黒南風(くろはえ)

 

牡丹模様が泥かむる

 

 

祭り囃子が届かぬ

記憶の底のバス停で

 

 

君を呼び出し

浴衣の裾を捲くる私は

 

 

友情を守りたかったのか

それとも退路を断ったのか

 

 

君を受け入れるということ

大人になってしまうということ

 

 

これじゃ、沢山のものが壊れてしまうと分かっているのに

 

 

花火が死ぬ夕暮れに

無味無臭のバス停で

 

 

私は

 

 

 

雨に逃げる

 

 

 

 

 

 

 

青時雨(あおしぐれ)

 

祭り灯りが萎びてく

 

 

祭り囃子が届かぬ

幼き記憶のバス停へ

 

 

あの娘の声へと向かい

雨に逆らう僕は

 

 

想い出を守りたかったのか

それとも退路を断ったのか

 

 

あの娘を感じるということ

男女を理解してしまうこと

 

 

これじゃ、沢山のものが壊れてしまうと分かっているのに

 

 

花火が死ぬ夕暮れに

無味無臭のバス停へ

 

 

僕は

 

 

雫をさがす

 

 

 

 

 

 

 

そんな雨の匂い

 

そんな髪の香り

 

蒸れた肌を包む大気が

 

 

 

 

 

僕らをおかしくした

 

 

 

 

 

そんな梅雨の終わり

 

 

 

 

 

 

 

(2024/6/6加筆)

 

 




最大限の我儘で、恋人・伴侶に求めるものを5つ思い浮かべてみてください。










それを、


絶対に譲れないもの(Must=あるべき)に2つ、

あればいいなぁと思うもの(Want=あったらいいな)の3つに、それぞれに分けてみてください。






皆さんのMust2つは何でしたか?






そんな遊びを思いつき友人達とやっておりました。


自分は、


Must

現実


Want

優しさ

お茶目

可愛さ


でしたね。


外見のみを要求する輩もおりました🤣

Must

可愛い

スタイルがいい


Want

清楚

カッコいい

色白





優しさと一途も人気ワードでしたね。






 

短編「シロバコ」を読んでくださった方、ありがとうございました。

拙い文章、物語失礼いたしました。

 

本作は最初ホラーのつもりで書き始め、それを物怪と人間双方の立場から表現してみようという試みでしたが最後はヒューマンドラマになりました。

 

 

本作のテーマを挙げるとすれば「絶望」と「その先」だったと思います。

 

絶望、これは言葉だけを取ると、絶望の先には何もありません。

望みが絶えているのですから。

ですがもし、その何よりも暗い空間に疑問符を付けることができるのなら、それ(希望)はある、そうであるべきだという想いで書きました。

 

 

使わせて頂いた楽曲は「竹田の子守唄」です。

 

これは1971年に赤い鳥さんが発表したことにより世に知れ渡りました。

そのルーツは被差別部落にあると言われ、現在でも放送自粛にされているメディアもあります。

 


(現代語訳)

子守も嫌になる この盆から先は
雪もちらつくようになるし 赤ちゃんも泣くし

 

お盆が来たからと言って 何が嬉しいのか
麻の単衣(ひとえ)もなければ 浴衣を結ぶ帯もない

 

この赤ちゃんはよく泣くなぁ 私を休ませてくれない

こんな子守を一日中していたら 心も体もつらいな

 

早くいきたい この在所を超えて

向こうに見えるのは お父さんとお母さんが住む家

向こうに見えるのは 私たちが生きる家

 


この曲には様々な解釈があります。


ただ単純に子守唄で歌われていたとか、在所(京都では被差別部落という意味。大阪では単に故郷の意味)の厳しさ、悲しさを歌ったなどです。

自分は郷愁がメインだと思いつつも下記の解釈が一番しっくりきました。

 

「在所を越える」という部分を「誇りを主張し奪還するすべての行動」と捉えた。(橋本正樹)

 

