「試験はどうだった?」琢磨は振りかえり和美に尋ねた。「うーん、ちょっと判らないわね。落第って事はないと思うけど・・・」和美は唇の右端をキュットあげてウィンクをした。時々する彼女のお得意のポーズだった。「話はぜんぜん違うんだけど、ちょっと聞いてくれる?昨日さ・・なんかとても変な夢を見たんだよ」琢磨はシャーペンをしまいながら和美にこう切り出した。
教室を和美と出ながらさらに話を続けた。「それがさ、和美が出てくるんだ。何か叫んでるんだよ。声は聞こえないんだけど、どうもこないで、こっちにこないでと叫んでいる様なんだ。和美、俺のこと嫌いなわけ??」琢磨は冗談っぽく笑って見せた。「何わけのわかんないこと言ってんの?学食に早く行かないとまた席を取るのに待たなくちゃいけなくなるわよ!さぁ急いで」和美は話をそらし琢磨の手を引っ張って学食に向かった。「お・おい引っ張るなよ。痛いよ。後さ和美はどうもドアの前に立っているんだよね。俺はどうしてもそのドアの向こう側に行かなくちゃいけない、行かなくちゃ行けないと思っているだよ。」それが夢に思えないんだよ。REALなんだよ。
扉?それは明らかに反対側からまばゆい光を受けた扉だった。「開けてみろって事?」和美はおそるおそるその扉のドアノブに手をかけた。ひやりとする感触は明らかにそれが金属である事が感じ取れた。扉の向こう側には何が待っているのか?引き返すべきか?しばらく躊躇をした和美だったが、思い切って扉を開けた。・・・ガチャ・・・重厚な音が響き渡ったその後、和美が目にした光景は・・・・「私の部屋だ!!」次の瞬間、和美は自分のライティングデスクに向かって座っている人の気配を感じた。誰?誰なの?思わず言葉に出したその時、振り返ったその人物の顔を見て和美は血の気が失せていくのを感じた。・・・・・・・・わ・わたし?「ごめんなさい驚かせてしまった様ね?」彼女の声はまぎれもない自分自身の声だった。「誰なの?」和美はそう言うのが精一杯であった。心臓が激しく動悸しているのが判った。「私は・・・・信じてもらえないと思うけど、あなたなの・・・」「あなたであると同時にすべての人でもあるの・・・・すべての人の意識のコアな部分・・・・・共通意識とでも言うようなもの・・・・わかりやすいようにあなたの姿を借りているの」彼女の声は落ち着いていた。そのせいか、和美もだんだんと冷静さを取り戻すことができた。「共通意識?コア?さっぱり判らないわ。きっと夢ねこれは・・・」「夢じゃない」ライティングデスクの彼女は立ち上がった。「お願いがあるの。重要なお願い・・・私を救ってほしいの!」
和美は東京の杉並区に小さなマンションを借りていた。家賃もそこそこするマンションであったが、和美は東北の造り酒屋の一人娘で実家からの毎月の仕送りでお金に困ることはなかった。その日、和美は家に帰るとまずお風呂にお湯を入れた。和美はバスタブにお湯を目いっぱい入れあふれる様に風呂に入ることを好んだ。何か贅沢な気持ちになれうれしかった。実家ではなかなかしきたりが厳しくできることではなかったからだ。外国風に体はいつもバスタブの中で洗うことが習慣になっていた。風呂から上がり、お香を焚いた、バリで今年の夏に琢磨と旅行に行った際に買ったものだ。お気に入りのジョンスコフィールド・カルテッテのCDをかけ、部屋の電気を消し、ベッドにもぐりこむといつもの儀式に入った。大きく鼻から息を吸い込み息を数十秒止める、数十秒かけて鼻から出しまた大きく鼻から息を吸い込み息を数十秒止める、また数十秒かけて鼻から出す、彼女は数回それを繰り返し精神統一を図った。瞳を閉じここからが本番だ。今までの訓練で光のイメージをつかむことが出来ていた彼女であったが、昨日それが何を意味を持っているのかおぼろげに判ってきており、今日はそれを確かめるつもりであった。
「和美って将来の夢とかある人?」琢磨は唐突にこう切り出した。・・・「何よいきなりまじめな話なの?・・そっちから言いなさいよ。」和美はそう言ってカレーライスをひとくち口に運んだ。 和美は午前中、後期試験に備え図書館で勉強をしていた。携帯で恋人の琢磨を呼び出し、学食で一緒にランチをしているところだった。 さらに琢磨はメガネを右手の人差し指で押し上げながらこう言った。「実はさ俺、今日マジで変な気分なんだ。うまく言えないんだが、自分が宙に浮かんでいる様な、なんていうか落ち着かない気分で・・・何かをやらなくちゃ、今すぐに・・・やらなくちゃって・・・誰かにこう耳元でささやかれている感じなんだ。和美は音楽が好きだし、何か前にその道に進みたいって言ってたじゃない?それって今でも真剣に考えているわけ?」 「うーん分からないわ、とにかく今は明日の後期試験を乗り越えることかしら・・・」和美は適当な答えでごまかしていた。実は琢磨が感じているその感触について以前から考えていることがあり今晩それを実行する予定だったのだ。