【作品#0257】ダークナイト(2008) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ダークナイト(原題:The Dark Knight)

 

【Podcast】

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。


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【概要】

 

2008年のアメリカ映画

上映時間は152分

 

【あらすじ】

 

謎の犯罪者ジョーカーは、ピエロのマスクをかぶった男たちとゴッサム・シティの銀行を襲い、マフィアの資金を奪い、男たちを射殺して逃走する。一方、ゴッサム市警のゴードンは、新任の地方検事ハービー・デントの協力のもと、犯罪組織撲滅に向けて動き出す。

 

【スタッフ】

 

監督はクリストファー・ノーラン

脚本はクリストファー・ノーラン/ジョナサン・ノーラン

音楽はハンス・ジマー/ジェームズ・ニュートン・ハワード

撮影はウォーリー・フィスター

 

【キャスト】

 

クリスチャン・ベイル(ブルース・ウェイン/バットマン)

ヒース・レジャー(ジョーカー)

アーロン・エッカート(ハービー・デント/トゥー・フェイス)

マギー・ギレンホール(レイチェル・ドーズ)

マイケル・ケイン(アルフレッド)

ゲイリー・オールドマン(ジェームズ・ゴードン)

モーガン・フリーマン(フォックス)

 

【感想】

 

クリストファー・ノーラン監督による「ダークナイト・トリロジー」の2作目。ジョーカーを演じたヒース・レジャーは撮影後に急死し、その後行われたアカデミー賞で助演男優賞を受賞(俳優が死後にオスカーを受賞したのは「ネットワーク(1977)」のピーター・フィンチ以来2人目)。また、日本ではそこまで当たらなかったが、全世界で10億ドル以上を売り上げる大ヒットを記録した。ちなみに、前作でレイチェル役を演じたケイティ・ホームズは降板し、マギー・ギレンホールが引き継いでいる。

 

実写映画では累計6作目にして、タイトルから「バットマン」の文字が消え去った本作。「ダークナイト」とは、大ヒットしたフランク・ミラー原作のコミック「バットマン:ダークナイト・リターンズ(1986)」からの引用である。全世界でヒットする中、日本で本作が当たらなかった要因として、前作で渡辺謙が重要な役を演じると期待して見たらすぐに殺されたこと、「バットマン=ダークナイト」があまり結びつかなかったこと、ヒーロー映画にして前作に増してかなり暗い話であったことなどが挙げられるだろう(日本とアメリカの背景云々という話はちょっと違うと思う)。

 

本作を見て一番感じたのは、クリストファー・ノーランの考える性善説がちょっと過ぎるんじゃないかというところである。終盤にジョーカーは一般市民たちの乗る船と凶悪犯たちが乗る船の両方に爆弾を仕掛け、起爆装置は互いの船にあり、タイムリミットまでに起爆装置を作動させればその船に乗っている者は助かるというゲームを始める。一般市民たちも凶悪犯たちも最終的には起爆装置を作動させるボタンを押すことなく、ジョーカーの目論見は外れることになる。この犯罪の蔓延るゴッサム・シティにおいて、自分の命の危機が迫る状況で、混乱することなく皆が静かにしていられる状況は決してリアルに感じないし、パニックに陥った弾みでボタンを押してしまうとかの方がよっぽどリアルに感じる。自分が助かるためだけに、関係のない人を殺すことのできない人たちであるという描かれ方である。投票して爆破を選んだのにできなかったのだから、爆破が起こらなかったとしても爆破を投票した人たちはその投票をした事実はその人の中に残るわけである。色々考えることができるのに、人の善悪をあまりに単純化しすぎているようにも思える。さらに、バットマンは彼らのボタンを押さないという決定には何ら関与していないのである。旧4作品や前作にも言えることだが、ゴッサム・シティの人たちがあまりにも描かれないので、この船の場面だけ浮いた場面に見えてしまうのである。彼らがバットマンやジョーカーをどのように見ていたのかの描写が欠落しているため、バットマンの日頃の活動が実を結んで彼らの選択に影響を与えたとは思えなくなってしまっている。また、ジョーカーは爆破が起こらなかったと分かると、自分の持つボタンで爆破しようとしていたが、ボタンがうまく作動せずに爆破未遂に終わっている。最後には自分の手元に決定権がありながら、ボタンの故障で彼らを殺さないという結末は、映画的には踏み込んでおきながら逃げたと受け取られてもおかしくない感じになっている。

 

