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あの時の私は、気づいていなかった。


何が本当に、一番大切だったのか―――――


やっと気づいたときには、もう・・・・・・・


遅すぎてしまったのね・・・・・




もう一度君に恋をする  第四話




私は、ショーに、昔の話をし始めた。



― * ― * ― * ― * ― * ―



その日、敦賀さんと最後に会った日。


その日は、私の高校の卒業式があった日だった・・・・・



その頃には、少しずつ仕事も増えだして、

タレント京子として、少しずつ知名度も上がり、波に乗っていた頃。


女優としても、いじめ役だけではなくて、恋敵役、とか、友人役、とか

バリエーションが増えてきた。


でもまだ・・・・・・・相手役などの主役級の仕事はもらえないまま・・・・・


いったい、私に何が足らないんだろう・・・・・・・


そう思っていたあの頃。



私は、無事卒業できたことを報告しに、事務所へ行っていた。


堪さんやモー子さんなどに挨拶をしてから、約束をしていた時間に

社長室まで行って、社長にも挨拶をした。


そこには、マリアちゃんも駆けつけてきてくれていて、

一緒に夜ご飯を食べる約束をした。



社長とマリアちゃんと、私の三人で食事をした後、

何故か店の前に、敦賀さんが現れたのよ。


・・・・・・社長が連絡をして、迎えに来てくれたらしいんだけど、

トップ俳優の敦賀さんに迎えに来てもらうなんて

本当に申し訳なくて・・・・・・丁重にお断りしようとしたのだけど

いつものように、うまいこと流されて、そのまま送られることとなったのだが・・・・・



「・・・・・最上さん、今日、まだ時間大丈夫かな?」



社長とマリアちゃんとご飯を食べた後だから、まだ9時過ぎ。


いつも仕事あがりはもっと遅い時間も多いから大丈夫だと思い



「・・・・・・少しだけなら大丈夫ですけど、どうかしましたか??」



「じゃあちょっと・・・・・寄り道していっても、いいかな?」



赤信号で停止中に、フッと笑いながら言う敦賀さんが、

いつもと少し違って見えた・・・・・



「・・・・・・はい。」



敦賀さんの笑顔に、少しだけ胸が高鳴った。




*




着いたところは、少し小高いところにある、知らない公園。


車から降りて歩き出した敦賀さんを、私も追いかけていく。


夜遅い公園には、人影はほとんどいなかったので

敦賀さんがそのまま降りていっても大丈夫そうで安心していた。



「・・・・・・・・わぁ!!!!!!」



目の前に広がるのは・・・・・


キラキラと輝く夜景。

港が近くにあるようで、工場の明かりが、とてもキレイだった・・・・・



「・・・・・・・キレイ・・・・・・・・」



私はしばらくその夜景に目を奪われていると・・・・・・



「・・・・・・最上さん・・・・・」



突如敦賀さんに呼ばれて、敦賀さんのほうへ目を向けた。

敦賀さんは私には目を合わせずに、夜景のほうを見ながら



「最上さんは、卒業してもずっと、この仕事を続けるんだって、ね・・・・・・」



「・・・・・はい。」



私の返事に、敦賀さんは私のほうへ顔を向けた。



「・・・・・応援してる、ずっと・・・・・・

事務所の先輩として、だけではなくて、一人の・・・・・男として。」



・・・・・・・・えぇっと・・・・・・???



「あっ、ありがとう・・・・・ございます。」



私のこの言葉に、敦賀さんはクスッと笑った後



「・・・・・相変わらずのかわしようだね・・・・・」



ボソリと小さな声で言った言葉に、私には意味がわからなかった。



「まぁ、それが君らしいよね。」



こういいながら、優しく私の頭を撫でてくれて・・・・・

そのときの私は、胸がドキドキして、苦しくなった。


・・・・・それが、どうしてなのか、気づかずに・・・・・




*




その後も、他愛のない話を少しして、遅くなるといけないからと

送ってもらった。


最後、だるま屋の近くに止まったとき・・・・・

私はすぐに車から出ることができなかった。


何故かわからないけれど・・・・・

そんな気持ちになってしまっていた。


・・・・・・すると・・・・・・



「・・・・・・・最上さん、これ受け取ってくれるかな??」



すっと敦賀さんが私に差し出したのは・・・・・

小さな手提げの紙袋。



「・・・・・卒業記念の、プレゼント。

気に入ってくれるといいんだけど・・・・・」



「なっ!!!!そ、そんな・・・・・いただけませんっ!!!!!」



「・・・・これは、俺が最上さんにと選んだものだから

もらってくれないと、これはそのまま捨てるしかなくなるけど・・・・・・」



「なっ!!!!!そ、そんなこと・・・・・・

もったいないじゃないですかっ!!!!!