誇り、差別、絶望、希望、いろんな側面を持つ曲です。テーマ曲として使わせて頂きました。

 

読んで頂きありがとうございました。

 

 

 

 

またいつかの日か書けそうでしたら続編を書きたいと思います。

 

 

………………………✂️………………………

 

 

………険しい木漏れ日の山道を細いスキニージーンズと、サイズの大きいゴロゴロとしたスニーカーが踏み進む。

足取りは早く、後続の者は付いていけていない。

 

麦わら帽子を被ったその女は、ぶつぶつと呟きながら山頂へと進む。

「太地………退治の一家。屋白………社、トドメの一家。上城………………髪白の一家。シロバコを作る一家」

 

そして山頂を踏んだ後、後続の男がやっと追いついてきた。

「教授、ちょっと待ってちょと待って!テンションMAXはわかりますがこんな山道、誰もついていけない!なんちゅう体力ですか」

 

女は麦わら帽子をとり、目の前に広がった盆地を遠目に見た。

「はーあ。絶景だ。でも誰も思わないでしょうね。この盆地がUFOの墜落した穴だなんて」

 

「そんなトンデモ論、教授しか言ってませんけどね」

 

 

「そおね。さぁーて、黒身妖の一族に会いに行きましょうか」

 

 


………………………✂️………………………


 

 

 

目次

 

 

 

 

♪守りもいやがる 盆から先にゃ
雪もちらつくし 子も泣くし

 

盆がきたとて なにうれしかろ
かたびらはなし おびはなし………♪

 

 

 

 

 

………あれから。

あたしは死んだか。

 

瞼の裏が赤い。

生暖かい風が頬を撫でる。

身体がじわっと溶けてゆく。

そしてたくさんの虫の声が___。

 

私は京香姉ぇに殺されたのか。

早苗は姉様方に殺されたのか。

 

何が残っただろうか。

 

黒身はこれからも恐怖に怯え、やみくもに人間たちを殺すだろうか。

人間もこれまで通り恐怖に怯え、無慈悲に黒身(こくしん)を殺すだろうか。

そして復讐、恐怖、そしてまた絶望………。

 

どこにも正解がない。

世界中で心が割れる。

宗教も国もひとつの生き物でさえも。

 

 

 

早苗。

子供の為に死ぬのなら、子供の心が死んでゆくだけ。

黒身妖。

一族の為に殺すのなら、一族の心が死んでゆくだけ。

 

大地のじっちゃん。

怖い者に怖い思いをさせて、何が生まれるの?

ばっちゃん。

私はこの箱を壊すことはできなかったよ。

 

そして京香姉ぇ。

ごめんね、あたしは家族失格だ。

京香姉ぇが間違っているとは思っていない。

でも、ずっとずっと許してくれないよね。

 

 

 

ああ、死ぬ時はこんな感じか。

心がすーっと抜けてゆく。

透明な背伸びをする。

頭の中の粒が、小さな粒が、溶けてゆく………。

 

夏が終わる………。

 

 

 

 

 

「美香、美香」

 

「………ヤス?」

「早苗が来た。起きろよ」

 

瞼の裏が赤い。

生暖かい風が頬を撫でてゆく。

たくさんの虫は………蝉か。

 

目を開いたらまた、あの暑苦しい街がいいな。

つまらない仕事でブラックで、毎日満員電車で突っ立って眠る。

ストレスの行き着く先はお酒。貯金もできない。

ダメな男を好きになって、失敗して、里に帰る。

あっと言う間に老眼鏡。

 

でもそれが普通。何でもない人生。

 

 

 

 

 

「おい」

 

きれいな声。

つんとしているけど、心地よい声。

 

 

「来たぞ。誘ったのはお前だろうが。何故、寝ている?」

「ああ、ごめん。………早苗はダメだね。妊婦は日傘をさすんだよ」

「お前らとは違う」

「じゃあ連れて行かない。黒身にベビー用品は必要ないでしょ」

「…‥‥。…‥‥。どこに売っている?」

 

