●元祖マグナム
1920年代のアメリカでは禁酒法の制定や大恐慌よって治安は悪化の一途を辿っていた。そのような状況下で法執行機関から.38スペシャル弾よりも強力な弾薬を求める声が上がっていた。そこでS&Wは1930年にNフレームの.44ハンドエジェクターを.38口径に変更した「.38/44 ヘビーデューティー」を開発し、1931年には.38スペシャル弾よりも強力な「.38スペシャル ハイスピード弾」が開発された。
その後も強装弾の研究開発が継続され、1935年に.38スペシャル弾の薬莢を延長し、装薬量を増加させることで大幅なパワーアップを図った「.357マグナム弾」が誕生し、それと同時に.357マグナム弾を使用する専用リボルバー「S&W .357マグナム」も誕生した。
.357マグナムリボルバーでは大型のNフレームが採用され、発売当初はカスタムオーダー品という位置づけであった。バレルは3.5インチ~8-3/4インチの間で1/4インチ刻みで選択することができ、グリップやサイトも好みのものを選ぶことが出来た。さらにゼロインで使用する弾薬や距離さえも指定できたそうだ。
購入時に付いてくる申込書に必要事項を記入して工場に送ることで、登録証が発行されて保証を受けられるようになるというシステムを導入していたことから.357マグナムリボルバーは「レジスタードマグナム」の愛称で呼ばれることがある。
1939年になると、S&Wは第二次大戦の参加国向けの武器供給に専念するため、登録証の発行を中止し、バレル長も3.5インチ、5インチ、6インチ、6.5インチ、8-3/8インチの6種類に限定した。第二次大戦により製造が一時中止となる1940年までの1年間に製造された.357マグナムリボルバーは「ノンレジスタードマグナム」と呼ばれる。
第二次大戦が終わり、1947年になると.357マグナムリボルバーの製造が再開された。1950年からはハンマーの稼働距離が短いショートアクションに変更され、リアサイトがマイクロメータークリックサイトとなった。1957年にモデルナンバー制が採用されると「Model 27」のナンバーが与えられた。その後に6回に渡る改良が行われ、最終的に1994年に製造終了となった。
●CMC以来のモデルアップ
M27はS&Wの象徴するマグナムリボルバーであり、S&Wの歴史を語るうえで重要な1挺であるが、トイガンとしてはCMCが金属モデルガンを発売したのみであった。が、マニアの長年の夢であった“樹脂製モデルガンのM27”がタナカから遂に発売された。しかも、バレル長は3.5インチ。M27の中でも最も特徴的で、多くのマニアが期待していたであろう形で発売されたのである。
タナカのM27の特徴を挙げると〈3.5インチのピンドバレル〉〈カウンターボアードリンダー〉〈.265インチ幅のサービストリガー〉〈.400インチ幅のセミワイドハンマー〉〈センターダイヤ無しのマグナグリップ〉となっており、M27-2の中でも1968年~1975年頃※のモデルを再現しているものと思われる。
※タナカのHPには「1970年~1979年頃のモデルを再現した」と記載されているが、グリップのセンターダイヤが廃止されたのが1968年で、トリガー、ハンマーともに.500インチ幅へ変更されたのが1975年であることを考えると、1968年~1975年頃のモデルと解釈することもできる。
パッケージは毎度お馴染みの実銃のボックスを模したもの。サイズ的には6.5インチまで収まるものの、取扱説明書がM27/M28シリーズ専用のものではなく、M29のものにそれぞれのモデルのパーツリストが補足として付いてくるというようになっているので、この感じだと6インチ等々のバリエーションは望み薄かもしれない。
そういえば、新興モデルガンメーカーの某A社がM27のモデルガンを出すと広告を打っていた気がするが、アレの進捗はどうなったんだろうか。さすがにタナカを超える再現性と作動性を備えた製品をタナカと同価格帯で出すのは無理だと思うが…。
カートリッジは.357マグナムを模した発火カートリッジが6発付属する。
バレル左側面には“SMITH&WESSON”の刻印が入る。
バレル右側面には“.357 MAGNUM”の刻印が入る。現在はJフレームでさえも.357マグナムを撃てる時代だが、1950年代初頭まではコレが唯一のマグナムリボルバーだった。
フレーム右側面にアドレス刻印が入り、サイドプレートにはS&Wのモノグラムが入る。
3.5インチバレルをアップで。マズルのすぐ後ろまでエジェクターシュラウドが迫り、鋭角的なラインを描いているのが3.5インチの魅力。キリっとそそり立ったフロントサイトとも相まって縦に長~いシルエット。やっぱりね、M27と言ったらコレですよ。
