死ぬこととは生きること 「けったいな町医者」 | あなたの知らない韓国 ー歴史、文化、旅ー

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 今回、日本のドキュメンタリー映画を紹介します。その映画は兵庫県尼崎市を舞台にしたドキュメンタリー「けったいな町医者」(監督:毛利安孝)です。テーマはズバリ終末期医療。「けったいな」とは関西言葉で、不思議な、おかしなみたいな意味です。愛情こめて「けったいやなあ」という場合も多いような言葉です。

 

 

 

 

 

 

 人間一旦この世に生まれ落ちると、人により人生の長さは違いますが、必ず終末が訪れます。この世から旅立つ際には、自宅で親しき人に見守られながら、穏やかに旅立ちたいと思うのは人情の常です。しかし現状では、最後を迎えるのは病院で、酸素や点滴などのパイプにつながれ、人体実験と区別がつかないような状態で死ぬことが大半です。

 

 

 この映画の主人公は尼崎市内でクリニックを開業し、院で診療しながら、在宅医療にも力をいれている医師長尾和宏氏です。

 

 このお医者さんは他のお医者さんと全くイメージが違います。最期までおいしく食事がしたい、自宅で穏やかに過ごしたい、苦しみながら死ぬのはいやだ、そんな患者の切実な思いを真正面から受け止め、毎日奔走するお医者さんです。看取った患者は2500人以上、多忙な日々を過ごしながら、患者にむける視線は慈愛に満ちたものを感じます。

 

 そんな彼が在宅医療に向かうきっかけになったのは、阪神淡路大震災。震災が起こる前は公立病院の勤務医でした。あの惨禍の下で思うところがあったのか、病院を退職し、尼崎で医院を開設したのでした。


 彼は病と向き合うのではなく、人と向き合うことを信条とし、患者とのふれ合いには本当に温かいものがあります。特に驚いたのは、映画に何人もの実際の臨終の状況が出てくることです。現在は生活上で本当の人の死を直接目撃することはほぼなくなっています。でもこの映画では本当の臨終の状況が出てきます。こういう場面が本当に出てくるのにはかなり驚きましたが、その姿は本当に崇高ですらあり、やすらかに旅立たれた様子がうかがえます。死は敗北ではない。新たな旅立ちだと言っているみたいです。これは地域の人から本当に信頼され、頼りにされているお医者さんだからこそでしょう。

 

 死ぬということは、生の最終局面であり、どう生きたかということに他なりません。医師が真摯に患者と接することで穏やかに旅立ち、患者との心の触れ居合いで医師自身も成長する人間同士の関係がみられます。

 

 人間いかに信念を持ち、人のために生きなければならないか、そんなことを教えられた気がします。素晴らしい映画です。