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たとえ貴方が、どんな未来を描いたとしても
私はそれを受け入れよう
私にとって、貴方が全てだから―――――
もう一度君に恋をする 第三十二話
「カットっ!!!!」
監督のカットの声がかかり、みんなが静かにモニターを確認する。
「んっ、OK。」
クオン監督の一言を聞いて、スタッフ共演者全員で歓声が上がった。
「今日でクランクアップです。
皆さん、お疲れ様でしたぁ~~~」
ジョーさんの陽気な声で、皆さんから花束を渡された。
「京子さん、お疲れ様でした。
ありがとう。」
「こちらこそ・・・・ありがとうございますっ!!!
この作品に参加できて、本当に良かったです。」
「俺も・・・・・京子さんと一緒に仕事をできてうれしかったよぉ~~~」
ジョーさんと話していると、他の共演者の方やスタッフの方から
声がかかる。
「京子さん、お疲れ様」
口々にねぎらいの言葉をかけられ、一仕事が終わったんだ、と実感していた。
私はほとんどの方と挨拶をする中、ずっとクオンを探していた。
彼は、出演者やスタッフ一人ひとりに礼を言って話していた。
この撮影中に、彼の記憶が戻ったことは、結局誰にもばれなかった。
それほどに、彼のクオン監督の演技は完璧だった。
知っている私や社さんまで・・・・・
忘れてしまうこともしばしばあったくらいだから・・・・・
今日はこの後、軽く打ち上げがあるみたいで、私もそれに出席する。
あさってには、クオン監督とジョーさんがアメリカへ帰るみたいで
打ち上げが今日になっていたのだ・・・・・
・・・・・・アメリカに帰る・・・・・・
わかっていたこととはいえ、この話を聞いたときにはショックだった。
クオンはこのまま、日本には戻らないのかしら??
私とはいったい、どうするつもりなのかしら・・・・???
不安が膨らんでいく。
「・・・・最上さん??」
考え込んでいたときに、声をかけられた。
愛しい、あの人に。
「あっ・・・・監督・・・・・」
「お疲れ様でした。
最上さんを撮ることができて、幸せだったよ。」
「・・・・・・ありがとうございます////」
周りにはまだスタッフやら残っていたから、私はお礼を言うことしかできなかった。
でも、監督としての言葉でも・・・・うれしい。
少し頬を染めながら、喜びに浸っていると、
クオンは私の耳元に顔を近づけると
「今日の打ち上げの後、話があるから、
一緒に帰ろう??」
「っ!!!!!は・・・・はい」
話ってきっと・・・・・・これからの話、よね??
胸がドキドキして、それはその後、一日中おさまらなかった。
*
打ち上げはほとんど覚えていなかった。
私の隣には、相手役の上田さんがずっと座ってて、
なにやら熱心に言われてたけど・・・・
私は全部受け流していた。
近くに居た社さんが、どんな顔色をしていたのかさえ知らず――――
離れたところに座っているクオンばかりに目がいってしまった。
彼は、ジョーさんとずっと一緒に居て、
スタッフやら出演者の方がお酒を持っていっても断っていたし
話もそこそこに、みんな席を立っていたから・・・・
いったい何を話していたんだろう、って気になってばかりいた。
そして今、私は彼と一緒にタクシーの中。
「・・・・どこに向かってるんですか??」
「・・・秘密」
人差し指を口の前に立てて言うクオンは、妙に色っぽいと思う。
車内はそれ以上は何も会話が無かったが、徐々に目的地が近くなってくると
私もどこに向かっているのかわかった。
「・・・・・・・ここ・・・・・・」
降ろされたところは、敦賀さんのマンション。
「行こうか」
私の手を取り、歩き出した。
クオンの手には、いつの間にかいつか見たことのある、カードキーが握られていた。
高級マンションのワンフロアにあるその一室。
そんなに何度もお邪魔したわけじゃないけど・・・・・
入ると、とても懐かしい感じがした。
部屋の中はきれいにされていて、定期的に掃除をしていたのがわかる。
ソファに座ると、クオンはすぐにキッチンに向かって
コーヒーを用意してくれた。
互いにコーヒーを口につけると、クオンが話し出した。
「・・・・・お願いがあるんだ・・・・・」
「・・・・お願い、ですか?」
彼の顔を見ると、真剣そのもので、
最近ずっと顔をあわせていたクオン監督の顔ではなく
以前の敦賀さんのような、本当のクオンの顔をみせていた。
私の目をジッと見ていたクオンは、下を向いたので
そのまま私も彼の目線どおり下を向くと
彼はテーブルに、このマンションのカードキーをのせていて
それをスッと私のほうへ差し出した。
「ここで、待っててくれないか??」
「えっ???」
「今のマンションを出るんだろう??
