007/ゼロ・マイナス・テン 著:レイモンド・ベンスン

レイモンド ベンスン:著
小林 浩子:訳
早川書房 ISBN:4-15-001723-9
2002年11月発行 定価1,155円(税込)

早川のポケットミステリ…レイモンド・ベンスン版007シリーズの第1作目。日本では先に映画版のノベライズが他社から何冊か出ているが、書き上げたのはこちらが先らしい。
1997年…返還目前の香港で怪事件が頻発。香港に拠点をおく国際貿易会社が事件に関わっているらしい。さらに、オーストラリアの荒野で起きた謎の核爆発も関連が?調査の為、英国の秘密諜報部員ジェイムズ・ボンドは香港へ向かう。事件の首謀者は…問題の貿易会社、中国軍、三合会(秘密結社)、いったいどこなのだ?そして目的は?
香港、中国を舞台に活躍するボンド…調査の為にカジノで麻雀なんてやったりするところが面白いです。香港映画の「ゴッドギャンブラー」みたい(笑)そういえば、ボンドが秘密結社の「三合会」の事を訊ねた時に、相手が“チョウ・ユンファの映画の観すぎよ”なんて言われてましたね。
今まで見たり、読んだりしてきた過去のボンドシリーズを彷彿とさせる、オマージュ的な描写、シュチュエーションも度々登場して、なかなかいい感じです。ヒロイン(ボンドガール)のスンニーが娼婦のくせに…香港育ちということで、凄腕のカンフー使いだったりするのが絶妙です。「トゥモロー・ネバー・ダイ」のミシェール・ヨーが演じたキャラは、こういうところからアイデア拝借してるのではないだろうか?三合会の首領は…「女王陛下の007」に出てきたユニオン・コルスの首領ドラコみたいだったし。他にもボンドフリークなら、ニヤリとさせられる描写がたくさん出てくる。
個人的採点:75点
とくまでやる 著:清涼院流水

清涼院流水:著
徳間書店 ISBN:4-19-905148-1
2004年8月発行 定価650円(税込)

表紙に惹かれて、何年ぶりかに読んだ清涼院流水の小説…。意味不明だが、インパクトのあるタイトル…とくまでやる=徳間デュアル(文庫)をもじってるみたいだが…出有特馬という主人公の名前でもあるらしい。
双子の姉妹フレアとクレアが通う名門女子高で相次ぐ自殺事件。そして、二人が利用するレンタルビデオ店で働く出有特馬と山本新悟の周囲でも、知り合いが連続して自殺していた。毎日、必ず1人ずつ自殺する連続自殺事件の真相とは?
2ページで1日ずつ進むという構成をとっていて、毎日自殺者が出ている。つまり2ページに一人、必ず死んでるのに…実際に死体の描写は全然出てきません。事件が起きているなんて思えないほど…萌え萌え系なライトノベル感覚で物語は着実に進行していて、死人の数もどんどん増えていく…。
デビュー作の「コズミック 世紀末探偵神話」(1200個の密室で、1200人が殺される)でも、あまりにも凄いオチに唖然としたが…これまた、どこまで真面目なのか疑いたくなるオチが最後に待ち構えている。まぁ、こういうのを期待して清涼院流水は読むんだけどね。タイトルから薄々感づくが…言葉遊び的な仕掛けがしてあるところなど、清涼院流水らしい趣向だ。
推理小説の基本…真相が知りたくなるという面白さは味わえます。本格的な推理小説が好きな人には向かないでしょうね。どちらかというと、可愛い女の子に“お兄ちゃん”て呼ばれたいような人たち向けみたい…。
個人的採点:60点
烈火の月 著:野沢尚

野沢尚:著
小学館 ISBN:4-09-379671-8
2004年1月発行 定価1,785円(税込)