それから、そもそも本作のバットマンは基本的にジョーカーに振り回されているだけで、何もできないキャラクターでもある。常にジョーカーが先手を打ち、バットマンはそれにリアクションしている形となっている。バットマンが名乗り出てこないと市民を殺すというジョーカーにバットマンは名乗り出ることすらできない。それが原因でバットマンが一般市民から疎まれる描写がないところは気にかかる。何もできないバットマンに醒めた視点で描く映画でもないのに、最後にジョーカーが敗北を喫しても、別にバットマンが勝ったという印象はない。それなのに本作はバットマンが主役の如く描かれているので歪な印象もある。だからこそ、悪役ジョーカーを主役にしたスピンオフ「ジョーカー(2019)」がわざわざ作られたのだろう。

 

また、多くの指摘があるように「ダーティハリー(1971)」の影響も大きく感じられる。話の通じない相手に暴力が何の意味をなさず、犯罪者の人権が優遇されてしまうところなど共通点は多い。銃を撃ちながら相手を挑発する冒頭の銀行の支店長は「ダーティハリー」の主人公を思わせ、「ダーティハリー」の終盤に出てくるのと同じ黄色いスクールバスが登場し、暴力を望まない悪役相手にバットマンが暴力で口を割らせようとする場面なんかもその影響/オマージュといったところだろう。

 

そして、旧4作品や前作にも通じるところだが、本作でも一般市民からの視点がほとんど描かれていない。ただ本作の冒頭では、バットマンに倣ってバットスーツに身をまとった一般市民が悪と戦う場面がある。これは前作でバットマンが一般市民にとって重要な存在であることがあまり描かれていなかったので唐突な描写に映る。バットマンの模倣は出てくるのに、犯罪の蔓延る街であるゴッサム・シティにおいて、ジョーカーの模倣が出てこないのはかなり気にかかる。ご存じのように、本作やスピンオフの「ジョーカー(2019)」公開後は世界だけでなく日本でもジョーカーの模倣が度々世間を震撼させている。映画の後の話までは予想外だったにしても、ジョーカーの模倣が現れないのは映画的にもかなり違和感はある。

 

それから、本作で重要なキャラクターと言えるのが、ハービー・デント(後のトゥー・フェイス)である。正義感溢れる検事であるがゆえ、度々の警告にゴードンが応えられなかったことやバットマンが自分を助けに来たことでレイチェルを死なせてしまったことで、デントは悪の側に堕ちてしまう。と言っても彼の後の行動は悪の成敗の方法が極端になっただけで、あまり悪の側に堕ちた感はない。また、コインで決めるのが公平だという彼の考えと正義に満ちた考えは相反するものだと感じる。

 

また、リアル路線と言う割には何度か見ていると脚本は結構隙だらけで突っ込みどころにも気付いて来る。香港へ行く下りはいらないし、ジョーカーがわざと捕まって脱出する流れは無理があるし、警官が包囲する中でデントの発砲を妨害したバットマンが地上に落ち、降りてきたゴードンと長々会話までしているのに包囲していた警官は誰も来ないし…。大人も見られるリアル路線なら、脚本のツッコミどころは最小限にしてもらいたい。

 

そしてラストはデントの罪をバットマンが被ることになるのだが、「なんじゃそりゃ」という話である。繰り返しになるが、一般市民がデントをゴッサム・シティの光だと信じているような描写が全然ないので、彼の罪をバットマンがわざわざ被らなければならないとまで思えない。もちろん、ブルースがバットマンとして名乗り出ようとしてデントが自分をバットマンだと言った場面に対する反応だというのはわかるが、デントがバットマンでないことはすぐに分かりそうなものだ。

 

ジョーカーを演じたヒース・レジャーは本作通して強烈な印象で、映画史に残る悪役だったのは間違いない。面白い映画だとは思うが、世間で言われる傑作とまでは思えないところが正直なところ。

 

【関連作品】

 

バットマン(1989)」…シリーズ1作目

バットマン リターンズ(1992)」…シリーズ2作目

バットマン フォーエヴァー(1995)」…シリーズ3作目

バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲(1997)」…シリーズ4作目

バットマン ビギンズ(2005)」…ダークナイトシリーズ1作目

「ダークナイト(2008)」…ダークナイトシリーズ2作目

ダークナイト ライジング(2012)」…ダークナイトシリーズ3作目

THE BATMAN-ザ・バットマン-(2022)」…リブート1作目

「キャットウーマン(2004)」…キャットウーマンを主人公にしたスピンオフ

「ジョーカー(2019)」…ジョーカーを主人公にしたスピンオフ

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

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├仮面の下で~深層心理を探る~
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収録内容

├14曲/73分