烈火の月 著:野沢尚 | 105円読書

烈火の月 著:野沢尚


烈火の月

野沢尚:著
小学館 ISBN:4-09-379671-8
2004年1月発行 定価1,785円(税込)









昨年、自殺で亡くなった野沢尚氏のハードボイルド小説。北野武監督作品でお馴染み「その男、凶暴につき」を小説化したもの。氏が、故深作欣二監督と組んで映画化しようとしていた企画が「その男、凶暴につき」であり、紆余曲折があって北野武監督第1回作品になったのは有名な話で…当時から現場レベルでシナリオを変更していくという演出方法を貫き通していたそうで、完成映画の方は野沢氏の脚本をだいぶアレンジしたものになっているそうだ。

そういった経緯も、巻末のあとがきで本人の文章で詳しく語られているのだが…とにかく“その男、凶暴につき”=北野武になってしまっていることに対して、脚本家・小説化として、きっとどこかで決着がつけたかったんだろうなぁと思います。

千葉県警愛高書の刑事・我妻諒介…特技は“笑いながら人を殴る”。ホームレス襲撃犯の子供たちを、禁止されている囮捜査まがいの行動で反対にボコボコにしてしまうような、ちょっと問題あり暴力刑事だ。ある日、港でドラックディーラーの死体が見つかった。この事件を発端に…我妻は麻薬取締局との合同捜査や、警察内分に蔓延している汚職事件に関わっていく。

基本的なストーリーラインは映画「その男、凶暴につき」に似ている。しかし、キャラクターの設定も違えば、映画では描かれなかったような脇役キャラクターまで詳細な人物描写が描きこまれている。そして新たなキャラクターも登場し、結末も全く違うものになっていた。

決して映画のノベライズなどではなく…ひとつの小説としてよく出来た作品だ。ただ、こちらも衝撃的な展開ではあったが…映画版のラストの怖さには、やっぱり敵わないようにも思える。特に…映画で若手の刑事を演じた芦川誠のあの表情が、あのセリフが、非常に不気味だったのを今でもはっきり憶えている。あれは本当に怖かった。

原作者には失礼かもしれないが…小説を読んでいると、やっぱり我妻諒介は、どうしてもビートたけしの顔が浮かんできてしまうし、清弘は白竜だ。それぞれ他のキャラクターも、映画版の俳優たちを当てはめてしまう。

映画「その男、凶暴につき」を見ていない人は、今、この時代だからこそ余計にリアルに感じる警察組織の腐敗に衝撃を受けるだろうし…映画版を見て、ストーリーを知ってしまっている人にも、どこか惹きつけられる文章の上手さが感じられるのではないだろうか?

素直に面白かった。結末は映画版よりも救いがあるように感じるが…中身は、映画以上に鬼畜な部分もあった。






個人的採点:80点