暗がりから早苗(ジュラニギャミナ)が出てきた。カマキリの姿のままだった。
「姉様方、この者と話をさせて頂きます」
早苗は音もなく人間側の平地に飛び降りた。
みんなが小さな声をあげた。
あっ………
「やあ、早苗。久しぶり。平地に下りたら死んじゃうよ?何しに来たの」
「コーヒーでも」
「………後でスタバ行こうか。でもまあ今は………あなた達のお母さんは無口すぎるから早苗が教えて。このハコのこと」
「スタバって何だ?」
「そこ!?」
「………お前らは毎年の盆に人質を出してくる。どうか私達を殺めないでと。だが………我らは毎年の盆に恐怖している。この髪の数だけ敵がいると」
黒身妖の取り巻き、姉様方が言う。
「………母上。シロバコを戻し、あの娘とジュラニギャミナの命でここを収めましょう。人間よ。それで良いか」
「………屋白のばあさん?」
「………」
あたしは早苗の首に抱きついて言った。
………早苗。早苗。变化しないで。カマキリのまま抱かせて。聞いて。
何だ。
ていうか、貴方たち耳はどこ?
昆虫と一緒だ。足の付け根。
………いや、早苗は昆虫だけど、てかなんかこう、人間と黒身が抱き合ってうわーんってしたかったけど、足の付根じゃ無理。
??
まあいいや、このままで。早苗。早苗。聞いて。
だから何だ。
家族はいるの?
もういない。
じゃあ、あたしと一緒に死んでくれる?
ああ。
本当にいい?
ああ。
二人で黒氏盆地を捨てようか。あたしは子供をつくらない。どこか山に囲まれてない町に住んでさ、パートでもしながら女2人で生きていこうよ。
パートって何だ。
そこっ!?
女二人でか………それもいいな。
そおね………。
美香、なぜお前は我を人間扱いする?
あたしは早苗を、早苗扱いしてるだけだよ。
急に早苗の頭が重くなった。
黒い血が溢れた。ジュラニギャミチュの時と同じ。
早苗の背後に見知らぬ黒身がいた。
「トドメは我らでする。手を出さない様」
そこら中に沢山のシロバコが転がっている。
みな夕日を浴びてとてもキレイ。薔薇みたい。
でも底までは光が届かない。
そしてあたしの足元のシロバコは黒く血で染まっている。
持ち上げてみると、いつも通り、馬鹿みたいに軽い。
「………互いにさ。怖がって、差別して、殺して、復讐して………。この箱に何を入れてるの?何百年も、何百年も、何を入れてきたの!?」
………絶望、でしょうが。
京香姉ぇが足を引きづりながら早苗にヤリを向けてきた。
「美香、どいて。そいつは私が殺す」
「京香姉ぇ、だめ、だめ、これは、あたしたち家族の問題じゃないの、子供たちの話なの、お父さんとお母さんは殺されたけど、だめ、だめなの」
ヤリなんて素人は使えない。矛先を狙えるのは玄人だけだよね。
そしてコレは、んーこれは死ぬ。槍、ヤリ?いったー。刺さったー。
あたし、間違えちゃったか。いったい。
とにかく、とにかくシロバコを壊せばいいと思ったけど。
やばいやばい。これは死ぬ。
早苗の触覚も動かない。
誰も憎くないのに。死んじゃう。
あたし達がこんな形で死ぬとまた………。
誰かが憎しみ合う!!
だからね。あいつに、あいつにさ。シロバコを作った張本人に。聞かなきゃいけない。逃げてばっかりのあいつにさ。最後にさ。
黒身妖はまた、あたし達を横目に森へ消えようとした。
あたしは命が消える前の最後の声を出す。
「………黒身妖!!逃げるな!!答えろ!!お前が答えろ!!!!!」
この
絶望の先に何がある?
黒身妖の美しい声が、その場にいる皆の頭の中で響いた。
………皆、先など無いのに、有るかと問う。
……有ると問うなら、それは有るというのに…
(終話へ)