これもとてもマグニチュードの大きい質問主意書のやり取りです(が、同じくあまり注目されていません。)。いわゆる東京裁判史観です。

【質問】
 日本国との平和条約第十一条においては、「日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。これらの拘禁されている者を赦免し、減刑し、及び仮出獄させる権限は、各事件について刑を課した一又は二以上の政府の決定及び日本国の勧告に基く場合の外、行使することができない。極東国際軍事裁判所が刑を宣告した者については、この権限は、裁判所に代表者を出した政府の過半数の決定及び日本国の勧告に基く場合の外、行使することができない。 」との規定がある。

 ここで受諾した「裁判」については、単なる判決の効果を受諾したのか、裁判そのものを受け入れたのかについて、種々の議論があるところであるが、平成十年四月七日参議院総務委員会において、政府説明員が次のとおり答弁している。

「この極東国際軍事裁判に係る平和条約第十一条におきましては、英語正文でジャッジメントという言葉が当てられておりますが、このジャッジメントにつきましては、極東軍事裁判所の裁判を例にとりますと、この裁判の内容すなわちジャッジメントは三部から構成されております。この中に裁判所の設立及び審理、法、侵略、太平洋戦争、起訴状の訴因についての認定、それから判定、これはバーディクトという言葉が当てられておりますが、及び刑の宣言、これはセンテンスという言葉が当てられておりますが、このすべてを包含しておりまして、平和条約第十一条の受諾が単に刑の宣言、センテンスだけであるとの主張は根拠を有さないものと解しております。」

 これを踏まえ、次のとおり質問する。

一. 現時点において、政府は上記政府説明員の答弁内容に立った解釈を行っているのか。
二. 同条約の正文であるフランス語においては、「Le Japon accepte les jugements prononcés par le Tribunal Militaire International pour l'Extrême-Orient et par les autres tribunaux alliés pour la répression des crimes de guerre,au Japon et hors du Japon, et il appliquera aux ressortissants japonais incarcérés au Japon les condamnations prononcées par lesdits tribunaux.」とあり、ここ
で言う「prononcés」という部分を取り上げて、日本が受け入れたのは「刑の宣言」だけであるとの解釈も見られるが、それでも政府は上記説明員の答弁に立った解釈をしているとの理解でいいのか。
三. その場合、我が国は極東国際軍事裁判における事実認定、特に起訴状の訴因についての認定、判定において採用された事実を逐一受諾したということなのか。
四. 「受諾」については、正文である英語では「accept」となっている。英語辞典として定評のあるオックスフォード辞典では、その定義として、大別して「1. consent to receive or undertake (something offered)」、「2. believe or come to recognize (a proposition) as valid or correct」、「3. tolerate or submit to (something unpleasant or undesired)」となっている。これを踏まえ、政府は「accept」の解釈として、上記のどの定義を採用しているか。「『受諾』と訳している」といった訳の説明ではなく、その「受諾」の意味するところに踏み込んで答弁ありたい。

【答弁】
一について
 お尋ねの答弁で述べられた政府の従来の見解に変わりはない。

二について
 極東国際軍事裁判所において、ウェッブ裁判長は、judgmentを英語で読み上げた。我が国は、日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号。以下「平和条約」という。)第十一条により、このjudgmentを受諾しており、仏語文の平和条約第十一条も同じ意味と解される。

三及び四について
 極東軍事裁判所等の裁判については、法的な諸問題に関して種々の議論があることは承知しているが、我が国は、平和条約第十一条により、当該裁判を受諾しており、国と国との関係において、当該裁判について異議を述べる立場にない。なお、政府として特定の辞書の記述のみに依拠して国際約束の解釈を行うものではない。

【質問】
我が国は、答弁書(内閣衆質一八九第二号)において定義が明らかにされた極東国際軍事裁判を逐一受諾しているとの立場か。

【答弁】
極東国際軍事裁判所の裁判の受諾については、先の答弁書(平成二十七年二月三日内閣衆質一八九第二号)三及び四についてでお答えしたとおりである。

【解説】
 これまた、小難しいですね。すいません。

 まず、最初の質問は幾つかのパーツに分かれます。

 一と二は、東京裁判を受諾したというけども、一部にはその受諾したのは「death by hanging(絞首刑)」とか、「imprisonment for life(無期懲役)」とかいった刑の宣告とその執行だけであって、東京裁判そのものを受け入れたものではないという主張があることへの問いです。

 問いは(フランス語正文等出てきて、読みにくいですが)以前、政府参考人答弁で、「東京裁判の『裁判』とは、そういう刑の宣告だけではなく、裁判全体を受け入れたものである」というものがあったので、政府としてそれでいいですね、ということです。答えは「その通りです」ということでした。私はここでも少しぼかして答えて来るかと思っていましたが、意外にスッと答弁が来ました。ただ、ここは官邸と外務省との間に若干のやり取りがあったのではないかなと思います。

 四では、「受諾した」という言葉の意味を聞いています。英語にすると「accept」です。この言葉は、単に「受け取った」ということではなく、一定の評価を込めて受け取ったという意味を持つものです。なので、「どういう思いを持って受諾していますか。(acceptの語義に鑑み)東京裁判の内容に同意(consent)していますか。東京裁判を正しい(correct)と思っていますか。」ということを聞いています。答えは、「そういう特定の辞書の定義に基づいた判断はしない。」でした。ただ、どの辞書を見ても大体同じような定義が書いてあるのですけどね。

 そして、この質問の三は「では、東京裁判を逐一受け入れていますね」というものです。ここは「色々な議論があるけど、いずれにせよ、東京裁判に異議は唱えない。」というものでした。かなり逃げられてしまいました。

 「東京裁判」の定義が明らかになっているのに、それを逐一受諾したのかと聞くと、「色々な議論がある」というのは変な気がするので、もう一押ししたのが、二つ目の質問です。ただ、答えはゼロ回答でした。

 つまり、これを纏めると、

● 東京裁判を受諾したという、その「裁判」は刑の宣告と執行だけではなく、もっと広義の東京裁判全体を指す。
● ただ、その東京裁判全体を「逐一」受諾したのかということについては、答えたくない。
● 「受諾した」という言葉の意味についても、答えたくない。

ということになります。一つ目の●については、これまで政府参考人答弁だった機微な内容のものを閣議決定で確認したということで、それなりに画期的です。二つ目、三つ目の●については、「戦後70年談話」を見据えた安倍総理の思いが透けて見えます。