昨日のダブルヘッダーの二つ目。厚生労働省所管分です。こちらも実務的な答弁が欲しいので、後藤大臣には当てませんでした。

 

【薬事行政】

①(https://youtu.be/s8GelwK4O4c?t=17s)「1日平均40枚の院外処方箋に対して1人以上の薬剤師を配置する必要」があるとのルールは、確実かつ迅速にサービスを行う努力を否定してしまうおそれは無いのか。

 

②(https://youtu.be/s8GelwK4O4c?t=2m55s)病院の敷地内薬局を部分的に認めているが、これは「かかりつけ薬局」の理念とは逆を向いているように見える。しかも、敷地内薬局は病院からのキックバック要求を通じた癒着構造があるとも言われる。政策の理念は何処にあるのか。

 

(感想:この2点はいずれも規制改革の議論の中で取り上げられています。答弁を聞きながら、本当にこの分野は難解だと痛感しました。)

 

【障碍者雇用】

③(https://youtu.be/s8GelwK4O4c?t=5m52s)少し前、北九州市で障害者雇用相談会に行った。使われている求人シートが健常者用と同じなため、個々の障害者が持つ特徴を把握しきれず、マッチングが上手くいっていないと思った。近年、この点が改善されている事は評価したい。カネがかからないので、求人シートの不断の改善に努めてほしい。

 

(感想:問題意識は確実に持ってくれているようです。質問を契機に更に考えてくれそうな感じもありました。)

 

【児童養護施設】

④(https://youtu.be/s8GelwK4O4c?t=10m20s)児童養護施設を退所して就職等した後、残念ながら退職等してしまうと社会的に脆弱な立場。反社や違法な性産業等の業界に行くケースが多々ある。一旦施設退所後であっても、何かあった際に戻れる場所を作るべき。

 

(感想:これも問題意識は持ってくれている感じを受けました。今国会には児童福祉法改正がありますが、退所後の目配りをお願いしました。)

 

【COVID-19】

⑤(https://youtu.be/s8GelwK4O4c?t=14m11s)PCR検査でのCOVID-19の判定基準が厳しいと聞いている。ウイルス量について「10コピー」ですら陽性反応としているのは、諸外国と比べて過剰との指摘があるがどうか。

 

⑥(https://youtu.be/s8GelwK4O4c?t=16m46s)コロナでの入国に関し、「水際対策上特に対応すべき変異株等に対する指定国・地域」は誰が決めているのか。どう見ても、一貫性が無い。レクでは「外務省と厚生労働省」と言っていたが、きちんと主担当を明確化すべき。

 

(感想:⑤は地元で検査に携わる方からの話を聞いたので、「実際どうなの?」という純然たる質問でした。⑥は「皆で決める」というのが、結果として一貫性の無さに繋がっていると思います。)

 

【社会保険料】

⑦(https://youtu.be/s8GelwK4O4c?t=19m42s)中小企業によっては、社会保険料の計算月だけ所得を下げて、社会保険料負担を下げている会社があるとの指摘を受けた。事実だとしたら不公平感があるのではないか。

 

(感想:「しっかり見ています」との答弁でした。なかなか全部見切れないような気がするのですが。)

 

【最低賃金】

⑧(https://youtu.be/s8GelwK4O4c?t=22m14s)一般論として、最低賃金を大幅に上げた時に生じ得ると政府が考える社会的、経済的なマイナスというのはどういうものなのか。

 

(感想:意外にこういう問ってないんじゃないかなと思いますので、あえて聞いてみました。)

 

【保育士】

⑨(https://youtu.be/s8GelwK4O4c?t=24m5s)保育所において保育士不足が深刻。必ずしも保育士がやらなくてもいい事までやっている印象あり。保育士の業務を侵す意図は全くないが、その業務の一部をサポートするための職種を作ってはどうか。

 

(感想:これも当然、問題意識は持っていただいています。)

 

 バラバラのテーマを大放出でした。小会派で質疑時間が少ないので、こういう時にやらないとダメなんです。30分で終えようとして早口で急いだら、こちらも27分で終わってしまいました。

 昨日の予算委分科会(総務省所管)では多岐に亘る質問をしました。実務的な答弁が欲しかったので、金子大臣には全く当てていません。

それぞれのテーマについてリンクを張りますので、見ていただければ幸甚です。

 

【消防関係】

①(https://youtu.be/ehwlplu4xkw?t=24s)準中型免許(3.5トン以上)の導入により、消防団員が3.5トン以上の消防車を運転する際、準中型免許が必要。一部地域では、普通免許で運転できるよう新しく調達する消防車のスペックを下げる事も行われている。不都合が生じないようにすべきでは。

 

②(https://youtu.be/ehwlplu4xkw?t=2m56s)今般、消防団員の「出動手当(非課税)」が「出動報酬」となる。これが所得となり、所得税課税されるようになるのではないか。一部の消防団員、例えば、学生団員、女性消防団員は「(税、社会保障等の)壁」に当たるため活動抑制に繋がるおそれあり。

 

③(https://youtu.be/ehwlplu4xkw?t=5m4s)救急救命士の活動について、医師の領域を侵す意図は一切ないが、もう少し活動領域を広く認めていいと思うが如何。

 

(感想:②の問については、「現在、最終盤の調整が行われているんだろうな。」という事が窺えました。全国の消防団関係者、要注視です。)

 

【地方財政(これは難しいので噛み砕いて説明します)】

④(https://youtu.be/ehwlplu4xkw?t=9m2s)「地方自治体の財政が健全かどうか」についての現在のルールは不十分ではないか(京都市はこのルール上は問題なかったが財政難になった)。地方自治体の財政の状況を「見える化」するのであれば、ヤバい所に警報を出せるルールにすべき。

 

⑤(https://youtu.be/ehwlplu4xkw?t=13m8s)地方自治体の累積債務に関するルールは、国が返済の面倒を見てくれる債務を外している。地方自治体も「あれはうちの負担ではない」と目線から外す傾向がある。ただ、国が返済の面倒を見てくれる債務が膨大になっており、結果として、国のルールで見える数字と実際の重みに差があるように見えるがどうか。

 

⑥(https://youtu.be/ehwlplu4xkw?t=16m5s)国が返済の面倒を見てくれる債務について、返済のカネを毎年国から地方自治体に渡しているのにそれを積み立てていない自治体が多い。これが深刻になってきている。きちんと積み立てるよう強いメッセージを発した方が良いと思うが如何。

 

(感想:これは総務省自治財政局がフルマックスで答弁してきた印象です。「国のルール満たしているからと言って、それは財政が健全である保証にはならない。国が返済の面倒を見る債務だからといって、目線から外すな。返済のカネを積み立ててないのなら、なぜ積み立ててないのかを住民に説明すべし。」、自治財政局がここぞとばかりにホンネでぶっこんでいます。全国の自治体財政関係者は是非、是非この部分をよく参照していただきたいと思います。)

