アメリカが対馬海峡で「航行の自由作戦」を実施した、日本の領海設定を問題視という報道がありました。現時点ではほぼすべての報道+有識者コメントには誤解がありますので解説しておきます。

 

 まず、海洋法の基礎からスタートします。海には公海があります。ここは原則自由な海域です。そして、各国の基線(領海等を引く基となる線)から12カイリ以内の海域が領海です。ここには国際法に基づいて沿岸国の主権が及びます。そして、基線の内側に「内水」があります。分かりやすいのは湾とか内海でして、これは領海よりも内側にある海域になります。内水は一部を除いて国際法が適用されません。基本的には沿岸国の自由です。

 

 そして、この基線の引き方、つまりは内水の決め方が今回の問題になっているのです。私の目には領海設定の問題ではなく、内水設定の問題だと映っています(領海は基線から12カイリと決まっていますので、その設定に問題が生じるはずが無いのです)。国連海洋法条約には、基線の引き方として「直線基線」というルールが設けられています。これは何かと言うと、海岸が著しく曲折しているか、海岸に沿って至近距離に一連の島がある場所においては、ゴチャゴチャするのでなくグイーンと直線で基線を引いて、そこから領海の計算をしてもいいよとなっている事を指します。これだと何の事か分からないので、海上保安庁のサイトを見ていただくと分かります。このページで濃い青と普通の青の境目に引かれている赤線が直線基線です。そして、濃い青の部分は領海ですらなく内水です。

 

(日本は平成8年にこの直線基線を決めています。国連海洋法条約では、こういう後になって引いた直線基線の内側にある内水での自由な航行は認めるようになっています。内水に国際法のルールが掛かっている数少ない部分です。)

 

 アメリカが言っているのは「直線基線が膨らみ過ぎだろ?」という事です。それは「内水を取り過ぎだろ?」という事を意味します。これは突然言い始めた話ではありません。冷戦時代からアメリカは自由に航行できる海域を出来るだけ広く取る事を基本政策としています(当時、ソ連とこの点では一致していた)。なので、国際的なルールが殆ど掛からない内水の範囲が広がる事については、世界中何処であっても厳しい視線を注ぎます。このアメリカの基本姿勢(出来るだけ自由な海域を広く取る)は日本に苦しい所があり、例えば中国の艦船がトカラ海峡を通航する際、中国は「ここは(自由度高く航行出来る)国際海峡だ。」と主張し、日本は「ここは国際海峡では無いので、日本のルールに従え。」と主張しています。多分、このケースではアメリカは日本の味方はしてくれないでしょう。

 

 アメリカの「航行の自由作戦」と言うと、南沙諸島の環礁で基地を作る中国を牽制するためのものだと思っている方が多いです。勿論、それは重要な要素なのですが、同作戦の全体像はそれだけではありません。自由な海域を多く確保するのが基本目標であり、そこから見ると、日本の直線基線が膨らんでいる事も、中国の南沙諸島での策動も厳しく対応するという事です。

 

 しかも、日本は過去にも航行の自由作戦の対象と見られて来ました。記憶が定かではないのですが、たしか民主党政権時代からこの図の能登半島→舳倉島→佐渡あたりの直線基線の引き方が問題だとアメリカから指摘されていました。アメリカは「能登半島から富山・新潟の本土に基線を戻すべし」と言っており、舳倉島に直線基線を引くなという事も含まれていたような気がします(違っているかもしれません)。ただ、2013年頃にこの海域を問題視する記述が航行の自由作戦のサイトから消えました。多分、安倍政権がアメリカ側とかなりの交渉をしたんだろうと思います。全然目立たないネタですが、私は「結構な得点だよな」と思っていました。

 

 そして、今回、アメリカは対馬海峡付近で作戦をやっているようです。あくまでも想像ですが、この図における五島列島から無人島白瀬を経由して壱岐に直線基線を伸ばし、そのまま我が福岡県の世界遺産沖ノ島、山口県の見島と直線基線が伸びていく事の全体(又はその一部)を問題にしているのではないかと思います。なので、本当に日本が採用する直線基線が適当なのか、内水になっている部分が本当に内水扱いで良いのかを問うているのでしょう。今回、具体的には日本は領海と見なしているけれども、アメリカが妥当とする基線から測れば公海になる狭い海域で軍事行動を行っているのだと思います(領海内での他国の軍事行動は国連海洋法条約で禁じられている)。更には五島列島から上甑島、鹿児島県の諸群島に引いている直線基線もケチを付けているだろうと思います。もしかしたら、この図の対馬そのものの直線基線もケチ付けるんじゃないかなと思います。

 

 再度、この日本の全体図を見ていただくと、九州と北陸、東北、北海道西部での内水の膨らみ方が大きい事に気付いていただけると思います。とどのところ、それらのすべてをアメリカは問題視していると思っていただいていいでしょう。将来的にこれらの海域においても、日本の基線では領海、アメリカが妥当とする基線から測れば公海になる場所での軍事行動はあり得ると見るべきです。

 

 アメリカの言い分をすべて聞いていると、日本の主権が及ぶ範囲が狭くなります。もう少し渋いネタを披露しておくと、この基線は領海のみならず、排他的経済水域や大陸棚を測定する時にも使われます。そうすると、仮にアメリカの言い分通りにすると、東シナ海の大陸棚開発に関する日中中間線の位置に影響するはずです。10年以上前、中間線の付近で開発するガス田はどちらの国の大陸棚かという問題がかなり盛り上がりました。日中の基線から測った中間線ギリギリの所に白樺(春暁)、楠(断橋)、樫(天外天)、翌檜(龍井)といったガス田があります。そして、中間線を測る基線の一部は長崎県ではなかったかなと思います。特に翌檜(龍井)ガス田の付近の日中中間線は長崎県のはずです。この図を見ていただくとよく分かります。

