映画『ラッカは静かに虐殺されている』 | 普通人の映画体験―虚心な出会い

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私という普通の生活人は、ある一本の映画 とたまたま巡り合い、一回性の出会いを生きる。暗がりの中、ひととき何事かをその一本の映画作品と共有する。何事かを胸の内に響かせ、ひとときを終えて、明るい街に出、現実の暮らしに帰っていく…。

2018年6月19日(火)ポレポレ東中野(東京都中野区東中野4-4-1 ポレポレ坐ビル地下、JR東中野駅西口北側出口より徒歩1分)で、21:20~鑑賞。

「ラッカは静かに虐殺されている」⑴

作品データ
原題 CITY OF GHOSTS
製作年 2017年
製作国 アメリカ
配給 アップリンク
上映時間 92分


5年間での死亡者が47万人にものぼる戦後史上最悪の人道危機と言われるシリア内戦に肉薄したドキュメンタリー。監督は、第88回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた『カルテル・ランド』のマシュー・ハイネマン。製作総指揮は、第80回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞受賞作『「闇」へ』監督のアレックス・ギブニー。

ストーリー
2011年、一連の“アラブの春”の一つとして始まったシリアでの民主化を求めるデモは、次第に過激な反政府デモへと発展、武力鎮圧に乗り出したアサド政権との間で激しい内戦が勃発する。やがて2014年6月、その混乱に乗じて、過激思想と武力で勢力を拡大するイスラム国(IS)が、シリア北部の街ラッカを制圧する。かつて「ユーフラテス川の花嫁」と呼ばれるほど美しかった街は、ISの首都とされ一変する。爆撃で廃墟と化した街では残忍な公開処刑が日夜繰り返され、市民は常に死の恐怖と隣り合わせの生活を強いられる。そんな惨状を海外メディアも報じることができないなか、匿名の市民ジャーナリスト集団“RBSS”(Raqqa is Being Slaughtered Silently/「ラッカは静かに虐殺されている」)が秘密裏に結成される。彼らはスマホを武器に街の実態を次々とSNSに投稿、その衝撃的な映像に世界が騒然となる。ISはRBSSの発信力に脅威を感じ、メンバーの暗殺計画に乗り出す…。

▼予告編



RBSSメンバーのハッサン(Hussam Eesa)がSkype中継でインタビュームビッチ/ニュース - 2018年4月11日) :
【本作先行上映トークイベント(会場:早稲田大学、開催日:2018年4月6日)―大学生とハッサンによるQ&A】
Q:RBSSのメンバーは映画の中でISから殺害予告などの脅迫を受け、トルコやドイツなどの国外にいても常に命を狙われています。そういったリスクを背負いながら実名と顔を公表して活動をされていますが、メンバーの中から顔と名前を公表することについて反対する意見はありましたか?
ハッサン:RBSSの中から特に大きな反対意見はあがりませんでした。活動当初はアラビア語で情報を発信していたのですが、国際社会・世界にIS支配下のラッカの悲惨な状況を伝えるためには何が必要かと議論する中で、英語で情報を発信することや、フェイクニュースではないか?ISの活動の一つではないか?という外から聞こえる声を打開するためにシリアから出て活動をするメンバーが顔と実名を公表するという結論に至ったのです。ただ、顔と実名を明らかにすることは、公表したメンバーの命だけではなく、ラッカの中に残っている家族の命が狙われるという大きなリスクを伴うものです。実際に映画の中でも映像が出ていますが、ISはRBSSのメンバーのハムードの父親を拘束・殺害し、後にその映像を公開しています。更に彼の兄弟の一人も殺害され、もう一人は行方不明になっています。これが、実名と顔を公表しての活動をするうえでの一番のたいへん大きな悩みです。

Q:RBSSの活動をやめればISから命を狙われる危険性はなくなると思われますが、活動をやめない理由を教えてください。
ハッサン:活動をやめれば命が狙われないという事はありません。ISはRBSSがISについての報道を始めた2014年の春、メンバーの一人を誘拐・殺害しました。そこから現在に至るまでわたしたちRBSSのメンバーの命を狙いつづけています。そして、米軍・有志連合の空爆援護を受けたクルド人主導のシリア民主軍(SDF)がラッカを陥落し、いわば彼らに敗北したISの復讐の矛先は、わたしたち(RBSS)のような弱い集団に向かっているのです。