 

【地方創生・過疎地域】

⑦(https://youtu.be/ehwlplu4xkw?t=17m46s)地方創生やSDGsといった流行りワードを飯のタネにしているコンサルが地方自治体に跋扈している。国から地方自治体にお渡しする財源が中央に還流しており、しかも、成果物は地に足のつかないものが多い。何らかの対応はできないか。

 

⑧(https://youtu.be/ehwlplu4xkw?t=20m43s)過疎対策事業債は国から100%充当してもらえるため、自分の負担でないというオーナーシップの欠如が生まれる恐れがある。おかしな事業の原因になりかねない。過疎地域を支える事は当然だが、何か工夫は加えられないか。

 

(感想:この「東京コンサル還流率」、最近高いのです。如何なものかと思います。)

 

【文化事業】

⑨(https://youtu.be/ehwlplu4xkw?t=24m18s)文化庁が文化事業を支える目的でやった「Art For the Future」事業は、その崇高な理念とは裏腹に、申請した事業実施後に申請が不採択になったり、助成金が大幅削減査定されたりして、地方で文化に携わる各種団体に大きな混乱や困難を来している。今後の事業運営が困難となっている団体すらある。どうなっているのか。

 

(感想:さすがに文化庁もべた降りでお詫びでした。もう二度とこういう事が起こらないようにしてほしいです。)

 

 一問3分で、ゆとりをもって9問用意しました。時計を見ながらペース配分していたらピッタリ27分で終わってしまい(笑)、時間を余らせました。

 宗谷海峡で日本漁船「第172栄寶丸」がロシアの国境警備局に拿捕されました。非常に残念な事です。早期の解決を望みます。

 日本とロシアの間には漁業協定が3つあります。

Ⅰ サンマ、イカ、スケトウダラ等を対象とした相互入漁に関する「日ソ地先沖合漁業協定」
Ⅱ ロシア系サケ・マス(ロシアの河川を母川とするサケ・マス)の我が国漁船による漁獲に関する「日ソ漁業協力協定」
Ⅲ 北方四島の周辺12海里内での我が国漁船の操業に関する「北方四島周辺水域操業枠組協定」

 今回第172栄寶丸の操業はこの3つには当てはまりません。なので、ロシア領内で操業していたら国境警備局に拿捕されるおそれがあります。日本側発表では、第172栄寶丸は日ロ中間線の日本側で操業していたという事ですので、それを信じたいと思います。

 ところで、この件に関し、宗谷海峡の法的ステータスが結構関連しているように思います。これは私がずっと問題意識を持っている事です。

 まず、海の憲法ともいわれる国連海洋法条約では領海は12カイリとなっています。そして、領海がぶつかる所(24カイリ以下)では中間線で仕切る事になっています。日本もこのルールに従って、領海及び接続水域に関する法律で領海を定めています。

【領海及び接続水域に関する法律】
(領海の範囲)
第一条 我が国の領海は、基線からその外側十二海里の線(その線が基線から測定して中間線を超えているときは、その超えている部分については、中間線(我が国と外国との間で合意した中間線に代わる線があるときは、その線)とする。)までの海域とする。
(略)

 しかし、日本の領海の内、5ヶ所だけ領海の主張を3カイリに留めている場所があります。

【領海及び接続水域に関する法律】
附則
(略)
(特定海域に係る領海の範囲)
2 当分の間、宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡東水道、対馬海峡西水道及び大隅海峡(これらの海域にそれぞれ隣接し、かつ、船舶が通常航行する経路からみてこれらの海域とそれぞれ一体をなすと認められる海域を含む。以下「特定海域」という。)については、第一条の規定は適用せず、特定海域に係る領海は、それぞれ、基線からその外側三海里の線及びこれと接続して引かれる線までの海域とする。

 これについては、私が映像で説明していますのでこのリンクを参照いただければ幸いです。簡単に言うと、上記5海峡については「公海」部分を作っているという事です。公海ですから、そこには日本の主権は及びません。なので、例えば、津軽海峡のど真ん中で中国軍艦が停泊して、日本についての情報収集活動をするのは自由です(過去に中国艦船が津軽海峡をウロウロした事があります)。

 

 そして、この仕組みが最も歪な形で現れるのが宗谷海峡です。5海峡の内、対面に外国があるのは、稚内―サハリン間の宗谷海峡と対馬-韓国間の対馬海峡西水道です。対馬海峡西水道については、日本同様、韓国も領海の主張を3カイリに留めています。一方、宗谷海峡は違います。ロシアは中間線まで領海を主張し、日本だけが領海の主張を3カイリとしています。つまり、宗谷海峡で公海部分となっているのは、日本が中間線まで主張すれば埋まってしまう場所だけです。

 もう少し具体的に書きたいと思います。宗谷海峡は最も狭い場所で約42kmです。なので、日本(稚内)とロシア(サハリン)双方から12カイリ(約22.2km)を主張すれば、24カイリ(約44.4km)に満たないため中間線で領海を分け合う事になります。そして、ロシアは中間線まで領海を主張する一方、日本は主張を3カイリに留めています。結果として、稚内からサハリンに進んでいくと、①3カイリまでは領海、②3カイリから中間線までは公海、③中間線から向こうはロシアの領海、という事になります。②に当たる海峡の幅は、一番狭い場所で概ね15kmくらいでしょう。

 では、この知識をベースに宗谷海峡での拿捕を考えてみたいと思います。(そのような事では無いと信じていますが)仮に日本漁船がロシア領海内で違法操業をしていたとします。当然、ロシアの国境警備局は、ロシアの国内法に基づき、その日本漁船を取締り、追跡する権限があります。漁船が公海に出ても追跡を継続する事は可能です。

【国連海洋法条約】
第百十一条 追跡権
1 沿岸国の権限のある当局は、外国船舶が自国の法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由があるときは、当該外国船舶の追跡を行うことができる。この追跡は、外国船舶又はそのボートが追跡国の内水、群島水域、領海又は接続水域にある時に開始しなければならず、また、中断されない限り、領海又は接続水域の外において引き続き行うことができる。(略)

 

 ただし、その漁船が日本の領海に入ったら、ロシアの国境警備隊はそれ以上の追跡は出来ません。

 

【国連海洋法条約】
第百十一条 追跡権
(略)
3 追跡権は、被追跡船舶がその旗国又は第三国の領海に入ると同時に消滅する。
(略)