 

青く突き抜けたお空に青い稲穂がゆらゆらゆらゆら。

香ばしい命の香りがする。

これは夢か現実か。

分からない。

 

 

でもあの時、京香姉ぇの刃を握った自分は、この未来が選べた事も確かだ。

どうかここでは、誰も恐れず、誰も涙せず、悲しい箱が無くなれば………。

 

 

「おい、赤ん坊の玩具って何だ?」

「母と子を繋ぐものだよ」

「お前はいつもハッキリ言わない」

「早苗が人間赤ちゃんの店に行きまーーーーーーす!!」

「ちが!!………」

 

 

 

赤いトラクターが走る田舎道。

黒い日傘の妊婦たちが駅へと向かう。

 

 

無人駅のベンチには小さな箱が置かれていた。

その白い底には砂粒ひとつ入っていなかった。

 

 

 

 

 

 

きっと、そこにはどんなものでも入るだろう。

 

 

 

 

 

 

命はそこから始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちはそっと、蓋を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


♪はよも行きたや この在所こえて

向こうに見えるは 親の家

向こうに見えるは 親の家




(終わり)

 

 

 

 

 

読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

目次

 

 

 

暗がりから早苗(ジュラニギャミナ)が出てきた。カマキリの姿のままだった。

 

「姉様方、この者と話をさせて頂きます」

 

早苗は音もなく人間側の平地に飛び降りた。

みんなが小さな声をあげた。

 

 

あっ………

 

 

「やあ、早苗。久しぶり。平地に下りたら死んじゃうよ?何しに来たの」

 

「コーヒーでも」

「………後でスタバ行こうか。でもまあ今は………あなた達のお母さんは無口すぎるから早苗が教えて。このハコのこと」

「スタバって何だ?」

「そこ!?」

 

「………お前らは毎年の盆に人質を出してくる。どうか私達を殺めないでと。だが………我らは毎年の盆に恐怖している。この髪の数だけ敵がいると」

 

黒身妖の取り巻き、姉様方が言う。

「………母上。シロバコを戻し、あの娘とジュラニギャミナの命でここを収めましょう。人間よ。それで良いか」

 

「………屋白のばあさん?」

「………」

 

 

 

あたしは早苗の首に抱きついて言った。

 

………早苗。早苗。变化しないで。カマキリのまま抱かせて。聞いて。

 

何だ。

 

ていうか、貴方たち耳はどこ?

 

昆虫と一緒だ。足の付け根。

 

………いや、早苗は昆虫だけど、てかなんかこう、人間と黒身が抱き合ってうわーんってしたかったけど、足の付根じゃ無理。

 

??

 

まあいいや、このままで。早苗。早苗。聞いて。

 

だから何だ。

 

家族はいるの?

 

もういない。

 

じゃあ、あたしと一緒に死んでくれる?

 

ああ。

 

本当にいい?

 

ああ。

 

二人で黒氏盆地を捨てようか。あたしは子供をつくらない。どこか山に囲まれてない町に住んでさ、パートでもしながら女2人で生きていこうよ。

 

パートって何だ。

 

そこっ!?

 

女二人でか………それもいいな。

 

そおね………。

 

美香、なぜお前は我を人間扱いする?

 

あたしは早苗を、早苗扱いしてるだけだよ。

 

 

 

急に早苗の頭が重くなった。

黒い血が溢れた。ジュラニギャミチュの時と同じ。

早苗の背後に見知らぬ黒身がいた。

 

「トドメは我らでする。手を出さない様」

 

そこら中に沢山のシロバコが転がっている。

みな夕日を浴びてとてもキレイ。薔薇みたい。

 

でも底までは光が届かない。

そしてあたしの足元のシロバコは黒く血で染まっている。

持ち上げてみると、いつも通り、馬鹿みたいに軽い。

 

「………互いにさ。怖がって、差別して、殺して、復讐して………。この箱に何を入れてるの?何百年も、何百年も、何を入れてきたの!?」

 