Q:SNSの発信に対する反応で印象に残っているものがあったら教えてください。
ハッサン:印象に残っている反応のひとつは、ISに入った兵士のお母さんとのやり取りです。「家庭の中にISに通じるような背景が全くないのに、自分の息子がなぜISに洗脳されてしまったのか分からないけれども、おそらく息子が人を殺してしまったかもしれない」と泣きながら感情的に謝罪してきました。彼女とのやり取りが非常に印象に残っています。

Q:RBSSの情報を受け取った日本人に何を望みますか?
ハッサン:とても簡単なことです。ISの思想との闘いに参加してほしいと思っています。ISの思想との闘いは私たちシリア人だけの問題ではなく、全人類の問題です。シリア人もあなたたち日本人も同じ人間なのです。私たちは、見ていただいたように、ひどく残酷な状況の中で活動することができました。あなたたちには私達よりもっとたくさん行動する手段があると思います。例えば私たちのようなジャーナリスト団体と交流するなど、日本社会の中でも、一人一人の人間を大切にしない思想と戦うことが大事だと思います。

Q:RBSSの目指すゴール、何が終焉なのか教えてください。
ハッサン:私たちの活動の目的はシリアという国家の民主化です。RBSSの活動の原点はシリア革命にあります。2011年の春、ラッカではアサド政権の退陣を求める市民デモがはじまり、アサド政権は軍・治安部隊を出動させてデモ隊を弾圧したのです。わたしたちはアサド政権及びシリア政府による弾圧に抵抗し「自由と民主主義」のために活動をはじめたのです。現在も「自由と民主主義」という目的に変わりはありません。ISがラッカに入ったときも、たしかにISのやり方は宗教に忠誠的であるなど手段は独特でしたが、アクターが独裁政権からISに変わっただけで、町が破壊されているという事に変わりはありませんでした。私たちにとってラッカは家族がいる町ですから、その町を守るという事については何も違いがないのです。

Q:シリアの現状と展望を教えてください。
ハッサン:皆さんご存知の通り、たくさんの国が介入しているため、第三次世界大戦のような状況です。シリアの内戦は代理戦争であるため、たくさんの国家が参加しており、複雑な状況です。そのため、すぐに解決するとは思いません。現在の段階では希望が見えません。2017年10月に米軍・有志連合の空爆援護を受けたクルド人主導のシリア民主軍(SDF)がラッカを陥落させISが撤退しましたが、現在のラッカは市民に主食のパンが潤沢にいきわたらなかったり、ISが残した地雷による二次被害が多発、また瓦礫の中に埋まっている死体が腐敗し感染症が蔓延するなど衛生状況は劣悪な環境にあります。また暗殺も続いていて、この暗殺が誰による暗殺なのか分からず、人々は誰に監視されているのか不安な状況で生活しています。また、教育も大きな問題です。ISに占拠されていた間、彼らはまともな教育を受けていないのです。ですから、私たちは現在、若手講師の教育プロジェクトなどの形でラッカのコミュニティを支援する手段を考えています。

Hussam Eesa「(本作)撮影当時27歳、RBSSの共同創設者の一人。グループの活動に加わる前はダマスカス大学のロー・スクールに通っていたが、アサド政権が革命に参加した大学生を逮捕し始めたため、大学を中退して故郷のラッカに戻り、RBSS設立に協力した。ラッカ市内で記事を書き、密かにISの処刑を撮影していて一度捕まったが、暗号化されたスマホの中の映像が見つからなかったおかげで釈放された。仲間の共同創設者たちと一緒にラッカを出ざるをえなくなり、今は亡命先のドイツで、アサド政権とISの残虐行為に関する記事を、RBSSのサイトやSNS上で発表している。」(映画パンフ『ラッカは静かに虐殺されている』〈2018年4月14日発行/発行人:浅井隆/編集人:石井雅之/発行所:アップリンク〉7頁)