高齢親の囲い込み解消コンサルタント、公認会計士・税理士の白岩俊正です。


私は、高齢になり介護を受けるようになった親を、きょうだいの一人が囲い込み、他のきょうだいに会わせない――いわゆる「高齢親の囲い込み」でお困りの方をサポートしています。

 

 

 

49.「親が私のことを忘れていた」そのとき感じたこと

 

こんにちは。
高齢親の囲い込み解消コンサルタント、公認会計士・税理士の白岩俊正です。

 

私がサポートしている方々から、ときどきこんな声を聞きます。

 

「久しぶりに母に会えたんです。でも……私のことを、まったく覚えていませんでした。」

 

「父は、私を見てもまるで“他人”を見るような顔で……“どちら様ですか”と言われたんです。」

 

こうした話を聞くたびに、胸が締めつけられる思いがします。
 

親が子を忘れる――それは、言葉では表せないほどの悲しみです。

 

今回は、あるご相談者Bさん(50代女性)の体験をもとに、「親が自分を忘れてしまった」という出来事にどう向き合っていったのかをお話しします。
 

同じ状況で悩んでいる方に、少しでも寄り添えればと思います。

 


 

施設での再会の日

 

Bさんの母は80代後半。数年前から認知症の症状が出始め、今年になって施設に入所しました。

 

しかし、Bさんにはもう一つの大きな悩みがありました。
それは、母と同居していた兄が母を囲い込み、施設名や連絡先を教えてくれなかったことです。

 

「母がどこにいるのか、まったくわからないまま数ヶ月が過ぎました。毎日、不安で眠れませんでした。」

 

必死の思いで情報を集め、ようやく施設が判明。
 

施設長に経緯を説明し、短時間の面会が認められました。

その日はBさんにとって、母との再会の日。
 

胸が高鳴り、会える喜びと少しの不安が入り混じる中、施設を訪れました。

 

まさかの一言

 

母が車椅子で現れた瞬間、Bさんは涙があふれました。
「お母さん……!」と駆け寄り、母の手を握ります。

 

しかし、そのとき母が発した言葉は、Bさんの想像を超えるものでした。

 

「あの……どちら様ですか?」

 

一瞬、何を言われたのか理解できませんでした。
Bさんは動揺を隠せず、必死に笑顔を作ろうとします。

 

「私よ、Bよ。あなたの娘だよ。」

母は首をかしげ、困ったように言いました。

「娘は、もっと小さい子なのよ……。」

 

Bさんの胸に、ズシンと重い衝撃が走りました。

 


心が凍りつく感覚

 

「母が私を忘れている」
その現実が、Bさんを深く突き刺しました。

 

「ずっと会いたかったのに……。やっと会えたのに……。」

 

何度も母に語りかけても、母の表情は変わらず、記憶の中でBさんは“存在しない人”になっていました。

 

Bさんは面会の間、なんとか涙をこらえながら母と会話を続けましたが、心の中では叫んでいました。

 

「どうして私を忘れちゃったの……?
あんなに一緒に過ごしたのに……。」

 

その15分間は、喜びよりも深い喪失感で満たされていました。

 


涙が止まらなかった帰り道

 

施設を出ると、Bさんは抑えていた涙が一気にあふれました。
車に乗り込んだ瞬間、声を上げて泣いたそうです。

 

「まるで母がもういないみたいで……。
私が私でなくなったような気持ちでした。」

 

親が子を認識する――それは、当たり前のことのように思えます。
 

しかし、認知症が進むと、その当たり前が突然失われてしまうのです。

 


施設長の言葉に救われた

 

泣きながら運転をしていたBさんの携帯に、施設長から電話が入りました。

 

「先ほどはお疲れさまでした。お母様がBさんを忘れてしまっていること、つらかったでしょうね。」

 

Bさんは泣きながら「はい……」と答えるのがやっとでした。

 

施設長は静かにこう続けました。

 

「でもね、記憶は消えても、感情は残るんですよ。
今日Bさんと過ごした時間は、お母様の心に“安心”や“喜び”として必ず残っています。」

 

この言葉を聞いて、Bさんは少しだけ呼吸が楽になったといいます。

 


記憶よりも感情を大切に

 

その後もBさんは母に会い続けました。
 

会うたびに母は「どちら様?」と尋ねますが、Bさんは優しく笑ってこう答えることにしました。

 

「はじめまして。私はBです。今日、お母さんに会えて嬉しいです。」

 

母は不思議そうにしながらも、Bさんの手を握り返してくれるそうです。

 

「名前を覚えてもらうことよりも、母が安心して笑えることが大切なんだと気づきました。」

Bさんはそう語ってくれました。

 


「私」を忘れられても、愛情は消えない

 

親が子を忘れるというのは、あまりにもつらい現実です。
 

でも、忘れられたからといって、親子の愛情が消えるわけではありません。

 

母が娘を忘れても、娘は母を愛しています。
 

そして、母の心の奥底にも、言葉では表せない温かな感情が残っています。

 

「記憶は消えても、感情は残る。」

 

この言葉は、Bさんだけでなく、私自身も深く胸に刻んでいます。

 


まとめ

 

親に会えたのに、自分のことを忘れられていた――。
それは誰にとっても耐えがたい悲しみです。

 

しかし、そこから少しずつ前を向くために、大切な視点があります。

  1. 忘れられたことは、愛が消えたことではない
    記憶は失われても、心には感情が残っています。
  2. 名前よりも“今の安心”を大切にする
    覚えてもらおうと焦るより、その時間を穏やかに過ごすことに目を向けましょう。
  3. 自分の感情も大切にする
    悲しみを無理に押し殺さず、信頼できる人に話したり、涙を流すことも必要です。
 

Bさんは今も、母の手を優しく握りながらこう語りかけています。

「お母さん、今日会えて嬉しいよ。」

 

母がそれを覚えていなくても、その温もりは確かに存在しています。
それが、親子の絆なのだと思います。

 


親が自分を忘れてしまう――それは誰もが直面するかもしれない現実です。

 

けれど、その中にも優しい関わり方や、静かな愛の形があることを、Bさんの物語が教えてくれました。

 

どうか同じような経験をされた方が、自分を責めずに、少しでも心穏やかに過ごせますように。

 

 

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