●007愛用の中型拳銃

 

 007シリーズの主人公であるジェームズ・ボンドは、細工が施されたアタッシュケースや時計、防弾ガラスやミサイルなどを装備した“ボンドカー”などのハイテクな道具を使用しているが、ボンドが肌身離さず持ち歩いているのがワルサーPPKだ。映画第1作目「ドクター・ノオ」の冒頭で、ボンドが愛用していたベレッタM1934に代わる新しいピストルとして“M”から渡されるのがPPKである。ボンド自身は、ベレッタが大変気に入っていたようで、PPKと一緒にベレッタも隠して持ち出そうとする描写がある。今となっては、ボンド=PPKというイメージがすっかり定着しているが、もし、「ドクター・ノオ」で、ボンドがPPKの使用を拒み、ベレッタを使用し続けていたら、などと想像するのも面白い。

 

 ボンドの愛用銃として有名なPPKは、カール・ワルサー社が1931年にPPのコンパクトモデルとして発表したダブルアクションピストルで、PPKとは、「ポリッツアイ・ピストーレ・クリミナル」、もしくは、「ポリッツアイ・ピストーレ・クルツ」の略であるとされている。

 PPKには、第二次大戦前に生産された“戦前型”と戦後に再販された“戦後型”があり、戦後型は“ワルサーPPKマークⅡ”と呼ばれ、1953年にフランスのマニューリン社によるライセンス生産が開始された。戦前型と戦後型では、スライドとフレームの形状が異なっているが、戦後型は、マニューリン社の設計によるものである。

 

 

●心地よい重量感が魅力のHWモデル

 

 マルシンからは、ワルサーPP、PPK(戦後型)、PPK戦前型、PPK/Sがモデルガンとして発売されているが、PPKは、PPシリーズ最小のモデルだ。今回ご紹介するのは、戦後型をモデルアップしたHW製の発火モデルガンで、中古で購入したものである。

 

 

 マルシンのパッケージは、素っ気ない段ボールの印象が強いが、PPKのパッケージは、イラストやワルサーのロゴが入ったもので、思わず手に取りたくなるデザインである。本体が小ぶりなので、箱も22.5×13.5×4.5cmと小ぶりだ。

 

 

 中型拳銃には、優れたデザインのモデルが多く、PPKは、その筆頭であると言える。50年以上前に設計されたピストルであるが、古さを全く感じさせず、現代にも十分に通用する美しいデザインである。特にマズルからトリガーガードにかけてのラインが魅力的だ。

 セフティレバーの収まる溝には、赤いドットが入っているはずだが、この個体にはない。

 

 

 PPKは、小ぶりなピストルだが、HW製であるため、ある程度の重量感があり、プラスチックモデルガン特有の“スカスカ感”はない。しかし、ズッシリと重いというほどの重量感ではないため、“心地よい重さ”という表現が適切である。チャンバーは、シルバーで塗装されており、良いアクセントになっている。

 

 

 ベレッタ96FSと並べると、PPKがいかに小さいかということがよく分かる。

 

 

 中型拳銃の傑作と名高いベレッタ84と。どちらも魅力的なデザインで、甲乙付け難い。

 

 

 なかなか愛嬌のあるマズル周り。モデルガンなので、バレルには、インサートが入っている。

 

 

 スナッグフリーを意識したPPKには、スライドストップレバーがないので、スライドストップを解除するためには、マガジンを抜くか、新しいマガジンを入れた上で、スライドを引く必要がある。

 

 

 刻印は、彫りが深く、ハッキリとしている。ワルサー社公認モデルということもあり、ワルサーのロゴが入る。

 “Cal.7.65mm”の刻印からも分かる通り、マルシンのPPKは、.32ACP弾仕様をモデルアップしている。

 

 

 スライド右側には、モデルガンオリジナルの商標関係のものとマルシンの刻印が入る。

 

 

 トリガーには、グルーブが入っている。シングルアクション、ダブルアクションともにトリガーストロークは、長めだが、キレがよく、なかなかよいフィーリングだ。

 

 

 戦後型の特徴であるプラスチック製のツーピースグリップを再現している。グリップの全長が短いため、マガジンにエクステンションが付けられている。

 

 

 セフティレバーを倒すことで、ハンマーを安全に倒すことができるのだが、セフティレバーが非常に重く、片手でデコックするのは難しい。セフティレバーにも相当の負荷が掛かっているはずなので、長持ちをさせたい方は、デコックするのを控えた方がよいのではないかと思う。

 

 

 フロントサイトは、かなり小ぶりなものが付いている。スライドトップには、反射防止のために細かなグルーブが入れられている。

 

 

 フロントサイトと同様にリアサイトも小ぶりで、精密射撃は難しい。

 

 

 チャンバーに弾がロードされていると、シルバーのコッキングインジケーターが飛び出すようになっている。

 

 

 トリガーガードを引き下げることによって、フィールドストリッピングをすることができる。強度が必要なパーツなので、金属製になっている。

 

 

 マガジンは、スチールプレス製で、装弾数は7発となっている。ベレッタ96FSのマガジンと並べると、まるで親子かと思うほど、大きさが異なる。

 

 

 カートリッジは、7発付属する。弾頭が銅色となっており、ダミーカートのようなリアルな雰囲気で嬉しい。

 

 

●まとめ

 

 ダブルアクション黎明期の傑作といえるピストルで、デザインも優れたPPKをHW製のモデルガンとして発売したマルシンの功績は大きい。スライドのモデルガンオリジナルの刻印やセフティレバーが重いなどの気になる点はあるが、万人が概ね満足できるモデルではないかと思う。長らく再販されておらず、入手が難しいのが残念だが、昨年亡くなったショーン・コネリーを偲び、“コネリー・ボンド”の作品の数々を見返す際のお供としていかがだろうか。