こんばんは。
森澤 恭子です。
2022年12月より品川区長です。
今回の区議会で一般質問いただき、なんとなく知っているつもりでいた「ベーシックサービス」という考え方をしっかり勉強しなくては、と手にとった、財政学者である慶應義塾大学経済学部の井手英策教授が書かれた「ベーシックサービス」。非常に勉強になりました。
ちなみに、そもそも、「ベーシックサービス」とは?
医療・介護・教育・障害者福祉、これらの誰もが必要とする/しうるサービスをベーシックサービスと定義し、所得制限をつけず、すべての人たちに給付する。つまり、幼稚園や保育園、大学、医療、介護、障害者福祉、すべてを無償化するという提案
です。
ベーシックサービスがすべての人々に保障されれば、病気をしても、失業をしても、長生きしても、子どもをたくさんもうけても、貧乏な家に生まれても、障がいをかかえても、だれもがより人間らしいい暮らしを手にいれることができます。(P71)
「ベーシックサービス」の本、どこをとっても教授の並々ならぬ熱意が伝わってきます。ベーシックサービスが必要だと教授が主張される考え方、目指すべき社会の方向性にいちいち共感し、私の本にはたくさんのドッグイヤー(本の角の耳を折る)がついています。たくさんの示唆がありました。
私の備忘録としても、私の考え方を整理する上でも、その一部を紹介します。
・・・人間に競争を押しつける社会は、自由を否定する社会です。競争する/しないを選べる、つまり生きかたを選べることこそ、自由な社会の前提なのですから、私たちは生きるうえでの選択肢をもっと増やさなくてはなりません。
競争するかしないかを選べる社会を作る、それは、競争しなくても安心していきていける社会を作ることを意味しています。社会主義とはちがいます。競争を否定するのではなく、競争とはちがう生きかたも尊重する社会を創造するのです。(p37)
私も、都議会時代から、「選択肢を増やすことこそが日本社会の幸福度をあげていくひとつのキーポイント」だと思い、それが行政としても担う役割のひとつだと考え、品川区長としても様々な施策を展開してきました。
どうやって《弱者を助ける》かではなく、《弱者を生まない》社会を作れるのか、これが本当に考えるべき問いだったのではないか (p68)
人口が減り、生産設備が国外に出ていき、安い商品が海外から流れこんだ先進国は、どの国でもかつてのような成長がむつかしくなってしまっています。
そうです。だからこそ、経済成長に頼りきった社会を変え、これまでとはちがった《みんなが安心して暮らせるための政策》を考えなければいけないのです。(p70)
先日の自民党総裁選で、「経済成長」を一番にあげていた候補がいて、正直、違和感を感じていました。高齢社会、人口減少が確実な中で、これから先、昭和の時代のような「経済成長」をのぞむことはできません。強い経済を前提としてこれからの日本の未来を考えていくことは、少し違うのではないかと思ったのです。だからこそ、この「経済成長からの転換」という指摘は、まさにその通り、と思った次第です。
所得と関係なくすべての人たちの暮らしが保証されれば、助けてもらう領域はそれだけ小さくなります。
(中略)
お金による救済は人間の心に屈辱を刻みこみます。また、救済してくれる人たちの気分ひとつで未来が左右されますから、他者への服従を強いられてしまいます。ですから、お金をサービスに置きかえることで、だれかを救済する社会ではなく、みんなが権利として、他者と区別されずに堂々とサービスを使える社会に変えていくべきだと考えたのです。(p72)
この考え方についても、私が常々感じていた「給付」というものに対する違和感を払しょくするものでした。何かあった時に、一定の対象だったり、一時的に「お金を配る」のでなく、日常的にから所得制限なく、生活を支える基礎的なサービスを整えることの方が大切ではないか、ということです。
病気をしたり、ゲガをしたりして、働けなくなる可能性はだれにだってあります。困りごとは、運・不運ひとつでだれにだって起こりえます。だからこそ、この社会を生きる仲間たちが、たがいに頼りあえる、命と暮らしの必要を満たしあう社会をめざしていくべきだと思うのです。(p73)
(先進国のなかでも租税負担が高く、生活保障が充実している北欧と比べて
IMD国際競争力ランキング2023:デンマーク1位、スウェーデン8位、フィンランド11位、ノルウェー13位、日本35位
世界幸福度ランキング2023:フィンランド1位、デンマーク2位、スウェーデン6位、ノルウェー7位、日本47位
というデータを引き合いに)
不安におびえる社会よりも、命や暮らしの支えをしっかりと作り、これを跳躍版として未知の領域にチャレンジできる国のほうが、経済的にも、社会的にも、ポジティヴな結果を生みだしているのではないか、ということです。(p125)
井手教授が指摘しているように、北欧を真似する必要はなく、日本なりのベーシックサービスのあり方を模索するべきだと思っています。
…まだまだ紹介したい箇所がたくさんありますが、ぜひ、実際に本を手にとって読んでみてください。井手教授はみんなで考えてほしい、みんなで議論することが大事だと筆をとられています。
本を読んでのまとめですが…以前より訴えてきた、私が目指す、ウェルビーイングな社会、幸福度の高い社会に向けて、日本に選択の自由度と寛容さを実現するためにも、「ベーシックサービス」は欠かせないものだと確信しました。
一方で、井手教授は「増税」の議論もされていますが、私は、品川区で、事務事業評価の徹底により新たに財源をうみだしウェルビーイング予算にふりむけた経験から、現時点では、増税せずとも、歳出改革(無駄の削減)や予算の組み替え(優先順位の入れ替え)である程度のベーシックサービスの実現が可能なのではないかと考えます。そのあたりは引き続き研究していきたいと思っていますし、来る総選挙でもそのあたりが議論されることを期待したいところです。
今回の議会の答弁でもお答えしましたが、品川区では、私が区長に就任したこの2年で、保育・教育・医療についての所得制限を設けない「子育て3つの無償化」や学用品の無償化など、先進的な子育て支援施策を進め、高齢者インフルエンザ予防接種の無償化や救急安否確認システムの所得制限によらない無償提供などの高齢者施策にも取り組んできました。人々が自分らしく暮らしていく上で不可欠な生活の基礎となる行政サービスを所得制限なく全ての人に提供する、「ベーシックサービス」の考え方は、「区民の幸福(しあわせ)」を実現する上で重要なものだと考えます。引き続き、ウェルビーイングな地域社会を実現するための施策を展開に尽力していきます。
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品川区長 森澤 恭子
(2022年12月4日~)