 つまり、仮に宗谷海峡のロシア領側で違法操業があったとする場合、ロシア領海(③)で追跡が始まって、日本漁船がロシア領海から出ても、まずは公海(②)ですからロシアの国境警備隊の追跡は続きます。日本領海(①)に入ってようやく(法的には)追跡不可になります。上記の通り、ロシア領海を出て最短でも15kmは追跡をかわす必要があります。しかし、上記で述べた通り、②の海域は日本がフルマックスで領海を主張すればすべて日本の領海になる場所です。そうすれば、日本漁船がロシア領海を出れば、すぐに日本領海に入るので(法的には)ロシアの国境警備隊は追跡を継続出来ません。

 私は現職時代、何度もこの件を取り上げました。外務省から担当室長が「是非議論したい」という事で訪ねて来た事もあります。私はこの件の背景として「5海峡における核搭載艦の通過」を円滑ならしめる事があるのは知っています(今は核搭載艦の領海内通過は核の持ち込みに当たるとの解釈のため公海部分を開けている)。私から「5海峡内で中国軍艦が停泊したらどうする?また、宗谷海峡の領海主張は非対称的となっている。これをおかしいとは思わないか(ましてや今回の拿捕事案のように邦人保護に差し支えかねない)。それだけの犠牲を払っても、まだ領海の主張を3カイリとする事の方が国益が高いと思うか?」と問いかけました。回答の詳細は控えますが、結論から言うと「今の仕組みの方が国益に資する」との事でした。先日、友人の大西健介議員が小此木領土・領海担当相に本件で質問した際も「見直しは一切考えていない」との趣旨の答弁でした。

 これは1977年に領海法を作った時に設けられた仕組みです。当時、外務省幹部の中にすら「おかしな事やっているな」と思った方はおられました。上記の領海及び接続水域に関する法律の附則にもある通り、この5海峡のみ領海3カイリの規定は「当分の間」のものです。つまり、何処か歪な所があるため永続的措置としては考えていなかったのです。ただ、45年の歩みの中で、現行制度を前提とした仕組みが進化してきたため、もう手を付けにくくなっているという事です。

 今回の宗谷海峡での拿捕事案は、現在の制度の歪さを若干露呈していると思います。今の制度が日本人を守るツールを少し手放している事に繋がっているわけです。制度の惰性にとらわれることなく、この制度のプラス・マイナスを考えていくべきだと思います。

 日本芸術院の会員選考に関する改革案が概ね纏まりました。この件の端緒(の一端)を開いたのは私でして「ようやく、ここまで来たか」と感慨深いものがあります。非常にザックリ言うと「芸術界でポストを得るためにカネが飛び交う構図に歯止めを掛ける」という事です。これについては、私が映像で解説しています。以下を読みこなすのが辛い方はこちらをどうぞ(日展日本芸術院)。

 構図としては、芸術界の頂点に大御所が集う日本芸術院という文化庁の特別の機関(つまり国の組織)があり、そこから広がるピラミッドの役割を果たすのが公益社団法人日展というものです。元々、日展は官展だったのですが、1957年(!)にその腐敗ぶり、日本芸術院との癒着ぶりを国会で叩かれて日展は社団法人化します。ただ、その後も日本芸術院会員を頂点とするピラミッド構造とおカネが飛び交う構図は変わりませんでした。大まかに言って、日展入選→日展特選→日展審査員→日本芸術院賞→日本芸術院会員(→文化勲章)と登るレースが繰り広げられ、日展入選100万円、特選1000万円、日本芸術院会員1億円と言われる相場観がありました。

 

 そのような中、2013年秋に朝日新聞が1面大スクープを打ちます。日展5科「書」の分野で、日本芸術院会員である日展顧問が入選枠の配分を行っていた事が明らかになりました。勿論、金銭の授受ありです。この不正審査報道は大激震であり、当時の下村文部科学大臣は「徹底的に膿があるなら出し切って」とまで言っています。

 

 その後、かなりの紆余曲折があった中、日展改革が進みます(日展内部から相当な邪魔が入った事を窺わせました)。入選、特選のためにおカネの授受はダメだとか、それまで慣行化していた「(審査員による)下見」はダメだとか、その他色々な改革が行われました。下見というのは、お金を払って下見会に作品を出して、本番で審査員をやる方にOKを貰ったら、日展本番で入選といった悪しき慣行です。私は現職時代、これをずっと追っていました。最前線に居たものとして、当初担当官庁は結構、厳し目の答弁をしていました(特に公益法人担当の内閣府はコンプライアンスの観点から日展に厳しかったです)。

 

 しかし、ある時から潮目が変わりました。私は国会で継続的に質問していたので、その変化に「あれ?」と拍子抜けしたのを覚えています。特選を目指す方が、(表向き日展とは無関係の名目で)審査員予定者に渡すカネの取り纏めをする。審査員予定者が、正式任命の数日前に「錬成会」という名で事実上の下見会を行う。こういった情報提供があり、文化庁や内閣府経由で事実認定自体はしました。どう考えても、日展改革を脱法的にかいくぐる行為でありアウトだと思うのですが、これらはすべて「お咎めなし」との答弁が返ってくるようになりました(質問答弁)。「日展改革」は、脱法行為によってかなり骨抜きになり先祖返りしています。上記の質問主意書のやり取りを見ていただければ分かりますが、下村大臣の「膿を出し切って」という精神のかけらも無くなっています。

 多分、私がしつこく日展(+後述の日本芸術院)を追っているのを問題視した芸術界の一部の大御所達が、(恐らくはカネの力で)政治家を動かして、文化庁と内閣府に「程々にしておけ」と影響力を行使したのだと私は見ています。

 ここまで日展の話を書きましたが、実は日展で不祥事があったからと言って日展改革だけやればOKにはなりません。これは日本芸術院を頂点とするピラミッドの一部でしかないので、日本芸術院改革がセットにならないとダメなんです。何故かと言うと、上記で書いた通り、日展入選100万、特選1000万、日本芸術院1億という上納金を前提とするなら、一番上で1億かき集めようとする仕組みを封じないと物事は解決しません。

 何故そんな事が起きるかというと、会員の選考プロセスに問題があるのです。

【日本芸術院令】
第三条 会員は、部会が推薦し、総会の承認を経た候補者につき、院長の申出により、文部科学大臣が任命する。
2 前項の部会の推薦する者は、部会において芸術上の功績顕著な芸術家につき選挙を行い、部会員の過半数の投票を得た者とする。
(略)

 日本芸術院は第一部美術、第二部文芸、第三部音楽・演劇・舞踊でして、カネが飛び交うのは第一部です。そして、第一部は①日本画、②洋画、③彫塑、④工芸、⑤書、⑥建築の6分野からなります。上記の政令を見ていただければ分かりますが、第一部の現会員から認めてもらわないと会員にはなれないのです(現会員の過半数から投票してもらわなくてはならない)。しかも、日本芸術院会員は終身ですので鉄板の権限です。