このモデルに限った話ではないが、タナカのモデルガンやガスガンではバレルピンがモールドではなく、別部品で再現されており、実際にピンが打たれている。
M27の最大の特徴と言ったら、フレームトップからバレルリブに至るまでビッシリと刻まれたチェッカリング。数多くあるS&Wのリボルバーの中でもフレームトップにチェッカリングが入っているのはM27だけ。セレーション&艶消しのモデルと比べると、光の反射が圧倒的に少ないように感じるのは気のせいか。
フレームトップのチェッカリングを超アップで。ホンモノは職人が1つずつ手作業で刻んでいた筈なので、相当な手間が掛かったに違いない。
Nフレームの直径約4.5cmの巨大なシリンダーに.38口径が6発だけという贅沢な間取り。シリンダーの肉厚は十分過ぎるほどで、さらにリムまですっぽりと覆われるカウンターボアードの加工まで入る。まさに贅沢そのもの。
M27ではいくつか改良が施されたようで、まず、ラチェットのピンが追加されたことでラチェットがしっかりと固定されるようになった。また、リセス(カウンタボアード)の径がわずかに拡大されたようで、C-tecのダミーカートリッジがスムースに入るようになった。
フロントサイトはお馴染みのボウマンクイックドローサイトだが、ベースにチェッカリングが入る特別仕様。
リアサイトも特別仕様でリアサイトリーフにチェッカリングが入る。
ハンマーは.400インチ幅のセミワイドタイプ。
トリガーは.265インチ幅のサービスタイプでセレーションが入る。
グリップはM28と同じくプラ製のマグナグリップが付属する。
一般的に「サービスサイズグリップ」の名で親しまれているマグナグリップだが、実はM27のために作られたグリップなのだ。M27登場前のS&Wのグリップはツノが短いスタンダードグリップ(ビクトリーやM1917などで見られる形状のグリップ)のみであったが、グリッピングを安定させ.357マグナムの強力な反動を分散するため、より面積の大きいグリップが開発された。それがマグナグリップである。
さて、お楽しみのグリップ交換タイム。
まずはタナカ純正の+weightグリップとグリップアダプターのコンビネーション。往年のMGCのモデルガン「ハイパト」を彷彿とさせるシルエット。タナカ純正グリップはウエイト入りで重量を稼いでくれるが、白っぽくて仕上げはイマイチなのが残念。
続いてはM1917から拝借してきたマグナグリップ登場以前のスタンダードグリップを身に纏い、戦前モデルっぽい雰囲気に。巨大なNフレームと極小サイズのグリップのアンバランスさが面白い。
最後は大本命であるCAWのコークボトルグリップを装着。いやぁ~カッコいい。CMCのM27の黒いプラグリも確かコークボトルを模してものだった筈。その影響もあってか、私の中でM27といえば、バレル長を関わらずコークボトルというイメージ。
実際にはM29やM57の初期モデルのみに取り付けられており、M27の標準グリップになったことは一度もないが、別売のアクセサリーとしてグリップ単体でも売られていたようなので、ホンモノでもM27×コークボトルという組み合わせが見られたかもしれない。
至高のS&Wメカを見る。「二段引きトリガー」をはじめとする元々のメカニズムの設計自体も素晴らしいが、その実物がもつスムースなアクションを忠実に再現するタナカの技術力には目を見張るものがある。
先に発売されたM28 ハイウェイパトロールマンを並べてみる。
フレームトップを見ると2挺の違いは一目瞭然だ。廉価版のM28(右)はフレーム及びバレルリブのトップがスムースでリアサイトリーフにもセレーションなどは入っていないが、M27(左)にはフレームトップからバレルリブ、リアサイトベースに至るまでチェッカリングが刻まれ、リアサイトリーフにも同様にチェッカリングが刻まれている。
続いてはKフレームの.357マグナムリボルバーM13 3インチと。M27を握ったあとにM13を手に取ると、その小ささに驚く。しかし、加工技術の進歩により、さらにコンパクトなJフレームでも.357マグナムを撃てるというのだから驚きだ。
最後はLフレームのM586と。「耐久性はあるが重くて嵩張るNフレーム」と「耐久性は劣るが軽くて扱いやすいKフレーム」をアウフヘーベンして出来たのがLフレームだ。Kフレームをベースとしながらも、シリンダーやフレームをわずかに大きくし、泣き所であったフォーシングコーンの均一な肉厚を確保している。まさに.357マグナムの決定版といえるモデルだ。
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