昨年、自殺で亡くなった野沢尚氏のハードボイルド小説。北野武監督作品でお馴染み「その男、凶暴につき」を小説化したもの。氏が、故深作欣二監督と組んで映画化しようとしていた企画が「その男、凶暴につき」であり、紆余曲折があって北野武監督第1回作品になったのは有名な話で…当時から現場レベルでシナリオを変更していくという演出方法を貫き通していたそうで、完成映画の方は野沢氏の脚本をだいぶアレンジしたものになっているそうだ。
そういった経緯も、巻末のあとがきで本人の文章で詳しく語られているのだが…とにかく“その男、凶暴につき”=北野武になってしまっていることに対して、脚本家・小説化として、きっとどこかで決着がつけたかったんだろうなぁと思います。
千葉県警愛高書の刑事・我妻諒介…特技は“笑いながら人を殴る”。ホームレス襲撃犯の子供たちを、禁止されている囮捜査まがいの行動で反対にボコボコにしてしまうような、ちょっと問題あり暴力刑事だ。ある日、港でドラックディーラーの死体が見つかった。この事件を発端に…我妻は麻薬取締局との合同捜査や、警察内分に蔓延している汚職事件に関わっていく。
基本的なストーリーラインは映画「その男、凶暴につき」に似ている。しかし、キャラクターの設定も違えば、映画では描かれなかったような脇役キャラクターまで詳細な人物描写が描きこまれている。そして新たなキャラクターも登場し、結末も全く違うものになっていた。
決して映画のノベライズなどではなく…ひとつの小説としてよく出来た作品だ。ただ、こちらも衝撃的な展開ではあったが…映画版のラストの怖さには、やっぱり敵わないようにも思える。特に…映画で若手の刑事を演じた芦川誠のあの表情が、あのセリフが、非常に不気味だったのを今でもはっきり憶えている。あれは本当に怖かった。
原作者には失礼かもしれないが…小説を読んでいると、やっぱり我妻諒介は、どうしてもビートたけしの顔が浮かんできてしまうし、清弘は白竜だ。それぞれ他のキャラクターも、映画版の俳優たちを当てはめてしまう。
映画「その男、凶暴につき」を見ていない人は、今、この時代だからこそ余計にリアルに感じる警察組織の腐敗に衝撃を受けるだろうし…映画版を見て、ストーリーを知ってしまっている人にも、どこか惹きつけられる文章の上手さが感じられるのではないだろうか?
素直に面白かった。結末は映画版よりも救いがあるように感じるが…中身は、映画以上に鬼畜な部分もあった。
個人的採点:80点
装甲騎兵ボトムズ Ⅱ.クメン編 著:高橋良輔
高橋良輔:著
角川書店 ISBN:4-04-428402-4
2003年2月発行 定価 560円(税込)

昨日に引き続き、ボトムズの2巻を読了。アニメを見ている時に、一番好きだった“クメン編”だ。
ウドの街を脱出したキリコは、緑と炎熱の地獄クメンにいた。内戦に揺れるこの王国で、キリコは政府軍の傭兵基地アッセンブルEX‐10に身を寄せていたのだ…。
アニメの方は、ジャングルの中、密林や河の中を進むAT(ロボット)というヴィジュアルが子供心にカッコイイと思い、物凄く印象に残っている、このクメン編なのだが…初めて見てた小学生の頃には、到底物語を全て理解なんかできるわけがなく、その後、再放送などで何度か見ているが、やっぱり活字で読むと…キャラクターの心理描写などが伝わってきて、物語に一歩踏み込める。
書き手の方も、調子がでてきた様子で…ノベライズという体裁を崩さず、1巻よりも小説的な面白さが加味された印象を受けた…。
毎日、いくつかのブックオフを回って100円コーナーで続きを探してるのだが、見つからない。300円じゃ買いたくないしなぁ(笑)そのうちに、続きが見つかったら読むことにします。ある程度、結末まで物語を知っているわけだし…問題ない。
個人的採点:70点
装甲騎兵ボトムズ Ⅰ.ウド編 著:高橋良輔
高橋良輔:著
角川書店 ISBN:4-04-428401-6
2002年11月発行 定価540円(税込)

先月末、待望のDVDが発売された「装甲騎兵ボトムズ」ですが、貧乏人には10万もするBOXセットは買えませんので、古本屋の100円コーナーへ行って、ノベライズ小説を買ってきました(笑)
全4巻で完結なのですが、あいにく100円コーナーには2巻までしかなく、とりあえず2巻まで買ってきました。TVアニメの監督を務めた高橋良輔氏による完全ノベライズで…当時の雰囲気を損なわず、ボトムズの世界を味わえるので、自分みたいにDVD買えない人にはピッタリな読み物です。
アストラギウス銀河を真っ二つに分けた百年戦争末期。キリコ・キュービィーは目的不明の秘密作戦のため、小惑星リドへ。味方であるはずのギルガメス軍ATとの戦闘に戸惑うキリコが偶然発見したのは、棺桶のような装置に入れられた全裸の女性であった。
本当に完璧…全13章は全てアニメ版のサブタイトルと同じだ。ちょっと読み始めただけで…懐かしいあの名シーンの数々が思い浮かぶ。アニメのノベライズというと…やっぱり富野由悠季のガンダム小説を思い出してしまうのだが、あのアニメからのファンを突き放すような攻撃的な小説版ガンダムと違い、高橋良輔の小説版ボトムズは、余計なものを語らずに、本当にノベライズに徹している。
ということで…アニメを見てなかった人には、若干、物足りなくもあり…不親切な読み物になってしまうかもしれない。大河原邦男氏による表紙イラストがカッコよすぎる。やっぱり、これは…DVD買った人のことを羨ましがってる貧乏人が読むための小説ですね(笑)続けて、2巻目に突入します!
個人的採点:65点
パーフェクト・プラン 著:柳原慧