 ここにカネが飛び交う構図があるのです。日本芸術院会員になりたい方は、現会員に対してひたすら選挙活動をしなくてはなりません。その中で金銭の要求が出て来るのです。現会員は自分がなるためにカネを使っているので、なった後は初期投資の回収をしなくてはならないという悪循環が長年続いてきました(そういう意味で現在の構図は過去の悪習を続けざるを得ないという状況でもあります)。しかも、「部」単位ですので、例えば日本画の方は日本画の現会員だけでなく、他の洋画、彫塑、工芸、書、建築の現会員にも選挙活動をする事が求められます。私はこの「進め!電波少年」の番組を見て、「ああ、音楽(松本明子さん)であっても(当時第三部部長だったと思われる)歌舞伎の中村歌右衛門さんにコンタクトするよう求められるのだ。」といい勉強になりました。

 

(確認できないのですが、現会員が多く住んでいる京都にはそういう選挙活動回りを効率的にやるための「タクシー」があると言われていました。そこに頼むと、最短距離で悩まずに回れるそうです。今でもあるかは知りませんが。)

 

 私は国会質疑を通じて、まず「芸術院会員になりたい方が現会員にカネを渡す」という事に歯止めを入れようとしました。鍵は日本芸術院が国の機関だという事です。調べてみると、日本芸術院会員は非常勤の国家公務員です。という事は、刑法の賄賂罪(贈収賄)の対象になるのではないかと思い、確認させたら正しい事が判明しました。これは日本芸術院会員に周知されているので、現会員は驚きと共に「カネ貰ったら収賄罪」という認識を持ったはずです。

 

 ただ、ここからが難しくて、直接カネを渡すのがアウトになった後、主流になりつつあるのが「現会員の作品を購入する」というものです。これだと賄賂罪は成立しません。昔からこのスタイルはあったのですが、特に近年主流化しつつあります。なので、一流百貨店で行われる現会員による個展は(元々素晴らしい作品を作っておられるので、それを購入する方に加え)、そのような思惑で購入する方もいるため盛況であると聞いた事があります。こればかりは法律の網は引っ掛からないですね。

 

 更に私が国会で追及したのが、「会員選考で外部の目を入れろ」でした。元々日本芸術院には以下のような規定があります。

 

【日本芸術院会員推薦並びに選考規則】
第3条 日本芸術院会員の候補者は、その所属すべき部の会員が推薦するものとする。ただし、部が必要と認めた場合には部外より意見を聴くことができる。

 

 ただ、私の質疑でこの外部からの意見聴取は一度も無かった事が明らかになりました。なので、それに続いて私は以下のように質問しています。

【衆議院予算委員会第四分科会(平成27年3月10日)】
○緒方分科員 (略)広く、在野におられる方も含めて、本当に能力のある方が、今おられる方が能力がないと言っているわけではないですけれども、もっとベースが、幅広い方から選考できるような、そんな仕組みに変えていくべきではないかなというふうに私は思うわけでありますが、大臣、一言お願いいたします。

○下村国務大臣 これは御指摘のとおりだと思います。
 今後、芸術院会員の選考に当たりましては、外部の意見を適切に反映されるようにすることが望ましいため、会員候補者の推薦に当たっては、もともと規定があるわけですから、外部の意見が取り入れられるよう、日本芸術院に検討を求めてまいりたいと思います。

 

 ここまで下村大臣は踏み込んだのですが、この外部の意見反映プロセスは完全に停滞します。この質疑の時から、6年間に亘って何十回も日本芸術院は検討会議をやっているのですが、ついぞ結論が出ませんでした。外部からの目など入れてしまうと、初期投資が回収できなくなると思った第一部の現会員が検討プロセスをブロックしたのでしょう。ここにも上記の日展改革骨抜きで言及した政治の圧力があったと私は見ています(でなければ、大臣が検討を求めたものを6年もシカトする事は無理です。)。

 

 ただ、昨年秋に流れが変わりました。理由は「日本学術会議」です。菅総理が閉鎖的、身内だけで選考している等の批判をしました(単に日本学術会議が嫌いなだけで、後付けの批判だとは思いますが)。そうするとですね、日本学術会議なんかよりも遥かに閉鎖的、身内のみの選考をやっている日本芸術院という組織がある事が浮き彫りになったのです。しかも、そこにカネが飛び交っているとなると看過出来ない状況になったわけです。

 それらを踏まえ、今年2月、日本芸術院会員選考過程の見直しのための検討会議が立ち上がります。精力的に5回の会合をやり、冒頭の改革案を纏めます。日本芸術院に検討を委ねると6年経ってもうんともすんとも言わなかったものが、文化庁が本腰を入れたら3ヶ月で纏まるのです。どれだけ酷い組織なのかがよく分かるでしょう。今後は会員選考に外部の目が入るようになります。また、新たな分野(写真、デザイン、映像、マンガ、映画)が加わります。その他、結構細かい改革がなされます。

 

 非常に大きな一歩です。これで「1億円」の文化が無くなる事を切に願います。特に第一部美術に組み込まれるデザイン、写真、映像といった世界の方々がそういう悪習に染まらず、切って捨てるようになる事を切に願います。「日本学術会議」のゴタゴタがきっかけではありますが、ここまで漕ぎ着けた萩生田文部科学大臣には称賛の声を送りたいと思います。

 最後に一言。何故、私がこんな事を追っていたかというと、日展入選100万、特選1000万円、日本芸術院会員1億といった相場観でカネが飛び交うと、そのお弟子さん達が疲弊するからです。全国で多くの方が芸術活動に頑張っておられます。その師匠さんがこういうレースに参加すると、当然上納するおカネの原資を探さなくてはなりません。結果として、お弟子さん達が金銭的に疲弊する話は枚挙にいとまがないです。日本芸術院というのは、日本の芸術の粋に当たる方が集う場所であってほしい。だから、その選考でカネが飛び交ってはいかんのです。

 日米共同声明における「台湾」の扱いがとても注目されていますが、私の考えは前エントリーで書きました。それよりも、私はずっと気になっているのが「ロシアによるクリミア併合への日本の対応が中国側にどういう印象を与えているのか。」という事です。

 あれは2014年に一方的にロシアがクリミア半島を併合した案件でして、その時に日本を始めとする国際社会がどう対応したかに中国は間違いなく注目しているはずです。自分達が台湾に軍事侵攻した際、国際社会がどう判断するかの基準となると思っているでしょう。

