大阪市内でも北端の淀川区十三という地域をご存じでしょうか。大阪の人はご存知でしょうが、子供の頃は親から「十三や西成は行ったらあかんで」と言われた記憶があります。十三も西成もある意味独特のイメージのところだったからでしょうか。でもインバウンド以降でしょうか、どちらもすっかり雰囲気が変わり、親子連れも珍しくない繁華街になりましたね。

 

 その十三駅の西側には私の大好きな映画館があります。小さな映画館で、地元民でも知らない人もいるくらいです。その名は「第七芸術劇場」。サンポートシティービルの6階にあり、5階のシアターセブンという劇場も同じ系列館です。(所在地:大阪市淀川区十三本町1-7-27 サンポードシティ6F)

 

 おそらく私が一番良く行く映画館のひとつですが、この映画館は少し風変わりな映画館です。大手シネコンで上映するような映画はほとんど上映せず、自主制作や独立系プロの作品が中心です。でも上映作品はレベルが高く、ここでしか上映しない映画も多いので、固定的なファンも少なくありません。ここで上映された映画はドキュメンタリーをはじめいろいろありますが、一番思い出に残っているのは上西雄大監督の「ひとくず」(2020年)です。

 

「ひとくず」は世代を超えて連鎖する貧困や児童虐待という思い内容を含みながら、涙と笑いです感動を呼ぶ素晴らしい傑作です。全国のミニシアターで上映されていますが、十三では一年を超えるという前例のないロングラン上映になりました。

 

 上西雄大はテンアンツという個性的な演劇集団の主催者です。「ひとくず」では監督本人が主演をする一方、徳竹未夏、古川藍という劇団の看板女優が準主役級で熱演しており、巧みな演技で深い感動を呼んでいます。筆者はもう数回以上この映画をみていますが、虐待を生むのも止めるのも、人は人とのつながりによってであることを教えられたような気がします。

 

 今年は劇団設立10周年、そして「ひとくず」ロングラン上映一年の記念すべき年です。第七芸術劇場のロビーで10アンツ衣装展と徳竹未夏イラスト展が開催されています。今回はこも展示を中心に第七芸術劇場を紹介したいと思います。

 

 

 

 第七芸術劇場の入り口です。入口には上映中の「西成ゴローの四億円」のポスターがかかっています。これは上西雄大監督の新作で、西成を舞台にした面白い作品です。

 

 

 

 

 入口を入ってすぐ左手にはテンアンツの看板女優徳竹未夏(左)と古川藍(右)が並び立つ写真が。これは「西成ゴローの四億円」でのヤミ金姉妹という設定の扮装です。とてもチャーミングなお二人ですが、意外なくらい奇天烈な人物設定でなかなか楽しませてくれます。それもこんな人が本当にいるように思えるくらい、見事な演技です。

 

 

 

 

 徳竹未夏さんの書いたイラストが並べられています。彼女は芸大の出身で絵がうまい。彼女のイラストは人の優しさがに網出ていて見ているだけで癒やされます。舞台に映画に絵画にマルチな才能の人ですね。

 

 

 

 

 「ひとくず」で大事な役割をしている食べ物がアイスクリームです。これは映画の小道具で徳竹さんの自作だそうです。まるで本物のカップにしか見えませんね。

 

 

  徳竹さんが描いたイラストを見ると、その人のいいところが見えるような温かさが感じられます。

 

 

 

 

 「ひとくず」で女児まりを虐待した母親りん(古川藍)と愛人の浩(税所敦彦)とのツーショット。男なしでは生きていけない悲しい女を熱演。

 

 

 

 

 年賀状。最近、年賀状のやりとりは少なくなりましたが、こんな心のこもった年賀状をもらえたらいいですね。

 

 

 

 

 映画の撮影に使われた衣装も展示されています。映画を思い出しますね。

 

 

 

 

「ひとくず」の名場面のイラスト。自分も虐待を受けて育ち、親からあまり愛されなかった。それで子供にどう接していいかわからないと涙ながらに訴える名場面。愛された経験があるから人や子供を愛せる。そういう経験がなければ人を愛せない。当たり前だけど案外忘れられている事実を教えてくれます。「ひとくず」もまたゆっくり見たいです。

 

 こういう小粒ながら落ち着いて映画が見られるシアターは貴重ですね。最近、東京の岩波ホール閉館の情報が流れましたが、大手シネコンに負けず、これからも地域のミニシアターも生き残ってほしいです。まだまだ十三通いが続きそうです。

 

 

 

 

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