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記憶を取り戻した敦賀さんは

やっぱり―――――


敦賀さんなんだ、と思った




もう一度君と恋をする  第二十五話




私も、社さんも、敦賀さんから何を言われるのか

固唾を呑んで待っていた。



「・・・・・映画のクランクアップ、そして公開が終わるまで

ずっと・・・・・・俺の記憶が戻ったことは

誰にも、言わないでもらいたんです。」



・・・・・・えっ???

ど・・・・・どういう、こと・・・・・??


「明日からは、俺は今までどおりのクオンとして撮影します。

今・・・・・俺が記憶を戻ったと知られたら

現場のスタッフならびに、他の関係者の方々に、

かなり混乱を招く事態になるでしょう・・・・

だから・・・・・・・・」



ということは、敦賀さんは明日から今までどおりの

クオン監督として・・・・

記憶の無いままのクオンとして過ごす、ということだとわかった。
でもそこで・・・・・多少問題ありの人が、声をあげた。


「いやっ!!!!確かに蓮の言うとおりだけど・・・・・・

でも、俺としては、やっぱり蓮は蓮だから・・・・・」


社さんとしては、やっぱりクオン監督というよりも

敦賀さんとして接したいのだろう。

・・・・わかります、その気持ち。


「社さんにも、期間中はずっと・・・・・・

俺のことは”クオン監督”として接していただきたいです。

・・・・・・演技は難しいと考えるなら、必要以上に接触しないようにするとか・・・・・」



「っ!!!お前、なぁ~~~~????

俺、かなりうれしかったんだぞ???

それなのに、そんなのって・・・・・・」



「・・・・・・どうして、今クオン監督自体が、あまりココで表立っていないのか

貴方も一緒に、頭を悩ませていたんでしょう??」


その言葉に・・・・・・

私も思い知らされた。

もし・・・・・敦賀さんの記憶が戻ったことがスタッフや関係者などに

ばれてしまったら・・・・・

そこから広がって、マスコミが押し寄せるかもしれない。


みんな・・・・・クオン監督=記憶をなくした敦賀蓮として

知っていて協力してくれているのだから、なおさら・・・・・


「・・・・・・そうだけど・・・・・・・」



元々、社さんが社長と話し合ってお願いしていたことだから・・・・

そういわれれば、もう何も言えなくなってしまう。


「最上さんも・・・・・・

これまでどおり、”クオン監督”として接して欲しいから

決して”敦賀さん”ではなく”クオン”と呼んでもらえるかな??」



「・・・・・・・二人きりのときでも、ですか・・・・・??」



「最上さんは、きっと大丈夫だと思うけど、どこで誰が聞いているかもわからないし・・・・

それに、クオンってホントに本名なんだよ。

だから・・・・・・最上さんには、本当の名前を呼んで欲しいから・・・・・」



「っ!!!!!は・・・・・・はい・・・・・・・・」



ここで、そんな笑顔を出されたら、反則よっ!!!!!

っていうか、久しぶり(約4年ぶり)の本当の敦賀さんは・・・・心臓に悪すぎるわっ!!!!


顔を真っ赤にしながら、何とか返事をした。



「蓮・・・・・・じゃあお前は、映画の撮影が終わったら・・・・・・

どうするつもりなんだ??」



社さんがこう聞いたので、思わず私も身を乗り出した。


敦賀さんとしての記憶が戻ったのだったら・・・・・・

敦賀蓮として、もう一度活動できるのだから・・・・・


戻ってきて欲しい。

私の前で、私の隣で、

同じ演技をするものとして、そばに居て欲しい。


わがままだとは思ってる。

けど・・・・・・

やはりそう、願ってしまう。


でも、目の前の敦賀さんは、なにやら考え込むと

小さく息を吐いて



「・・・・・・まだ・・・・・・迷っています。」



弱々しく答える姿に

私も、社さんも、これ以上この話はできなくなってしまった。





*




社さんとジョーさんは、記憶が戻った記念、ということで

二人で祝杯をあげていた。


敦賀さんと私は、そんな二人に”おやすみ”だけを言うと

そのまま、敦賀さんの部屋までやってきた。



「二人きりで、話がしたい」



最初に言ったのは、敦賀さん。


私は迷うことなく、その話に乗ったのだ。



そして今、ソファの前に二人分のコーヒーが置かれ

敦賀さんは私の隣に腰掛けた。



「・・・・・・待たせて・・・・・・ゴメン。」



最初の言葉は、それだった。


私は、何も言わない変わりに、首を横に振った。



「長い・・・・・・夢を見ていたような気がする・・・・・・・

俺は、一番大事なものから、逃げていたんだね。」



「・・・・そんなこと・・・・・ありません。

それに・・・・・自分の気持ちに気づかなかった私が、いけないんです」



「それは違うっ!!!!