 日本が取った措置は、大まかに言って「クリミア半島との貿易停止」、「関係者の資産凍結、入国制限」、「ロシアとの各種交渉、協議の停止」でした。時期的には国際社会よりもワンテンポ遅れました。そして、内容を見てもほぼ具体的な影響無しでしょう。つまり、「けしからん」と言いつつ全力で空振りをしたという事です。しかも、2年後の2016年にはプーチン大統領訪日で3000億円の経済パッケージを提示しています。北方領土交渉をやっている中でプーチン大統領が(多数国間の枠組み以外で)訪日したのはこの時だけです。

(なお、この時のパッケージは民間企業を巻き込んでの大規模なものでした。当時、安倍総理は「公金の投入が3000億円なのではない」といった趣旨の発言をしていました。ただ、ビジネスベースに乗るものであれば、別に政府が旗を振らなくても出資、融資等をしていたはずです。私は政府がリスクの大半を引き受ける形でこれらのプロジェクトが成立していると見ています。今でも何をやったのかがよく分からないのですが、昨年のJOGMEC法改正は、エネルギー特別会計でこの時のケツ拭きをするためのものが含まれているとも言われます。検証が必要です。)

 その他にも、例えば、2016年にシリアのアレッポ空爆が行われた際、G7で声明を出そうとしましたが、日本だけが乗りませんでした。結果、6ヶ国での声明にグレードダウンしました。アサド政権の背後に居るロシアに日本が配慮したと見るのが常識的な見方です。同時期に予定されていたプーチン訪日と北方領土交渉に影響させたくなかったからです。

 そして、日本がこれまで貫いてきた、北方領土の「不法占拠」、「固有の領土」といった表現もかなり後退させました。

 纏めると、クリミア併合に声を挙げる事に後ろ向きで、シリアのアレッポ空爆に対するG7の対応を崩し、日本の北方領土に対するポジションは後退させ、プーチン訪日時に3000億円の経済パッケージを提供、ここまでやって今眼前に何が残っているでしょうか。多分、「交渉への信頼醸成のための呼び水」として期待している共同経済活動くらいでしょう。しかし、検討されている共同経済活動なんてのは、私が20年前に国際法局条約課課長補佐だった時代に私のファイルの中にあったものと同じです。「簡単にやれるのであればとっくの昔にやっていたもの」です。法的立場を害さずにやるのが如何に難しいかが私には身に沁みています。

(北方領土交渉については、多くの政権が「俺ならやれる」と意気込んで着手します。そして、外務省は長年の苦い経験があるので色々と困難を指摘します。それが官邸幹部からすると鬱陶しいと思えてなりません。安倍政権でも官邸と外務省の間のすき間風の一つがこれでした。しかし、結果は上記の通りです。危険なんです、あの「俺ならやれる」感。)

 ここまで対露関係について書きましたが、これらの事を中国はとてもよく注視しています。クリミア併合については欧米は制裁を発動しましたが、結局プーチン政権と決定的に悪くなってはいません。少なくともクリミア併合を見直そうという力は全く働いていません。ましてや、日本については北方領土交渉をネタに強請って、対露関係を悪化させるどころかむしろお土産(2016年経済パッケージ)まで付いてきた、と見ているでしょう。事実上の「(クリミア半島併合の)是認」に近いです。であれば、台湾への軍事侵攻の際も決定的に関係を悪化させる程の事はやらないように仕組む事は出来るのではないか、特に日本についてはやりやすそうだ、という思いを中国共産党指導層が持っていたとしても不思議ではありません。

 

 国際社会では、ゲームの理論的に「相手がどう思っているか」、「相手は自分がどう思っていると思っているか」、「相手は、相手がどう思っていると自分が思っていると思っているか」といった認識の食い違いから紛争が生じていきます。そして、ある一点で原則を崩すと、そこから派生して、他でも原則を崩せると思わせるおそれが常にあります。対台湾政策で日本がどういう立場であるかという事を、中国側に誤解させている可能性が高いと私は思っています。

 日米共同声明について色々と論評が出ていますが、ちょっと違った視点から見てみたいと思います。

 

 まず、何度か出て来る「再確認」、「改めて」、「引き続き」という表現ですが、これは「これまで通り」を意味する表現です。勿論、首脳間でこれまでの路線を継続する事を確認する意味合いは大きいです。日米安保というのは紙に書いてある事を放っておけば機能するわけではありません。常にアップデートしながら、既存のコミットメントを確認しなくてはなりません。そういう事の重要性は十分に承知しています。

 

【再確認】
「日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認」
「自由で開かれた南シナ海における強固な共通の利益を再確認」
「北朝鮮の完全な非核化へのコミットメントを再確認」
「拉致問題の即時解決への米国のコミットメントを再確認」
「インド太平洋地域における繁栄を達成し、経済秩序を維持することに対するコミットメントを再確認」

 

【改めて】
「消え去ることのない日米同盟、普遍的価値及び共通の原則に基づく地域及びグローバルな秩序に対するルールに基づくアプローチ、さらには、これらの目標を共有する全ての人々との協力に改めてコミット」
「核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する揺るぎない支持を改めて表明」
「南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対を改めて表明」
「(中国に)直接懸念を伝達していく意図を改めて表明」

 

【引き続き】
「在日米軍再編に関する現行の取決めを実施することに引き続きコミット」
「普遍的価値及び共通の原則に基づき、引き続き連携」
「皆が希求する、自由で、開かれ、アクセス可能で、多様で、繁栄するインド太平洋を構築するため、かつてなく強固な日米豪印(クアッド)を通じた豪州及びインドを含め、同盟国やパートナーと引き続き協働」
「非市場的及びその他の不公正な貿易慣行に対処するため引き続き協力」

 

 最も注目された「台湾」については、正確に言うと「台湾(あるいは中華民国)」について直接触れた部分はありません。触れられているのは「(中国と台湾の間にある)台湾海峡」です。「日本海」について触れるのと、「日本」について触れるのは意味合いが違うというのはご理解いただけると思います。では、具体的な表現を見ていきます。

「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。」

 よく読んでください。誰が読んでも当たり前のことしか書いていないのです。これに反対するとすれば、「台湾海峡の平和と安定の重要性がない」と考えるか、「両岸関係の非平和的解決を促す」方だけです。さすがに中国も表向きそんな事は言わないでしょう。しかし、以下の文章だったらどうでしょう。

 

「日米両国は、台湾の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。」

 

 これだと全然意味合いが違います。「台湾の平和と安定」と「台湾海峡の平和と安定」では、台湾への肩入れの仕方が違います。そして、アメリカから来た最初の案は前者だったと私は見ています。日本側はそこまでは言えないと判断して、表現を薄めるために対案として「台湾海峡の平和と安定」という、用語としてはかなり無効化されたものを出したのでしょう。

 

 中国はこういう外交文書上の機微を十分に承知しているでしょう。内容としては誰も反対出来ない内容なのですから、中国が怒るとしたら「台湾という名前が出た事」だけです。表向きは激しい反応をしていますが、あれは内政上怖い軍人さん対策の面もあります。ホンネは違う所にあるはずです。