 

 

 

………絶望、でしょうが。

 

 

 

 

京香姉ぇが足を引きづりながら早苗にヤリを向けてきた。

 

「美香、どいて。そいつは私が殺す」

「京香姉ぇ、だめ、だめ、これは、あたしたち家族の問題じゃないの、子供たちの話なの、お父さんとお母さんは殺されたけど、だめ、だめなの」

 

ヤリなんて素人は使えない。矛先を狙えるのは玄人だけだよね。

そしてコレは、んーこれは死ぬ。槍、ヤリ?いったー。刺さったー。

 

あたし、間違えちゃったか。いったい。

とにかく、とにかくシロバコを壊せばいいと思ったけど。

 

やばいやばい。これは死ぬ。

早苗の触覚も動かない。

誰も憎くないのに。死んじゃう。

あたし達がこんな形で死ぬとまた………。

 

誰かが憎しみ合う!!

 

だからね。あいつに、あいつにさ。シロバコを作った張本人に。聞かなきゃいけない。逃げてばっかりのあいつにさ。最後にさ。

 

 

黒身妖はまた、あたし達を横目に森へ消えようとした。

 

 あたしは命が消える前の最後の声を出す。

「………黒身妖!!逃げるな!!答えろ!!お前が答えろ!!!!!」

 

 

 

この

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望の先に何がある?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒身妖の美しい声が、その場にいる皆の頭の中で響いた。

 

 

………皆、先など無いのに、有るかと問う。

……有ると問うなら、それは有るというのに…

 

 

 

 

 

(終話へ)

 

 

 

 

目次

 

 

 

黒身妖(こくしんよう)の取り巻き、姉様方が羽根を震わせた。

ヘリコプターの様な音が耳をつんざいた。

 

あーあー。うるさいうるさい。あー。

 

 

「貴様!まだ我らを侮辱するか!!小娘が!!」

「人間よ!!シロバコを戻せ!!契りを破るのか!!」

「(おい、猟銃はいくつ集まった?)」

「(大地のじじいよ。いよいよとなれば火を起こすぞ。いいな?)」

 

カコーン

 

「おのれ髪長氏の一族、悪魔の一族め。ここは我らの土地だぞ!!」

「悪魔はお前らだろうが!!被害妄想の昆虫どもが!!」

「お前らは略奪者だ!!我々の土地を奪いおって!!」

「人間の皮を被ってコソコソしやがって!!カマキリの姿で町を歩け!!」

 

カコーン

 

「森では我らの方が強い!!人間よ!!お前らの森で刃を磨いておく!!」

「いつまでその脅しをするつもりだ!?ひつこいぞ!!」

「我らは数百年も虐げられているのだぞ!?」

「だから契りを交わしただろうが!!いつまでそれを言う!?」

「その契を破ったのはそこの娘だろうが!?お前らが世界の中心だと思うな!!」

 

カコーン

 

「………」

「…」

「………美香。何しとる?」

 

「サッカーの練習。どぞ。そちらは続けてください」

あたしは片っ端からシロバコを崖に蹴っ飛ばした。

 

カコーン

 

「このお○△!!!何をを✗✗どなか○✗□てっろろうと!!!!??+?」

「おい!!!小娘□□○に△さふぁこの」

「○△!!!何をを✗✗どなか○✗!??+?っろろう!?」

 

あーあ。うるさいな。もうどっちが話してるかわかんないよ。

 

 

 

あれ、ん?これは黒身妖の羽音?

 

 

 

………大地のブザーを押した様な、1秒間に何万回も舞う天使の翼の様な、美しい音色がした。激しくて、優しくて、何だか高揚して、目の前が涙でぼやけてしまう音。

 

 

 

みーんな黙っちゃった。

でもあたしは黙らない。

 

黒身達の母上。さんきゅ。

 

「………ほら。黒身妖。もうあたし達を襲えないでしょ。少し安心したでしょう?」

 

 

暗がりからカマキリの姿のままの早苗が出てきた。

「………姉様方、この者と話をさせてくれませぬか」

 

 

早苗。おっそいよ。私はそろそろ死ぬ準備をするよ。

 

 

………てかっ死んだ事ないんですけどっ!?

