ヴィルヘルム・ケンプ(1895~1991)は、オルガン演奏や作曲などもおこなったドイツのピアニストである。
ヴァイマル共和国(ドイツ共和国)のブランデンブルク州・ユーターボークに生まれ、ポツダムのニコライ教会のオルガニストを務めていた父親から幼年期よりピアノ、オルガンを学び、優れた才能を示した。ベルリン音楽大学でロベルト・カーン(1865~1951)に作曲を、フランツ・リスト(1811~1886)の高弟であったハンス・フォン・ビュー(1830~1894)らに師事したローカール・ハインリヒ・バルト(1847~1922)にピアノを師事した。1917年には「ピアノ組曲」の作曲によりメンデルスゾーン賞を受賞し、ベルリン音楽大学を卒業している。
1918年に アルトゥル・ニキシュ(1855~1922)指揮のベルリン・フィルハーモニーとベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第4番」で協演を果たし、それ以降は、演奏、教育、作曲と多方面にわたって活動した。1920年にはフィンランドの作曲家 ジャン・シベリウス(1865~1957)の招きで北欧を歴訪、スウェーデン王室より勲章を授与された。1924~29年にはマックス・フォン・パウアーの後任としてシュトゥットガルト音楽大学の学長を務めた後、1931年にはポツダムやポジターノで、スイス出身の主にドイツで活躍したピアニスト エトヴィン・フィッシャー(1886~1960)らと共同でマスター・クラスを開催し、1932年にはベルリンのプロイセン芸術協会の正会員となり、ドイツ楽壇の中心的役割を担うようになる。そして、第二次大戦中は不遇な中にあってもドイツに留まり、演奏活動を続けた。
戦後の1950年代の技巧と解釈が高度に均衡した彼の演奏スタイルに比べると、1960年代以降はより即興性に富み、自由で度量が広く、小事にこだわらないものとなっていった。ケンプのピアノ演奏は、この晩年のスタイルを指して、技巧よりも精神性を重視する演奏家と評されることが多い。
今日ご紹介するベートーヴェンの「ピアノソナタ第1番」ヘ短調 作品2-1 は、1795年に作曲された3曲からなる作品2(本曲「第1番」ヘ短調、「第2番」イ長調 作品2-2、「第3番」ハ長調 作品2-3)の一連のピアノソナタの1曲である。ピアノ音楽の新約聖書とも呼ばれるベートーヴェンのナンバリングされた全32曲中の一番最初のピアノソナタ作品である。当時、師事していたフランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732~1809)に献呈された。
本「ピアノソナタ第1番」は、4つの楽章からなり、楽曲構成は以下の通りである。
・第1楽章:Allegro(アレグロ)快活に速く
ヘ短調 2/2拍子 ソナタ形式
(※ 上行形のスタッカートの第1主題、下行形のレガートの第2主題の対照的な2つの主題が織りなすソナタ形式は、主に各主題の後半の部分動機が発展・展開され、ソナタ形式を理解する上で非常に参考になることであろうと思われる。)
・第2楽章:Adagio(アダージョ)ゆるやかに
ヘ長調 3/4拍子 展開部のないソナタ形式
・第3楽章:Menuetto, Allegro(メヌエット(スケルツォ)、アレグロ)
ヘ短調 3/4拍子
・第4楽章:Prestissimo(プレスティッシモ)できるだけ速く
ヘ短調 2/2拍子 複合三部形式
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(演奏時間:約19分)
■■ 「ピアノソナタ第1番」ヘ短調 作品2-1 □ ▶ Beethoven / Wilhelm Kempff, 1959: Piano Sonata No. 1 in F minor, Op. 2, No. 1 - Complete - YouTube
□同上演奏□(演奏時間:約19分)
■同上演奏■ 「ピアノソナタ第1番」ヘ短調 作品2-1 □ ▶ Beethoven, Sonata para piano Nº 1 en fa menor, Op. 2 Nº 1. Wilhelm Kempff, piano - YouTube
旧 西ドイツ 5マルク (1970年発行)
ベートーヴェン「生誕200年」