由美が続けた。「そのフィッシャーマン教授の理論をめぐって第二次世界大戦が始まったと言うのは本当なんです。連合国はその理論をドイツから奪うことは出来たのですが、それを理解することはできなかったのです。」さらに丹羽教授が続けた。「そして、その理論の核心的な部分は日本に来ていたんだ。」
「それがこれだよ。」と言って丹羽教授はテーブルの上のノートパソコンを指差した。「この中にそのプログラムが仕込まれているんだ。」「そして私は、学内のネットにある仕掛けをして、才能のある人間を探していたんだ。そしてやっと見つかったのが、原田君と巽君だった。」「今でも、アメリカとイギリスはコアの世界に人を送り、フィッシャーマン理論の研究を行っている。私たちは、それを見守って来たのだが、ついに彼らも独自でその理論を解明するところまでになった様なんだ。」丹羽教授はすくっと立ち上がり窓の外をまた見た。そして振り返り二人に言った。「彼らを阻止できるのは君たちだけだ。」
「さてどこから話したら良いものか?」丹羽教授はゆっくりと話始めた。「君たちが、覚醒し扉の向こうに見た世界は共通意識の世界で心理学ではコアと呼ばれているものなんだ。」「そしてそのコアと呼ばれている場所を最初に発見したのは第二次世界大戦が始まる1年前、ドイツ系ユダヤ人のフィッシャーマンと言う心理学者だったんだ。このコアと呼ばれる世界の支配権をめぐり第二次世界大戦が始まったと言っても過言ではないんだ。」丹羽教授のあまりにも突拍子もない説明に和美は驚いた。「コアを支配すると言うことはどういうことなんですか?」丹羽教授は続けた。「コアを支配することが出来ればこの世界も支配できると言うことに気がついたんだ。」和美はさらに教授に聞いた。「そもそもこのコアの世界と言うものは何で、琢磨は何故、私を殺そうとしたのですか?」丹羽教授はパイプ煙草をくゆらせこう答えた。「この世界に入るものは必ず抹殺しようとする奴らがいるんだ。しかし奴らには自分たちでは手を下す力は無い。そこでお互いに殺させようとするんだ。至近距離からピストルの弾があたらなかったのはそう言うことなんだ。そしてコアの世界と言うものは何かと言うと・・・・それは一言で言うと・・・神の世界と言うことになるんだろうな・・・」    「神の世界?!」和美と琢磨は驚いて同時に叫んだ。
和美の携帯にメールが入った。由美からであった。「明日のPM8時に琢磨さんと一緒に、丹羽教授の部屋に来てもらえますか。大事なお話があります・・・」和美は、やはり昨日の出来事が夢でないことを改めて実感した。丹羽教授は由美のゼミの教授だったので名前は聞いた事があった。琢磨も一緒に?自分の命を狙った人間と?あの琢磨は本当の琢磨なんかじゃなかったのか?、ずいぶん悩んだが決心して琢磨の携帯に電話を入れることにした。しかし、琢磨の携帯は、留守電になっていた・・・和美はしかたなく「明日、大学の正門で待ち合わせをしよう」と伝言を入れた。・・・・そして翌日の大学の正門前・・・・「和美・・・」琢磨だった。「留守電聞いたよ・・・」琢磨の声は震えていた。「昨日のことなんだけど・・・」琢磨が言いかけたが、和美はそれをさえぎった。「とにかく教授の所に行きましょう。何かヒントがあるかも・・・私も今回の件は不思議なことだらけで混乱しているの・・」二人は教授の部屋に向かった。丹羽教授はゼミで心理学を教えていた。部屋は教授専用の建物の2階の一番奥の部屋であった。二人はこの古びた建物に入るのはもちろん初めてだった。スペイン風の建物だと思われるそれは優に建てられてから50年はたっているのではと思われ、壁はつたで一面覆われていた。また、教授の部屋の扉も見るからに古そうでまた立派な作りであった。和美は扉をノックした。扉が開き、由美が現れた。「先輩・・・あ、琢磨さんも一緒ですね・・・良かった。とにかく中に入ってください。」二人は部屋に入った。古い建物の外観とは裏腹に中は以外にきれいに整頓されていて二人は驚いた。丹羽教授は二人に背を向けるように窓際に立っておりパイプをくゆらしていた。「紹介します。こちらは丹羽教授です。」丹羽教授はゆっくり振り返った。白髪で長髪の丹羽教授は黒ぶちのメガネをかけ鼻筋の通ったハーフの様な顔立ちをしていた。見た感じは50歳前半と言う感じであった。「よく来たね。まぁ、二人ともそこのソファに座って・・・」丹羽教授はそう言って自分も反対側のソファに座った。「高塚君もここに座って」教授は由美を隣に座らせた。「さてどこから話したら良いものか・・・」
