篳篥(ひちりき)と管箱(かんばこ)。
我が家で持ち伝えている篳篥とそれを収める管箱。その一部を紹介します。
それぞれ音質や音程が若干に異なるので結局いつも使うのは決まった数本。
↑古いものから新しいものまで
それでもその中には200年以上前に作られたものが含まれます。
自作の篳篥や蒔絵の管箱もあり、時々使ってます。
↑自作の篳篥たち 管箱も自作のもの
篳篥本体は竹。指穴と指穴の間には桜の木の皮を細く切り裂いて繋げたヒモ状のものを巻いて漆で仕上げてあります。中は赤漆です。桜の巻物は樺巻きと言って、この線の均一な細さはとても大変な仕事です。現代ではこれを細く均一なものにできる職人はいません。この他にももっと何百年も前のものがあるのですが大切に保管してあります。古いものはこの樺巻きがとても繊細で美しいのです。
桜の皮を細く切り裂くのも機械でなく、小刀で手作業でしたのですから尋常ではありません。神技なのです。同じ人間なのになぜ大昔の人には出来たのか不思議です。正倉院の宝物なども同じですが、命をかけるほどの打ち込みと精神力さえ伺えます。
↑この樺巻きはとても細くて均一で美しい
そして、篳篥を収める管箱は扇型で、そこに施された蒔絵はとても繊細で贅沢です。
笙のように楽器に蒔絵をする場所がないので優雅な平安貴族はその管箱で贅沢な装飾を楽しんだのでしょう。
↑江戸時代あたりのもの。高蒔絵がとても繊細
最近は復元した大篳篥(おおひちりき)も使い分けています。大篳篥も1400年前に大陸からもたらされたのですがいつしか廃れてしまった楽器です。篳篥が約18センチなのに対して大篳篥は約24センチです。音は4度下になります。篳篥よりもちょっと鈍い膨よかなあたたかい音を出すことができます。
↑大篳篥を吹く
僕のアルバム「世界の歌」の中の「マイウェイ」や、「HICHIRIKI Cafe」の中の「Yesterday Once More」ではこの大篳篥を使っています。
↑右が大篳篥
さて、篳篥は強く吹き込めばある程度音は出ますが強い音だけでは威圧的になりがちです。
優しい音を出すコントロールがとても難しいのですが、古典でも国風歌舞などの神事で吹く場合、ほんのわずかな息で静かに響かせる演奏法があります。
僕はむしろその表現こそが篳篥の最大の魅力であり、最も篳篥の個性が生かされる表現だと感じます。
優しい篳篥の音はとても心が伝わりやすいと思います。
もちろん舞楽の伴奏などでは大きな太い圧力のある音で演奏します。場に合わせていろいろな演奏をします。
オリジナル曲や洋楽を演奏するときはいろいろな奏法を取り入れますが基本的には古典の演奏法が核となっています。どんなジャンルの演奏でも篳篥を使う場合、篳篥でなければいけない個性を大切にしています。
よくサックスみたいと言われることもあります。一見サックスのように感じるかもしれませんが実はサックスより深い抑揚をつけて演奏したりして篳篥ならではの独自性を表現しているのです。それがとても篳篥らしい魅力的なところだからです。でもその抑揚の加減や発音法なども作為的に大袈裟にしては台無しになります。あくまでも自然に聴こえる程度の塩梅がいいのだと思っています。
↑雅楽の解説書「東儀秀樹と雅楽を観よう」(岩崎書店)
↑タイの山奥で。篳篥を吹いたら象が寄ってきた。
コンサートツアーではいろいろな吹き方で表現する
↑ノリノリ!
new アルバム「HICHIRIKI Cafe」