目次

 

 

 

♪守りもいやがる 盆から先にゃ
雪もちらつくし 子も泣くし

 

盆がきたとて なにうれしかろ
かたびらはなし おびはなし………♪

 

 


音痴だけど誰も聞いてないからいっか。

 

黒氏洞穴から見る茜空はとてもきれい。

あたし達を囲む山々が光を帯びている。

 

人間が作った田畑がオレンジ色に染まる。

黒身の森がピンク色の木漏れ日に染まる。

 

きれいだ。きれい。

 

きーれい。きれぃ。

 

 

………。

もういやだ………。

 

なーんもできなかった。

早苗からハリガネムシを抜いた後、外科の診察室でずーーーっと寝てたよ。

いつ眠らされたのかも分からない。

 

お父さんお母さんごめん。

 

私はなーんにもできなかった。

なーんにも………。

ほんっとあたしは口だけだ。誰も助けられなかった。

なーんにも………。

 

………でもね、あたしは絶望する暇はないの。

早苗の娘を抱いたときから、全ての責任を負っているからさ。

 

京香姉ぇ。

美香は頭悪くて、どんくさくて大して可愛くないけどそうでもないけど、運だけはいい。

昔からそう。変なところで運がいい。

 

早苗も分かるよね?

黒氏洞穴に入ったけど、黒身のおじさんはあたし達を殺さなかった。

 

お父さん、お母さんも。

暑苦しい街に転勤したけど、それがヤスと一緒になる決意となったよ。

殺し合いを止めれなかったけど、けど、だからこそ、あたしは今、ここにいる。

 

 

………あれは京香姉ぇと林業組合かな?

早くここまで登ってきて。

 

洞穴の上にはもう集まって来ているよ。

黒身妖とその一族。

 

 

 

♩盆がきたとて なにうれしかろ
かたびらはなし おびはなし………♪

 

 

 

お父さんお母さん。

ごめんなさい。

美香は、自分の出来ることをします。

 

 

 ばっちゃんが叫ぶ。

「………美香。………美香?おい!!お前、何をしている!?おい!!」

 

「やあ、ばっちゃん。一番乗りだね。こんなの、見たことないでしょ」

 

「お前………!?何をしとるか!!」

 

「………もうすぐ京香姉ぇが登ってくる。黒身妖も出てくるでしょ」

 

「やめい!!死にたいのか!!」

 

 

 

♪この子よう泣く 守りをばいじる
守りも一日 やせるやら………♪

 

 

 

もう、誰も逃げられない。

人間も黒身もずっと逃げてきたんだから。

 

だからさあ、歌おうよ。

みんな一緒に歌えるよ。

 

あたしは音痴だけどさ。

 

 

 

歌お。

 

 

 

 

 

 

(つづく)