「和美?」琢磨は幽霊でも見るような顔で言葉を失った。「琢磨!帰ろうここは危険よ!」和美は琢磨に駆け寄り手をつかもうとした。その時「琢磨!殺れ!」と荻原は叫んだ。琢磨の手にはいつのまにかバタフライナイフが握られていた。琢磨は荻原の言葉に反応し和美に向かってバタフライナイフを振り上げた。 「先輩!あぶない!」和美は背中を思いっきり誰かに押され反対側に吹っ飛んだ。「え・・ゆ・由美ちゃん!?」それは和美の後輩の由美だった。「こっちです。逃げてください。」由美は強引に和美の手を取った、和美はつんのめりながら由美に引っ張られた。10メートルほど逃げたその瞬間「パン」と乾いた音がしたかと思うと和美の前方のビルの窓ガラスが、ガシャーンと言う大きな音とともに飛び散った。「ピ・ピストル・・・?まさか・・?」二人は右手に細い路地を見つけそこに逃げ込んだ。さらに細い迷路の様な路地を無我夢中で突っ走った。10分ほど走ったのだろうか、二人は息も絶え絶えだった。「はぁはぁ・・・ゆ・由美ちゃん・・何故、ここが分かったの?はぁはぁ・・あなたも覚醒しているんだ?」由美も和美もひざに手をやり下を向きながら呼吸を整えるのが精一杯だった。「せ・先輩・・・お話ししなくっちゃいけない事があります。」由美は言った。でもこの世界ではお話できません。戻りましょう。由美は路地裏の突き当たりのビルの扉を開けた。幸い追っ手はなかった様だった。暗黒の闇の中にドアからの光が差した。
次に琢磨が目を覚ました時には荻原はライブを済ませて、帰り支度をしているところだった。「おやおや、目が覚めた様だね、こちらの世界に着たばかりの時はなかなか馴染めないために時々意識を失うことがあるんだ。まあ、すぐに慣れるさ・・・」荻原はフェンダーのテレキャスターデラックスをハードケースにしまいながらそう言った。「ところで肝心なことを言わなきゃな・・よく聞いてくれよ。」荻原は話を続けた。「簡単に言うと・・まぁ簡単には言い難いんだが・・・この世界は君がいた世界と少し違う。」荻原はくしゃくしゃになったマルボロを取り出し火をつけた。一口吸い込んで大きくはいた。「デカルトって知っているよね。我思うゆえに我ありと言うやつだよ。この世界はその我の世界、君たちの世界は我ありの世界・・・全然分からないだろ?簡単じゃないんだ。一言じゃヤッパ無理だな、ハハハ悪い悪い」荻原は大げさに腹を抱えて笑った。「まぁいいや、お前にお願いしたい事がある。この世界を支配している者がいる。そいつは本当は実体が無いんだが、今は君の愛する人の姿をしている。惑わされるな、そいつを殺って欲しい。俺の言っている意味が分かるか?」荻原は琢磨に顔を近づけそう言った。琢磨は何故か、本当に何故か分からなかったが、荻原の言っていることが理解できた様な気がし思わずこう言っていた。「分かってます。荻原さん・・・・」
「WELCOME TO REAL WORLD」その男は琢磨をそう言って迎えた。琢磨が扉の反対側に見た光景は・・どこかの楽屋部屋と言う感じの部屋だった。琢磨はそこに立ってるその人物の顔を見て驚きのあまり思わず声が出た。「お・お・荻原さん?ですか・・・?」琢磨の一番のお気に入りのバンドOPPOSITE DIRECTIONのボーカルの荻原健二だった。「そうさ、巽 琢磨君、君の事をどれだけ待っていたことか・・・本当に良く来てくれた。」荻原は琢磨の肩を抱き寄せその部屋のビニールのソファに座らせた。・・・・「WELL WELL WELL それではおっぱじめるか・・・」荻原は手の平をこすり合わせながら自分もソファに腰を落とし琢磨と向かい合った。「巽君、いや琢磨君、いやいや君の彼女の様に琢磨と呼ばせて貰うよ・・・」荻原は茶髪の長髪の髪を掻き揚げながらこう切り出した。「え、荻原さんは和美を知っているんですか?」琢磨は訳が判らない上に自分のアイドルが何故、ここにいて何故、こんなにも自分のことを知っているのかますます混乱して来ていた。「知っているさ、もちろん。ただ、気をつけてくれよ、彼女はこっちの世界では双子だ、一人は本物、一人は偽者、まったく見分けがつかない。」荻原はにやりと笑い、タバコを口にし火をつけた。「ところでお前はこちらの世界に来たがっていたが、それは何故だ?何が目的だ?」荻原はフウーと勢い良く煙をはき、琢磨の顔に火のついたタバコを向けた。「え、お・お・俺は・・・・・」琢磨は意識が無くなった。
