Observing China -5ページ目

ホントに牛(niu)な料金徴収員

中国語の「牛(niu)」は、もともと形容詞として「頑固な」という意味があるが、最近ネットでは「想像を超えた」とか「不可思議な」という意味でよく使われる。

6月中旬、西安の路上にホントに「牛」な人物が現れた↓。China Smackが伝えている。

Observing China

クソ熱い午後3時ごろ、車を運転中のあるメディアの記者が西安市内で渋滞に巻き込まれた。すると突然、30~40歳ぐらいの女性が現れ、車の窓を手馴れた様子でノックしながら「交不交銭?(料金払いますか?)」と尋ねて回っているのが見えた。

女性は頭に白いタオルをかぶり半ズボンに黒のハイヒール、そして上半身は白のブラジャーのみ、というある意味夏らしい姿。手に5元札や1元札を握り締めいていて、記者がカメラを向けるとなんと微笑んできたという。何とも怖い話だ。

おとなしく「料金」を払わないと、ドライバーはもっと怖い目にあうことになる。1台のホンダ車が支払いを拒否すると、この「牛女」氏はバンパーに足をかけ、無言のまますばやくボンネットに駆け上がり、フロントガラスにハイヒールのかかとを突き刺した。そして平然と車から飛び降り、女性ドライバーに「交不交銭?(料金払いますか?)」と聞いてきた。↓

$Observing China

Observing China

5分後、110番通報で警官が駆けつけると、「牛女」氏はハイヒールとタオルを脱ぎ捨て、中央分離帯の柵にひっかけてあったTシャツを着て北へ向けて走り去った。

目撃者の1人曰く、「あの女性は精神に問題があって、いつも路上で通行料を要求している」のだという。

乞食か、恐喝か。日本であればたぶん心神耗弱で減刑対象ながら、恐喝罪は構成するだろう。イケメンホームレスもそうだが、中国社会がより巨大なプレッシャーにさらされるほど、そこからはじき出される人は増える。ただこの「牛女」」氏、いろいろな意味でスタイルを確立している。この弾けっぷり、中国以外ではおそらくお目にかかれない。

中国の新語:486世代

南方日報グループの『南都週刊』ウェブ版が「486世代」という新しい中国語について紹介している。定義は「現在40代で、1980年代に大学に通い、60年代に生まれた世代」なのだという。

世界中に486世代はいるが、記事は中でも顕著なのが中国だ、と指摘している。文化大革命真っ最中の60年代に生を受け、開放的だった80年代の大学に通い、80年代末から90年代初めにかけて社会に出た世代であり、彼らが社会に出た直後の92年から中国経済の右肩上がりが始まった。

中国の486世代というと、BYD総裁の王伝福、内モンゴル自治区書記の胡春華、人権派弁護士の浦志強、百度の李彦宏、パンダアーティストの趙半狄、南方日報記者で国連の世界報道自由賞を受賞した程益中、レノボCEOの楊元慶……と、確かに多士済々である。

彼らを語る上で避けて通れないのが(南都週刊の記事は避けているが)、6・4体験だろう。

多くの人たちはあからさまには語っていないが、民主化という夢を見て、そして政府の暴力という現実に打ち砕かれたその体験は、確実に今でも彼らの行動に影響しているはずだ。

南都週刊は「(文革を経験した)50代と違って断絶を経験していない」という点を486世代のメリットと捉えているが、それは違う。彼らは6・4というある意味文革より大きな挫折を経験している。

ただその運動自体が内向的、破滅的だった文革と違って、6・4は民主化というグローバルな価値観への一体化を目指した運動だった。その価値は今も否定されるものではない、という思いは486世代1人1人の中で生きているはずだ。

であればいつの日か、彼らがさらに社会の中核を担うようになったとき、その「思い」が実を結ぶ可能性はある。チャーチルはかつて「若くしてリベラルでなくては情熱が足りない、成熟して保守でなければ知恵が足りない」と言った。もちろん89年そのままの理想が現実になることはないが、「成熟した」彼らが「知恵」をもって、中国社会を変えて行くことは十分にあり得ると思う。

翻って日本の「486」はもろにバブル世代である。氷河期世代から失われた20年の責任を弾劾され続け、すっかりくたびれてしまった40代に、老齢化する日本を改革し、支えるエネルギーは残っているだろうか。

やや心もとない。

南方週末or Newsmaxという究極の選択

先週の話で恐縮だが、あの南方日報グループが米ニューズウィーク誌買収に名乗りを上げて討ち死した、とチャイナ・デイリーが伝えた。NW買収の交渉を指揮したのは、去年オバマにインタビューした元南方週末編集長の向熹(現在は副編集長に降格中)。向熹を表に出して来たのは、アメリカ側を安心させる狙いからだろう。

チャイナ・デイリーの取材に答えた向熹によれば、金額は問題ではなかったらしい。「彼らは中国メディアについて理解していなかった。なぜ、我々が買おうとしているかも分かっていなかった」とコメントしている。

博訊網によれば、南方Gは「ある方面に難癖をつけられた」らしい。中国政府の対外宣伝活動の一環とも見られたという。

6月2日に終わったニューズウィークの入札では、アメリカの保守系メディアNewsmax名乗り出たらしい。フロリダに拠点を置くこのネット・雑誌メディアは、あのサラ・ペイリンがニュースソースとして「参考」にしていることでよく知られている。

ニューズマックスはWSJ紙に「買収してもNWのオペレーションは独立して行われるだろう」とコメントしているが、そんなはずはない。ニューズウィークとて徐々に「サラ・ペイリンのソース」化が進む。

そんなことになるぐらいなら、いっそのこと南方Gに買われたマシだったのでは……と思いたくなる。南方週末はオバマがわざわざインタビュー先に選んだほど、世界的に見てもリベラルで質の高い報道をしているメディア。アメリカメディアの中でも民主党寄り、リベラル寄りとされるNWの記者やエディターと少なくとも考え方や感覚は近いはずだ。

博訊網の取材にアメリカ当局者が「中国は何の問題もないオバマインタビューを理由に編集長を降格させる国だ。こんな状況でNWを守れるのか。いざ買収したら、中央宣伝部の処長か科長がやって来て、NWを接収するのではないか」と答えている。

ビジネスの面で見ても、確かに南方Gの買収には困難が付きまとう。南方週末がいかに素晴らしいメディアであるといっても、所詮中国のインテリ層と中国好きな外国人に知られただけの存在。中国に買われたメディア、という烙印を押されれば、アメリカでの雑誌のセールスはもとより広告にも相当影響が出るだろう。

南方Gはほかの新たな買収先を探しているらしい。東レじゃないが、今や中国企業は世界中で「お安くなっている」企業を買いあさっている。メディアという儲からないが微妙な産業の買収劇で、いきなり世界一有名な、しかもアメリカの雑誌を買おうとするのは、登山の初心者がエベレストに登ろうとするようなものだ。

まずは高尾山から、でしょう。