政治資金規正法改正が議論されています。佐田、松岡、赤城の3大臣による事務所費問題で完全に火がついてしまいました。ただ、この件、色々と波及すると思うので感じたことを書いておきます。


 まず、政治資金規正法で収支報告書の義務がどうなっているかということを少し解説します。多分、この辺りがあやふやで議論している人がいるような気がするので。全部書くと膨大になるので、支出の欄がどうなっているかを書きます。


 政治団体の支出というのは大きく分けて2種類です。経常経費と政治活動費に分かれます。


・経常経費:人件費、光熱費、備品・消耗費、事務所費
・政治活動費:組織活動費、選挙関係費、機関紙誌の発行、その他の事業費、調査・研究費、寄付・交付金、その他の経費


 これで経常経費については、先の通常国会の改正前までは「項目ごとにその総額を記入」となっていました。政治活動費については、1件5万円以上のものについては支出先の氏名、住所、目的、年月日を記入し、それ未満については項目毎に合計額を記入すればいいことになっています。この経常経費のところはいくら使おうが内訳を報告する必要はないので、まあブラックボックス化していたわけです。本来、政治活動的なものに使っていても、政治活動費の方に入れてしまうと5万円以上は領収書の写しの添付までが義務付けられてしまうので、まあ経常経費の方に入れといたわけです。まあ、その結果が赤城大臣による事務所実体のない事務所費だったり、松岡大臣の1本5000円の「ナントカ還元水」だったわけです。


 先の通常国会では、「資金管理団体」についてのみ経常経費(人件費を除く)については5万円以上は領収書を添付するようにしましょうということに改正しました。これはザル法だと言われていました。公職の候補者は資金管理団体という政治団体を一つ持つことが出来ます。これを作ると政治資金規正法上のメリットが幾つかあるのです。細かくは説明しませんが、まあ、資金管理団体にお金を移す時は政治資金規正法上の縛りがかなり弱くなるという理解でいいです。したがって、実は大きなお金を動かす必要のない公職の候補者は本当は資金管理団体を持つ必要はないのですが、大方の政治家は地方から国政まで資金管理団体を持っています。今、日本には7万くらいの政治団体があり、その中で資金管理団体は1万数千だということです。先の通常国会での改正はこの資金管理団体のみを対象にしましょうということだったのです。


 国政に出る政治家は大体、複数の政治団体を抱えているケースが多いです。しかも、これが例えば「緒方林太郎政経フォーラム」なら「ああ、緒方林太郎という人と関係があるんだな」と分かりますが、緒方林太郎という人間が「北九州刷新の会」という政治団体を抱えていて、苗字の違う友人にその代表をお願いし、しかも「会の規約」に緒方林太郎という名前が一回も出てこなければ、これは何の政治団体なのかさっぱり分かりません。そういう団体でお金を集めては、政治団体間でお金を移動させたり(政治団体間の資金の移動は今は「年5000万円まで」と規制があるが、最近までは野放図だった)、政治団体として支出したりすることも可能なわけです。まあ、お金の流れを辿れば、その政治団体が誰に繋がっているのか突き止められなくはないですが得てして難しいです。しかも、政治家が常に政治資金を資金管理団体を中心に扱っているとは限らないのです。資金管理団体は、政治資金規正法の縛りを抜けるために使って、その後は資金を他の団体に移して活用することだってできるわけです。「資金管理団体だけに規制を強化する」というのは、「すべからく政治家たるもの、政治資金の太宗は資金管理団体で扱う」という前提があってのことです。一応、安倍総理は「自民党の内規で、政治資金は資金管理団体に集中させるようにする」と言っていましたが、まあ「内規」では効果は低いでしょう。


