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私は気づいていなかった。

その答えは、本当は愚かだったんだと


自分の本当の気持ちに


蓋をしていたのだから――――――




もう一度君に恋をする  第五話




高校を卒業したその日、敦賀さんに告白をされたのだが

いつものごとく、断ってしまっていた。


でも、敦賀さんと別れた後から徐々に

その言葉の意味を改めて、理解でした。


毎日考えるのは、敦賀さんのこと・・・・・・


仕事をしていても、今敦賀さんが何をされているのか

気になって仕方なかった・・・・・・


なかなか会えないまま数日が過ぎ、

ある日、事務所で社さんにお会いした。



「やぁ、キョーコちゃん!!!今日、この時間って

確か、雑誌の取材じゃなかったっけ???」



「社さん、おはようございますっ!!!

今日の雑誌の取材は、先方の都合で、午後からに変更になったんですけど・・・・・

どうして社さんが、私のスケジュールをご存知なんですか??」



「・・・・・・ええっと・・・・・・

(蓮にキョーコちゃんのスケジュールを横流ししてるなんて・・・・

言えないよな・・・・・・)

ぐ、偶然この前堪さんに会って、教えてもらったんだ。」



「・・・・・そ、そうなんです、か・・・・・。

ところで・・・・・今日は敦賀さんはご一緒じゃないんですか??」



「あ、ああ・・・・・蓮は今、ドラマの撮影中なんだけど

ちょっと俺だけ急用でスケジュール調整のため、事務所に来てたんだ。

今からすぐに戻らなくちゃいけなくって・・・・


あっ!!!もう、こんな時間だっ!!!!

ゴメンネ、キョーコちゃん。今度ゆっくり話そうねぇ~~」



こういうなり駆け足で去っていってしまったので

私は、社さんも敦賀さんも、お忙しいんだな、と思っていた・・・・



だけど、このまま一ヶ月、二ヶ月とあわない日が続いて・・・・・

事務所でも顔を合わすことが全くなかったものだから

もしかしたら、避けられているのかと思った



6月のある日のことだった・・・・・・




*




「キョーコっ!!!!起きてる??早く、TVつけてっ!!!!」



朝一でモー子さんから電話をもらった私は、モー子さんのその言葉に

急いでTVの電源を入れた。

すると――――――――



そこには


”敦賀蓮 芸能界 引退か・・・?”


のテロップと共に、ワイドショーの司会者やコメンテーターたちが

何か話していた。



「―――――――――な、何?これ・・・・・・」



「なっ!!!!アンタも知らないの???

私も朝起きてTVをつけたらいきなり大騒ぎになってるからビックリして・・・・・


何でも、急病とかで仕事をすべてキャンセルしたらしくって

今朝、テレビ新聞各社に、社長からのFAXが送られてきたらしいの・・・・・


敦賀蓮は、一身上の都合により、しばらくの間休業します―――――


書面にはこう書かれていたらしいわよ。

しかも、急病で自筆でかけないからと、社長名だけになってるし・・・・・

会見も、今日の夕方社長だけで行われるらしいわよ?!」



「・・・・・・知らない・・・・・・

私、そんなの・・・・・・全然知らないよっ!!!!!!」



「・・・・・・・キョーコ・・・・・・」



こんなにもパニックなったのは、初めてだった・・・・・


いつも、優しい笑顔で、優しい声で話しかけてくれた敦賀さんに

もう、会えないの・・・・・???


私は朝から、その場で泣き崩れてしまった――――――




*




その後数日間、私はそのニュースを知ってから、

芝居の仕事以外はすべて、乾いた笑みを貼り付け、

心ここにあらず、といった仕事内容ばかりだったから、

仕事の評価が少しずつ下がっていってしまっていた。


それに業を煮やした社長は、とうとう私を社長室に呼び出した。



「・・・・・・・最上くん・・・・・・

最近の君はいったい、どうしたんだ?!」



「・・・・・・・」



私は下を向いたままで、何も答えられないでいた・・・・・



「・・・・・・・もしかしなくても、蓮のことに関係してる、のか・・・・・??」



「っ!!!!つ、敦賀さんは、今、どうされているんですか???」



先日の記者会見で、社長は


”敦賀蓮は急病で、しばらく静養が必要です。

病気がきちんと治るまでは・・・・・

仕事は休業させていただきます”