準備って何だ??

………。

 

 

ジュラニギャミチュ。ジュラニギャミチュ。早苗の娘。

………いつの時代にも、生き物にも、割りを食うのは子供だよね。

 

 

 

 

 

 

(つづく)




※写真は加工したもの、またはAIに描かせたものです。

 

 

 

 

 

目次

 

 

 

 

京香姉ぇと「林業組合」が黒氏洞穴前まで登ってきた。

 

 

「こんばんは。京香姉ぇ」

 

………般若みたいな顔になっちゃったね。

林業組合のおじい、おばあも、しかめっ面。

 

京香姉ぇは昔からスイッチが入ると止まらない。

負けず嫌いというか………プライドが高いというか。

今は復讐の鬼だね。

 

 

京香姉ぇは般若のまま言う。

 

「お前は昆虫に入れ込んで、父さんと母さんを見殺しにした」

 

「そこは、うん。もう言葉でやりあったって無理だね」

 

「あのカマキリは許さない」

 

「早苗のこと?」

 

「昆虫に名前があるか。病院で糸を引いてた奴だ」

 

「そこも………もう言葉でやりあったって無理だね」

 

「………で、美香、お前………これは何をしている?」

 

 

京香姉ぇ、林業組合と黒身たち皆んなが口開けてる。

こりゃ絶景だ。

 

 

「………ぎぎ、ぎじ?………!?おい!?人間!!何をしておる!?」

 

「………な、何しとる?屋白の孫、お前、………何しとる?」

 

「………ぎ、ぎじ、母上様。母上様。こちらへ」

 

「美香??え?何をしてる?え?親父?何これ?」

 

 

 

「………ぎ、母上様。社の人間がおかしな事をしております」

 

 

 

そう。………黒身妖(こくしんよう)

 

貴女が出てこないと。

このシロバコをつくった張本人が。

 

 

だけど、あらためて見るとでっかー。大木だこりゃ。顔もこえー。

いやーでもそれはみんなカマキリ顔か。

でも早苗は分かる。盆地に戻っていたんだね。

 

 

ほら、みんな見て。よーく見て。

髪子(かみんこ)の儀ができてから700年。

こんなことがあったのかしら。

 

 

ほら。

 

 

黒氏洞穴の中にあるシロバコをぜーんぶ外に出した。

そしてぜーんぶ蓋開けて中身はぜーんぶ崖に捨てた。

 

 

「こんなハコ要らない。どう、黒身妖?もうどの人間を襲ってもいいよ?」

 

 

 

(つづく)

 

 

 

 

目次

 

 

 

♪守りもいやがる 盆から先にゃ
雪もちらつくし 子も泣くし

 

盆がきたとて なにうれしかろ
かたびらはなし おびはなし………♪

 

 


音痴だけど誰も聞いてないからいっか。

 

黒氏洞穴から見る茜空はとてもきれい。

あたし達を囲む山々が光を帯びている。

 

人間が作った田畑がオレンジ色に染まる。

黒身の森がピンク色の木漏れ日に染まる。

 

きれいだ。きれい。

 

きーれい。きれぃ。

 

 

………。

もういやだ………。

 

なーんもできなかった。

早苗からハリガネムシを抜いた後、外科の診察室でずーーーっと寝てたよ。

いつ眠らされたのかも分からない。

 

お父さんお母さんごめん。

 

私はなーんにもできなかった。

なーんにも………。

ほんっとあたしは口だけだ。誰も助けられなかった。

なーんにも………。

 

………でもね、あたしは絶望する暇はないの。

早苗の娘を抱いたときから、全ての責任を負っているからさ。

 

京香姉ぇ。

美香は頭悪くて、どんくさくて大して可愛くないけどそうでもないけど、運だけはいい。

昔からそう。変なところで運がいい。

 

早苗も分かるよね?

