本ブログの初期から注目してきていたアメリカのデータサイエンス系のプログラム。最近は日本でも同系統のプログラムは増えてきました。しかし中身は学校により様々で、玉石混交の様相を呈していると聞いています。

 

アメリカのプログラムも状況には似たようなものがありますが、調べていくとそれぞれの学校のバックボーンごとにプログラムにも特徴、言わば「流派」のようなものが見えてきます。そうした「流派」により、学習内容も卒業後や進路もかなり変わってきます。そこで本記事では、そうした「流派」別のプログラムの特徴について簡単に纏めておこうと思います。実際には「流派」だけで割り切れるものでもなく、各プログラムの個々の特徴によってもかなり変わってきますのでご留意ください(例えば、パートタイムとフルタイムでプログラムの性質がかなり異なる場合もあります)。筆者はデータサイエンティストではないのでこうした記事を書くのに適格かどうかは定かでもないところもありますが、日米に関わらず進路選びの参考にでもなれば幸いです。

 

 

データサイエンスの資格達

アメリカの専攻別年収ランキング(2023)

参考までにこちらもご覧ください。

 

データサイエンスと言っていいものか分かりませんが、科学研究におけるデータ分析の誤用を書いた本。とても面白いので是非ご覧ください。

 

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 経営工学(工学部・ビジネススクール)

 

アメリカでは工学部・ビジネススクール双方に経営工学系の教員がおり、特にオペレーションズ・リサーチと呼ばれるビジネスに役立つ定量手法を研究している教員を中心に、データ分析のプログラムを(MBAとは別建ての専門課程として)提供するケースが増えています。工学部とビジネススクールが共同でプログラムを運営していることも多いです。こうしたプログラムは「データサイエンス」ではなく「(ビジネス・)アナリティクス」と名乗っていることが多いです。

 

 

 

分野としては特に数理最適化・シミュレーション・応用統計学等に強みがあり、機械学習やAI等の授業ももちろんありますがどちらかと言えば応用的な内容となっているケースが多いのではないかと思います。どちらかと言えばエンジニアというよりアナリスト向けのイメージがあり、学習内容としても実際の事業の現場での実習や、マーケティング・ファイナンス等の機能別の分野の内容等を取り入れているケースも多いようです。ビジネススクールの学部で提供する場合には必要な数学力は軽め(他のビジネス分野と同等程度)に設定されているケースも多いように見えますが(その分、フルの専攻でなく副専攻に留める等の事例もあり)、大学院(専門職修士)に行く場合には理系レベルの数学力が必要になるケースが多いです。

 

 経済学

 

経済学系の教員が中心となってデータサイエンス系のプログラムを教えていることは、私が知る限りでは多くありません。しかし、卒業生がテック系等の企業でデータサイエンティストやエコノミストとして活躍しているケースは増えているようです(特にPh.D、学部卒ならアナリストが多いです)。統計学、特に「統計的因果推論」に加え、ミクロ経済学を活用し、望ましい資源配分を達成できるように市場をデザインする「マーケット・デザイン」の領域が強みになっています。

 

 

 

経済学部進学者のイメージは、日米で大きく変わるものではありません。よく「アメリカでは経済学は理系」と言われますが、実際には教科書等も日米で大きく変わりません(但し、マクロ・ミクロ・計量経済学に必ずしも基づかない「XX経済論」みたいな授業はなく、すべてが分析的・定量的な内容となっています)。より定量的な勉強をしたい学生向けには、理系レベルの数学と経済学を組み合わせて学ぶ「Econ/Math」といったコースを別に設けている場合が多いです(経済学専攻・数学副専攻程度)。大学院(修士博士一環課程)では必要な数学レベルはぐっとあがります。
 

 計算機科学

 

王道の計算機科学。機械学習やAIに加え、データベース・データ管理やインフラ構築のエンジニアリングの面でも中心となる専攻です。学習内容としてはそれらの基盤となるアルゴリズム論の基礎からカバーされています。データサイエンスの学位を提供する場合は、統計学・工学等と共同でプログラムを用意する場合が多いです。単独での提供する場合には「機械学習」「AI」といった専攻名になるケースが多いようです。

 

計算機科学の記事は書けていないので、代わりにアルゴリズムの入門アプリをご紹介します。


学部・修士・博士の各レベルで人気が高いです。アメリカの理系分野はPh.Dでないと専門職に就けないような領域もあるようですが、計算機科学については修士卒でもテック系を含め、エンジニアとして活躍の場は多いイメージがあります。勿論理系レベルの数学が必要になりますが、次に述べる統計学と比べれば、プログラミングやアルゴリズムのバックグラウンドがあれば比較的前提条件は軽めな場合が多いようです。

 

 統計学

 

もう一つの王道、統計学。統計学自体はいろいろな専攻で扱いますが、統計学専攻では確率論や数理統計学の基礎から実際のデータ分析まで広く深く勉強することができます。データサイエンス専攻については、上記のように計算機科学科と共同で提供していることも、統計学科が中心となって提供していることもあります。最近では統計学科の名前自体を「統計・データサイエンス学科」のように変えてしまっているケースも見かけます。

 

 


伝統的に修士号が多く、アナリストとして活躍している人の中にも統計学修士は多く見かけます。学部はこの10~15年で大きく拡大しており、2重専攻・副専攻等により他分野と組み合わせて学習しているケースが多いようです。学部・大学院とも、求められる数学のレベルはこれまでの専攻の中では一番高いです。

 

 その他

 

上記以外でも、データ分析に力を入れている分野はいくつも存在します。例えばビジネススクール内外の(経営)情報システム学科や、(図書館)情報学部等は元々データベース・データ管理について教えており、その発展としてデータ分析教育に力を入れているケースも多いようです。また、ビジネススクールは上記のような専門課程以外のMBA等でもデータ分析には力を入れています。

 

 

 

こうした課程はどちらかと言えば「データ分析に強いIT/ビジネスプロフェッショナル」といったタイプの人材を育成することを目的にしていることが多く、データ分析の専門家になるケースばかりではないのだと思いますが、そうした人材の現実的な社会の需要には大きいものがあります。また、こうしたルートとはまた全く異なる方向性として、実際にはもちろん他の理系分野のPh.Dも多く参入しており、そうした人材向けのトレーニングコース等も提供されています。

 

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今回は以上です。上記はアメリカの話ですが、アメリカのみならず日本でプログラムを選ぶ場合にも各校、「流派」の色も少なからずあるかと思いますので、参考にして頂ければ幸いです。また「データサイエンス」と明示的に打ち出していない学部であってもそういった勉強ができるプログラムも多いと思いますので、是非探してみてください。