先週から仕事で、ヴァージニア州マクリーンという街に滞在しています。週末には旦那Dもやってきて周辺の観光をしていたのですが、日曜はあいにく雨で、近くの巨大ショッピングモールをうろうろしてました。モールの中には全米チェーンのシネマ・コンプレックスAMCがあって、なんとこの日は、不朽の名作「ブロークバック・マウンテン」Brokeback Mountain (2005)を上映していて、早速次の回のチケットを購入し鑑賞しました。AMC系列のシネコンではFan Favesと名付けてアメリカ名作の数々を$5で上映しています。あまり宣伝していないので、いつもだいたいガラガラです。ここのAMCも同様で、この日は200席位のシアターに、私とDの他に一組のたった4人。

 

ブロークバック・マウンテンは少なくもと5回は観ているのですが、大規模シアターの大きなスクリーンで観るのも、旦那と二人で観るのも初めてでした。故ヒース・レジャーやジェイク・ギレンホールの出世作となり、アジアが誇る巨匠アン・リー監督が初めてアカデミー賞監督賞を受賞した作品、アメリカ中西部ワイオミング州を舞台に二人のカウボーイの20年に渡る愛の物語です。公開当初はゲイ・カウボーイ・ムービーなどと称されていましたが、アン・リー監督はこの物語を普遍的なラブストーリーとして描いたと言っていますし、今では、その通りに、ゲイ映画というよりは恋愛の名作として受け継がれています。(以下ネタバレがあるので、ご注意ください)

 

 

二人とも若い。ヒース・レジャーが生きていれば、今頃渋い名優になっていたでしょう。

 

物語が始まる1960年代のワイオミング。男同士の恋愛などご法度で周囲にバレたら命すら危ない時代。二人は羊飼いの仕事で、束の間のひと夏を過ごします。その後はお互い家庭を持ちながらも、再会を果たし、20年に渡ってブロークバックマウンテンで逢瀬を重ねます。ロッキー山脈の雄大な風景を背景にゆったり流れる大河ドラマですが、同時に緩急もあり、さすがアン・リー監督。長く受け継がれる名作の名作たる所以は、何度見ても新しい発見があるのと、観るときの観客自身の年齢や境遇により受け止め方も感動の質も変化することでしょうか。お気に入りのシーンも変わったりします。私は、ジェイク演じるジャック・ツイストの死後、イネス・デルマー(ヒース・レジャー)がジャックの両親を訪問する静寂のシーンにいつも圧倒されます。この映画、登場人物全てが重厚なキャラクターで描かれているのですが、最後に出てくるジャックの母親の存在感とイネスを受け入れる姿はこの物語の救いになっています。それと、今回は、アン・ハサウェイがすごくいい演技をしていることを再発見しました。今までは鮮烈な初登場場面しか印象にありませんでしたが、物語の中盤で、夫ジャックの死を彼の恋人であったであろうイネスに電話で伝えるシーン、控えめの演技で複雑な悲しみを表現しています。大女優のメリル・ストリープが、アン・ハサウェイを「プラダを着た悪魔」の相棒役に抜擢したのは、ブロークバックマウンテンで彼女を見たのがきっかけだと何かのインタビューで言っていました。

 

公開当時は、カウボーイが同性愛者という物語に、保守的な地域での上映に反発もあったそうです

 

メジャーになる直前のアン・ハサウェイも出演しています。

 

音楽も秀逸で、ゴールデングローブで主題歌賞、アカデミー賞作曲賞も受賞しています。所々で流れるアコースティックギターの音色が、美しく雄大な山々と大自然に包まれる主人公ふたりの感情にとてもマッチしています。私は公開当時にはサントラ版を購入し、最近はiTuneでもダウンロードしました。


アカデミー賞では作品賞受賞も期待されましたが、結局その年は「クラッシュ」という映画が作品賞を獲得しました。当時はまだまだ同性愛に対するアカデミーの態度が保守的であったからでしょうか。その後の各作品の評価を考えると、歴史に「もし」はありませんが、今の時代なら「ブロークバック・マウンテン」が作品賞を獲得しているかもしれません。なお、アン・リー監督は、キャリアの初期に「ウエディング・バンケット」(1993年台湾)という作品で、マンハッタンに住む同性愛カップルを描いてアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされています。

 

アン・リー監督は「ブロークバックマウンテン」でアカデミー賞監督賞を受賞。

 

カンヌ映画祭の時でしょうか。監督含め皆輝かしく写っています。ジェイクが可愛い。

 

二人ともそれぞれ、アカデミー賞主演俳優賞、助演俳優賞にノミネートされた。私はヒース・レジャーの方が好みです。

 

まるで、思いがけずに旧知の友にばったり出会ったような気持ちで鑑賞することができました。特に、ずっと旦那Dと一緒に見たいと思っていた映画の一つなので実現して良かったです。Dも以前テレビの再放送で観たことがあったようですが、じっくり鑑賞したのは初めてだそうで、二人共通のお気に入りリストに入りました。多分機会があればまた観ると思います。

 

ところで、ワイオミングが物語の舞台という設定になっていますが、ブロークバック・マウンテンという山は実在しません。また実際の撮影はカナダのアルバータ州で行われています。しかし、グランドティトン国立公園あたりが原作のモデルになっているので、「映画の聖地巡り」をするならば、ワイオミング州ジャクソンホールから入って国立公園やその周辺をドライブするのがいいでしょう。という私も、大学院を卒業した年の夏に、グランドティトンに滞在し、山々をハイキングしブロークバック・マウンテンの世界に浸りました。車でアクセスできるところでも、壮大な山々の光景は映画で観るのと全く同じ。ドライブしていると本物のカウボーイを見かけることもありました。また映画の中で出てきた地名の中で、唯一実在するリバートンという街も訪問しました。中西部のうらびれた雰囲気もそのままの小都市で、映画の中に出てきたバーと似たような雰囲気の酒場兼レストランもあって、アン・リー監督の映画制作上でのリアリティをまざまざと見せつけられました。

 

映画を見終わって、急にあの山々が見たくなり、この夏休みには久々にワイオミング州を訪問しようかと話しています。

 

ワイオミング州のグランドティトン国立公園