在フランス中国大使の発言が話題になっています。ウクライナの主権そのものを否定したとの事で、ウクライナのみならず、バルト三国からも強烈に反発が出ています。実際にTF1でのインタビューを聞いてみました。
結論から言うと、該当部分ではそういう趣旨の事を言っています。正確には「クリミアの帰属」について問われ、「旧ソ連諸国の主権国家としてのステータスを確定する合意はない」という言い方です。これを言われてしまうと、旧ソ連諸国はその存在意義を否定されているのに近くなりますので、激しく反発するのは当然です。
プーチン大統領の対ウクライナでの発言を聞いていると、(幾ばくかの強がりを込めて)ウクライナそのものが主権国家だと見なしていない姿勢です。自国防衛できない国など「主権」を持っているとは言えない、と思っている可能性が高いです。ロシアの理屈はかなり雑です。一方、中国は「建て前」だけはきちんとしています。中国の理屈を見ていると、我々からすると受け入れられないものの、それなりに国際法を引用しながら論理を立ててきます。台湾の領有についても、このインタビューで1943年カイロ宣言、1945年ポツダム宣言などをきちんと挙げます。
中国の外交官と話すとよく分かるのですが、彼らなりの理屈がしっかりしています。それは日本としては受け入れられないものが多いのですが、かと言って、中国外交官の理屈を突き崩すのは大変です。日本の政治家の中に威勢よく「中国は〇〇でけしからん」と言っている方は多いのですが、多分、大半の方は中国の外交官と議論するとコテンパンにやられると思います。なので、私はいつも中国の外交官と話す時は、事前に頭を整理して、そして話している間はとても耳を澄ませて聞き、寸鉄人を刺す気持ちで居ます。
さて、話を戻します。全体として「うちの国内事情に口出すな」と「世界は多様化している」という話が多いです。そして、非常に興味深かったのは、毛沢東時代の大量虐殺について厳しく問い詰められた時です。グサッと「毛沢東は歴史上の最大の犯罪人の一人」と質問するインタビュアーにはビックリしましたが、これに対する大使の激昂ぶりはなかなかのものです。「chicaner(誤魔化す)」、「racontar(無駄話)」といったあまり外交的ではない表現が出て来て、雰囲気のみならず、語彙からもイライラ感が伝わります。そして、29:00過ぎくらいに大使が「あなた勉強した事あるのか?」、「止めろ(Stop)」と言っています。「自分は今日ここにそんな無駄話をしに来たのではない」と強めに言った後、最後窮して「そんな事を我々に言うなら、日本が第二次世界大戦時に対中国でやった戦争犯罪に対して支払いをするよう、日本に求めろ。」とも言っています。ここが弱点なんですよね。「過去に対する不可謬や現代の人権問題を突かれると、中国の外交官はキレて強引に話を打ち切ろうとする」、これが今回のインタビューからよく分かります。
それにしても厳しいやり取りです。勘違いして早く帰ろうとした大使に対して、インタビュアーが笑いながら「まだ、拷問は終わっていませんよ」と語りかけています。厳しいやり取りをしていますが、一応最後は社交的な感じで終わります。ちょっと話が飛びますが、私の考える報道の公平とはこういうフランスのジャーナリストの姿勢を指します。中国が好きとか、嫌いとかではなく、厳しく問う事で真実を追求する。これは一つの報道の公平性です。今国会で大きな議論になった放送法の「政治的公平」。私も一度、一般論としてこの議論をしました。少なくとも高市大臣は概念整理は出来ていませんでした。日本の政治家で正しく理解している方は少ないのではないかと思います。
なお、盧大使のフランス語は「流暢」とまでは言えませんが、使っている語彙はなかなかのものです。日本の外交官でこの水準に達しているフランス語使いがどの程度居るかというと、甚だ心許ないです。