・シアターで開催された。
助演男優賞のオスカー像は、Sam Rockwelの手に渡った。ロックウェルは初ノミネートにして初受賞。

▼ cf. Sam Rockwell wins Academy Award for Best Supporting Actor :


宝石紫 2018年3月6日、私は『シェイプ・オブ・ウォーター』(日本公開:2018年3月1日)を鑑賞(初見)。
2017年6月8日に『キングコング:髑髏島の巨神』(日本公開:2017年3月25日 本ブログ〈June 10, 2017〉)を鑑賞して以来、約9か月ぶりにリチャード・ジェンキンスと出会う。その味のある燻(いぶ)し銀の芸は見事だった!私は終始、その堪(こた)えられない人間的な魅力に吸い寄せられつづけた。第90回アカデミー賞受賞は逃したものの、彼はオスカーを手にしてしかるべきACTOR IN A SUPPORTING ROLEだったと、つくづく心底から痛感!

私は2018年7月1日現在、件(くだん)の助演男優賞にノミネートされた5人のうち、ウィレム・デフォーとクリストファー・プラマの、それぞれの対象作品『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』と『ゲティ家の身代金』をいまだ鑑賞していない。それゆえ、本来ならば、私はその5 Oscar nomineesからのOscar winnerの選出問題について、それが私の大きな関心事だとしても、とやかく論判できる資格を有するものではない。根本的に重要なのは、各nomineeの対象作品に即してその出来栄え~真に受賞に値するか~を品定めすること。配慮すべきは、いたずらにnomineeの昔の実績~積年の過去作~にとらわれた判断を避けること。

割り箸 現時点では、私は『スリー・ビルボード』を2回鑑賞、そして『シェイプ・オブ・ウォーター』を3回鑑賞。
ウディ・ハレルソンとサム・ロックウェル、そしてリチャード・ジェンキンスの三者に関する私なりの比較検討の結果、“Actor in a Supporting Role”としての価値的順位は、第一位がリチャード・ジェンキンス、第二位がウディ・ハレルソン、第三位がサム・ロックウェル、である―。
2018年6月19日(火)ポレポレ東中野(東京都中野区東中野4-4-1 ポレポレ坐ビル地下、JR東中野駅西口北側出口より徒歩1分)で、21:20~鑑賞。

「ラッカは静かに虐殺されている」⑴

作品データ :
原題 CITY OF GHOSTS
製作年 2017年
製作国 アメリカ
配給 アップリンク
上映時間 92分


5年間での死亡者が47万人にものぼる戦後史上最悪の人道危機と言われるシリア内戦に肉薄したドキュメンタリー。監督は、第88回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた『カルテル・ランド』のマシュー・ハイネマン。製作総指揮は、第80回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞受賞作『「闇」へ』監督のアレックス・ギブニー。

ストーリー :
2011年、一連の“アラブの春”の一つとして始まったシリアでの民主化を求めるデモは、次第に過激な反政府デモへと発展、武力鎮圧に乗り出したアサド政権との間で激しい内戦が勃発する。やがて2014年6月、その混乱に乗じて、過激思想と武力で勢力を拡大するイスラム国(IS)が、シリア北部の街ラッカを制圧する。かつて「ユーフラテス川の花嫁」と呼ばれるほど美しかった街は、ISの首都とされ一変する。爆撃で廃墟と化した街では残忍な公開処刑が日夜繰り返され、市民は常に死の恐怖と隣り合わせの生活を強いられる。そんな惨状を海外メディアも報じることができないなか、匿名の市民ジャーナリスト集団“RBSS”(Raqqa is Being Slaughtered Silently/「ラッカは静かに虐殺されている」)が秘密裏に結成される。彼らはスマホを武器に街の実態を次々とSNSに投稿、その衝撃的な映像に世界が騒然となる。ISはRBSSの発信力に脅威を感じ、メンバーの暗殺計画に乗り出す…。

▼予告編



◆RBSSメンバーのハッサン(Hussam Eesa)がSkype中継でインタビュー(ムビッチ/ニュース - 2018年4月11日) :
【本作先行上映トークイベント(会場:早稲田大学、開催日:2018年4月6日)―大学生とハッサンによるQ&A】
Q:RBSSのメンバーは映画の中でISから殺害予告などの脅迫を受け、トルコやドイツなどの国外にいても常に命を狙われています。そういったリスクを背負いながら実名と顔を公表して活動をされていますが、メンバーの中から顔と名前を公表することについて反対する意見はありましたか?
ハッサン:RBSSの中から特に大きな反対意見はあがりませんでした。活動当初はアラビア語で情報を発信していたのですが、国際社会・世界にIS支配下のラッカの悲惨な状況を伝えるためには何が必要かと議論する中で、英語で情報を発信することや、フェイクニュースではないか?ISの活動の一つではないか?という外から聞こえる声を打開するためにシリアから出て活動をするメンバーが顔と実名を公表するという結論に至ったのです。ただ、顔と実名を明らかにすることは、公表したメンバーの命だけではなく、ラッカの中に残っている家族の命が狙われるという大きなリスクを伴うものです。実際に映画の中でも映像が出ていますが、ISはRBSSのメンバーのハムードの父親を拘束・殺害し、後にその映像を公開しています。更に彼の兄弟の一人も殺害され、もう一人は行方不明になっています。これが、実名と顔を公表しての活動をするうえでの一番のたいへん大きな悩みです。

