MRI、と書いてある。
何の部屋だろうか。
いや………何の部屋でもいい。
何に使うかはどうでもいい。
中で何が起きているかだ。
医師の黒身の羽根が震えている。
人間には聞こえない音で。
いや………。泣いている。
ここが底か。
美香。流石のお前も復讐心にかられるか。
そして京香は絶望するか。
この世界にはやってはいけないことがある。
人間にも黒身にも。
それをやると残された者は死ぬか殺すかになるからだ。
この部屋からは黒身の羽音しか聞こえない。
馬鹿者共………。
「開けにくい。ここなんでしょ?」
「我はお前らを殺しにきたのに………」
「はあ?」
「………。せめて頼む。ここを開けるのは美香が来てからにしないか」
「殺したのか」
「美香が来るまで………」
「殺したんだな」
屋白京香は黙りこくった。
今のやり取りで状況を把握し、心の準備を始めた。
強いがゆえに防衛本能が高いのか。
美香はどこにいった。
お前がいないと、本当に闇しか見えない。
「もういい。待たない。開けて」
………おかしな部屋だった。
大きな丸い穴がある。
その手前のベッドで人間が寝ている。
………。
医師の黒身?カマキリが壁に寄りかかっていた。
そして人間でもない昆虫でもない、生きている者ではない声を出した。
「………私達が先に仕掛けたが、脅すだけで殺めるつもりはなかった。いつもそうだった」
屋白京香は全く動かなかった。黒身も尖った口しか動かさなかった。
「なぜ私たちはこんな生き物で、こんな所に生まれたのか」
ベッドの上の人間は、ある部分が床に転がっていた。
「故郷はない。ここでは人間の皮を被る。怯えて暮らす。だから喰らうのだ。分かるか?」
京香が車椅子のハンドルをとても強い力で握っているのが分かった。
「分からないだろう………私は妹、ジェラミジェリと二人きりで生きてきた。この世界でたった二人きりだ」
屋白京香は空気の抜けるような声を出して、車椅子の前に倒れ込んだ。
「ぁああぁ………ぉ母。ぁ。あぁぁ………」
医師の黒身は自らの刃を首に当てた。
「………………なあ。人間。教えてくれよ」
この
絶望の先に何がある?
(つづく)