 

 次いで、香港や新疆ウイグル自治区の人権関連です。

 

「日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念(serious concern)を共有する。」

 

 ここにある「深刻な懸念」がどの程度の表現かという事ですが、例えば、「東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試み」、「南シナ海における中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動」には「反対(oppose, objection)」しています。そして、「ミャンマー国軍及び警察による市民への暴力」については「断固として非難(firmly condemn)」です。これらの事に比べると、「深刻な懸念」というのは重大さを下げた表現です。中国としては面白くは無いでしょうが、「想定の範囲内」だろうとも思います。

 

 共同声明から少し離れますが、中国の少数民族対策が近年極めて雑だという印象を持っています。寛容さが下がってきています。中国共産党指導層の中に、かつてであれば必ず一定の地位を占めていた少数民族出身者が少なくなっているのも影響しているかもしれません。今の強権振りは取りも直さず「自信の無さ」と表裏一体です。私は20年くらい前にチベットにも、新疆ウイグル自治区にも個人旅行をした事があるので、その感覚がよく分かります。ただ、あれでは「(中国という)国民国家」には向かわないだろうと思います。

 

 ちょっと政治系の話を離れて、私が「?」と思った所があります。

 

「日米両国はまた、パンデミックを終わらせるため、グローバルな新型コロナウイルス・ワクチンの供給及び製造のニーズに関して協力する。」

 

 この何の意味もない一文。恐らくは日本がワクチン供給について、アメリカ側に踏み込んだコミットメントを求めた事に対して、アメリカ政府からいい返事が得られなかった事の残りだと思います。かなり押し込んだけどダメだったので、訪米中に菅総理がファイザー社長と電話会談したと、私は見ます。よく考えてみてください。電話会談で良いのなら、菅総理がワシントンに居る必要はありません。必要性があったのであれば、訪米と関係なく、一日でも二日でも早く電話会談して纏めるべきものです。それが訪米中となったのは、政府間交渉で色よい返事得られなかったので急遽入れた事を窺わせるわけです。

 

 あと、オリンピックについても「?」でした。

 

「バイデン大統領は、今夏、安全・安心なオリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅総理の努力を支持する。両首脳は、東京大会に向けて練習に励み、オリンピック精神を最も良く受け継ぐ形で競技に参加する日米両国の選手達を誇りに思う旨表明した。」

 

 まず、バイデン大統領が支持したのは、東京オリパラの「開催」ではありません。開催のための「菅総理の努力」です。G7でもこの表現でしたが、その壁を越える事は出来なかったという事です。そして、次の文ですが若干の唐突感がありますね。アメリカ代表団の参加確約を日本側から強く求めたけども、そこまでのコミットが得られなかった事の残りだと思います。

 

 その他、「北朝鮮のミサイル発射に対するメッセージが弱いな」とか、「日米貿易問題について言及がない。トランプ大統領時の約束は引き継がないのだろう。日米貿易協定(での大盤振る舞い)は、安倍総理によるトランプ大統領へのお土産だった。」とか思う事は多々ありますが、また、気付いたら色々と書いていきたいと思います。

 

 全体としては、アメリカにかなりに押し込まれたけれども、日本側は上手くその圧力をかわして穏当な所に収めたと思います。一定の評価をすべきものでしょう。そして、中国側は表向き強い言葉を使っていますが、これくらいであれば決定的に関係を悪化させる程の事はしないでしょう。

 最近のCOVID-19対応に「政治的思惑」が増えて来た事がとても気になっています。ある程度は仕方ないとは言え、科学的な視点が欠如した対応は何処かで行き詰ります。2点だけ挙げておきます、「まん延防止等措置(と緊急事態)」と「第4波」です。

 

 「まん延防止等措置」については、よく「緊急事態と何が違うの?」と聞かれます。私は「まん延防止等措置」は「緊急事態ライト」と位置付けています。細かな所を捨象すると、「休業要請・命令がやれるかどうか」にほぼ帰結するでしょう。まん延防止等措置を導入した背景には、緊急事態という言葉は強いので避けたいけども、ある程度の強い措置は取れるようにしたいという意向を見て取る事が出来ます。緊急事態は都道府県毎に出される事が想定されている(法律上はそうなっていませんが)ので、財政支出への跳ね返りが強いという事も懸念もあるのだと思います。結果として「今、どれくらいの状態なのか」がどんどん分かりにくくなっています。

 「第4波」についても同様です。第3波の際の緊急事態解除を比較的早目にやったため、現状を第4波と言ってしまうと、緊急事態解除の政治的責任を問われるという考慮があるため、なかなか第4波という表現を使いたがらないのでしょう。

 これは昨年5-6月に北九州市(と東京都)のみで感染が広がった時に同様の経験をしました。当時の官房長官が「第2波ではない」と言った事と、北九州市長が「第2波」と記者会見で言った事でその食い違いがかなり注目されました。恐らく市には官邸からお叱りめいたものが飛んできた事でしょう。ただ、後付けでデータを見てみると、どう見ても北九州市に起こった事は「第2波」であり、「第2波と呼びたくない官邸」の姿の方が違和感があります。政治的思惑で「第1波の継続なのか、第2波なのか」が弄ばれた印象があります。

 

 「政治的思惑」が絡む事をすべて排する事は難しいですが、科学に基づかない形で「緊急事態」、「第4波」といった言葉の使用を避ける事によって国民に誤解を与えるおそれがあるのであれば、それは危険な事だと思います。

 

 そして、現状を見ていると、私は「同調圧力」の限界を感じます。私は当初から「現在の対策は同調圧力によって補完されて機能している」と指摘して来ました()。改正前の新型インフルエンザ等対策特別措置法は、緊急事態時であってもほぼすべての措置が「要請」でした。要請に従っていただけない方には「名前の公表(つまりは見せしめ)」が用意されていました。つまり、ピア・プレッシャーを掛けるという事ですが、日本的に言うとこれは「同調圧力」であり、「村八分」です。

 このような手法は欧米ではまず機能しません。なので、当初は日本が法制度上強い措置を取っていないのに、そこそこ感染者が抑え込めているのを欧米メディアは興味深く取り上げていました。政権幹部も日本的手法を礼賛する向きが強かったように記憶しています。

 しかし、繰り返しになりますが、制度を保管しているのは文化としての「同調圧力」と「村八分」です。私は当初から「この同調圧力が機能しなくなる時は制度そのものが機能しない」と指摘して来ました(再掲)。そして、現在起こっているのは正に同調圧力が機能しなくなった状態です。コロナ疲れでもう外出や移動の抑制に従ってもらえなくなっています。同調圧力くらいでは「もう生活や仕事が厳しくなって来ていて、そんなものには従えない」というのが現状でしょうし、それを世の中全体も是としているように見えます。

