夏の高校野球のさなかだ。
この時期になると、NHKの若きアナウンサー時代、炎天下の全力プレーを実況したことを思い起こす。
高校球児が、汗を拭うために帽子を取ったとき、帽子のつば裏に文字が見えることがある。その文字は、選手が自分を鼓舞したり激励するために書かれたものだ。
中部学院大の鈴木壯教授(スポーツ心理学)は言葉を書くことで「暗示の効果がある」と指摘する。「行動や意識を言葉のイメージへと向けることで、結果が良い方向へ向かいやすい」という。
いまの球児たちは、どんな言葉を書いているのか。
「感謝」「絆」「ありがとう」など、仲間や周囲を思いやる言葉が目立つ。
「笑」のつく言葉も多い。「必笑」「笑顔」「常笑」。
以前はどうだったのか。
「全力投球」「全国制覇」「真向勝負」「弱気は最大の敵」など、自分を奮い立たせる言葉が目立った。
2011年夏の全国選手権大会などで甲子園の土を踏んだ花巻東(岩手)の大谷翔平選手(現・エンゼルス)は「日本一」と書いている。
こうした言葉の選択について、鹿屋体育大の森克己教授(スポーツ法学)は「スポーツをめぐる文化や環境の変化と関係している」とみる。
日本の高校野球は「心身を鍛える修練の場」ともとらえられてきた。
一方、近年は少子化や野球人気の低下を背景に、髪形を丸刈りにするチームの割合が低下しているように、選手の自主性や個性を尊重するよう変わりつつあるという。その結果、「スポーツの原点である楽しむことに関連した言葉が多くなっているのでは」とみる。
(朝日新聞8月3日夕刊参照)
2011年。大谷翔平選手の帽子のつば裏には「日本一」