柳原慧:著
宝島社 ISBN:4-7966-3811-3
2004年2月発行 定価1,680円(税込)

第2回『このミステリーがすごい!』大賞大賞受賞作。自分が読んだのは2004年に出たハードカバー版だが、これまた今年の1月に 文庫化 になっている。1年も経ってないのに宝島社は文庫化早すぎと思うが、おかげでハードカバー版を105円でGETできたので、文句は言えませんね(笑)
代理母として生計を立てている良江は、かつて出産した子供が、虐待にあっているのを知り、発作的に連れ出してしまう。それを知った仲間たちが…これを利用して奇妙な誘拐計画“身代金ゼロ!せしめる金は5億円!”を思いつく。彼らの思惑通り大金をせしめる事に成功はしたのだが…事態は思わぬ方向へ転がっていく。
ミステリーとしては穴だらけかもしれないが、エンターティメントとして、よく出来た読み物。いったいどういう方向へ向かうのか分からないほど、二転、三転するストーリー展開。最初から最後までダレ場もなく、一気に読ませる。
キャラクターの設定は面白かったのに、それぞれの描きこみがもう一歩か?設定を生かした行動をもっとキャラクターにとらせたら更に面白くなったのではないだろうか?
文庫版 パーフェクト・プラン 宝島社 2005年1月発行 定価730円(税込)
個人的採点:65点
アウトリミット 著:戸梶圭太

戸梶圭太:著
徳間書店 ISBN:4-19-861491-1
2002年3月発行 定価1,680円(税込)

けっこう好きな作家、戸梶圭太の作品。自分が読んだのは2002年に出たソフトカバー版ですが、今年2月に文庫化 されたので…きっと古本屋でも、ソフトカバー版が100円コーナーにまわされたのでしょうね(笑)
チンケな窃盗犯を同僚と共に、逮捕に向かった刑事の井川だったが…犯人の思わぬ抵抗にあい、同僚が射殺されてしまった。パニックに陥った井川は追跡中に犯人を殴り殺してしまうのだが…その男が怪しげなメモリーカードと携帯電話を所持しているのを見つけた。そのメモリーカードには3千万円の値打ちがあることを知った井川は…現金に目がくらみ謎の女と接触を試みる。タイムリミットは午後七時…それまでに現金とメモリーカードを交換しないと価値がなくなってしまうということで…井川は警察の捜査をかわしながら、取引を成功させる為に右往左往する。
相変わらず下品です。せこくて、ジコチューで、馬鹿なキャラクターばかり出てきます。でも何故か憎めないのが、戸梶作品の独特な世界観でしょうか?世間に対して、少なからず思っている不満、言いたけど言えないことを…ストレートに吐き出してくれるのが気持ちいいというか。人間誰しももっているだろう、“悪くて、弱い、醜い”部分を極端に引き出して描いている。読者や世間に対し、全然媚びてない部分が…魅力的。
けっこう戸梶作品は色々読んでいるので、もう慣れてしまったというのもあるんだけど…初めて戸梶圭太を読む人は、このブラックで、下品な文章が…どこまで付いていけるか、好みが別れるところだと思う。
犯罪に走ってしまう駄目刑事を中心に…悪事に加担する羽目になる元同僚の釣堀屋の主人とか、メモリーカードを追っているホモのチンピラ二人組とか…マヌケな警察側など複数の視点で、それぞれが微妙にリンクしていき、大団円を迎えるあたり、いつものように構成の上手さを感じる。多くは語らず…逃げること、追うことだけがメインであり、その部分のおかしさを楽しめれば、他はどうでもいいって感じなので…ノリで一気に読んじゃうのが一番だと思います。語られていないまま終ったようなことは深く追求しちゃいけない(笑)
文庫版 アウトリミット 徳間書店 2005年2月発行 定価660円(税込)
個人的採点:65点
探偵玄居煉太郎 からくり座 著:山田章博
山田 章博:著
幻冬舎コミックス ISBN:4-344-80299-3
2003年9月 定価1,470円(税込)

