
Pop LiFe Pop FiLe #48
Britishman in the US. chart

ブリティッシュ・ロックではなく、ブリティッシュ・ポップ。 イギリス産AOR風の洒落たポップ・ミュージックを3曲ほど。
GERRY RAFFERTY / Baker Street (1978)
邦題は「霧のベイカー・ストリート」。
スコットランドのシンガー、ジェリー・ラファティ、1978年のソロアルバム『City To Cry』収録の曲。 全米で2位となる大ヒット曲です。
ベイカー・ストリートというと、映画や小説にはしばしば登場するロンドンの通りの名前です。 有名なのは "名探偵シャーロック・ホームズ" でしょう。ジェリー・ラファティの邦題には 「霧の~」 と付いていますが、冒頭の泣きのサックスからして霧に霞む街並みが想像出来て秀逸な邦題です。
哀愁を帯びたメロディが素晴らしい。 イギリスのトラッド・ミュージックからの影響も感じさせる楽曲には、格調をも感じさせます。
ACE / How Long (1975)
イギリスのパブロック系バンド、エースのデビューアルバム『Five A Side』に収録の曲です。デビューシングルとなった「How Long」は、75年に全米最高位3位となる大ヒットとなっています。
後にスクイーズのメンバーとして、またソロでも活躍したポール・キャラックが率いていたバンドです。「How Long」は、おそらくは当時としては希少であったはずのAOR風の楽曲です。ポール・キャラック作のナンバー。 アルバムの大半の曲で作詞/作曲を手掛けています。もちろんボーカルも。
アルバム全体の作風がAOR風というわけでもなく、そのあたりにバンドの音楽性、方向性には一貫したものはなかったようです。「How Long」の路線中心で行ったなら、もっと売れていた気もしますが。
ポール・キャラックは、クラプトンのツアー・バンドの鍵盤奏者として何度も来日していて、1曲はヴォーカルを取るのですがこれが素晴らしい! 「How Long」を歌ったこともあります。 ソウルフルなボーカルに磨きがかかり味わいも加わって、唸るような素晴らしさです。 オルガンのプレイでもクラプトンのライヴに彩を添えていて、さすがにピンで活躍していたアーティストだと思いました。クラプトンもポール・キャラックの名前を連呼していて、特別視していたことがその時よくわかりました。
WINGS / With A Little Luck (1978)
邦題は『しあわせの予感』。 ウイングス、78年の全米ナンバー1ヒットです。ウイングスの全盛時は、『Band On The Run』(1973)、『Venus And Mars』(1975)、『Speed Of Sound』(1976)の3枚ぐらいまででしょうか。その次にリリースされた『London Town』になると、ポール特有のポップ(弾けた)な感じが薄れ、全体のトーンは落ち着いています。
当時は物足りなさも感じましたが、現在はこのアルバムの持つくすんだトーンが気に入っています。70年代も後半になると、チャート上には洗練された曲も多くなりますが、アルバムからのシングル曲「With A Little Luck」は、ポールの楽曲のなかでも洗練されていて、ポール風のAORと言ってもよい曲です。
あの時代のロンドンはパンクの嵐が吹き荒れていたはずです。ポール・マッカートニーは、自分たちの若い頃と重ね合わせパンクロックを否定はしていませんでしたが、音楽的にはどこかに「違うだろ」という気持ちもあったはずです。アルバムタイトルに『London Town』と名付け、大人のポップ・アルバムを作ったところにポールの気概を感じます。
イギリスのポップ・ミュージックは、アメリカのそれよりもどこか屈折していて湿り気がある。70年代あたりはそんな風に言われていました。概ねアメリカ産のポップ・ミュージックのほうがおおらかで乾いていて田舎っぽいですよね。イギリスの音楽の持つ "屈折と湿り気" は、時にお洒落な大人の音楽として響く。 そんな風に捉えています。
瞬時に情報がかけめぐるネット時代である現代は、ヒット曲における地域性ってどうなのでしょうかね。