 

 仮にアメリカの言い分通りにして長崎県の直線基線が凹むと、その分だけ中間線が日本側に寄ってしまいそうです(つまり境界ギリギリで日本側にあるガス田が中国側に行ってしまうおそれ)。ただ、中国側の上海付近の直線基線も(たしか日本以上に)かなり大胆なので、こちらもアメリカは認めていません。日中双方が仮にアメリカの言い分で基線を取った時に中間線が何処になるのかは私も知りません。ただ、そういう極めて機微なネタである事は主権意識の高い方には知っておいてほしいです。

 「航行の自由作戦」とはこういうものを含むのです。突然やってきた話ではなく、また、常に日本に有利となる作戦ではないのです。

 橋本聖子参議院議員が、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長としての給与を辞退したとの報道がありました。これは公職選挙法の「公職の候補者等の寄附の禁止」に当たるのではないか、と気になります。

 

【公職選挙法(一部省略の上、抜粋)】

(公職の候補者等の寄附の禁止)

第百九十九条の二 公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない。(以下略)

 

 そして、この「選挙区内にある者」については以下のような統一見解があります。なお、この質疑自体は議員の歳費返納に関するものです。

 

【衆議院予算委員会(平成27年1月30日)】

○高市国務大臣 公職選挙法第百九十九条の二の第一項でございますが、公職の候補者等は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもってするを問わず、寄附をしてはならないと規定しております。

 この当該選挙区内にある者とは、当該選挙区内にある全てのものを意味し、自然人や法人のほか、国や地方公共団体も含まれるところでございます。したがって、議員が歳費を受領しそれを国庫に納付するというのであれば、それは国に対する寄附であり、公職選挙法に禁止されているところでございます。

 

 このような規定と解釈があるので、例えば、河井案里前参議院議員を始めとする不祥事に関与した議員による歳費返納がやりにくいのです。国会議員の歳費返納は(法律に基づくものを除けば)上記の解釈により禁止されます。

 

 橋本聖子議員は参議院比例区の選出です。つまり、参議院比例区の選挙は全国何処からでも投票していただけますので、日本「全国」が選挙区です。なので、上記答弁の用語をそのまま引用すると、選挙区内たる全国にある全てのものへの寄附が禁じられます。以前、全国比例選出議員の方と話した際、「自分は選挙区が全国なので、この手の寄附関係はとても気を付けている。」と話していたのをよく覚えています。なお、「本来貰うはずのものを貰わない」というのも、公職選挙法上は寄附に当たります。つまり、この場合は橋本聖子議員による公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック組織委員会への寄附という扱いになりそうです。

 

 その辺り、きちんと法令との関係の整理を付けてやっているんですかね。非議員である森喜朗さんが会長として無報酬であったのとは、全く意味合いが違います。ちょっと気になりますね。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長の発言について、国内外から批判の声が出ています。

 国会でも「辞職」、「更迭」を求める声が出ています。それに対して、菅総理は「更迭する権限は無い」としています。これ自体はその通りです。ただ、このやり取りは極めて不十分です。というのも、組織委員会は公益法人です。という事は公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(公益法人法)の対象となります。公益法人自体は民間団体ですが、その公益性に鑑みて一定の法的規制が掛かります。

 ちょっと法律を追っていきます。まず、公益法人というのは以下のようなものです。

【公益法人法第四条(公益認定)】
公益目的事業を行う一般社団法人又は一般財団法人は、行政庁の認定を受けることができる。

 では、ここで言う「公益目的事業」とは何かというと、以下のようになっています。

【公益法人法第二条(定義)】
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(略)
四 公益目的事業 学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものをいう。

 ここで「別表」という言葉が出て来ます。もう少し見ていきたいと思います。

【公益法人法別表(第二条関係)】
(略)
九 教育、スポーツ等を通じて国民の心身の健全な発達に寄与し、又は豊かな人間性を涵養することを目的とする事業
(略)
十四 男女共同参画社会の形成その他のより良い社会の形成の推進を目的とする事業
(略)

 すべての公益法人がスポーツ事業や男女共同参画事業をやる事を求めているわけではありませんが、例えば、男女共同参画が公益法人にとっての大切な価値観の一つだという事はよく分かります。そして、森会長の発言はこの公益法人法の掲げる価値観に反するものだろうと思うわけです。

 

 そして、公益法人法において「行政庁」は以下のような権限を持っています。「報告要求」というものです。

 

【公益法人法第二十七条(報告及び検査)】

行政庁は、公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度において、内閣府令で定めるところにより、公益法人に対し、その運営組織及び事業活動の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、当該公益法人の事務所に立ち入り、その運営組織及び事業活動の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。

 そして、ここにある「行政庁」とは、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会については内閣総理大臣です。ただ、内閣府において、この事務については特命担当相が担当しています。担当大臣は(現在、コロナ対応をしている)西村大臣です。ちなみに、公益法人法においては究極的には勧告、命令、公益認定の取り消しといった権限もあります。ただ、普通は報告要求の段階で震え上がって改めるので、そういう強い措置が取れるステージへ移行する事はありません。

 私は公益財団法人のトップとしてこれだけの大騒ぎを起こした以上は、法令に基づいて、内閣総理大臣の権限を担当する西村内閣府特命担当相が森会長を呼んで、「何やってんの、あなた方?」と報告を要求するくらいの事はすべきだと思います。それは公益法人のガバナンスを確保する観点から重要な事でしょう。これは法令に基づく要求ですから重いです。そして、普通であれば、この時点で相当な効果があります。