Q:RBSSの活動をやめればISから命を狙われる危険性はなくなると思われますが、活動をやめない理由を教えてください。
ハッサン:活動をやめれば命が狙われないという事はありません。ISはRBSSがISについての報道を始めた2014年の春、メンバーの一人を誘拐・殺害しました。そこから現在に至るまでわたしたちRBSSのメンバーの命を狙いつづけています。そして、米軍・有志連合の空爆援護を受けたクルド人主導のシリア民主軍(SDF)がラッカを陥落し、いわば彼らに敗北したISの復讐の矛先は、わたしたち(RBSS)のような弱い集団に向かっているのです。

Q:SNSの発信に対する反応で印象に残っているものがあったら教えてください。
ハッサン:印象に残っている反応のひとつは、ISに入った兵士のお母さんとのやり取りです。「家庭の中にISに通じるような背景が全くないのに、自分の息子がなぜISに洗脳されてしまったのか分からないけれども、おそらく息子が人を殺してしまったかもしれない」と泣きながら感情的に謝罪してきました。彼女とのやり取りが非常に印象に残っています。

Q:RBSSの情報を受け取った日本人に何を望みますか?
ハッサン:とても簡単なことです。ISの思想との闘いに参加してほしいと思っています。ISの思想との闘いは私たちシリア人だけの問題ではなく、全人類の問題です。シリア人もあなたたち日本人も同じ人間なのです。私たちは、見ていただいたように、ひどく残酷な状況の中で活動することができました。あなたたちには私達よりもっとたくさん行動する手段があると思います。例えば私たちのようなジャーナリスト団体と交流するなど、日本社会の中でも、一人一人の人間を大切にしない思想と戦うことが大事だと思います。

Q:RBSSの目指すゴール、何が終焉なのか教えてください。
ハッサン:私たちの活動の目的はシリアという国家の民主化です。RBSSの活動の原点はシリア革命にあります。2011年の春、ラッカではアサド政権の退陣を求める市民デモがはじまり、アサド政権は軍・治安部隊を出動させてデモ隊を弾圧したのです。わたしたちはアサド政権及びシリア政府による弾圧に抵抗し「自由と民主主義」のために活動をはじめたのです。現在も「自由と民主主義」という目的に変わりはありません。ISがラッカに入ったときも、たしかにISのやり方は宗教に忠誠的であるなど手段は独特でしたが、アクターが独裁政権からISに変わっただけで、町が破壊されているという事に変わりはありませんでした。私たちにとってラッカは家族がいる町ですから、その町を守るという事については何も違いがないのです。

Q:シリアの現状と展望を教えてください。
ハッサン:皆さんご存知の通り、たくさんの国が介入しているため、第三次世界大戦のような状況です。シリアの内戦は代理戦争であるため、たくさんの国家が参加しており、複雑な状況です。そのため、すぐに解決するとは思いません。現在の段階では希望が見えません。2017年10月に米軍・有志連合の空爆援護を受けたクルド人主導のシリア民主軍(SDF)がラッカを陥落させISが撤退しましたが、現在のラッカは市民に主食のパンが潤沢にいきわたらなかったり、ISが残した地雷による二次被害が多発、また瓦礫の中に埋まっている死体が腐敗し感染症が蔓延するなど衛生状況は劣悪な環境にあります。また暗殺も続いていて、この暗殺が誰による暗殺なのか分からず、人々は誰に監視されているのか不安な状況で生活しています。また、教育も大きな問題です。ISに占拠されていた間、彼らはまともな教育を受けていないのです。ですから、私たちは現在、若手講師の教育プロジェクトなどの形でラッカのコミュニティを支援する手段を考えています。

※Hussam Eesa:「(本作)撮影当時27歳、RBSSの共同創設者の一人。グループの活動に加わる前はダマスカス大学のロー・スクールに通っていたが、アサド政権が革命に参加した大学生を逮捕し始めたため、大学を中退して故郷のラッカに戻り、RBSS設立に協力した。ラッカ市内で記事を書き、密かにISの処刑を撮影していて一度捕まったが、暗号化されたスマホの中の映像が見つからなかったおかげで釈放された。仲間の共同創設者たちと一緒にラッカを出ざるをえなくなり、今は亡命先のドイツで、アサド政権とISの残虐行為に関する記事を、RBSSのサイトやSNS上で発表している。」(映画パンフ『ラッカは静かに虐殺されている』〈2018年4月14日発行/発行人:浅井隆/編集人:石井雅之/発行所:アップリンク〉7頁)