黒氏洞穴に入ったけど、黒身のおじさんはあたし達を殺さなかった。

 

お父さん、お母さんも。

暑苦しい街に転勤したけど、それがヤスと一緒になる決意となったよ。

殺し合いを止めれなかったけど、けど、だからこそ、あたしは今、ここにいる。

 

 

………あれは京香姉ぇと林業組合かな?

早くここまで登ってきて。

 

洞穴の上にはもう集まって来ているよ。

黒身妖とその一族。

 

 

 

♩盆がきたとて なにうれしかろ
かたびらはなし おびはなし………♪

 

 

 

お父さんお母さん。

ごめんなさい。

美香は、自分の出来ることをします。

 

 

 ばっちゃんが叫ぶ。

「………美香。………美香?おい!!お前、何をしている!?おい!!」

 

「やあ、ばっちゃん。一番乗りだね。こんなの、見たことないでしょ」

 

「お前………!?何をしとるか!!」

 

「………もうすぐ京香姉ぇが登ってくる。黒身妖も出てくるでしょ」

 

「やめい!!死にたいのか!!」

 

 

 

♪この子よう泣く 守りをばいじる
守りも一日 やせるやら………♪

 

 

 

もう、誰も逃げられない。

人間も黒身もずっと逃げてきたんだから。

 

だからさあ、歌おうよ。

みんな一緒に歌えるよ。

 

あたしは音痴だけどさ。

 

 

 

歌お。

 

 

 

 

 

 

(つづく)

 

 

目次

 

 

 

【黒氏(くろうじ)盆地】

高い山々に囲まれた小さな盆地。名は黒身(こくしん)の一族と髪長氏(かみながうじ)の一族からとられている。

 

 

 

 

【黒氏町】

車以外の交通手段のない小さな町。髪子(かみんこ)の儀の習慣がある。

 

 

 

 

【黒氏洞穴】

黒氏町を見下ろせる小さな洞窟。

髪子(かみんこ)の儀を行う場所であり年に一度、人間1人と黒身1匹しか入ってはいけない。

 

 

 

 

 

【髪子(かみんこ)の儀】

700年前、人間一族の長:髪長武香(かみながのぶこう)と黒身一族の長:黒身妖(こくしんよう)が作った休戦協定。

髪長氏の一族が年に一度、黒氏洞穴に家族ごとの髪の毛を入れたシロバコを収める。

黒身妖の一族は年に一度、黒氏洞穴のシロバコに入った髪の数を数える。

 

その髪の持ち主に黒身妖の一族は手出ししない。

よって髪長氏の一族も黒身に手出ししない。

 

【シロバコ】

8センチ四方の白い小さな箱。

髪子のため一家ごとにある。

表面には交差する2つの櫛と雫が掘られている。

 

 

 

 

【髪長氏の一族】

室町幕府、足利将軍の時代、戦に破れ黒氏盆地に入植してきた武士一族。長は髪長武香(かみながのぶこう)

森を切り開き黒身を虐げたが、後に髪子の儀をつくり双方不可侵となった。

 

 

【屋白家(社(やしろ)の一家。後にトドメの一家)】

古くは黒氏洞穴前の社を管理する一家。

社が取り払われた後は、境界線を破った黒身にトドメをさす役目となった。

 

屋白夕(74歳/第四十三代髪之社守)

屋白京一(54歳/公務員/畑中看護師の睡眠導入行為により、事故死

屋白千佳(51歳/主婦/石川医師によって殺害される

 

屋白京香(27歳/外資系企業勤務)

屋白美香(24歳/元ブラック通販会社勤務/第四十四代髪之社守)

 

 

【大地家(退治(たいじ)の一家)】

境界線を超えた黒身を退治する一家。

 

大地雄道(68歳/第四十三代髪之退守)

大地泰道(24歳/林業/屋白美香の元カレ)

 

 

 