 「更迭する権限が無い」といった菅総理の発言は正しいです。ただ、それは何もやれる事が無いという事とは別です。野党も折角質問するなら、公益法人法における行政庁としての内閣総理大臣の権限についてまで言及してほしかったなとは思います。

 ある有識者と話していて、この令和2年度第3次補正に入った「新市場開拓に向けた水田リノベーション事業」は「(WTO協定で禁じられている)輸出補助金ではないか?」とのご指摘がありました。同事業は「新市場開拓用米」の生産に対して、通常のコメの生産よりも手厚い補助を付けるというものです(10アール当たり4万円)。

 結論から言うと「ほぼアウト」です。

 「国際貿易」という学問を学ぶと、かなり最初の方に「最も貿易歪曲性の高い政策」として輸出補助金が出て来ます。輸出そのものに対して補助をするわけですから、交易条件を直接ねじ曲げます。1980年代、農業補助金をジャブジャブ出し過ぎて農産品が余ったECは余剰農作物を輸出するために輸出補助金を付けました。これが世界全体の農作物市場を著しくねじ曲げたという事で、現行のWTO農業協定では大幅削減する事が決まりました。今、(瀕死状態の)WTOドーハラウンドでは「禁止」に踏み込もうとしたのですが、結局成立していません。そして、日本は元々輸出補助金を出していなかったので、ゼロで規律が掛かっており、新規の輸出補助金はやれません。

(ちょっと話が逸れますが、1993-94年の農業協定交渉の終盤、フランスは一旦、米・ECの間で纏まった輸出補助金大幅削減のルールをひっくり返しました。ひっくり返したのは当時の首相エドゥアール・バラデュール。削減の程度を緩めました。輸出補助金で恩恵を被っていた農家から称賛の声が上がりました。「お国のヒーロー」という感じでしたね。)

 この事業においては「新市場開拓用米」という秀逸な表現を使っていますが、事実上、これは輸出向けです。来年度はコロナ禍でコメの需要が数十万トン減ると言われている中、国内には「開拓」すべき「新市場」は無いでしょう。そして、この事業を紹介する地方自治体の資料を見ていると「新市場開拓用米(輸出用米)」と書いてある所が多いです。政府レベルでそう書くと露骨にアウトなので「新市場開拓用」としていますが、名称の如何に関わらず、日本は新規の輸出補助金は出せません。

【WTO農業協定第九条 輸出補助金に関する約束】
次の(a)から(f)までの類型に該当する輸出補助金は、この協定に基づく削減に関する約束の対象となる。
(a) 政府又はその機関が、企業、産業、農産品の生産者、協同組合その他の農産品の生産者の団体又は販売に従事する機関に対し、輸出が行われることに基づいて直接補助金(現物による支払を含む。)を交付すること。
(略)
(d) 輸出農産品についての市場活動のための費用(取扱い及び品質向上その他の加工のための費用並びに国際運送に係る費用を含むものとし、輸出促進及び助言に関する広く利用可能な役務に係る費用を除く。)を軽減するために補助金を交付すること。
(略)

 今回の「新市場開拓に向けた水田リノベーション事業」は、かなりの可能性で上記の規定に引っ掛かりそうです。何処ぞやの国から、WTOの紛争解決処理に「(新規輸出補助金が禁じられている)日本が輸出補助金を出している」と訴えられたら負け筋です。

 そもそもですが、この事業によって農家がコメを海外に大々的に安く投げ売ったら大変な事になりそうです。逆にそこまで輸出が伸びないのであれば、10アール当たり4万円という高水準の補助をしたのに、作ったコメを政府が抱え込む事になるかもしれません。今年度第三次補正で290億円が計上されているのですが、この微妙な予算規模が政府の思いを反映しているかもしれません。「あまり大々的にやると問題だし、かと言って、あまりに少ないと輸出促進にならない。」という事です。もっと言うと、補助水準が高いので「新市場開拓用米」への希望が殺到したらどうするんだろう?とも思います。

 何はともあれ、この事業、危なっかしいなと思います。もう予算は成立しているのですが、与党、野党での検討の中で誰か言わなかったのですかね。何時も言いますが、一昔前の自民党なら通商のプロだった議員から「これ、輸出補助金じゃないのか?」と指摘が必ず来そうなものです。昨年4月頃の「和牛商品券」、「お魚商品券」に似た、通商ルールのリテラシーの低さを感じます。

【以下のエントリーは、Facebookにおける盟友福島伸享さんの書き込みにアイデアを得たものです。】

 

 新型インフルエンザ等対策特別措置法及び感染症法の改正案(要綱新旧対照条文)について、修正協議が纏まったようです。どうしても「刑事罰」とか「国会報告」とかに注目が集まります。勿論、刑事罰というのは前科が付くわけわけですから重大な出来事です。ただ、過料の金額については、そもそも休業命令まで出てもやっている方は腹が座っている方ですからあまり金額の多寡が重きをなすとは思えません。

 

 それよりも、(福島さん同様)私も「いざと言う時にこの仕組みは機能するのか?」という事が気になります。それは感染症法改正の一番最後の所に書いてある各関係者間の権限関係です。「医療崩壊」という言葉を目の前に、きちんと指揮系統は担保されるのかという事です。

 

