私の強い信念として「子育て支援と少子化対策は(結果として連関性はあるものの)まずは切り離して考えるべき。」というものがあります。その観点から「子育て支援で鳴らしている自治体の取組を国レベルで持て囃してはならない」と思っています。これは説明が必要です。

 

 私は、例えば兵庫県明石市の子育て支援の取組は素晴らしいと思います。それによって若年層の流入から人口増にもなっています。投資的経費(水道事業)等を削り込みながら財源を捻出し、様々なアイデアを出して来た泉市長の手腕は地方自治の一つのあるべき姿です。ただし、ああいう人口増の政策が可能なのは巨大な神戸市が隣にあるからです(ただ、神戸市は人口減が著しく、数年前には川崎市に抜かれました)。彼我の差を見せ付けて、自市に人口を引き付けるやり方は大都市が近くにある都市のみがやれます。北九州市が明石市みたいな事をやったら、(北九州市より人口減少が激しい)周辺の市町村が大打撃を受けてしまいます。

 

 また、明石市のような「彼我の差を見せ付けるやり方」は、都市間競争が可能な地方自治体だからやれるのです。国レベルではそれはやれません。言い換えると、地方自治体による子育て支援充実による人口増の効果は、①子育て支援そのものによる安心感から来る出生増、②他の自治体との比較で若年層を誘致する効果の2つに分解出来ると思いますが、国レベルでは①のみがあり、②はありません。

 

 だから、明石市長の取組を見て、「これを国レベルでやれば少子化解消は可能だ」と思うのは間違いです。よく政治関係者が同市を訪問していますが、「都市間競争のない国」レベルで判断しなくてはならない国会議員は無邪気な称賛に留まるべきではありません。そこに留まるのであれば、むしろ危険です(明石市と同じ事を国でやっても、明石市と同じ効果にはならないので)。故に私は「子育て支援でない少子化対策」を強く主張しているのです。

 

 「子育て支援でない少子化対策」は、耳障りのする話が必ず含まれるので口にするのが辛いのです。「子育て支援充実」だけ言っておけばいいのならどれだけ楽か、と思います。今回の岸田総理の少子化対策のたたき台をみて、「これまで食べていた牛丼を3倍肉増しにして『どうだ、異次元だろう!』と言っている」ように見えるのです(なお、私はチェーン店系の牛丼はとても大好きであり過小評価する意図は一切ありません)。

 

 「子育て支援と少子化対策を一旦切り離し、少子化対策に真正面から向き合う」という視点に立たないのであれば、これからの取組は絶対に失敗します。岸田政権になって、今秋で2年になります。政局優先で2年の時間を徒過したとすら言えます。これ以上、亡国の歩みを続ける事は出来ないとの切迫感を持っています。