●M39のダブルカラム版

 

 S&W M59は、スミス&ウエッソン社が1971年に発売したダブルアクション・ピストルで、S&Wがネイビーシールズのトライアルに提出したM39のダブルカラム版を原型としている。基本的な設計は、M39と同じで、閉鎖方式は、ティルトバレル式、ハンマーは、シングルアクションとダブルアクションが可能なコンベンショナル・ダブルアクションとなっている。

 

 M39との違いは、マガジンの装弾数で、M39がシングルカラムマガジンを採用し、装弾数が8発であるのに対し、M59は、ダブルカラムマガジンを採用することで、装弾数が14発に増加している。1979年にアルミフレームのM459、1980年にスチールフレームのM559が発売され、1982年にステンレスフレームのM659が発売されると、M39/M59シリーズは、3桁のモデルナンバーの「第2世代」へと移行し、M39とM59は生産終了となった。

 

 

●ドック刑事とM59

 

 S&W M59と聞き、真っ先に思い浮かぶのは、「太陽にほえろ!」のドック刑事だ。神田正輝扮するドック刑事が「太陽にほえろ!」に初めて登場したのは、1980年のことである。そういえば、松田聖子が「裸足の季節」でデビューしたのも1980年だったような――。

 

 「太陽にほえろ!」の他の刑事たちがハイパトやローマンなどのリボルバーを使用しているなかで、ドック刑事が使用していたのは、オートマチックであった。そのオートマチックとは、S&W M59のフレームシルバーである。神田正輝は、「オートマチックの扱いが上手な俳優」として知られており、「太陽にほえろ!」においては、綺麗なウィーバースタンスを披露した。バックサイドホルスターからの素早いドローやマズルを空に向けて初弾をロードする仕草も印象的であった。ドック刑事の人気は、今も衰えておらず、そのガンアクションのファンも多い。

 

 「太陽にほえろ!」で、ステージガン(プロップガン)として使用されたMGC M59は、そもそもの定価が高いうえに、ドック刑事の根強い人気も相まって、現在では高値で取引されている。なかでも、フレームシルバーは人気が高く、未発火で傷が少なく、元箱や付属品が揃っているものになると、4万円を超え、6万円台で販売されているのを見かけたこともある。

 

 MGC M59を以前から手に入れたいと思っていたが、発火済みで、バレル内が錆びたもの、フレームにヒビが入ったものなどは見かけたが、美品とものなると、とても手が届かぬ値段であった。しかし、先日、某フリマサイトにて状態のよいものが手ごろな値段で販売されており、入手することができたので、今回ご紹介する。

 

 

 フレームシルバーのM59には、見る者を一瞬にして虜にしてしまう魔力がある。M59の飾り気のない直線的なデザインは、いかにもS&Wオートといった感じで、地味な印象であるが、フレームシルバーになると、雰囲気が変わり、オシャレなデザインに見えてくるのだから不思議だ。ブラックとシルバーのクロスオーバーが絶妙で、何度見ても惚れ惚れしてしまう。

 

 

 実銃のM59の仕上げは、ブルーとニッケルの2種類のみで、フレームシルバーはないが、日本でM59といえば、多くの人がフレームシルバーのものを思い浮かべるだろう。MGCのモデルガンと「太陽にほえろ!」の影響は絶大である。

 

 

 神田正輝は、「大捜査線」、「太陽にほえろ!」、「太陽にほえろ!PART2」、「ゴリラ・警視庁捜査第8班」などでオートマチックのピストルを使用したが、なかでも「ゴリラ」で使用したベレッタ92SBが印象的だ。クロスドローの位置に吊ったベルトスライドホルスターからラウンドタイプのトリガーガードの92SBをスパッとドローし、片手でコッキングするという一連の動作が何ともカッコよかった。

 

 

 M39/M59シリーズ共通のシンプルなマズル周り。シルバーのバレルがマズル周りをキリッと引き締めている。

 

 

 ホールドオープンすると、シルバーに輝くバレルが姿を現す。実銃は、ティルトバレル式でショートリコイルするが、MGCのM59は作動性を重視してストレートブローバックになっている。

 

 

 スライドストップレバーは、大きめで扱いやすい。「SMITH&WESSON」の刻印が入るものの、その他の刻印はモデルガンオリジナルだ。

 

 

 フレーム右側のトレードマークもモデルガンオリジナルのものだ。

 

 

 セフティレバーを下げることで、ハンマーをデコックすることができる。セフティレバーは、ちょうどよいサイズで、動きもスムース。

 

 

 ワイドタイプのトリガーは、アールの具合が絶妙で引きやすい。トリガープルは、シングルアクション、ダブルアクションともに重め。

 

 

 リボルバーのKサイトを彷彿とさせる形状のリアサイト。やや大きめでサイトピクチャーは良好。

 

 

 M59のグリップは、「角材を握っているかのよう」と不評だが、実際に握ってみると、意外にも手に馴染む。グリップの角度もよく、構えると自然にサイトが揃う。確かに片手で構えるのには、太すぎると思うが、両手で構えるのには全く問題ない。

 

 

 装弾数15発のマガジンは、メッキ仕様となっている。

 

 

 MGCのM59には、オープンカート(MGブローバック)のものとCPカートのものがあるが、今回入手したものは前者であった。発売当時、カートリッジは別売で、専門誌の広告には20発1200円とある。

 

 

●まとめ

 

 MGC M59は、作動性を向上させるために内部機構のアレンジが行われており、模型としての再現性は高くない。また、刻印もMGCオリジナルのものが多く、リアリティに欠ける。しかし、MGC M59 フレームシルバーには、見た者を一瞬にして虜にしてしまう魔力がある。「太陽にほえろ!」でドック刑事が使用したということの影響は大きいが、何よりもブラックとシルバーの配色が秀逸である。M39/M59シリーズの飽きの来ないシンプルなデザインもよい。

 

 現在のモデルガンは、内部機構が実銃に忠実で、刻印も拘っているというものが多いが、「発火させて遊ぶこと」を最優先として設計されたMGCのモデルガンを手に取り、作動性を向上させるためにどのような工夫が凝らされているかを調べるのも面白い。