このことしか言わず、病名も、現在の敦賀さんの様子もすべて・・・・・

何も語らなかったんだ。



「・・・・・・それは、誰にも言えない事になっているんだ・・・・・・」



「なっ!!!!どうして・・・・・・・」



「・・・・・・一介の、ただの同じ事務所の人間に

アイツのプライベートなことは教えられない・・・・・

しかも、かなりデリケートな問題なんで、な・・・・・・」



私は、社長のこの”ただの同じ事務所の人間”という言葉に

かなり傷ついた・・・・・


・・・・・・それは、私の心の奥底にある、とあるものにまで

届いていたようで、知らないうちに、涙が・・・・・溢れてきた。



「・・・・・・・どうして・・・・・・・どうして私は・・・・・・

あんなことを言ってしまったんでしょうか・・・・・・・・???」



「・・・・・・・最上くん???」



「・・・・・・・どうして、私は・・・・・・・

自分の心が・・・・・・見えなかったんでしょうか???」



私は、止まらない涙と共に、初めて自分の心の奥底にあるものを

開放させた。



「・・・・・・・・私は・・・・・・・・もう一度・・・・・・・・会いたいんです・・・・・・・

敦賀さんに・・・・・・・・


自分の、本当の気持ちを・・・・・・・・ちゃんと・・・・・伝えたいんです・・・・・・」



「・・・・・・・最上くん・・・・・・」



ドンドンあふれ出したら止まらない、涙と言葉を

社長は静かに、最後まで聞いてくれていた。


少しずつ涙が収まりかけて、気持ちも落ち着いた頃に

社長にこう尋ねられた。



「最上くんは、最後にいつ、蓮に会ったんだ??」



「・・・・・・・最後にお会いしたのは・・・・・・

高校を卒業したときに、送ってもらったときです・・・・・」



「・・・・・そのとき、蓮と何かあった、んだろう、な・・・・・・

あの後、蓮は異様に仕事の量を増やしてきたんで

松島や社から、仕事の量を減らすように社長からも言ってくれって

何度も助けを求められてて、なぁ・・・・・


アイツが病気になったのは・・・・・・

仕事のしすぎだったんだよ、な・・・・きっと・・・・・・・」



「・・・・・・・え・・・・・・???」



「・・・・・・みんな、自分を責めてるんだ・・・・・・

どうして、蓮を止められなかったんだろう、ってな・・・・・

社なんか、最近本当に塞ぎこんでしまって・・・・・


蓮が回復する兆しもないから、他のマネージャーにつけって言っても

”蓮を待つんだ”と言って聞かないし、なぁ・・・・・・


・・・・・そこでお願いがあるんだが・・・・・

社に最上くんのマネージャーをさせたいんだが、いいか???」



「えっ・・・・・・そ、それは、私からはなんとも・・・・・

そ、それに・・・・・私はまだ、ラブミー部員ですし、マネージャーが付くには

早いんじゃ・・・・・」



「・・・・・・・そんな仕事の内容のままで、そんなことが言えるのか??」



「で、でも・・・・・・」



「社にサポートを、させてやってくれ。

社は・・・・・・最上くんのマネージャーだったら、やってもいいといったんだ。


・・・・・・この通りだ。」



社長に深々と礼をされたから、断ることなんて、できなかった・・・・・・




*



社長室を後にして、私は俳優部門の部屋へ伺った。


社さんがそこにいると聞いたからだ――――――



社さんを訪ねると、社さんは以前にもまして顔が青白くなり

頬もややこけてしまっていた・・・・・



「・・・・・・・キョーコちゃん・・・・・・ゴメンネ。」



「・・・・・・えっ?!」



「蓮のこと・・・・・・・

実は、蓮がキョーコちゃんとしばらく顔を合わせたくないって言うから

ずっと避けてたんだ・・・・・


なんとなく・・・・・気づいてた、かな???


蓮の奴、相談できる相手とかいないから、俺にまで何も言わないで

勝手に仕事増やして、体調崩して、ああなっちゃっただろ??


・・・・・・・結構、責任感じてるんだ・・・・・・」



「・・・・・・・社さん・・・・・・」



こんなにもやつれてしまった社さんを見ていると

本当に・・・・・・つらくなってくる。



「社さん・・・・・・・敦賀さんを追い込んでしまったのは、きっと、私です。

だって、私が・・・・・・ちゃんと敦賀さんの言葉に

ちゃんと考えて返事をしていたら、きっとこんなことにはならなかったはずですっ!!!!」



「・・・・・・・キョーコちゃん。

良かったら、蓮と何かあったのかだけ・・・・・教えてくれないかな???」



っ!!!!



