保険の原風景
保険会社は、1件だけ引き受ける場合、
直ぐに事故に遭うと大変な損失です。
そのため、
まずは、n年に一回起きる発生率であれば
n件加入してほしいと考えます。
10年に一度起きるのであれば、
同じ契約が10件あれば、
事故後も同様に保険料を払い続けてもらえれば
毎年の保険金支払いは可能となります。
しかし、実際は、1/10の確率でも、
2件発生する年もあれば
0件の年もあるといったバラツキが発生します。
そこで、
nの10倍、100倍、1000倍と母集団が増えると、
概ね毎年、1/nの発生率で落ち着きます。
これを「大数の法則」と言います。
1/nの確率で毎年安定的に運営できている状態を
「相互扶助」といいます。
保険会社が新しく商品を開発するとき、
逆算してゆきます。
そのため、「保険とは?」と説明する際、
相互扶助から始めるのです。
しかし、保険の原風景は、今とは異なっていました。
n年に一度という確率 = 一年にn件という確率
とは考えず
単に
保険料(p)=保険金額(z)×発生率(w)
で保険は成立していました。
現在、相互扶助とは関係ない保険の代表が
ロケットの保険です。
H2ロケット
1994年から2003年までに10回の打ち上げが行われました。
そのうち、2回が失敗しています。
これらの失敗により、H2ロケットの信頼性は低下し、保険料も高騰しました。 1998年の失敗後、H2ロケットの保険料は打ち上げコストの約20%に相当する約100億円にまで跳ね上がりました。 保険会社はH2ロケットの事故発生率を5回に1回と見積もりました。
H2Aロケット
H2Aロケットは、H2ロケットよりも部品点数を減らし、製造・運用コストを削減しました。 また、信頼性も向上し、現在までに45回の打ち上げを成功させています。
H2Aロケットの保険料は、最初はH2ロケットの失敗の影響で高かったですが、打ち上げ成功回数が増えるにつれて下がっていきました。 2001年の初打ち上げ時には、打ち上げコストの約20%に相当する約100億円でしたが、2017年には約10億円にまで低減されました。
例)2017年に打ち上げられたインドのGSLV-MkIIIロケットの保険料は、打ち上げコストの約25%に相当する約50億円でした。
アメリカのスペースX社のファルコン9ロケットの保険料は、打ち上げコストの約10%に相当する約60億円でした。
文中にもある通り、こういった高額かつ母集団を集められない保険は、毎回保険料を相談して決めてゆきます。
保険契約数が2億件に近い現在、
毎年、個別に相談して保険料を決めることは
不可能です。
そこで考え出されたのが「相互扶助」ということです。
保険制度の原風景は、
こうしたアンダーライティングという世界が
存在しているのです。
保険制度は、前人未到の未知の挑戦に対し継続するためのファイナンスとして機能しています。
保険は将来被る負債を平準化して支払う制度です。
事業の継続を不可能にするほどに経済的損失が大きなリスクは、
統計上の発生率を活用して、
平準化し経費化にするという知恵が重要です。
故に、ほとんどの保険料は、商品やサービス等の
売上高に対する原価と考えるのが最も妥当なのです。
そして、保険金額は、
貸借対照表においては資本を陰で支えている
縁の下の力持ちの役割なのです。
こういった、保険のシンプルな本質を
複雑にしている原因である生命保険について、
次回は、考察してゆきます。