 ここで「すべての政治資金を1円から領収書を添付して報告させる」という改正案について、どういう帰結になるかを考えてみたいと思います。


 「事務が煩雑になる」、当たり前のことです。これは論評の価値がありません。


 「香典など領収書が貰えないようなものはどうしたらいいのか」、なかなか良い質問です。ただ、ここにはもう一つ公職選挙法の規定があることを知っておく必要があります。香典が認められるのは本人が葬儀に参列する場合のみです。代理出席での香典は禁じられています。したがって、お忙しい政治家さんがそんなに頻繁に葬儀に行けるわけでもないでしょうから、本当はそんなに大きな金額になるはずがないのです。それでも「香典」を例外扱いにして「領収書の添付は不要。年の総額のみの報告でOK。」とすると、「私は年1000回葬式に行った。1回1万円包んだ。」みたいな理屈で「香典費1000万円」みたいな報告をする人も出てきます。これは私なりの解決策があります。「香典先の個別の報告はしてもらうけど一般公開の対象外(総務省や各選管が厳重に保存するだけ)」とすればいいでしょう。さすがにどんな悪党でも公文書で出す際に「死者」をでっち上げたり、行ってもいない葬儀を行ったことにすることはしないでしょうから規制として十分に機能すると思います。


 問題はそういうことじゃないのです。今は経常経費の中の事務所費に非常に焦点が当たっていますが、それは経常経費をブラックボックスにして、本来政治活動費に該当するような内容なんだが違法色が強いものを紛れ込ませているということなのです。本丸はやはり「政治活動費」なのです。政治団体で集めた資金を違法な政治活動費として表に出せないかたちで使う際に、経常経費のカテゴリーが使用されてきたのですね。では、経常経費も政治活動費も1円から領収書添付となると何が起こるでしょうか。法律で政治家は「寄付」が禁じられています。例えば、地域のお祭りをやっている時に「寄付」を包むことは本来禁じられています。もっと言うと、とあるコンサートのチケットをこれまでの関係もあるので10枚購入するというのもアウトです。買った政治家本人しか行かないのなら、コンサート主催者に対する「寄付」ですし、買ったチケットを周囲の人にタダで分ければ、今度は分けてもらった人に対する「寄付」です。いずれにしても本来アウトです。会費5000円の会に、会費と称して1万円渡せば5000円分は寄付に当たります(「会費」自体は他の出席者と同等の額である限りはOK)。こういう小額の寄付だけでなく、「もち代」「氷代」という名目でもっと高額の寄付をしている政治家もいるでしょう。これらについては、これまでであれば5万円未満のものであれば政治活動費として処理して、5万円以上のものについては経常経費の中に潜り込ませていたわけです。


 これが今後、すべて領収書公開になるとお金の流れが分かりやすくなります。ただ、私はこういう法改正をする際に国民一人一人の側にも求められることがあるように感じます。ともすれば、今でも日本には「政治家たるもの、顔を出す時は金一封を包んで来い」という風土があります。露骨に言うケース、そうでないケースありますが、選挙を抱える政治家でそういう声に抵抗できる人は意志の強い人です。次の選挙で対抗馬になる人が包んでいっているのに、自分は一銭も包まないでは済まないでしょう。大半の政治家は「違法」だと知りつつも、結局金銭を出すことを事実上迫られているのが現状です(私はそれを是認、推奨しているわけではありません。単に現実を語っているだけです。)。実は「政治に金が掛かるのはけしからん」と言いつつも、求める風土がやはりあるんです。もっと考えを進めると、今後、すべて領収書を貰ってそれが公開の対象ということになると、政治家はそういうお金を政治資金の中で処理しなくなるような気がします。「今後は領収書が必要なんで金は出しません」ではなくて、ポケットマネーから出しておくかということになります。つまり、自分の私的な生活にしわ寄せをしながら、これまで政治資金の中に忍び込ませていたものを引き続き出すという選択をする人が多いように思います。


 それでは意味がないのですね。政治資金の方をバチッと規制したら、今度は奥の手で個人のお金に手をつけるようになるというのは、どんどんアングラ化するだけです。私は今回、仮に1円以上の政治資金はすべて領収書添付で公開ということになる際、国民一人一人が「自分達も政治家に金銭を求めない」という文化を真の意味で有するようになるべきだと考えます(今でも求める行為は違法ですけどね)。金銭を出す側、求めた側に対する罰則を非常に強化して、「怖くて出せない」、「怖くて貰えない」くらいにしておくのも一案です。