「そ・・・・・それは・・・・・・・」



思い出しただけで、顔が真っ赤になる・・・・・・



「それは???」



「敦賀さんに・・・・・・・・・す・・・・・・好きだと・・・・・言われたんです・・・・・・」



「ホントに???アイツ、ちゃんと言えたんだ!!!

っていうか、キョーコちゃんにやっと伝わったんだっ!!!!!」



今までの暗かった表情から一変して、明るい笑顔を見せた

社さんに、思わずビックリしてしまった。



「で・・・・・ですが・・・・・・

”もう恋なんてしない”と言って、お断りさせていただきました。」



私の言葉を聞いて、社さんは一気に元の暗い顔に元通りになってしまった。



「えっ・・・・・・・・、そ、そう・・・・・・・・・・

それって・・・・・・・いつの話???」



「・・・・・・・卒業式のときだから・・・・・3月ですね。」



「・・・・・・・確かに、その頃に俺も言われたんだな・・・・・

仕事をもっと増やして欲しいって・・・・・・・」



社さんのこの言葉に、私は戸惑いを隠せないでいた。



「・・・・・・・もしかして、敦賀さん・・・・・・

私に会いたくないから・・・・・・???」



・・・・・・それで、仕事の量を増やして病気になってしまったの???



「・・・・・それは・・・・・・たぶん、ちょっと違うと思うよ。

確かに、キョーコちゃんは蓮に自分の気持ちを伝えたけど

それって、蓮のこと、好きか嫌いか、という答えじゃなかったじゃないか。

きっと、只単に、キョーコちゃんと顔を合わせづらくって

気持ちの整理をつけるために、仕事の量を増やしたんだと、俺は思う・・・・・。


だってキョーコちゃん、”もう恋はしない”って答えじゃ・・・・・・

好き、の答えにはならないと思うよ?!」



・・・・・・・社さんに言われて、初めて気がついた。


恋はしないって答えじゃ・・・・・・

確かに、私が敦賀さんをどう思っているか、という答えじゃない。


それなのに敦賀さんは・・・・・・

しばらく私と距離を置こうとしてくれたのは・・・・・・


もしかして、私のため―――――??


私が、もっと、ゆっくり・・・・・・

敦賀さんのことを考えられるよう、に・・・・・って、こと・・・・・????



「・・・・・・・私、ちゃんと、敦賀さんに自分の気持ちを伝えてなかったんですね。


敦賀さんは、私、をちゃんと見てくれて、好きになってくれた。

でも私は・・・・・・

”もう恋なんてしない”と言って決め付けて

敦賀さん自身を・・・・、ちゃんと見ていなかったんですね・・・・・・


・・・・・・・なんて、失礼で、自分勝手だったんでしょう・・・・・・」



「・・・・・・・・キョーコちゃん・・・・・・・

あまり、自分を責めないで?!


そ、それに、蓮にこのまま一生会えないわけじゃないじゃないか。

病気が治ったら、きっと・・・・・・・

また会えるよ・・・・・・・」



社さんは、弱々しい笑顔で、こう言ってくれた。


――――――どうして、そんなに弱々しい笑顔だったのか・・・・

今にして思えば簡単なことだった。


きっと、社さんはもう、敦賀さんに会えないことを、知っていたんだ・・・・・・・



「・・・・・ところで、キョーコちゃんは、

もしもう一度蓮に会えたら、なんて言うつもりなの???

もう一度、告白の返事をしなおすの・・・・・????」



そう言われて私は、ポンッと顔を真っ赤にして

下を向いてしまった。



「えぇっと・・・・・・・・・そ、それは・・・・・」



下を向いたままアタフタしていると



「・・・・・なんとなくわかったから、無理しなくていいよ。

俺のほうこそ・・・・・聞き出そうとして、ゴメンネ。

じゃあ、今日から、よろしくね、キョーコちゃんっ!!!!」



まだ多少顔が赤かったのだが、私は社さんと握手をした。




第六話へ、つづく。






過去話、長くなってきました。


今回は、キョーコちゃんとそれを取り巻く人たちの話。

最初の考えていた話より、かなりキョーコが明るく気を取り直してしまいました。


・・・・・・社さんの話の誘導が、良すぎたんでしょうか???


次回は・・・・・・過去の話、キョーコと尚の話ですね。


どうして今、同棲をしているのか、というところを書ければいいのですが・・・・・

(ちゃんと、書けるのか???)