-3-(10)デフレ期の乗数効果が低いという風評の間違い | 産経新聞を応援する会

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(10)デフレ期の乗数効果が低いという風評の間違い

なぜ、1年目、2年目、3年目の数値がことなっているかということについては、各モデルによって違う理由が存在すると考えられ、一般論としては解明できないものであろうと思われます。

しかし、少なくとも、言えることは、1 年目、2 年目、3 年目の変化の理由は、Y=1/(1-r)という乗数の理論やr=0.7という限界消費性向が操作されることはないであろうということです。なぜなら、それを操作すれば経済理論や統計そのものがデタラメになってしまうからです。そこには、何らかのタイムラグを理由とするものが存在すると考えるべきで、そのタイムラグのために、2年目には1年目の効果が影響するため2年目は1年目よりさらに大きな値となり、3年目には1年目と2年目の効果が影響するため3年目はさらに2年目より大きな値となっていると考えるのが妥当と思われます。

問題は、タイムラグをどのように考えるかということです。仮に、乗数Y=1/(1-r)の達成される期間は無限ですが、その99%が達成される期間はせせいぜい数年と考えられますので、その数年について考えます。

乗数効果の等比級数による計算式は、お金の回転を解りやすく説明しています。
Y=1 + r + r^2 + r^3 + r^4 + r^5 + ・・・ + r^n

r^n はrのn乗を表します。(以下、最初の1を第1項(初項)、r を第2項、r^2 を第3項、r^3を第4項、・・・、r^nを第(n+1)項と呼びます。)

日本では限界消費性向rは0.7と考えられていますから、それぞれ
1=1、r=0.7、r^2=0.49、r^3=0.343、r^4=0.2401、r^5=0.16807、r^6=0.11765、r^7=0.08235、r^8=0.05765、r^9=0.04035、r^10=0.02825、r^11=0.01977、r^12=0.01384、r^13=0.00969です。すると、1 + r + r^2 + r^3 + r^4 + r^5 + ・・・ + r^12=3.30104になります。n→無限のとき、Y=3.33ですから、第13項までで、全ての乗数効果の99%までが出てしまいます。

第14項までの回転で4年かかると仮定します。初年度は投下までの期間を除いて6カ月間有効とします。すると、第1年目の投資で、
第1年目当年は、1 + r =1.70

第2年目は、r^2 + r^3 + r^4 + r^5 =1.24117

第3年目は、r^6 + r^7 + r^8 + r^9 =0.29800

第4年目は、r^10+ r^11 + r^12+ r^13=0.07155


投資は2年目にも同額投下され、その第2年目の投資の影響は、

第2年目当年は、1 + r =1.70

第3年目は、r^2 + r^3 + r^4 + r^5 =1.24117

第4年目は、r^6 + r^7 + r^8 + r^9 =0.29800

第5年目は、r^6 + r^7 + r^8 + r^9 =0.07155


投資は3年目にも同額投下され、その第3年目の投資の影響は、

第3年目当年は、1 + r =1.70

第4年目は、r^2 + r^3 + r^4 + r^5 =1.24117

第5年目は、r^6 + r^7 + r^8 + r^9 =0.29800


第6年目は、r^6 + r^7 + r^8 + r^9 =0.07155

投資は4年目にも同額投下され、その第4年目の投資の影響は、

第4年目は、1 + r =1.70

第5年目は、r^2 + r^3 + r^4 + r^5 =1.24117

第6年目は、r^6 + r^7 + r^8 + r^9 =0.29800

第7年目は、r^6 + r^7 + r^8 + r^9 =0.07155


以上から、毎年同額の政府投資を行った場合、毎年の乗数効果の期間内発生値の合計は、

第1年目は、1.7

第2年目は、1.7 + 1.24117=2.94117

第3年目は、1.7 + 1.24117 + 0.29800=3.23917

第4年目は、1.7 + 1.24117 + 0.29800 + 0.07155=3.31072

となります。


1年目1.70、2年目2.94、3年目3.24、4年目3.31です。

DEMIOSモデルで、1 年目1.49、2 年目2.08、3 年目2.52、4 年目2.92、という数値が出ているようですが、これよりやや数値は高いものの、乗数効果が全く変化しない条件でも、年々『政府支出乗数』は変化することはこれで説明できているように思えます。

