
昨年 夏、日本でも公開された映画 『サマー・オブ・ソウル』。 概ね好評だったようです。一部に、“ハーレム・カルチュラル・フェスティヴァルの、コンサート部分だけを捉えた音楽ドキュメントとして映画化して欲しかった” と言う意見もあったようですが。
確かにあのライブ映像に関しては、イベントのハイライト映像とも言えるわけで。 にもかかわらず良かったがゆえの、“ライブをもっと見せてくれ!” と言う意見だとも思っています。 時代背景や当時のハーレムの様子を捉えた写真を織り込めば、あのイベントの意味がよくわかるわけで、個人的には映画作品としてはあれで良かったのでは、と思っています。
印象に残ったアーティスト、曲についてをいくつか記事にしましたが、ひとつ置き忘れてしまったアーティストがいました。 フィフス・ディメンションです。

Aquarious / Let The Sunshine In (1969)
邦題は 「輝く星座 ~ レット・ザ・サンシャイン・イン」。 1969年4月~6月、全米チャートで6週連続の1位をマークした、フィフス・ディメンションの代表曲のひとつです。ハーレム・カルチュラル・フェステイヴァルに出演し、この曲をライヴで披露した7月から8月にかけては、まさに人気絶頂にあったころです。
この曲は、デビュー曲の「ビートでジャンプ」と並ぶ有名な曲でもあるし、フィフス・デイメンションというグループについても知ってはいましたが、映画で初めてフィフス・ディメンションのライブ・アクトを観て、華のある素晴らしいグループであるということを認識しました。女性2人 男性3人による男女混合のボーカル・グループです。
この曲のエピソードについては映画でも語られています。 メンバーのビリー・デイヴィス・ジュニアは買い物に出かけたさい、タクシーに財布を忘れてしまったのですが、それを拾い連絡してきてくれた人がいて、それがミュージカル 『ヘアー』 のプロデューサーのひとりであったということ。 そしてそのことが縁でミュージカルのオープニング曲をレコーディングすることになったという、運命的とも言える驚きのエピソードを持った曲です。
宇宙的な広がりを持ったイントロ。 完成されたボーカル・ワークの素晴らしさが、メロディの持つ神秘性を際立たせていて、魅力的な演出になっていると思います。60年代的な愛とか平和とか自由とかを感じさせる曲だと思うのですが。そういった意味でも “ハーレム・カルチュラル・フェスティヴァル" にふさわしい曲だと。
(Last Night)I Didn't Get To Sleep At All (1972)
邦題は 「夢の消える夜」。1972年のヒット曲です。 ポップな音楽を志向するマリリン・マックーのボーカルが魅力となっています。 フィフ・デイメンションの曲の中で、個人的には最も好きな曲です。
これは映画の中でも語られていたことですが、ソウル・ミュージックがベースにあるとは言え、フィフス・ディメンションの音楽は黒っぽさをあまり感じさせない白人寄りのテイストであったため、黒人のコミュニティからは当時批判もあったそうです。「白人の曲をやる黒人グループ」 だと。 それゆえに、「ハーレム・カルチュアル・フェステイヴァル」 に参加して黒人たちにも受け入れられたい。同胞に自分たちを知ってほしい。そういった考えもあっての参加であったとのこと。
Wedding Bell Blues (1966)
グループ結成時のグループ名は Versatiles (多芸な、多才なの意)。 当初からジャンルは気にせずという、グループの志向が見えてくるようです。 ゴスペル、ジャズ、クラシック、ポップソング・・・実際 音楽性の幅は広く、 白人グループのようだと言われても、そこがこのグループの音楽の魅力だと思うのですが。
1966年リリースの 「ウエディング・ベル・ブルース」 は、グループとして初の全米No.1ヒット。 ニューヨークのシンガー・ソングライター、ローラ・ニーロの曲です。 他にも数曲、ローラ・ニーロの楽曲がレパートリーとしてあります。この曲を機に、マリリン・マックーとビリー・デイヴィス・ジュニアは結婚することとなります。そしてふたりは1975年にグループを脱退。 夫婦デュオとして活動することに。
MARILYN McCOO & BILLY DAVIS JR./ You Don't Have To Be A Star (1976)
邦題は 「星空のふたり」。1977年に全米で1位をマーク。当時、日本のラジオの洋楽番組でもよくオンエアされていた記憶があります。その人気ゆえか、同年の東京音楽祭に参加し、「The Two Of Us (ふたりの誓い) 」という曲でグランプリまで獲得しています。
東京音楽祭は、TBSが力を入れていたイベントで、フランク・シナトラを特別審査員に招いたりして、それなりに権威のあった音楽祭です。個人的にはこちらの「星空のふたり」 のほうが好きですが。
マリリン・マックーとビリー・デイヴィス・ジュニアのふたりは、『サマー・オブ・ソウル』 にも当時の映像を見ながらフェスティバルを回想する、といった形で出演しています。笑ったり涙ぐんだりしながら語るふたりの様子からは、現在も仲睦まじい夫婦であることがよくわかります。
マリリン・マックーとビリー・デイヴィス・ジュニアは、昨年も夫婦デュオとして新作アルバムをリリースしています。