だから・・・・・ここで、俺と一緒に住もう??」
「・・・・・・・えっ???
だ・・・・だって、あさってアメリカに帰るんじゃ・・・・・・」
ビックリした。
だって、あさって帰るって聞いてたから。
「確かに明後日に一度帰る。
それは、映画の仕上げをしないといけないから・・・・
撮影は終わったけど、まだ編集やらは終わってないからね。
そして、全てが終わったら・・・・・
俺はもう一度、ここで役者をしようと思ってる。
やっぱり・・・・・・演じることが一番好きだから・・・・・・」
「っ!!!!!!そ・・・・・それじゃあ・・・・・・」
「もう一度・・・・・”敦賀蓮”になる」
クオンの力強いその言葉に、私は箍が外れたかのように
涙が溢れ出た。
「はじめ”敦賀蓮”は、アメリカでもう一度役者ができることを望んでいた。
でも、今の俺は、日本で”敦賀蓮”として、役者を続けたいと思ってる。
・・・・・迷ったけど、それが俺の気持ち。
待たせて、ゴメンネ。」
「~~~~~っ!!!!」
泣いているから、言葉がうまく出せない。
いえない代わりに、私は大きく横に首を振った。
クオンは泣いている私を、そっと抱き寄せて
頭を撫でてくれる。
「そんなに・・・・泣かないで??」
「・・・・だっ・・・・て・・・・・・・
う・・・れ・・・・・じ・・い・・・・・・ん・・・だも・・ん・・・・」
泣きながら、途切れ途切れでも答えると
ギュッと強く抱きしてめくれた。
「キョーコ・・・・・・あと少しだけだから・・・・・・
待ってて??
全てが終わったら、敦賀蓮になって、一緒に住もう??
もうずっと・・・・・離さないから」
クオンの腕の中で、私は何度も頷いた。
うれしかった。
これからの約束をしてくれたから。
私も、もう二度と、クオンを離したくない。
「映画の撮影中に、何度君に触れたかったか・・・・・
クオン監督で居る間は、君に触れると、箍が外れそうで
ずっと、ガマンしていた。
キョーコにまで、ガマンさせることになってしまって、ゴメン。
・・・・・・不安だった??」
私は首を横に振って、クオンの顔を見るために、顔を上げた。
まだ涙は少し残っているけど、さっきほど泣いてはいなかった。
「・・・・信じてたから、大丈夫。」
本当は不安だったけど、少し強がって言ってみた。
でも、クオンはなんとなくわかっていたのか、もう一度
「・・・・・・ホント???」
念を押してきた。
「うううっ・・・・・・ホント、だもん・・・・・・」
ちょとすねたように言うと、フッと笑いながら、私の頭をポンポンと
軽く叩いてくれた。
「キョーコ・・・・・・愛してる。」
「私も・・・・・クオンを愛してる。」
私はクオンをジッと見つめると、視線が絡み合って
そのまま熱いキスを交わした。
何度も互いの想いを確かめ合うようにキスの雨を降らし
そっと離れた後、クオンは抱きしめたまま私にこう言った。
「記憶をなくしても、俺はもう一度、キョーコに恋をした。
きっとこの先、何度も記憶をなくしたとしても・・・・・
俺は君に恋をする。
君だけを、ずっと・・・・・・・愛してる。」
私も、何度でも貴方に、恋をするわ―――――――
愛しています、クオン。
FIN
これで一応、おちまいです。
ふぅ~~・・・・・年末までに終わらせて、良かったと思います。
次回、あとがきというなの反省をいっぱい書かせていただきますねぇ~。