 多分、現政権の考えは「だからと言って、オリンピック開催の可能性を残す中、今更法改正の上、強い措置は取れない。ワクチンが広まれば収まるので、そこまでの我慢。」という事でしょう。私も現状を前提とするなら、その考えは理解します。「今からでも法改正して強い措置を取るべき」とまで言っているわけではありません。

 ただ、将来同様の事が起こる時のための検証として、極めて厳格な要件の下での時限的な私権制限を導入しておくべきではなかったのかと思います。具体的には外出禁止や休業命令、更には個人情報保護法の一部停止による(スマートフォン等の活用による)感染状況の把握です。台湾のオードリー・タン大臣がやったような対策を礼賛するのであれば、個人情報保護法を時限的に停止せざるを得ないはずです。

 私は基本的人権の尊重という事をとても大切に考える人間です。「私権制限を考えて強権政治を目指す悪魔」ではありません。そこに制約を掛ける事の重大さをきちんと理解しています。そして、やらずに済むのであればやりたくないとも思っています。一度やってしまうと「慣れ」が出来てしまう事への恐怖感は、戦間期ドイツの歴史を学んでよく知っています(なので、私は憲法に「緊急事態条項」を入れる手法にはかなり懐疑的です。)。

 ただ、こういう危機的な時にすべてが自主的な措置(+同調圧力)だけでやっていけると思えないのです。集中的にそのような私権制限を含む措置を導入して、徹底的にCOVID-19の広がりを叩いてしまう事で早期に平穏な世の中が取り戻せるのであれば、それを国民各位は評価していただけるのではないかという思いだけです。しつこいですが、同調圧力が機能しない中では今のコロナ対策の制度はほぼ機能しません。

 私の見解には争いがあるでしょう。御批判がある事も重々承知をしています。

 アメリカが対馬海峡で「航行の自由作戦」を実施した、日本の領海設定を問題視という報道がありました。現時点ではほぼすべての報道+有識者コメントには誤解がありますので解説しておきます。

 

 まず、海洋法の基礎からスタートします。海には公海があります。ここは原則自由な海域です。そして、各国の基線(領海等を引く基となる線)から12カイリ以内の海域が領海です。ここには国際法に基づいて沿岸国の主権が及びます。そして、基線の内側に「内水」があります。分かりやすいのは湾とか内海でして、これは領海よりも内側にある海域になります。内水は一部を除いて国際法が適用されません。基本的には沿岸国の自由です。

 

 そして、この基線の引き方、つまりは内水の決め方が今回の問題になっているのです。私の目には領海設定の問題ではなく、内水設定の問題だと映っています(領海は基線から12カイリと決まっていますので、その設定に問題が生じるはずが無いのです)。国連海洋法条約には、基線の引き方として「直線基線」というルールが設けられています。これは何かと言うと、海岸が著しく曲折しているか、海岸に沿って至近距離に一連の島がある場所においては、ゴチャゴチャするのでなくグイーンと直線で基線を引いて、そこから領海の計算をしてもいいよとなっている事を指します。これだと何の事か分からないので、海上保安庁のサイトを見ていただくと分かります。このページで濃い青と普通の青の境目に引かれている赤線が直線基線です。そして、濃い青の部分は領海ですらなく内水です。

 

(日本は平成8年にこの直線基線を決めています。国連海洋法条約では、こういう後になって引いた直線基線の内側にある内水での自由な航行は認めるようになっています。内水に国際法のルールが掛かっている数少ない部分です。)

 

 アメリカが言っているのは「直線基線が膨らみ過ぎだろ?」という事です。それは「内水を取り過ぎだろ?」という事を意味します。これは突然言い始めた話ではありません。冷戦時代からアメリカは自由に航行できる海域を出来るだけ広く取る事を基本政策としています(当時、ソ連とこの点では一致していた)。なので、国際的なルールが殆ど掛からない内水の範囲が広がる事については、世界中何処であっても厳しい視線を注ぎます。このアメリカの基本姿勢(出来るだけ自由な海域を広く取る)は日本に苦しい所があり、例えば中国の艦船がトカラ海峡を通航する際、中国は「ここは(自由度高く航行出来る)国際海峡だ。」と主張し、日本は「ここは国際海峡では無いので、日本のルールに従え。」と主張しています。多分、このケースではアメリカは日本の味方はしてくれないでしょう。

 

 アメリカの「航行の自由作戦」と言うと、南沙諸島の環礁で基地を作る中国を牽制するためのものだと思っている方が多いです。勿論、それは重要な要素なのですが、同作戦の全体像はそれだけではありません。自由な海域を多く確保するのが基本目標であり、そこから見ると、日本の直線基線が膨らんでいる事も、中国の南沙諸島での策動も厳しく対応するという事です。

 

 しかも、日本は過去にも航行の自由作戦の対象と見られて来ました。記憶が定かではないのですが、たしか民主党政権時代からこの図の能登半島→舳倉島→佐渡あたりの直線基線の引き方が問題だとアメリカから指摘されていました。アメリカは「能登半島から富山・新潟の本土に基線を戻すべし」と言っており、舳倉島に直線基線を引くなという事も含まれていたような気がします(違っているかもしれません)。ただ、2013年頃にこの海域を問題視する記述が航行の自由作戦のサイトから消えました。多分、安倍政権がアメリカ側とかなりの交渉をしたんだろうと思います。全然目立たないネタですが、私は「結構な得点だよな」と思っていました。

 

 そして、今回、アメリカは対馬海峡付近で作戦をやっているようです。あくまでも想像ですが、この図における五島列島から無人島白瀬を経由して壱岐に直線基線を伸ばし、そのまま我が福岡県の世界遺産沖ノ島、山口県の見島と直線基線が伸びていく事の全体(又はその一部)を問題にしているのではないかと思います。なので、本当に日本が採用する直線基線が適当なのか、内水になっている部分が本当に内水扱いで良いのかを問うているのでしょう。今回、具体的には日本は領海と見なしているけれども、アメリカが妥当とする基線から測れば公海になる狭い海域で軍事行動を行っているのだと思います(領海内での他国の軍事行動は国連海洋法条約で禁じられている)。更には五島列島から上甑島、鹿児島県の諸群島に引いている直線基線もケチを付けているだろうと思います。もしかしたら、この図の対馬そのものの直線基線もケチ付けるんじゃないかなと思います。

 

 再度、この日本の全体図を見ていただくと、九州と北陸、東北、北海道西部での内水の膨らみ方が大きい事に気付いていただけると思います。とどのところ、それらのすべてをアメリカは問題視していると思っていただいていいでしょう。将来的にこれらの海域においても、日本の基線では領海、アメリカが妥当とする基線から測れば公海になる場所での軍事行動はあり得ると見るべきです。