 

 

【黒身(こくしん)】

 

 

古から黒氏盆地に生息する人間の大きさの黒いカマキリ。

人語を理解し、幻を見せ、恐怖・絶望の感情を喰らう。

 

髪長氏と激しい戦いを繰り広げたが、後に髪子の儀をつくり双方不可侵となった。

多くは黒身の森(聖林)に住むが、髪長氏によって森を追われたいくつかの一家が都会で野生化している(下渦:げかと言う)

 

 

 

ジェラドジェムリ(通称:黒身妖/黒身一族の母/髪子の発案者。通常の黒身の三倍は大きい。少なくとも700年以上生きている)

 

 

聖林の者

ジュラニギャミナ(通称:早苗/ジュラニギャミチュの母。少なくとも100年以上生きている)

 

 

聖林の者

ジュラニギャミチュ(ジュラニギャミナの娘/境界線を破り人間に退治され、屋白夕のトドメによって殺害される

 

 

下渦の者

ジェラミジェドヌ(通称:石川医師/都会の黒身、下渦(げか)/ジェラミジェリの兄/妹の死を知り自害

 

 

下渦の者

ジェラミジェリ(通称:畑中看護師/都会の黒身、下渦(げか)/ジェラミジェドヌの妹/屋白京香によって殺害される

 

 

 

 

 

 

 

 

終盤へ。

 

 

(写真は自身で制作したもの、またAIに描かせたものなどです)

 

 

目次

 

 

image

 

MRI、と書いてある。

何の部屋だろうか。

 

いや………何の部屋でもいい。

何に使うかはどうでもいい。

中で何が起きているかだ。

 

 

医師の黒身の羽根が震えている。

人間には聞こえない音で。

 

いや………。泣いている。

 

 

 

 

 

ここが底か。

 

美香。流石のお前も復讐心にかられるか。

そして京香は絶望するか。

 

この世界にはやってはいけないことがある。

人間にも黒身にも。

それをやると残された者は死ぬか殺すかになるからだ。

 

この部屋からは黒身の羽音しか聞こえない。

馬鹿者共………。

 

 

「開けにくい。ここなんでしょ?」

「我はお前らを殺しにきたのに………」

「はあ?」

 

「………。せめて頼む。ここを開けるのは美香が来てからにしないか」

「殺したのか」

 

「美香が来るまで………」

「殺したんだな」

 

 

屋白京香は黙りこくった。

今のやり取りで状況を把握し、心の準備を始めた。

強いがゆえに防衛本能が高いのか。

 

美香はどこにいった。

お前がいないと、本当に闇しか見えない。

 

 

「もういい。待たない。開けて」

 

………おかしな部屋だった。

大きな丸い穴がある。

その手前のベッドで人間が寝ている。

………。

 

 

医師の黒身?カマキリが壁に寄りかかっていた。

そして人間でもない昆虫でもない、生きている者ではない声を出した。

 

 

「………私達が先に仕掛けたが、脅すだけで殺めるつもりはなかった。いつもそうだった」

 

 

屋白京香は全く動かなかった。黒身も尖った口しか動かさなかった。

 

 

「なぜ私たちはこんな生き物で、こんな所に生まれたのか」

 

 

ベッドの上の人間は、ある部分が床に転がっていた。

 

 

「故郷はない。ここでは人間の皮を被る。怯えて暮らす。だから喰らうのだ。分かるか?」

 

 

京香が車椅子のハンドルをとても強い力で握っているのが分かった。

 

 

 

「分からないだろう………私は妹、ジェラミジェリと二人きりで生きてきた。この世界でたった二人きりだ」

 

 

屋白京香は空気の抜けるような声を出して、車椅子の前に倒れ込んだ。

「ぁああぁ………ぉ母。ぁ。あぁぁ………」

 

 

医師の黒身は自らの刃を首に当てた。

「………………なあ。人間。教えてくれよ」

 

 

 

 

 

 この

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望の先に何がある?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(つづく)