 ここで一番気を付けなくてはならないのは「各関係者は仲が悪い」という事を前提に考えなくてはならないという事です。第一波の時、東京都と一部の特別区との関係は悪かったですね。福岡県と両政令市(福岡市、北九州市)との間も結構大変です。そして、一番想起されるのは国と東京都との関係が悪いという事です。今、何故、緊急事態をめぐる議論が輻輳しているかというと、昨年春の段階で東京都が緊急事態に基づいて休業要請をしようとしたら、国がそれを止め、業を煮やした東京都知事が緊急事態とは関係ない規定で休業要請をしたからです。今の法律では休業要請が明示的に書いてあるのは緊急事態時だけなのですが、そうでなくても出せる道を開いています。あれ以来ずっと、「休業要請は何に基づいて出すのか」という議論が混乱を極めています(今回の法改正が若干歪なのもそれが原因です)。

 

● まず、「厚生労働大臣及び都道府県知事による協力の要請等」というのがあります。厚生労働大臣及び都道府県知事は、感染症の発生防止のため緊急の必要があると認めるときは、必要な措置を定め、医師その他の医療関係者等に必要な協力を求める事が出来るとあります。従わない時は勧告した上で、名前を見せしめる事も出来ます。

 

 ここで興味深いのは、主語が「厚生労働大臣『及び』都道府県知事」なんですね。しかも、都道府県知事の下にはカッコで「保健所設置市等の長を含む」と書いてあります(「等」には東京都の特別区も入ります)。とすると、例えば、国と都道府県知事で意見が一致しないケース、あるいは、国と都道府県、国と保健所政令市の2者では一致しているけど、残りの1者が反対しているケースではどうするのか、という事があるでしょう。例えば、国と新宿区は協力要請で一致しているけれども、東京都が反対しているケースです。

 

● その次に「都道府県知事による入院調整の実施」という規定があります。都道府県知事は、感染症のまん延により医療機関が不足するおそれがある場合、保健所設置市等の長、医療機関その他の関係者に対し、入院の措置等その他の事項に関する総合調整を行えます。これは都道府県知事単体の権限です。

 意地悪く見てみると、上記の「厚生労働大臣及び都道府県知事による協力の要請等」の調整が整わない時、都道府県知事が業を煮やして、この「都道府県知事による入院調整の実施」の規定を拡大解釈して、「入院の措置等その他の事項に関する総合調整」で何でもかんでもやろうとする事はあり得るでしょう。しかも、こちらは都道府県知事が保健所設置市等に対して総合調整の名の下に手を突っ込んでくる事が出来ます。国や保健所設置市等との調整が厄介な時、都道府県知事がこの規定に駆け込む事は荒唐無稽ではありません。

● 更には「厚生労働大臣が指示を行うことができる範囲の拡大」という事で、都道府県知事が法律違反している場合において、特に必要があると認めるときは都道府県知事に対し、必要な指示をすることができるとなっています。「指示」ですので、かなり強い権限です。

 つまり、この3つの権限規定(やそれ以外の規定)が重複するありとあらゆる可能性を検討しないといけないのですが、「仲が悪い」者同士が拡大解釈しようとする時、どう見てもぶつかるような気がします。実は私は「刑事罰 or 行政罰」とか、「国会報告」とかよりもこちらの方がとても気になります。

 あと、全体として規定がザックリしているので、これらの規定で何処までやれるのかがよく分かりません。いざと言う時はありとあらゆる医療リソースの動員という事が出て来るでしょう。その時、引っ掛かるおそれがあるのが、感染症法で決まっている感染症の分類(とそれに伴う諸措置)だというのは既に指摘があります。今回の法改正による規定では、そういった事を乗り越えてまで、各病院に指示、勧告をやれるのか、という疑問があります。

 

 ちょっと極端なケースを挙げたり、細かいケースを論っているように見えるかもしれません。ただ、上記で述べたように、休業要請の根拠規定を巡っては、法律を作った時には想定もしなかったようなやり方でこれまで運用されて来ました。危機管理においては、この手の指揮系統が混乱するのが一番良くないです。正に危機管理の要諦である「想定外を想定する(Think the unthinkable)」を貫いてほしい所です。

 新型インフルエンザ等対策特別措置法と感染症法の改正案が固まったようで、概要を拝見しました。全体像を詳細に把握できているわけではありませんが、断片的に思った事を書いておきます(読み方が間違っているかもしれませんので、その点は予めお断りしておきます。)。

 

 まず、「緊急事態措置ライト」に当たる「まん延防止等重点措置」なるものが設けられます。簡単に言うと、「緊急事態宣言は強過ぎるので、その前でも休業要請・命令が出来るようにしたい。」という事です。とは言っても、これまで緊急事態措置の時ですら存在しなかった「(休業の)命令」まで出来るようになっています。一方、国会報告等は一切なく、改正法におけるこの規定の位置からしても「緊急事態措置ではない(程度のもの)」との位置付けは明確です。憲法論としては「その程度のもので命令を含む人権制限をしてもいいのか」という論点はあるでしょう。 法改正の話があった時、私は「緊急事態措置ライト」を作るのではなく、今の緊急事態措置にプラスして(命令まで出来る)強い措置を可能とする「緊急事態措置プラス」を作ると思っていました。でないと、憲法論との関係で整理が付きにくいからです。

 

 多分、現在「(政府が宣言する緊急事態措置ではない)独自の緊急事態宣言」を出している県については、「緊急事態措置ではなく、こっちでやって。」という事になるのだと思います。実際、まん延防止等重点措置であろうと、緊急事態措置であろうと、休業については「立入検査」、「報告徴収」、「命令」が出来ます。しかも、従わない場合に過料が課せられます。

 