 

 アメリカの言い分をすべて聞いていると、日本の主権が及ぶ範囲が狭くなります。もう少し渋いネタを披露しておくと、この基線は領海のみならず、排他的経済水域や大陸棚を測定する時にも使われます。そうすると、仮にアメリカの言い分通りにすると、東シナ海の大陸棚開発に関する日中中間線の位置に影響するはずです。10年以上前、中間線の付近で開発するガス田はどちらの国の大陸棚かという問題がかなり盛り上がりました。日中の基線から測った中間線ギリギリの所に白樺(春暁)、楠(断橋)、樫(天外天)、翌檜(龍井)といったガス田があります。そして、中間線を測る基線の一部は長崎県ではなかったかなと思います。特に翌檜(龍井)ガス田の付近の日中中間線は長崎県のはずです。この図を見ていただくとよく分かります。

 

 仮にアメリカの言い分通りにして長崎県の直線基線が凹むと、その分だけ中間線が日本側に寄ってしまいそうです(つまり境界ギリギリで日本側にあるガス田が中国側に行ってしまうおそれ)。ただ、中国側の上海付近の直線基線も(たしか日本以上に)かなり大胆なので、こちらもアメリカは認めていません。日中双方が仮にアメリカの言い分で基線を取った時に中間線が何処になるのかは私も知りません。ただ、そういう極めて機微なネタである事は主権意識の高い方には知っておいてほしいです。

 「航行の自由作戦」とはこういうものを含むのです。突然やってきた話ではなく、また、常に日本に有利となる作戦ではないのです。

 橋本聖子参議院議員が、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長としての給与を辞退したとの報道がありました。これは公職選挙法の「公職の候補者等の寄附の禁止」に当たるのではないか、と気になります。

 

【公職選挙法(一部省略の上、抜粋)】

(公職の候補者等の寄附の禁止)

第百九十九条の二 公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない。(以下略)

 

 そして、この「選挙区内にある者」については以下のような統一見解があります。なお、この質疑自体は議員の歳費返納に関するものです。

 

【衆議院予算委員会(平成27年1月30日)】

○高市国務大臣 公職選挙法第百九十九条の二の第一項でございますが、公職の候補者等は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもってするを問わず、寄附をしてはならないと規定しております。

 この当該選挙区内にある者とは、当該選挙区内にある全てのものを意味し、自然人や法人のほか、国や地方公共団体も含まれるところでございます。したがって、議員が歳費を受領しそれを国庫に納付するというのであれば、それは国に対する寄附であり、公職選挙法に禁止されているところでございます。

 

 このような規定と解釈があるので、例えば、河井案里前参議院議員を始めとする不祥事に関与した議員による歳費返納がやりにくいのです。国会議員の歳費返納は(法律に基づくものを除けば)上記の解釈により禁止されます。

 

 橋本聖子議員は参議院比例区の選出です。つまり、参議院比例区の選挙は全国何処からでも投票していただけますので、日本「全国」が選挙区です。なので、上記答弁の用語をそのまま引用すると、選挙区内たる全国にある全てのものへの寄附が禁じられます。以前、全国比例選出議員の方と話した際、「自分は選挙区が全国なので、この手の寄附関係はとても気を付けている。」と話していたのをよく覚えています。なお、「本来貰うはずのものを貰わない」というのも、公職選挙法上は寄附に当たります。つまり、この場合は橋本聖子議員による公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック組織委員会への寄附という扱いになりそうです。

 

 その辺り、きちんと法令との関係の整理を付けてやっているんですかね。非議員である森喜朗さんが会長として無報酬であったのとは、全く意味合いが違います。ちょっと気になりますね。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長の発言について、国内外から批判の声が出ています。

 国会でも「辞職」、「更迭」を求める声が出ています。それに対して、菅総理は「更迭する権限は無い」としています。これ自体はその通りです。ただ、このやり取りは極めて不十分です。というのも、組織委員会は公益法人です。という事は公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(公益法人法)の対象となります。公益法人自体は民間団体ですが、その公益性に鑑みて一定の法的規制が掛かります。

 ちょっと法律を追っていきます。まず、公益法人というのは以下のようなものです。

【公益法人法第四条(公益認定)】
公益目的事業を行う一般社団法人又は一般財団法人は、行政庁の認定を受けることができる。

 では、ここで言う「公益目的事業」とは何かというと、以下のようになっています。

【公益法人法第二条(定義)】
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(略)
四 公益目的事業 学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものをいう。

 ここで「別表」という言葉が出て来ます。もう少し見ていきたいと思います。

【公益法人法別表(第二条関係)】
(略)
九 教育、スポーツ等を通じて国民の心身の健全な発達に寄与し、又は豊かな人間性を涵養することを目的とする事業
(略)
十四 男女共同参画社会の形成その他のより良い社会の形成の推進を目的とする事業
(略)

 すべての公益法人がスポーツ事業や男女共同参画事業をやる事を求めているわけではありませんが、例えば、男女共同参画が公益法人にとっての大切な価値観の一つだという事はよく分かります。そして、森会長の発言はこの公益法人法の掲げる価値観に反するものだろうと思うわけです。

 

 そして、公益法人法において「行政庁」は以下のような権限を持っています。「報告要求」というものです。

 

【公益法人法第二十七条(報告及び検査)】

行政庁は、公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度において、内閣府令で定めるところにより、公益法人に対し、その運営組織及び事業活動の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、当該公益法人の事務所に立ち入り、その運営組織及び事業活動の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。

 そして、ここにある「行政庁」とは、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会については内閣総理大臣です。ただ、内閣府において、この事務については特命担当相が担当しています。担当大臣は(現在、コロナ対応をしている)西村大臣です。ちなみに、公益法人法においては究極的には勧告、命令、公益認定の取り消しといった権限もあります。ただ、普通は報告要求の段階で震え上がって改めるので、そういう強い措置が取れるステージへ移行する事はありません。

 私は公益財団法人のトップとしてこれだけの大騒ぎを起こした以上は、法令に基づいて、内閣総理大臣の権限を担当する西村内閣府特命担当相が森会長を呼んで、「何やってんの、あなた方?」と報告を要求するくらいの事はすべきだと思います。それは公益法人のガバナンスを確保する観点から重要な事でしょう。これは法令に基づく要求ですから重いです。そして、普通であれば、この時点で相当な効果があります。

 「更迭する権限が無い」といった菅総理の発言は正しいです。ただ、それは何もやれる事が無いという事とは別です。野党も折角質問するなら、公益法人法における行政庁としての内閣総理大臣の権限についてまで言及してほしかったなとは思います。