OPPOSITE DIRECTION・・そのバンドの名前はそう言った。都内にあるDEAD ENDと言うライブハウスの楽屋口で和美は彼が出てくるのを待っていた。「荻原!」和美は彼を呼び止めた、そう琢磨の前に和美はこの荻原と言う男と同じバンドにいた事があり、しばらく付き合ってもいた。彼は今、このOPPOSITE DIRECTIONと言うハードメタルバンドのボーカルでリーダーでもあった。「和美?久しぶりだな・・・どういう風の吹きまわしだ?お前が俺の所にくるなんてよ・・・」「荻原!あなたが琢磨を覚醒させようとしているね?何が目的なの?私への復讐のつもり?」和美は高ぶる気持ちを抑える事が出来なくなってきていた。「何を言っているのか全然判らねえよ?お前正気か?俺は忙しいんだよ、おかげさまで有名になっちゃってよ。」荻原と言う男はイラついた言い方をした。そしてこう叫んだ「琢磨!お前の彼女が何か言ってるぜ!」和美は氷ついた・・・琢磨がそこに立っていたからだ・・・「和美?」琢磨は幽霊でも見るような顔で言葉を失った。
和美は自慢のパーカーナイトフライをポリトーンのアンプにジャックインし小さな音量で軽く爪弾いた。心地よいサウンドが彼女の心を包み和美は昨年の夏に琢磨と訪れたあのバリのことを思い出していた・・・・・・・「琢磨、このホテルさー断崖絶壁に建ってるんだ、見てみなよ、怖いね!・・・」「本当だ、ここから落ちたらあの世行きだね?俺は高所恐怖症だからだめなんだよこうゆうの・・」と言いながら冗談っぽく目を回した。二人は部屋に戻り、ベッドに横になった。和美は言った。「なんか、開放的な気分になるね?日本でいろんな事に縛られている自分が何なのか?って思わない?」琢磨は答えた「そうだよね、人は気持ちの持ち方次第でどうにでも変わるんだと思うよ・・・俺は自由になりたいっていつも考えているよ・・・何者にも縛られない・・・俺はこの世界をコントロールしている奴が誰なのか・・・そいつの実体を暴きたい・・・ってね・・・」「冗談、冗談俺の好きなバンドの有名な歌の歌詞なんだけどね、」和美は琢磨の言葉を思い出し、ハッとした。琢磨が危ない!和美はパーカーナイトフライをギタースタンドに戻し、マンションを飛び出した。
「救う?私があなたを・・・・」「そう、あなたしかできないの・・琢磨君を殺して欲しい」・・・・・・・・・・・・・・・・「な・・・なんて言ったの??殺す?誰が誰を?」・・・・・・・・・「ごめんなさい。本当に殺すわけじゃないの・・・こちらの世界でこの意識の世界で彼を・・・琢磨君を殺して欲しいの・・・」和美の分身は無表情に続けた。「人はみんな無意識にこちらの世界と現実の世界を行き来しているの、こちらの世界は現実の世界の鏡の様なものと言ったらいいのかしら、琢磨君はこちらの世界、意識の世界を認識し始めている、ちょうどあなたがそうであった様に・・・・・こんなことは本当にまれなことなんだけど数億人に一人位の割合でごくまれに覚醒する人が出てくるの・・・」分身の話をさえぎるように和美は言った。 「それが、琢磨を殺すと言うこととどう関係してくるのよ!」分身は答えた「あなたが、本当に彼を愛していることは良く知っているわ・・私はあなたでもあり彼でもあるのだから・・・彼もあなたのことをあなた以上に愛している。」「だからこそ、あなたじゃなければいけないの!」「彼は邪悪なものに取り付かれている、そう永遠の命を得ようと考え始めているの・・・・彼は、琢磨君は私を殺そうとするでしょう。そうなればこの世界も現実の世界も消滅する。みんな消えて無くなってしまうの・・・・・・・・」「だから、彼を殺して!この世界で・・・・この意識の世界で・・・・」
「アポトーシスって聞いたことありますか?原田先輩?」彼女は和美のジャズ研究会の後輩の由美だった。一風変わった事をいつも考えているつかみ所のない性格が和美も嫌いではなかった。「ううん、聞いたことないわね・・何それ音楽用語?」「そうじゃないんです。今、自殺する細胞と言う本を読んでいるんです、結構、哲学的な話なんですが、ガンって一般的には人間にとっては恐れられているじゃないですか、でも細胞って言うレベルで考えるとそれは永遠の命を得ると言うことになるそうなんです。それに対してアポトーシスというのは細胞の自殺を意味するんです。すなわち細胞は分裂して増殖することは大切なことなんですがバランスをとるために細胞に自殺すると言うプログラムが仕組んであるんです。それがアポトーシスと言うんです。細胞レベルでは面白い事に自殺することによって人間と言う個体のバランスを保ち、細胞が永遠の命を持とうとすると個体である人間を殺してしまうんです。」由美は自分の言葉に興奮し一気にまくしたてた。「面白い話ね・・・つまりガンは人間の永遠の夢、不死を実現しようとしているんだ?へぇ なるほどね」和美はその瞬間、はっとした。あの夢の中で、そういやに現実的なあの夢の中で彼女の分身が言った言葉を思い出したのだ。