TPPにおいて、関税撤廃の対案としてTPP対象国向けの関税割当枠を設けるという案がありました。関税割当というのは、ある一定の数量までは低関税で輸入するけど、その数量を超える分は高関税を適用するというシステムでして、日本では今でも結構多くの品目に使われています。ガット・ウルグアイ・ラウンド以前は輸入数量規制とか輸入禁止が行われたのですが、ラウンド交渉妥結で、農業分野では数量規制や禁止はダメになりまして、一定のアクセス(カレント・アクセス、ミニマム・アクセス)を提供した上で、それを超える分についても絶対に輸入しないという選択肢は禁じられました。
専門用語をたくさん使いましたが、簡単にいえば「低関税輸入枠」だと思ってください。例えば、今、100%の関税がかかっているある農林水産品について、一律に関税撤廃することは出来ないけども、TPP諸国から輸入する10万トン分については関税を撤廃した上で、10万トンを超える分については引き続き100%を維持するようなイメージです。
この選択肢、誰に都合がいいかと言うと、まずアメリカ、そして日本の関係者となることが想像されます。関税割当のマネージメント次第で色々な可能性が考えられるのですが、(1)TPP諸国であれば自由に使える関税割当、(2)枠の割り振りに日本政府が関与する関税割当、というカテゴリー分けをしたいと思います。
まず、大前提はTPP諸国のみに適用可能な関税割当ですから、当然、その低関税枠の分については、例えば中国、韓国、ロシア、EUは参入してこないということになります。(1)については、TPP諸国という限られた国の間でしか競争が働かないということになります(その競争の働かせ方については色々あるのですが、それは技術的に過ぎるので省きます。)。(2)については、TPP諸国間でどう枠を割り振るかについて更に日本政府のさじ加減が働きます。
今、コメの輸入では一種の関税割当(ミニマム・アクセス)が適用されていますが、不思議なことに低関税枠の半分弱は必ずアメリカから輸入しています。アメリカ以外の国については、タイ、オーストラリア等のシェアは結構揺れ動くのですが、アメリカからのコメの輸入枠についてはシェアがピタッと安定しています。私はウルグアイ・ラウンド合意時にそういう内容の一種の密約があったと思っています。ちなみに、コメの関税割当については、日本政府が大半の枠の割り振りについて権限を持っています。
結局、アメリカからすると、ただのTPP諸国向け関税割当(上記の(1))ですと、大半の農産品で強豪オーストラリアやカナダと競争しなくてはなりません。枠内競争のルールのところでアメリカに有利な手法とするか、枠の割り振りに日本政府のさじ加減が働いてくれるかの、いずれかを希望するでしょうから、裏で押し込んできているかもしれません。日本の農政関係者からしても、低関税枠のマネージメントに関与する方式にすれば、例えば枠内輸入する品目の品質、価格帯等を操作することが出来るかもしれません(現在、コメでやっているように)。国内の農政との整合性を出来るだけ図ろうとしたいので、上記の(2)の方式を農林水産省は志向するはずです。
ここで何となく「自由貿易とは縁遠い世界だな」と思われた方もいると思います。今、日本のコメの輸入で起こっていること(暗黙のアメリカ分シェア確保)は自由貿易とは遠い世界ですし、そこでアメリカは利益を確保しています。TPPの妥結に際して、同じことを他の品目でも考えるのではないかなと思うわけです。
「関税割当」及び「そのマネージメント」、技術的に過ぎて分かりにくい世界です。しかし、こういう技術的なところ、細かいところに、色々なものが潜んでいることが多いのです。