それなら、私がいただきますからっ!!!!!!」



「・・・・・そう??良かった・・・・・・」



このとき、ふとお互いの目が合った。


今まで何度も、敦賀さんとはご一緒しているのに、どうして・・・・・・

このとき私は彼の瞳に捕らわれてしまったんだろう・・・・・・


今は車の車内。運転席にいる敦賀さんと

助手席に座る、私・・・・・・


その近くて遠い距離が・・・・・・もどかしい。


ジッと私を真剣に見つめる敦賀さんの瞳に、魅入ってしまっていた私は、

ドンドン胸の鼓動が高まっていく。



「・・・・・・・最上さん・・・・・・・君が・・・・・・・ス・」



「わっ!!!!!私、明日早いんでしたっ!!!!!

ありがとうございましたっ!!!!失礼しますっ!!!!」



目をそらし、真っ赤になってしまっていた顔を隠しながら

早口で一気にそういうと、助手席のドアを開け降りようとしたら―――――


ガシッと左手をつかまれ



「――――――待ってっ!!!!!!」



思いっきり引っ張られ、敦賀さんに後ろから抱きしめられるような格好になってしまった。



「・・・・・・話の途中だから・・・・・・まだ行かないで。」



「で、でも・・・・・・・」



「それとも、俺の話は・・・・・聞きたくないの??」



「なっ!!!そ・・・・そんなわけじゃあ・・・・

っていうか、離してくれませんか???

そ、その・・・・・・・」



「・・・・・・何???この体勢・・・・・・イヤ???」



「あっ・・・・その・・・・・・・イヤ、といいますか・・・・・・・

は・・・・・恥ずかしいんですが・・・・・・・」



「じゃあ、もう少し、このままで・・・・・・」



「で・・・・・でも、いいんですか?こんなことをして・・・・・

敦賀さんの好きな人に、嫌われたりしませんか・・・・・???」



「っ!!!!!」



敦賀さんは、そっと私を離した後、



「な・・・・何を言ってるんだ???

俺の好きな人は・・・・・・・最上さん、君なんだけど・・・・・」



・・・・・・・・・・・・・・へっ?!


あまりの言葉に、呆然としてしまった。



「・・・・・今まで俺は結構アプローチしてきたつもりだったのに

やっぱり、全く気づいてなかったんだね・・・・・君は・・・・・・・

ハァーーーーーーーーーッ・・・・・・・・・」



私は体勢を変えて、敦賀さんのほうへ振り向くと



「って、な、何言ってるんですか????

そんなの、全然気づきませんでしたし、そもそもそんなこと、してたんですか???

いつも私には意地悪ばっかりしてたじゃないですかっ!!!!!


そ・・・・・それに、私は、もう恋なんてしないって、決めた事だって

敦賀さんは知ってらしたじゃないですかっ!!!!!


それをいきなり、好き、だなんて・・・・・・・・」



最後の消え入りそうな声を発した後、

敦賀さんは、右手で私の頬をそっと触って



「・・・・・・・・それでも・・・・・・・・君が、好きなんだ・・・・・・・」



その真摯な言葉に・・・・・・私の心も揺さぶられた。

・・・・・・だけど・・・・・・・



「・・・・・・・私は・・・・・・・

もう、恋なんてしないんです。

たとえ相手が、敦賀さんであっても・・・・・・・

もう、絶対に・・・・・・・・


この決心は、揺るぎません。」



私はまっすぐに、敦賀さんを見つめながら、こう答えた。



「・・・・・・・・そう・・・・・・・」



そっと右手を離し、静かに答えた敦賀さんは、寂しそうで・・・・・

キュンと切なくなってしまった。



「・・・・・・・ゴメンなさい。」



深々と頭を下げて謝ると、その頭の上にポンと手が置かれた。



「・・・・・気にしなくていいから・・・・・

今日はもう、ゆっくり休みなさい。」



その敦賀さんの声は、いつもと変わらない、優しい声だった・・・・・・

顔を上げ、私はお別れの挨拶をした。



「・・・・・・今日はありがとうございました。

おやすみなさい。」



私は敦賀さんの車から降り、そのまま敦賀さんの車が見えなくなるまで見送った。


敦賀さんの車が見えなくたって始めて、

さっき言われたことに・・・・・理解をし始めた。


す、好きって・・・・・敦賀さんが、私を・・・・・・????


全身真っ赤にしながら、私はしばらくその場に立ち尽くしていた・・・・・・・





第五話へ、つづく・・・・・・






過去話、です。


まぁ、皆さんの想像通り、ですね・・・・・

王道ですから。


次回も過去話、続きます。