最上さんに振られたからって・・・・・そこで落ち込んでいるような

俺じゃあ・・・・・振られるのも当たり前だ。


でも、本当に・・・・・・・ビックリした。

俺は・・・・・・・

初めて見たときから・・・・君に惹かれてた。

君だけを・・・・・・・求めていたのかもしれない・・・・・・」



敦賀さんは、言いながら私の頬へそっと・・・・・手を伸ばした。



「私は・・・・・・・一人では、待てなかった。

ずっと苦しくて・・・・・・誰かに縋りたかった。

本当は・・・・・・敦賀さんのことを、忘れさせてほしかったのに・・・・・

忘れることなんて、できなかった。

私にも・・・・・・・貴方だけだから・・・・・・・・」



私の頬を優しく撫でていた敦賀さんの手を、上から握り締めた。



「・・・・・・最上さん・・・・・・・

君に、言わなくてはいけないことがある。

どうして俺が・・・・・・あそこで記憶を取り戻したのか・・・・・・

知りたい??」



少しだけ、私の心の中を探るような視線を向けながら

おそるおそるといった感じで聞かれたから、少しだけ怖くなった。

でも・・・・・・



「・・・・・知りたいです。

貴方のことは、全て・・・・・・・・」



私の言葉を聞いて、敦賀さんはフワッと笑うと



「じゃあ―――――

あまり驚かないで、というのも無理な話かもしれないけど・・・・・・


俺が、コーン、なんだ。」



・・

・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・

えっ?????

今・・・・・・・・・・・なん・・・・・て???????



「あの、さ・」



「えぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



「驚くのは無理も無いよ。

蓮の時には言い出せなかったし、何より君は

俺のこと妖精だと、いまだに信じきっていたから・・・・・・


クオン、とコーン、の発音が似ていることくらい・・・・・わからなかった???」



・・・・・・・・はい。



「それに、俺がホントは金髪で碧眼で・・・・クオーターだったのに・・・・・

この姿を見て、何も思わなかったの???」



・・・・・・・・・・・はい。



「ちょっとくらい似てるな、とかは・・・・・・・」



「全然、思いませんでしたっ!!!!!!!!!」



だって、そうでしょぉぉぉぉぉぉぉおおおおお~~~~~っ???


私は、今の今までずっと・・・・・

コーンは本当の妖精さんだと思ってたんだからっ!!!!!!



「・・・・・・だましてたんですか??」



とても小さな声で、ボソリとこうつぶやくと・・・・・



「そんなことは決してないっ!!!!

ただ・・・・・・最上さんが、信じきっていたから・・・・・・

言い出せなった。


それに・・・・・・・・」



「・・・・・・・それに??」



「敦賀蓮として、日本に来ている間は・・・・・・

クオンの事は封印していた。

だから・・・・・・・言うこともできなかった。」



・・・・・・封印・・・・・・・

敦賀さんはいったい、何を封じ込めたかったのだろう。


彼には、もっと深い深い・・・・・心の傷があるのだろうか・・・・・・



「でも・・・・・あの時の思い出が・・・・・・

心の奥深くに残っていたおかげで・・・・・・・

最上さんのことを・・・・・敦賀蓮のことを・・・・・・・・

過去のクオンも全て、思い出せた。


・・・・・・・・本当に、ありがとう。」



そういうと敦賀さんは深々と頭を下げた。



「・・・・・・頭を・・・・・・上げてください」



なかなか頭を上げてくれない敦賀さんにこう言ったときにはもう、

涙が溢れ、声が掠れていた。


私の声を聞いて、今どんな状態にあるのか察知した敦賀さんは

すぐに頭をおこすと、私を優しく、抱きしめてくれた。



「・・・・・・・泣かないで・・・・・・??」



頭をあやすように撫でる、敦賀さんの大きな手のぬくもりに

心がジンワリと温かくなる。



「・・・・・・泣いてません。」



何か悔しくて、そう返した私に敦賀さんは、こう言ったのだ。



「・・・・・泣かないで、キョーコちゃん。」



―――――――――――っ!!!!!!!


コーンにもう一度出逢えたという喜びと

どうして教えてくれなかったのか、という戸惑いと

大好きな貴方へとつながる共通の思い出への喜びと


いろんな感情に支配されながら・・・・・・・泣き崩れてしまった。




第二十六話へ、つづく






何故か無駄に長くなってしまいました。

(反省)