●ジェームズ・ボンドとPPK

 

 PPの小型版であるPPKが登場したのは1931年のことだ。当時のドイツはナチスが台頭してきた時代であり、PPやPPKは突撃隊(SA)や親衛隊(SS)、ナチス自動車協会(NSKK)などで広く使用された。また、1935年の再軍備宣言によってドイツ国防軍が誕生すると、将校用ピストルとして制式採用された。まさに戦前・戦中のPPKはナチス御用達のピストルであった。

 

 イアン・フレミングの小説「007シリーズ」とその映画作品は、PPKの名を世に知らしめ、そのイメージを「ナチス御用達のピストル」から「スパイ御用達のピストル」へとガラリと変えた。

 

 

 いまでこそ、ジェームズ・ボンド=PPKというイメージが定着しているが、当初、小説版でボンドが使っていたピストルは.25口径のベレッタであった。

 ところが5作目の「ロシアから愛をこめて」において、そのベレッタに装着したサイレンサーがベルトに引っ掛かり、結果としてボンドが負傷することになった。

 6作目の「ドクター・ノオ」では、前作での負傷が原因となり、ベレッタを取り上げられ、PPKを支給された。これがボンドとPPKの出会いであった。以降、ボンドはPPKを愛用していくこととなる。

 

 映画版では作品の順序が小説とは異なり、1作目が「ドクター・ノオ」であった。セリフ上では、ボンドが使用するのはPPKとなっていたが、実際にプロップとして使われていたのはPPで、さらにデント教授との対決シーンではブローニングM1910にすり替わるなど銃器描写に関してはファジーな部分が多かった。

 第18作目の「トゥモロー・ネバー・ダイ」でP99が登場するまで、ショーン・コネリー、ジョージ・レーゼンビー、ロジャー・ムーア、ティモシー・ダルトン、ピアーズ・ブロスナンと5人のボンドが使用したことで、PPKといったらジェームズ・ボンドという確固たるイメージが築かれていった。

 

 

●待望の製品化

 

 2024年1月、マルゼンからワルサーPPKのガスブローバックガンが発売された。モデルアップしたのは〈1950~1960年代のドイツ製〉で〈黒グリップ〉の〈.32ACP版〉とまさにジェームズ・ボンドのPPKそのもの。個人的には茶系のマーブルグリップや戦前型なんかも魅力的だなと思うが、やっぱり、このド定番のスタイルが一番しっくりくる。

 

 

 パッケージは爽やかなブルーを基調としたもの。PPシリーズと大きく書かれているが、いつかは三兄弟の長男も出るんだろうか…。

 

 で、気になるお値段は定価14,080円、実売価格は12,000円台といったところ。ちょっと、これは衝撃的な安さではなかろうか。フレームの金型を新規で起こしていることを考えると、本当に大丈夫なのか、と要らぬ心配をしたくなる。

 

 

 スライドとフレームは艶消し仕上げとなっていて渋い。正式ライセンスを取得しているということで、スライドにはワルサーバナーがバッチリ入る。

 

 

 スライド右側面には一挺ずつ異なるシリアルナンバーが入る。これは型ではなく、打刻で入れているようだ。刻印の深さや位置が微妙にズレているのがリアルで良い。エジェクションポートのプルーフマークも抜かりなく再現されていて泣ける。

 

 

 優れたデザインのピストルはホールドオープンした姿もまた美しい。PPKはスライドストップレバーが無いので、解除するためには都度スライドを引く必要がある。

 

 

 スライドトップには薄いリブが走り、その上にギザギザが入る。小型ピストルには過剰な装備のように思えるが、デザインとしては素晴らしい。

 

 

 PPKはスナッグフリーを意識したデザインになっているので、それに合わせてフロントサイトも引っ掛かりにくい形状になっている。

 

 

 リアサイトも小ぶりだが、意外にもサイトピクチャーは良好。

 

 

 ハンマーはコーンタイプでこちらもスナッグフリーを意識した形状になっている。コッキングインジケーターもモールドで再現されているが、いささか表現力に欠ける。廉価なモデルなので仕方のないところもあると思うが、同社のP38のように金属の別パーツにすればリアビューが格段に良くなるはず。

 

 

 実銃同様のセフティシステムを忠実に再現。セフティレバーを押し下げることで、ハンマーが安全にデコックされてトリガーがロックされる。

 

 

 トリガーはシングル/ダブルアクションが可能なコンベンショナルタイプ。モデルガンと比べてスプリングが弱いので、トリガープルは軽めで動きはスムース。

 

 

 やっぱりPPKの魅力といったら、この薄くて短いグリップだ。PPK/Sとは握り心地が全然違う。ちょっと角ばっていて平べったい感じが最高なんだよな…。色味や光沢の具合もイメージ通りで素晴らしいの一言に尽きる。

 

 

 PPK特有のフレームを包み込むようなグリップの形状の見事に再現。背面から見ると、グリップの薄さがよく分かる。

 

 

 マルシンのPPK/Sとグリップ長を比較。PPKの方が短い。

 

 

 マガジンもグリップ長に合わせて短くなっており、装弾数は同社のPPK/Sに比べて4発少ない18発。

 

 

 マガジンの抜いた状態でトリガーガードを下げ、スライドを後方へと引き抜くことで通常分解を行うことができる。ただ、トリガーガードが柔らかい樹脂製なので、取り扱いには十分注意したい。

 

 

 通常分解を行うと、このようになる。バレル付け根に“JASG”や“JAPAN”の文字が入るが、分解しない限り見えないので、雰囲気を損なうことはない。

 

 

●実射

 

 3mの距離で5発×5回試射を行った。BB弾はマルイのベアリング研磨0.2gを使用。ベストグルーピングは20mmで、まずまずといった感じ。ただ、3mの距離であってもドロップ気味で照準よりも20mmほど下方に着弾した。久々にガスブロを撃ったということもあり、私の射撃の腕か、銃本体によるものか分からないが、弾道はやや左に逸れる印象であった。

 

 

●マルシン PPKモデルガンとの比較

 

 グリップを握ったときにマルゼンのPPKはマルシンのものより太い感じがしたので、全体の寸法についてマルシンのPPKのモデルガンと比較してみることにした。

 

 

 まずは最も気になったグリップの厚みから比較する。左がマルシンのモデルガンで右がマルゼンのガスブロだ。マルシンの26mmに対してマルゼンは27mm。マルゼンの方が1mmほど太い。数値で見れば、たった1mmじゃないかと思われるかもしれないが、実際に握ったときの印象は全然違う。

 

 

 続いてはスライドの全長。マルシンは152mmでマルゼンは155mmであった。マルゼンの方が3mmも長いので並べてみると、その差は一目瞭然。

 スライド後端からリアサイトまでの距離も両社で異なり、マルシンが4mm、マルゼンが5mmだった。

 

 

 最後にスライドの厚みを比較。マルゼンはガスブローバックのエンジンを内蔵する関係上、どうしても太くなってしまっている。マルシンが23mmに対し、マルゼンは24mm。こちらも数値以上に視覚的には太く感じる。

 

 マルシンのモデルガンを見た直後にマルゼンのガスブロを見ると、各部の太さが気になるが、マルゼン単体で見れば、全体のバランス感は悪くないので、いざ買ってガッカリということにはならないはずだ。