 これは行政罰としての「過料」ですので、警察マターではありません(私が一番に連想したのは、地元黒崎駅前に設定されている喫煙禁止地域で喫煙した時の「1000円の過料」です。)。という事は、都道府県職員が違反の店舗に対して「立入検査・報告徴収します。拒否したら過料です。」、「命令違反です。過料を収めてください。」と言いに行くという事でしょう。ただ、各都道府県当局はそんな事するかな?と思うのです。そもそも、休業命令に従わない店舗は根性の入っている店舗ですから、担当職員には結構勇気と力の要る作業になります。抑止としては効果があると思いますが、実効性については「どの知事が先頭切ってやるのだろうか?」という疑問が頭をもたげます。

 

 あとですね、書類を読んでいると、突然、他の指定感染症でも重篤性があり、急速にまん延するものについては、新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象とするという規定がピョコッと入っています。これは今回のCOVID-19とは関係ないのではないかと思います。あまり注目されない規定なのでしょうが、この(強い措置を取る事が可能な)新型インフルエンザ等対策特別措置法のスコープがグンと広がった感じがします。

 

 感染症法の改正については、私が以前から言っていた「保健所間の風通し」の話が盛り込まれました。都道府県の保健所と保健所政令市(や東京都の特別区)の保健所との関係が良くない所がたくさんあります。福岡県で言うと、福岡市、北九州市、久留米市の保健所は県の管轄下にはありません。東京都など、すべての特別区と八王子、町田の保健所は都の管轄下にはありません。一時期、都はこれら保健所から情報が来ないので、都が直接病院に電話して情報収集をしていたと聞いた事があります。今回、都道府県内で対策を講じようとする時に、これらの保健所から「何故、あなた方(都道府県)にあれこれ言わなくてはいかんのだ?法的に我々はあなた方の指揮命令系統下には無い。」といった感情のほつれが結構ありました。今回、感染症法の改正で、少なくとも保健所政令市や特別区の保健所は都道府県に対して発生状況の報告をする事が定められました。法律を作ったから風通しが良くなるというものではないのですが、少しでも改善につながればと思います。

 

 また、(対象を限定した)入院勧告・措置に従わなかったり、積極的疫学調査に応じなかったりした方には「罰金」が定められています。行政罰の「過料」と違って、こちらは刑罰ですので「前科」が付きます。その他、都道府県知事が国の言う事を聞かない時に指示が出来るとか、医療機関が協力的でない時に(従わない時の見せしめ付きで)勧告できるとか、結構強い規定が入っています。これまで起こった様々な事に対する現政権の苛立ちを感じさせる内容です。

 

 総じて感じるのは、地方分権型の新型インフルエンザ等対策特別措置法の骨格は崩さないようにしながらも、国が口を挟める範囲を広げようとしている、ただ、それと同時に都道府県知事の権限もかなり広がり、強化されているという事です。今後、各都道府県の判断が今にも増して重要になって来るでしょう。

 昨年は私の怠惰もあり、ブログの更新がかなり疎かになっていました。また、きちんと再開したいと思います。

【要旨】
● 日本の海洋調査船が、日韓中間線付近で調査をしていたら韓国公船から退去を求められた。これは日本が肥前鳥島をEEZや大陸棚の基点とした事で、日韓中間線が韓国側にずれた事が背景にある。しかも、更にその裏には竹島に対する韓国の姿勢へのミラーアタック的な戦略もある。
● 現在、韓国との大陸棚の分け方については1978年の南部協定があるが、日本に不利な内容であり、かつ国際法の主流の考え方にも基づいていない。今後、再交渉に乗り出すべきだが、その時の基点には肥前鳥島を含めるべき。

 

【本文】

 さて、先日、日本の海洋調査船が、日韓中間線の日本側で調査をしていたら、韓国の公船から当該海域は日韓中間線の韓国側であり、事前承認が無いので退去するよう求められたとの報道がありました。この件は結構奥が深いです。

 

 まず、この報道から分かるのは「日韓中間線の捉え方が、両国間で異なる」という事です。通常、排他的経済水域(EEZ)や大陸棚については、沿岸から200カイリで認められていますが、相対する国の距離が400カイリ未満の際は中間線で分け合うというのが基本ルールです。東シナ海は基本的にこのルールで進めるべき海域です。

 

 では、何故、日韓間で中間線の位置の捉え方が異なっているかというと、少し複雑な事情があります。今回のケースでは、韓国側は済州島を基点とし、日本側は長崎県の肥前鳥島が基点となって中間線を構成しているというのが日本側の理解です。以前は肥前鳥島は、国連海洋法条約上の「島」に当たらないという事で、EEZや大陸棚の基点とはしていませんでした(同条約上、島に当たらない「岩」はEEZや大陸棚を有しないという事になっています)。なお、竹島についても同様の取扱いでした。

 

 しかし、韓国が竹島をEEZや大陸棚の基点とするようになったため、日本側も対抗措置として肥前鳥島を「(国連海洋法条約上の)島」として基点とするようになったという経緯があるようです(私自身はこの経緯をよく知らないのですが、政府に入っていた事がある与党議員がそのように言っているのでそうなのでしょう)。

 

 それまでは肥前鳥島よりも東にある男女群島や福江島を基点としていたのですが、肥前鳥島を基点とするようになると、自ずと中間線は韓国側の方に動きます。この旧中間線と新中間線の間の海域で、今回、日本の海洋調査船が調査をしていたのだと思われます。つまり、竹島でそのような主張をするのなら、こちらも別の場所で(EEZや大陸棚に伴う)主権的権利を主張させてもらうというのが、この全体の動きなのだと思います。当該海域で調査をする事自体が戦略的な動きなのです。安倍政権(特に第一次政権と第二次政権の前半)の功績としては、「領土、領海では腹一杯主張する」というのがあったと思います。

 

