マンハッタンには数多くの名門と呼ばれるホテルが存在しますが、グランドセントラル駅から南へ徒歩数分、パーク・アヴェニューに面する「ザ・キタノホテル ニューヨーク」は、在米日系人の間では知らぬ者のいない名門ホテルの一つでしょう。日本の政財界のVIPがニューヨークを訪問するときには常宿とし、何年か前に故安倍首相が国連総会参加時に泊まっている時にたまたま居合わせたことがあります。創業者・北野次登氏がニューヨーク万博の日本館を手がけたのをきっかけに1973年に誕生して以降現在に至るまで、数少ないマンハッタンの日系ホテルです。数年前に「変なホテル」系がペンステーション付近に出店するまでは長らく「マンハッタン唯一の日系ホテル」の座に君臨していました。

 

堂々した外観。ドアマンが常駐するのもステイタスの証拠

 

こじんまりとしたプライベート感あふれるロビー

 

年明けのある日そのキタノホテルに滞在してきました。旦那がミッドタウンで2日間に渡り会議があり、郊外から通うのは大変だし出張扱いでマンハッタンに泊まれるというので、私がキタノホテルを推したのでした。そして推すにとどまらず、自分も押しかけて泊まってしまいました。アメリカのホテルは日本と違って部屋代として請求されるので、1人で泊まろうが2人で泊まろうが値段は変わりません。元々シングルルームというのはあまりなくて、基本的に日本でいうダブルルームがスタンダードです。

 

私も自ら宿泊含め、食事や日本からの客のアテンドなどで何度も足を運んでいますが、今回はある変化にびっくり。なんと「プリンスホテル」系列に吸収されていたのです。その名も「ザ・プリンス キタノ ニューヨーク」。ブティックホテルの雰囲気がなくなってしまうのではとやや残念な気がしましたが、日系の砦を守るという意味では、地場のアメリカのチェーンに吸収されたり、ましてや中国系韓国系に買収されるよりはいいかなと気を取り直しました。今や、プリンスホテルグループのウェブサイトからも予約できるようです。なお東京・永田町にもキタノホテルがありますが、そちらの方は独立系のままでプリンス系列にはなってはいないようです。

 

 

早速滞在記ですが、簡潔にいうと以前と特に変わった点はほぼなし、という感想です。各種アメニティーのロゴがプリンスになっているだけでした。数あるプリンスホテルグループのブランドラインの中でも、上位の「The Prince」の名がついているので、ラグジュアリー路線は継続のようです。なお、プリンスホテルのホームページによれば、「The Prince」はプリンスホテルのフラッグシップであり、『お客さまが体験するのは、ここしかない、豊かで格別な時間です。四季のうつろいが感じられる空間の中、いっさいの束縛から開放される。「The Prince」で過ごす時間が、旅の目的となるようなホテルです。』と定義されています。

 

と言うことで、まあまあ、その名には恥じない快適な空間を提供していることは確かですが、日本にある「The Prince」ブランドのパークタワー東京やさくらタワーに比べると客室は少しくたびれている印象。立地はともかく、施設だけを見ると地方都市にある老舗ホテルのような印象です。周囲にも新築のホテルができたり、既存のホテルも改修改築したりしているので、せっかくなら、ロビーや客室はリブランドを機に改修して欲しかったと思います。それでも、まるで日本のホテルにいるかのような落ち着いた風格は保っています。もちろん日系ホテル特有の客室トイレのウォッシュレットも健在です。

 

陽光あふれるコーナールームはお気に入り

 

夕暮れ時、窓からの眺め

 

個人的には、このホテルの最大の売りは最上階のルーフトップバー「roof at 66 park」だと思います。何年か前に行った時は団体さんが入っていて落ち着いた感じではなかったのですが、今回はDが会議から解放されてすぐ直行でハッピーアワーから行ったので、それほど人もいなく落ち着いたシックな雰囲気が漂っていました。バーカウンター、ハイチェアー席、テーブル席と気分やシーンに合わせて選べるのが便利です。この日はそれほど寒くなかったので、前回のリベンジということでルーフトップの席に陣取りました。ルーフトップテラスも東西2箇所あり、東側はグランドセントラル駅やパークアベニューを見下ろす光景が広がっています。クライスラービルは他の高層ビルに隠れており全貌は見えません。西側はエンパイアステートビルの眺めが美しいです。フロントの方がここから眺めるエンパイアステートビルは最高さ!というだけあって圧巻。まるで映画の一シーンにいるような気分に浸ることができるでしょう。我々は結局、西側のルーフトップに落ち着きました。

 

 

「roof at 66 park」は最上階の専用フロア

 

活気あふれるパークアベニュー側からの眺め

 

ルーフトップバー(西側テラス)からの眺め

 

おつまみメニューのはずがこのボリュームとクオリティー!

 

老舗ホテルらしく、グルメも充実しています。「roof at 66 park」でも軽食メニューがありスライダーズ(小さいハンバーガー)がお勧めです。この日は夕食前の腹ごしらえのつもりでしたが、一つのサイズが普通のハンバーガーと同等のサイズで、危うくお腹いっぱいになってしまいそうでした。最近のマンハッタンのホテルでは、UberEatsなどと提携して飲食部門を丸々アウトソースしてルームサービスもアプリで外のレストランにオーダーするというシステムになっているところもありますが、インハウスで熱々のフードが提供されることは、ホテルに泊まる非日常感には必要ですね。なお、現在、館内の和食処「白梅」は休業中です。マンハッタンで日本食がブームになる前から、寿司、すき焼き、会席おまかせコースと和食のフルサービスを提供するレストランでした。私もランチの常連で、特にビジネスランチメニュー、和牛焼肉定食が1番のお気に入りでした。ミッドタウンは日本食レストランがひしめいていて競争が厳しいのかもしれませんが、パークアベニュー沿いで本格的和食を提供するレストランここだけだったので復活して欲しいものです。

 

たまに「白梅」で一人ランチをするのが楽しみだった

 

ということで、今日はマンハッタンの老舗日系ホテルであるザ・キタノホテル ニューヨーク改め「ザ・プリンス キタノ ニューヨーク」滞在レポートでした。普段の部屋代は一泊350ドルくらいしますが、1月〜2月のマンハッタンはツーリズム閑散期なので、200ドル代から宿泊できます。次々に登場する新しいホテルもいいけれども、マンハッタン気分に浸るためにこうしたクラシカルな老舗ホテルに滞在してみてはいかがでしょうか。

 

イケてるニューヨーク男たちも集います