もちろん、1年で乗数効果の99%が達成されるならば、この推測は成り立ちません。悩みの種は、1回の政府投資の乗数効果を発生させるお金の回転が完了するまでのスパンが、何年間で想定されているか、どの論文にも明記されていないことです。宍戸駿太郎先生のDEMOOSモデルでもそのことは触れられていません。ですから、以上はタイムラグのイメージを説明しただけのことにすぎません。専門家でも他の機関が作ったマクロ計量モデルは詳細に解釈できない状況ですから、実際のところはそのマクロ計量モデルの作成者に聞く以外ないわけです。
これに、前述した、物価や金利の内政変数または外性変数が加わり、変化が複雑なものになっているのだろうと思われるわけです。さて、これに物価がどれほど関わるかということですが、物価がプラス方向のベクトルを持つと、限界消費性向は上昇するかというと、必ずしもそうとばかりは言えません。限界消費性向=(消費変化の割合)/(所得変化の割合)において、物価がプラスになれば、貯蓄よりも(分子の)消費の動機が高まりますが、(分母の)所得もまたプラスになることで、経済成長が達成されるからです。2012年現在はデフレが進行していますが、(分母の)所得が減少していることから、むしろ限界消費性向はゆるやかに上昇しています。つまり、物価が急激に変化し、所得の反応が鈍ければ、物価動向は消費性向に影響を与え、乗数効果も変わることになりますが、物価と所得の反応速度が同等なら、消費性向の反応も鈍く、乗数効果も余り変化しないことになります。この反応の違いがマクロモデルによって異なるようですから、簡単に、1年目より2年目のほうが乗数効果が大きいなどとは言えないわけです。

宍戸駿太郎先生は、『内閣府経済財政モデルに関する質問と要望事項』において、

http://www.esri.go.jp/jp/forum1/080805/gijishidai35_02_01.pdf

『一方、内閣府モデルは実物経済(生産と雇用)への低い反応に対して、価格面での反応は異常に高く、これがこのモデルの価格予測の過大傾向となって、過去数年間、価格予測の下方修正を繰り返す結果となっている。名目GDPも同様に過大予測を続けてきており、しばしば内閣府は下方修正を行ってきている。一方原油価格上昇への反応も異常で、実質GDPは確かに下がるが、消費者物価に対しても下落巾が拡大し、通常のモデルのように価格上昇の反応はまったく現れない。最後に金融政策の効果であるが、内閣府モデルは特に異常な効果を示してはいない。』と、おっしゃっています。

また、年々、政府投資の1年目の政府投資乗数が低くなっていることについて、次のような見解もあります。

デフレーション下での公共事業の事業効果についての実証分析

藤井聡1・柴山桂太2・中野剛志3

http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/images/stories/PDF/Fujii/201204-201206/other/fujii_deflation_modified.pdf

の6ページ目

『4.考察(4)公共事業によるデフレ抑止効果の,デフレ期と非デフレ期の類似性と相違性』では、『一方で,名目GDP については,デフレ突入後ではそもそも名目GDP が年々低下していく過程にあるため,どれだけ大きな経済効果があったとしても,ベースラインの名目GDP が低下していく基調にあるため,本来の公共事業によるGDP拡大効果から,年々のGDP低下量が差し引かれるため,「見かけ上」の公共事業によるGDP 拡大効果が割り引かれ,過少となってしまうことが原因であると考えられる.その一方で,デフレ突入前においては,年々名目GDP が縮小していっている訳ではないため,公共事業の事業効果が,デフレ突入後の様に「割り引かれる」ことが無いわけである.その結果,公共事業の名目GDPP に対する事業効果が,デフレ突入前においては4.52 兆円であった一方で,デフレ突入後は1.59兆円になったものと考えられる.・・・いずれにしても,以上の結果は,デフレ下では,公共事業は見かけ上の名目GDP 増進効果を減少させることとなるが,それでもなお,統計的有意に名目GDP 増進効果が存在することを意味している一方,デフレが進行している状況下では,公共事業はデフレーターの下支え効果(つまり,物価下落抑止効果)がより顕著となることを示していると考えられる.』

藤井先生も、デフレ突入後の、政府投資の1年目の政府投資乗数が低くなっていることについては、公共投資の乗数効果そのものが低いということではないと、わざわざ論評しておられるわけです。

いろいろな経済学者や評論家のマクロ計量モデルに関する解説を読むと、精巧になっていると言うよりも、複雑怪奇になっていることが読み取れます。専門家にもなかなか解らないように出来ているようですから、我々素人には中身が正しいか間違っているかの判断など及びもつかないわけです。私としては、マクロ計量モデルとどう向き合えば良いのか、いまだに妙案がなく、マクロ計量モデルは悩みの種であるわけです。




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「高き屋に、のぼりて見れば煙立つ、民のかまどは賑わいにけり」 

 

という『御製』 があります。この『御製』は第16代天皇・仁徳天皇が詠まれました。産経新聞を応援する会は、皇室が受け継がれる思いやりの心の前にすべての国民が平等とするのが日本国であると述べてまいりました。「思いやりの心の前」とはどういう意味かとの問い合わせに関しては、あえて順番(序列)をとのことなら陛下が零番(適切かどうかは別にして)、「すべて平等」とはどういう意味かの問い合わせに関しては、どうしても順番(序列)にこだわるのなら、国民個々の努力と考え方、価値観次第で、10番にも1番にも 0.1番にも0.01番にもなれること、思えることとお答えしています。今日の世界では、どこの国の元首も人民の幸福を願うことが当たり前になっていますが、もともと、世界標準の一般的な帝王とは、土地と人民を一元的排他的に隷属支配する絶対権力を意味していました。 

       
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