 これだけだとWikipediaの延長っぽくて、陳腐な内容なのですが、もう少し続きがあります。実はこの地域の大陸棚については、1978年に発効した日韓大陸棚南部協定というのが現在有効です。これは当時大揉めに揉めました。当時の国際法では、相対する国の間で大陸棚を分ける時は「自然延長論」が主流でした。したがって、日本は中間線から日本にせり出した部分だけを共同開発区域とする事で合意しています。当時、国会審議では「不平等条約ではないか!」という議論がかなり行われています。したがって、この条約は効力を50年とし、3年前から終了を通告する事が出来る事になっています。

 

 そして、国際法の主流はその後変化しまして、今は「中間線論」が主流になっています。国際法の考え方が変わったのには、海底地形の複雑さ等から自然延長論が適当でないケースが世界のあちこちで出た事も背景にあると思います。近年の大陸棚の議論は「まず、中間線を引いてそこから交渉」というのがスタンダードです(何が何でも中間線で引かなくてはならないという事までは国際法は言っていません。あくまでも「まず中間線」というのが交渉のスタートという事です。)。

 

 なので、2025年以降2028年までの間に日本政府は判断を迫られます。今の(旧中間線から日本側だけが割を食っている)南部協定をそのまま延長するのかどうかという事です。それに加えて、恐らくなのですが、南部協定を合意した際には肥前鳥島は基点に入れていないと思います(この点を確認したいのですが、正直な所、合意文には共同開発鉱区のエリアしか書いていないので、何処が基点となっているかは条約文からは分かりません。)。仮に現行の南部協定を終了させ、再交渉するのであれば、日本側はそもそも基点そのものを見直す所から交渉をする事になります。

 

 長らくこの南部協定については「時限爆弾」的な所がありまして、私が外務省条約課課長補佐の時も「2025年には判断しなくてはならない」ときちんと理解していました(が、当時はまだ「20年先の話」と思っていました)。色々な複雑な要素が絡みますが、私は2025年以降2028年までの間の何処かで南部協定の終了を通告して、きちんと交渉に乗り出すべきだと思います。

 日英の経済連携協定が「大筋合意」しました。

 自著「国益ゲーム」に書いたのですが、この大筋合意と呼ばれるものには「いい合意」と「悪い合意」があります。いい合意というのは、本当に大筋で纏まっていてあとは細部を詰めるだけというものです。悪い合意というのは、積み残しがあるにもかかわらず、政治的にプレイアップするために大筋合意を発表してしまうというものです。悪い合意をしてしまうと、あとは本合意に向けて、積み残しの細部でどんどん追い立てられて不利になっていきます。なお、後者は日米貿易協定でして、大筋合意してからもかなりゴタゴタして、それを取り繕うために奇妙奇天烈な理屈がどんどん出て来ました。一方、今回の日英経済連携協定は前者であるように見えます。

 全体像が分からないので何とも言えないのですが、公表されている限りですと「日本が英国の足元を見て優位に交渉した」ように見えます。英国は今、EUとの離脱交渉が全く上手く進んでいません。双方が「相手が悪い」と非難合戦をやっています。そういう中、英国としては「EUとは上手く行ってないけど、上手く行っているケースもあるもんね。」という成果を取る事は政治的に価値が高かったはずです。それが日本との経済連携協定交渉でした。つまりは英国の「メンツ」です。

 何処を見てそう思ったかというと、自動車の関税です。EUと同じペースで下げて、2026年2月でゼロになります。ここでポイントは「EUと同じペースで下げる」という事です。EUとの経済連携協定は2019年2月発効で、自動車関税を8年目で撤廃します。今回の協定は2021年1月発効でしょうから、実質的には協定発効後6年目で関税撤廃する事になります。「おたくの事情(BREXIT)でこの交渉をやっているんだから、EUのペースと合わせろ。」という主張して、それを通したという事です。

 「そんなの当たり前だろ」と思うかもしれませんが、そう事は簡単ではありません。日米貿易協定では、日本はアメリカに対して同様の事をやっています。そして、アメリカは日本に対して同様の事をやってくれていません。アメリカのTPP離脱という「おたくの事情」があったにも関わらず、日本は(先に発効している)TPPでの関税引下・撤廃のスケジュールをアメリカにも適用するように求められ、それを飲んでいます。しかも、アメリカ側の関税引き下げはTPPで取り付けたものとは全く見合わないくらいレベルの低いものでした。

 英国との関係では「おたくの事情(BREXIT)で、おたくの関税削減のスタートの時期が日EUと比較して遅れるのだから、そのスケジュールは日EUに合わせろ。」と主張し、アメリカとの関係では「おたくの事情(TPP離脱)で、おたくの関税削減のスタートの時期がTPPと比較して遅れているけども、そこは一切追求しません。そして、うちの関税削減のスケジュールはTPPに合わせます。」となっています。

 英国との関係では、上記の通り「英国側の焦り」があり、そこに日本が上手く付け込んだ感じです。一方、アメリカとの関係では、日米外交全体の中で「アメリカへの借り」が多かったため、アメリカの事情で遅れたものに日本が合わせたという感じです。二国間関係やそれぞれの国の国際関係が色濃く反映されている事を見て取っていただけるでしょう。

 ところで、最後まで課題となった英国チーズの日本への輸出。元々の日本の関税率は29.8%です。ソフト系チーズは、EUに対して20,000トン(初年度)→31,000トン(16年目)の枠を設けて、その枠内での関税を徐々に削減していき、16年目で撤廃するという事にしていました。英国は名産品のスティルトン(ブルーチーズ)をこの低関税枠で輸出する事に拘っていました。しかし、英国に特別枠を設けると「対EU枠+対英国枠」となり過剰だというのが日本のポジションでした。

