Observing China -58ページ目
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ウイグル騒乱:中国政府が情報公開する理由

5日夜に始まった新疆ウイグル自治区の「騒乱」の死者数が150人を超えた。昨年3月のチベット「騒乱」の公式死者数22人を超え、89年の天安門事件の公式死者数319人に迫る勢いである。今回の事態では、中国政府の積極的な情報公開ぶりが際立っている。昨春のチベットでは厳しく規制をかけた海外特派員の自治区入りも容認している

中国政府が焼き討ちや流血の写真を大盤振る舞いするのには、それなりの理由があるはずだ。天安門事件の民主活動家で台湾に亡命しているウイグル人のウルケシ(吾爾開希)がブログで「中国政府はウイグル人と全世界に向けて冷徹に鎮圧した事実を伝え、さらなる『恐怖』を作り出そうとしている。これは大規模な軍隊を北京に入城させ、戒厳令を実行したあの年の出来事とまさに同じだ」と書いている。チベットのように、自治区へ入る道を封鎖しようと思えばできるウイグルで起きた騒乱と、首都のど真ん中で起きた天安門事件が同じとは思わないが、少なくとも中国政府が今回の事態にあまり引け目を感じていないことは確かなようだ。

もちろん、ウイグルの分離独立運動であるETIM(東トルキスタンイスラム運動)は米政府からテロ組織認定を受けているし、今年の夏にはオリンピックもない。ただ、今回の事態は昨年のチベットより「文明の衝突」度が高い。いったん着火するとより激しく燃焼するはずだ。それでもあえて情報を表に出すのは、中国政府が鎮火に相当な自信をもっていることの現れである。その根拠が金融危機後の世界を(ほぼ)1人で支える経済力なのか、ダライ・ラマ14世のような偶像なきウイグル人のアピール力の弱さなのかは分からない。

ひょっとしたら、「ネタを小出しにするとあとでややこしくなる」という情報公開の大原則に、中国政府もやっと気づいたのかもしれない(ホントにそうならいいのだけど)。

緑がダメなら青がある

中国政府によるフィルタリングソフト「グリーンダム」の強制インストールが無期限延期になった。「白人のポルノ画像は検出できるが、肌の色が黒くなると判別できなくなる」「インストールしたパソコンがハッカーのカモになる」……と非難ごうごうだったいわく付きソフトを撤回させたのだから(しかも相手はあのコワモテの中国政府だ)、中国ネチズンの皆さんがしばし勝利の美酒に酔いたいと思うのも無理はない。だけど何だかすんなり行きすぎてませんか?

と思っていたら、あちこちの中国語サイトに香港のテレビ局「鳳凰衛視」系の鳳凰網が流した「『グリーンダム』の20倍の性能をもつ『ブルーダム』を有名メーカーが開発」という記事がコピペされていた。いかなる機能がグリーンダムの「20倍」なのかは不明なままで、記事には「ブルーダム」が強制インストールになるなどと一言も書かれていないが、報じたのが中国政府の影響を露骨に受ける(大株主は元人民解放軍の軍人だ)鳳凰衛視系のサイトだったこともあり、「すわ、緑の次は青か」と憶測を呼んでいるらしい。

開発した安達通公司のサイトには、中共中央政治局常務委員会序列5位の李長春が6月8日に浙江省内にある安達通の関連施設を視察した記事が載っている。李長春といえばメディア管理と世論工作が担当。安達通が彼にご視察いただける立ち位置にいるのだとすると、「緑の次は青」もあながち的外れではないだろう。グリーンダム阻止で浮かれたせいか分からないが、中国ネチズンは最近、「摸奶門」「摸鳥門」「邯大主楼事件」といったいわゆる「エロ動画」の類で盛り上がっている。

1950年代後半、毛沢東は「百花斉放」を呼びかけて知識人に自由な発言を許し、直後に反右派闘争をしかけて知識人たちを一網打尽にした。題して「引蛇出洞(ヘビをねぐらからおびき出す)」。李長春の出っ張ったオナカと、ズボンをヘソの上までずり上げる着こなしを見ていると、どうしても毛沢東を思い出してしまう(ホントそっくりだ)。郷愁に浸っている場合ではないかもしれないが。

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