漫画家、イラストレーターなどで活躍する山田章博氏の作品。ラーゼフォンのキャラクターデザインした人だな~なんて気持ちで買ってきました、105円で!
玄居煉太郎、下宿先の離れに探偵事務所を開いた。ある日、煉太郎のもとに初めての依頼者がやってきた。依頼人・緑谷夫人に届いた一通の手紙、それは、緑谷邸の水晶庭園で一番美しい花を奪うという犯罪予告だった…。
14点のカラーイラストに、文章がついた、どちらかというと絵本のようなミステリー。内容を楽しむというよりは、山田章博のイラストを楽しむための本。漫画とも違うし…やっぱ絵本が一番近いのかな?
雰囲気としては…レトロな探偵小説の世界。最近の手の込んだトリックのミステリー小説と比べちゃうと、物凄く地味だが…そういうのとは主旨が違うのだろう。この人のイラストは嫌いじゃないので、美しいイラストを堪能できたという点では満足だが…読み物としては…。やっぱ他の作家さんの挿絵みたいな感じで楽しむほうがいいのかなぁ。
個人的採点:60点
本格推理委員会 著:日向まさみち

日向まさみち:著
産業編集センター ISBN:4-916199-62-6
2004年7月発行 定価1,155円(税込)

第1回ボイルドエッグズ新人賞受賞作。作者もあとがきで語っていたが、キャラ重視で描いたライトノベル的読み物として捉えた方がいいみたいだ。
小中高一貫の大型校、木ノ花学園…中学を卒業し、高校生活がスタートした城崎修は、幼馴染の木下椎とともに、学園の理事長によって組織された“本格推理委員会”なる委員会のメンバーに招集されてしまった。渋々、活動に協力させられる修たちは…小等部の音楽室で起きているという噂の怪談話の調査を命じられるが、事件は意外な方向へ向かっていく…。
デビュー作だからだろうか、思わせぶりに細かな設定がしてあるキャラクターが、バランスよく活躍していない気がする。次から次へと出てくる、キャラクターたちの秘密も、とってつけたような感じでわざとらしさが…。
作家性というよりも…“売れる”を考えて設定したようなキャラクター…といって、その筋の人が騒ぐような目新しさもなく、中途半端な読み物だった。もう少し一人一人のキャラクターの個性を引き立てるか、それができなければ、主役級のキャラクターを絞り込んだほうがいい。
新刊で発刊された時に、面白そうだなぁと期待していただけに…105円で買ってよかったと思える内容だった。
個人的採点:55点
G‐1 GRAND PRIX 最強モビルスーツ決定バトル 著:池田貴族

最強モビルスーツ決定バトル
池田貴族:著
ベストセラーズ ISBN:4-584-18503-4
1999年6月発行 定価1,470円(税込)

故・池田貴族氏による…ガンダム愛に満ちた読み物。小説というのか微妙なんだけど…。
ガンダムシリーズが生んだ24人のキャラクターが、各々の愛機を駆って、セメント勝負!主人公であろうと、エース機体であろうと敗者は叩き潰され消えゆく。誰がいちばん強いのか?トーナメントを勝ち進むのはいったい誰なのか?
ゼクス・マーキス シャア・アズナブル ガルマ・ザビ ハマーン・カーン エマ・シーン レコア・ロンド チャン・ウーヘイ カミーユ・ビタン デュオ・マックスウェル ヒイロ・ユイ ガロード・ラン ジュドー・アーシタ ララァ・スン ウッソ・エビン パプテマス・シロッコ カリス・ノーティラス フォウ・ムラサメ ジャミル・ニート アムロ・レイ ヤザン・ゲーブル シャギア・フロスト トロワ・バートン カトル・ラバーバ・ウィナー
同人パロディ的な読み物で…著者のガンダムトリヴィア&人物解析論、アニメ論を織り交ぜながら、Gガンダムのガンダムファイトレベルの戦いを繰り広げるというもの。今現在も、ケロロ軍曹に受け継がれている(笑)名セリフなガンダム語録も満載で…それなりに笑えます。
99年の本なので、ガンダムXまでしか登場しないのが寂しい。また、著者の拘りみたいで…一部の例外を除き、OVAや劇場作品のキャラやMSは扱われていなくて、TVシリーズのみというルールがある。アイデアはどう考えてもGガンダムのくせに(それともロボット大戦か?)、Gガンダムには触れてもいないのは…どうしてかな?
オリジナルの声優で、動いてる映像が…見てみたいなんて妄想が読んでるときに頭をよぎりました。
ガンダムシリーズを漏れなく見ている人には必要ないが、巻末55ページを費やして“用語事典”まで載っている。表紙は、佐野浩敏氏によるちょっと安彦良和タッチのシャアとシャア専用ザク。推薦文は富野由悠季御大、ご本人の登場です。
個人的採点:60点