 最終的には、日EUに基づく低関税枠に余剰がある場合に限り、EU産チーズと同じ低い関税水準を適用するとなったようです。「英国への特別枠は設けない。日EUの枠内で。」と当初から茂木外相は言っており、その発言はきちんと守られました。そこは素直に評価していいでしょう。

 

 ただ、私が不思議なのが、実務的に「余剰がある場合」を判断するのは何時なんだろうという事です。各年度のかなり後半にならないと、EUからどれくらいのソフト系チーズの輸入がなされていて枠の余りはどれくらいなのか、そして、英国産にどれくらいの枠を出してあげられるのか、なんて分からないはずです。となると、まず年度初めの4月の段階でスティルトンを輸入しようという業者など居ないはずです。低関税が適用されるのかが分からないからです。仮に輸入して国内販売するとしても、低関税を前提とした価格設定は出来ないでしょう。

 

 そもそも、この「余剰がある場合」に低関税となると、税の仕組みとして戻し税になるのではないかと思うのです。低関税が適用だと分かればその分は輸入業者さんに戻すみたいなイメージです。そんな状況では、「余剰がある場合」が確定的となる年度末しか、低関税の安いスティルトンは輸入されてこないのではないかという懸念がどうしても出て来るのです。

 この程度の懸念は農水省や財務省のプロは重々分かっているはずです。今後、詳細を詰めると言っているので、こういうおかしな事にならないような良い仕組みを考えてほしいと思います。私、ブルーチーズが大好きでして、フランスのロックフォール、イタリアのゴルゴンゾーラ、デンマークのダナブルーと並んで、英国のスティルトンも好きです。日本で安価で楽しめるようになってほしい所です。

 1ヶ月前くらいに書いた「沖ノ鳥島近海における海洋調査」のエントリーはアクセス数が多く、関心の高さを感じました。ですので、少しだけ補足しておきたいと思います。

 

 簡単に纏めると、中国の主張は「沖ノ鳥島が日本の領土である事は否定しない。なので領海を持つ事は当然。しかし、沖ノ鳥島は、国連海洋法条約上、排他的経済水域や大陸棚を有する事が出来る『島』ではなく『岩』だ。なので、沖ノ鳥島を基点とする(領海を越えた)200カイリ水域はただの公海。うち(中国)が何しようとグダグダ言われる筋合いではない。」という事です。

 南沙諸島では、(領海すら持たない)低潮高地のサンゴ礁に巨大な人工物を積み上げて権利を主張しているくせして何言ってんの?という気はしますが、今日はそこは取り上げません。

 

 先日のエントリーでも書いた通り、日本は国連の大陸棚延長申請に関する大陸棚限界委員会から出た勧告で、沖ノ鳥島を基点とした大陸棚の延伸を認めさせています。この地図における四国海盆海域(左上の紫部分)の大陸棚については日本の大陸棚として完全に確定しています。そして、国連の勧告では、沖ノ鳥島を基点とした大陸棚延伸も四国海盆地域の権原の根拠となっています。とても簡単に言うと、「国連の勧告では沖ノ鳥島は大陸棚を持つ事が大前提となっている。」という事です。

(ちょっと話が飛びますが、この地図の真ん中にオレンジ色の小笠原海台海域及び南硫黄島海域という2つの海域があります。これも日本の大陸棚と認められているのですが、関係国との調整が必要な海域となっています。この関係国とは実はアメリカです。北マリアナ諸島最北端のファラリョン・デ・パハロス島からの大陸棚延伸とぶつかる可能性があるので、アメリカと調整しなくてはなりません。ただ、この8年間、全く進みませんでした。安倍政権を詰る意図は無いのですが、「何やってんのかな?」という気にはなります。)

 さて、ここから重要なポイントです。現在の中国の海洋調査を少し別の視点から見ると、沖ノ鳥島が排他的経済水域や大陸棚を持つ事を中国が巻き返して否定しようとしている事になります。仮にこれが否定されてしまうと、実はこの大陸棚に関するテーマでとんでもない事が起きます。まず、当たり前ですが沖ノ鳥島を基点とする200カイリ水域での権原が否定される事になるわけですが、それだけでなく、地図の左下側にある九州・パラオ海嶺南部海域(黄色の部分)への権原も否定される事になるわけです。この海域は偏に沖ノ鳥島を基点とする大陸棚延伸です。巨大なエリアにおいて、日本の主権的権利が失われる事になります。

 現在、九州・パラオ海嶺南部海域については国連による大陸棚延伸の勧告が先送りされている状態です。日本として、沖ノ鳥島が排他的経済水域や大陸断を有する島である事を常に主張し、それを確定させる動きを継続し、それを否定する行為には断固たる姿勢で接しておかないと、少しずつ九州・パラオ海嶺南部海域の大陸棚の権原が日本から遠のいていきます。是非、沖ノ鳥島を基点とする海域の権原確定に向けてどんどん頑張ってほしいと思います。

 内閣府総合海洋政策本部はとても良い組織なのですが、閣僚たる海洋政策担当相というのはいつも「おまけポスト」でして本腰を入れてやってくれません。事の重要性は誰も否定しないにもかかわらず、政務レベルではあまり重視されていない印象があります(なお、フランスには「海大臣」が専任でいます)。上記の小笠原海台海域及び南硫黄島海域に関するアメリカとの協議とて、閣僚が乗り込んで調整するくらいの気概が本当は欲しいです。私が内閣委員会に居る時は、海洋政策担当相に問題意識を持ってもらおうという事で必ず質問するようにしていました。ある大臣からは「あなたから質問が来るからみっちり勉強したよ。」と苦笑いしながら言われた事もあります。

 

