●東側を代表する中型オート

 

 マカロフ・ピストルは、イジェフスク機械工場のニコライ・F・マカロフによって開発され、1951年にソビエト陸軍に制式採用されたダブルアクション・ピストルで、ソビエトのほかに、中国やブルガリア、東ドイツなどによって生産され、東側を代表する中型オートとなった。2003年にヤリギン・ピストル(MP443)がロシア軍に制式採用されると、マカロフ・ピストルは、制式ピストルの座を明け渡し、現在では退役が進んでいるようである。

 

 マカロフ・ピストルの特徴としては、9×18mm弾(9mmマカロフ弾)という独自の弾薬を使用することが挙げられる。中型オートは、圧力の低い弾薬を使用するため、機構が単純なストレートブローバックで作動させることができ、大量生産に向いているという利点がある一方で、大型オートに比べると、威力が低く、軍用ピストルとしては、やや頼りないという欠点がある。

 そこで、ニコライ・F・マカロフは、西ドイツの9×18mmウルトラ弾を参考とし、.380ACP弾よりも強力でありながら、ストレートブローバックで作動させることができる9mmマカロフ弾を開発した。9mmマカロフ弾は、ソビエト軍の制式弾薬となったのちに、中国なども制式弾薬として採用し、東側諸国で広く使用されるピストル弾薬となった。

 

 

●スムースな作動を実現したver.2

 

 KSC マカロフPMが新製品として発表されたのは、2013年に開催された「トイガンフェスタ」であった。マカロフ・ピストルのトイガンは、個人の工房が制作したエアコッキングガンやモデルガンがあったものの、いずれも価格が高く、流通量も極めて少なかったので、KSCからマカロフ・ピストルのガスブローバックガンが新発売になるというニュースは大きな話題となった。

 

 発表から2年経った2015年にようやく発売となったが、ファーストロットは、シングルアクションで撃つことができない、マガジンキャッチが固くてマガジンを取り出すことができない、などの不具合が続出したため、セカンドロット以降は、内部に改良・調整を施し、ファーストロットで生じた不具合を解消した改良版となった。それが今回ご紹介する「KSC マカロフPM ver.2」である。

 

 

 パッケージは、紫を基調としてもので、中央には「ピストレット・マカロバ」の略である“PM”の文字が入る。側面には“ver.2”のシールが張られ、ファーストロットとセカンドロット以降のモデルが識別できるようになっている。

 

 取扱説明書は、31ページにも及び、操作や分解の方法がイラストを用いて分かりやすく解説されている。巻末には、実銃の詳細な説明があり、ソビエトのピストルの歴史がコンパクトにまとめられている。

 

 

 直線と曲線がきっちりと分けられたメリハリのあるデザインで、凛々しさを感じさせる。ヘビーウエイト樹脂(HW)の艶のない質感が軍用ピストル特有の武骨な雰囲気を良く表現している。

 

 五芒星があしらわれた赤茶色のグリップがいかにも“東側”といった感じで、これが何とも良い。シングルカラム・マガジンで、グリップ自体も薄く、さらにグリップ後部のシェイプが絶妙であるため、グリップフィーリングは非常に良好だ。

 

 

 以前所有していたKSCのM9は、湯ジワがあったが、マカロフPMでは、目立った湯ジワはない。ただし、光の当たり方によっては、わずかに色ムラのようなものが見える。

 

 

 ワルサーPPKは、マカロフ・ピストルの設計に大きな影響を与えた。デザインが似ているため、2丁が同じサイズのピストルであると誤解されることがあるが、マカロフ・ピストルは、PPKよりも一回り大きい。体感的には、S&WのJフレームとKフレームぐらいの差がある。

 

 

 PPKよりも一回り大きいといっても、大型オートのブローニング・ハイパワーと比べるとご覧の通りである。スライド、グリップの全長は、ハイパワーよりも短い。

 

 

 スライド下部がふくらんだデザインになっており、洋梨を彷彿とさせる。インナーバレルは、黒染めがされているため、目立ちにくい。

 

 

 マカロフ・ピストルは、PPKと異なり、スライドストップレバーが取り付けられているが、小ぶりで、滑りやすいので、使い勝手は良くない。

 

 

 キリル文字の刻印が新鮮だ。“XB”からはじまる番号は、この個体のシリアルナンバーで、1丁1丁異なる番号が打たれている。シリアルナンバーは、製品管理を目的としたものだと思うが、この番号が自分の個体にしかないものだと思うと何だか嬉しくなる。

 シリアルナンバーの右になるプルーフマークは、ソビエトで製造したことを示すもので、取扱説明書には、プルーフマークの解説がある。

 

 

 右側面は“JASG”(日本エアースポーツガン協会)の刻印を除くと、全く刻印がない。エキストラクターは、金属製の別パーツで、リアルな質感となっている。

 

 

 リアサイトは、小ぶりであるにもかかわらず、贅沢にも金属製の別パーツになっている。また、スライドトップのセレーションが美しい。

 

 

 トリガーは金属製で、セレーションなどが入っていないスムースなタイプ。シングルアクションは、ストロークが短く、キレも良いが、ダブルアクションは、トリガープルが重く、レットオフのタイミングが分かりづらい。

 

 

 セフティレバーを上げると、ハンマーがデコックされる。セフティレバーを下げると、デコックされるというのが一般的であるため、マカロフ・ピストルのセフティには戸惑う。西側と東側の正反対ともいえるイデオロギーの違いがセフティレバーにまで表れているのだろうか。

 

 

 グリップを外すと、ハンマー、シアー、マガジンキャッチの3つのスプリングを兼ねるメインスプリングを見ることができる。

 

 

 PPKと同様に、トリガーガードを下げることによってフィールドストリッピングをすることができる。トリガーガードは、金属製になっているので、強度の心配はない。

 

 

 TT33のマガジンが紛失しやすかったようで、マカロフ・ピストルでは、紛失防止のためにヨーロピアンタイプのマガジンキャッチが採用された。箱出しの状態では、指が痛くなるほど固いが、シリコンオイルを吹き、何回もマガジンを抜き差しすると、スムースにマガジンを取り出すことができるようになった。

 

 

 マガジンは、とにかく小さい。大きさの比較として、右にマルイ・ガバメントのマガジンを置いてみた。マカロフPMのマガジンは、シングルカラムで、装弾数は10発。ガス容量が少なく、フルチャージしても、2.5マガジンが限界だ。また、冷えにも弱く、連射をすると、だんだんとブローバックが弱くなっていく。

 

●実射

 

 

 3mの距離から直径6.5cmの円に向かって、10発試射をした。3mという距離にしては、やや散っているのではないかというのが正直な感想。撃ち方の問題も大いにあるかと思うが、だんだんとブローバックが弱くなり、弾着が下がっていったのが分かった。

 

 マガジンが温かい状態であれば「バシッ」というストレートブローバックらしいヘビーなリコイルを体感することができるが、マガジンが冷えやすいというのが最も深刻な問題だ。

 

 

●まとめ

 

 個人の工房が制作したものしかなかったマカロフ・ピストルのトイガンをメーカーであるKSCがガスブローバックガンで発売し、現在も生産しているということに何よりも意味がある。

 

 造形は、KSCらしい丁寧なもので、エッジはしっかりと立ち、パーティングラインも綺麗に処理されている。エキストラクターやリアサイトなどは金属製の別パーツとなっているのも嬉しい。システム7搭載ということで、ストレートブローバックらしい力強いリコイルを味わうことができるが、マガジンが小型であるため、冷えには弱い。

 

 KSC マカロフPMには、西側諸国のピストルにはない魅力が詰まっている。