 中国に沖ノ鳥島を基点とする200カイリ水域で好き勝手させてしまうと、既成事実が積み上がってしまい、最終的にはかなり広い海域すら失いかねないという点は十分に留意する必要があるでしょう。

 香港国家安全法をめぐる状況から、日中間の刑事分野での協力関係を停止すべきだとの声があります。まず、物事を整理すると、日中間に犯罪人引渡条約はありません。一方、刑事共助条約があります。両国間で捜査協力するための二国間国際条約です。そして、この刑事共助条約の運用停止を主張する方がおられます。

 

 その気持ち自体はよく分かります。ただ、この条約には運用停止の規定がなく、機能を止めるとすると終了しかありません。ウィーン条約法条約には運用停止について書いてある条項がありますが、このようなケースで使えそうなものはありません。基本的に、運用停止には双方の合意が必要です。そして、条約の終了については、相手国にその意図を通告してから180日後に終了します。しかし、気を付けなくてはならないのは、条約を終了させる事は日本にも不利益がかなりあるという事です。日本国内で犯罪行為を行って、中国に逃げ込んでいる人物への捜査協力が滞るという事になります。日中刑事共助条約の運用停止や終了は全くお勧めいたしません。

 

 というか、そんな事をする必要は無いと思います。通常、刑事共助条約には共助の拒否事由が定められています。一般的に、この手の刑事共助条約の常識として、政治犯は対象としないとか、自国で罰せられない行為は対象としない(双罰性)とかが盛り込まれます。日中刑事共助条約もその例に従って、そういう共助は拒否「できる」となっています。

 

【日中刑事共助条約第三条】
1 被請求国の中央当局は、次のいずれかの場合には、共助を拒否することができる。
(1) 被請求国が、請求された共助が政治犯罪に関連すると認める場合
(2) 被請求国が、請求された共助の実施により自国の主権、安全、公共の秩序その他の重要な利益が害されるおそれがあると認める場合
(3) 被請求国が、共助の請求がこの条約に定める要件に適合していないと認める場合
(4) 被請求国が、共助の請求が何人かを人種、宗教、国籍、民族的出身、政治的意見若しくは性を理由に捜査し、訴追し若しくは刑罰を科する目的でなされていると、又はその者の地位がそれらの理由により害されると信ずるに足りる実質的な根拠があると認める場合
(5) 被請求国が、請求国における捜査、訴追その他の手続の対象となる行為が自国の法令によれば犯罪を構成しないと認める場合

(略)

【引用終了】

 

 では、これを下敷きにして、香港国家安全法との関係を見てみたいと思います。

 

 まず、香港国家安全法は、中国本土の国家安全法を下敷きにしたものです。ただし、香港国家安全法の特徴として、法律の域外適用が強烈だという事です。私は中国語が出来ませんけど、以下の文章が「香港の永住権を持たず、香港に住んでない人間」であっても、この法律の適用があるという事は大体分かります。中国本土の国家安全法にはこの域外適用の規定は無さそうですので(違っていたらすいません)、この点は香港国家安全法特有の事情として考慮する必要があります。

 

【香港国家安全法第三十八条】

不具有香港特别行政区永久性居民身份的人在香港特别行政区以外针对香港特别行政区实施本法规定的犯罪的、适用本法。

 

 したがって、日本国内で、日本人が「FREE HONG KONG」という旗を掲げて、駐日中国大使館前で示威活動をしていたら、法技術的には香港国家安全法違反である可能性が高いです。そういう規定を設けておいて、「将来、中国に入国しようとした時、香港国家安全法違反で拘束されるかもしれないぞ」という恐怖感を世界中に広く与えるのが目的でしょう。

 

 かつては、国内法の域外適用と言えばアメリカの十八番でした。適用の恣意性が高い事、罰則の決め方も結構恣意的である事等から、アメリカへの批判は強かったです。日本企業はかなり苦しめられました。一方、アメリカ司法の長い手で国際犯罪を捕捉した事もありますし、国際的な経済制裁として機能する事で抑止に繋がっている部分もあります。そして、香港国家安全法を見ていると、今後、中国が国内法の域外適用をやって来る萌芽がここにあるかもしれません。

 

 法律論的には、日本国内で「FREE HONG KONG」の活動をしている方に対して捜査共助要請が来る事も想定しなくてはなりません。ただ、私は別に条約の運用停止とかやらなくても、条約に則って共助を拒否すればいいと思います。そもそも、政治犯は共助の対象にはなりません。そして、恐らく香港国家安全法の規定の大半は、日本国内では犯罪に当たらないと思いますので、双罰性の基準によって弾かれるでしょう。

 

 なので、今やるべきは以下の2点だと思います。

 

①香港国家安全法で罰せられる行為は日本の法令では犯罪に当たらない事を確認する。
②政治犯や双罰性の無い行為に関する共助に応じない事を確認する。(注:条約上は拒否「できる」となっているだけなので、拒否「する」事を確約させる。)

 

 これが確認できれば、条約に則って共助に応じない事が担保されるという事です。条約の運用停止とか終了とか大騒ぎせずに、スマートに「うちは、条約の規定に基づいておたくの香港国家安全法をベースにした刑事共助はやりませんよ。」と宣言するだけです。


 一度、国会の閉会中審査での外務委員会を開いて、対外相でこの手の質疑をして、上記のような政府の方針を取り付ける努力をしてはどうかと思います。その時、仮に外相がゴニョゴニョ言ったら、次の手を考えればいいという事です。ゴニョゴニョ言いそうな気もしますが、条約の原則だけを振り翳して共助拒否について明確なコミットメントが無いと国内的な反発は避けられないでしょう。